ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第336話「神々の来訪」

 

民選(タミエル)

升帝真(マスティマ)

痣世流(アザゼル)

荒牙(アラキバ)

 

 バルトホルン・トーチ&執事withメイド達。

 

 ズラッと何だか増えてるメイド達が大量に背後へと並んで、四柱が庭には大集合していた。

 

 食事を終えて、準備を整え、麒麟国に出向こうとした時の事だ。

 

 すっかり魔王の執事が板に付いた彼がやってきて、神々がお待ちですと庭に誘ったのだ。

 

 明け方の日差しは相変わらず黒い塔の為に薄暗い。

 

「お勤めご苦労。で、何かあったか?」

 

 フワリと四人が浮かんだ状況を止めて目の前に降りて来る。

 

「これからお伝えせねばならない事がありまして」

 

 四人を代表してタミエルがやってくる。

 

「何か問題でもあったか?」

 

「……麒麟国の内部をスキャニングしたところ。麒麟国内の個体数は0になった模様ですが、代わりに奇妙な者達……いえ、財団の残党が占拠したようです」

 

「あいつらか。オレの色違いとあの双子軍人と女の子が1人で合ってるか?」

 

「はい。それで言伝を()()()()()()()()()()

 

「―――クッソ、手が早過ぎだろ? 今のお前らの状況をオレが推測するに34通り。だが、現実改変されてた場合は更に11通り。追加されてるのがどういう状況だろうとお前らの結末は4通りだ」

 

「……さすが我らが主と」

 

「で? あいつらの下っ端になった事になったお前らの言伝を聞こうか」

 

 タミエルが真っすぐにこちらを見据えた。

 

「ちゃぶ台返しの準備は出来てる。だが、あのギュレ野郎を倒せば、芋虫の天下。あの芋虫を倒せば、ギュレ野郎の天下。どっちにしても負けるしかないと」

 

「分かってるよ。んな事、他には?」

「後で取り分に付いて話そうと」

「取り分、ねぇ……」

 

「確かに伝えました。どうやら、我々は最初から()()()()という事になっているようです。いえ、途中から行動の強制プログラムが()()()()()()()()()()()という事実がありまして……逆らえません。もしもの時はあちら側を優先する事になります」

 

「一応、オブジェクトのリストはあるが……恐らく、何か象形を見せられたな? お前ら」

 

「はい。確かにソレを見た記憶はあります」

 

「オレが知る限りだと、過去改変系だ。効果は単純。見たら最初から財団の人間になる、だ」

 

「そういう事でしたか……」

 

「まぁ、お前らの現実がそうだと言ったところで現状は変わらないだろうしな。ご苦労だった。お前らはこちらの仕事がまだ出来る内はこっちを優先してくれるんだろ?」

 

「はい。あちら側の要望でもあります」

「なら、変わらず仕事だけしといてくれ。それとマスティマ」

「はい。仕事は完了していますが、よろしいのですか?」

 

 老人が少年を見やる。

 

「信用してる。現実改変されてようが、お前が仕事を疎かにするタイプか?」

 

「……光栄です」

 

 マスティマが小さな円筒形のメモリをこちらに手渡して頭を下げた。

 

「アラキバ。例の物は?」

 

「出来ていますが、やはり信用していると? 仮にも何か仕掛けさせられていると考えるべきでは?」

 

「今更、オレに信用する以外に何が出来る? いいから、出来てるなら見せてくれ」

 

「―――ならば、存分に」

 

 スパナを背負った男が深く頭を下げた。

 それと同時に男の背後。

 庭の中央にソレが現れる。

 巨大な黒い棺桶。

 20m程のソレは確かに薄っすらと輝いていた。

 

「これを参考にさせてもらう。新しい技術で色々改造はするかもしれないがな」

 

 最後に翼持つ青年を見やる。

 

「お前の射撃管制データは貰えるか?」

 

「勿論。どう使おうと我々は……後は貴方を信じるしかないのだから……」

 

「ありがとよ」

 

 アザゼルがこちらに手を翳し、それと同時に膨大なデータが脳裏に流れ込んでくる。

 

「じゃあ、全員これからも通常業務を頼む」

 

「「「「ハッ!!!」」」」

 

 全員が敬礼。

 

 また空へと飛び上がり、四方へと散りながら透明化して消えていった。

 

 そうして、ようやくお仕事に向かおうとした時、周囲を異変が襲う。

 

 周囲が凍り付いていた。

 時が止まったような状況。

 

 それと同時にこんな事をする相手は限られていると横を向けば、ジュデッカが部下を従えて、横に佇んでいた。

 

「お前か。何だ? そっちも話があるのか?」

「久しぶり、と言うべきですか?」

「この間、会っただろ」

「ええ、そうなのですが、彼と最終決戦をすると伺ったので」

 

 執行機。

 

 この世界のデフラグとフォーマットを司る少女が肩を竦める。

 

「お前らの話の裏側はもう知れたし、お前らが本当は何の為に置かれてたのかも分かった。つまり、お前らは委員会に用意されてはいるが、その情報そのものはこの世界の誕生前からの引継ぎだらけなんだろ?」

 

「……正解です」

 

「エンピレオって言ったか。つまり、この世界の真実、その真実そのものたる至高天の守護者でもある」

 

「ええ」

 

「お前らの目的は今までお前らが見て来たような人類の破滅を防ぎ、至高天に至る文明を育て、空の彼方へ見送る事……天に至る階の護り手……あのギュレ野郎とは違う。真の意味での人類の守護者……至高天から人類の生存を担保する為のセーフティ。違うか?」

 

「御想像の通りです」

 

「月の委員会には造られたが、そもそもそのデータすらも至高天の流用に過ぎないと誰も認識出来ない。その点ではオレみたいなもんなんだろうな」

 

「貴方には負けますが……」

 

「財団、お前ら、委員会、オレ、ギュレ野郎、全部至高天のシステムの根幹やバグに関わる存在なわけだ。ただし、お前らはあのギュレ野郎に逆らえない」

 

「はい」

 

「その上で別にこの月が滅んでも構わないんだろ? 人類認定してるのは灰の月の連中、その認定強度も消えたオレが地球環境を生物毎再生させた事で上がっただろうしな」

 

「そういう見方も出来ますね」

 

「そして、お前らは()()()()()()()()()、だったか。その為にこそ【神星超置換魔術《マギア・テラ・リトゥース》】を()()()()()()()

 

「………」

 

「何故なら、あのギュレ野郎がやろうとしている事が人類にとっては福音だからだ」

 

 ジュデッカが肩を竦める。

 全てが止まった静謐の世界で彼女は確かに微笑んでいる。

 

「あの芋虫野郎が大昔からオブジェクトのバグとして存在している事から察するに他の地球では既に置換が終了した場合もあるんだろ? 予知が不可能にはなったが、予測くらいは付くな。で、お前らが知る限り、どれくらい()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……8割以上という推測のみお伝えします」

「はは、まったく。不甲斐ない人類多過ぎ問題かよ」

 

「ですが、宇宙置換はとあるものに阻まれ、完了はしていません」

 

「特異点となったオレとアイツか」

 

「ええ、彼が敗れれば、この地球と月も何れ芋虫達の手に落ちましょう」

 

「だが、あいつが勝てば、いいってもんでもないだろ。あいつのやろうとしている事はこの宇宙に起きて来た全ての出来事への冒涜だ」

 

「御自分のやった事は棚に上げて仰りますか?」

 

「ああ、棚に上げておこう。冒涜はしてない。ただ、ちょっとゲームのオプションを弄った程度だ。それで難易度を上げ下げしたわけでもなし、選択肢の数も理不尽なのを減らしただけだしな」

 

 肩が竦められる。

 

「【再現災害(リバイバル・ハザード)】……お前らは最初から知ってたんだな? あの災害が芋虫に侵食された世界を至高天がバグとして再構成しようとして失敗する際のエラーだって事に……」

 

「量子転写技術は極めて彼らと相性が悪いのですよ」

「物質の分解は破壊と定義されるからな」

「知りたい事は他にありますか?」

「で、何持って来た?」

「アリス様との契約です」

「契約?」

「これを」

 

 ジュデッカが自らの胸に手を突き込み、ゆっくりとソレを引き出してこちらの前に両手で差し出す。

 

「神剣ならまだ持ってるが?」

 

「月に封じられていたオブジェクト。その中でも我々の中に封ぜられたXKシナリオを引き起こすアンクラスドです」

 

「―――いきなり、宇宙崩壊させる武器とか要らないんだが……」

 

「武器ではありません。我々が造ったものですから」

「造った?」

 

「封じられていた物の中から幾つかを使わせて貰いました。剣そのものは何処かの世界から流れ着いた代物らしいですが、我々には使えません。ですが、貴方にならば使える。それをどう使うかは貴方次第です」

 

 マジマジと剣を見やる。

 それは何の変哲も無い鉄の剣に見えた。

 それも作りも武骨で灰色の長剣。

 

「能力は?」

 

「御自分でお確かめ下さい。そろそろ自律権限の限界です。では、我々はこれで……彼の下で待っていますよ。蒼き瞳の英雄殿……」

 

 時間が動き出せば、いつの間にか受け取っていた剣だけを握っていた。

 

 解析はシステム側に任せて、鞘を量子転写技術でポンと造って収め、腰に下げておく。

 

「魔王閣下?」

「何でもない」

 

 バルトホルンに肩を竦める。

 

 どうや事態は混迷しているようだが、解決方法は直感的に一つだ。

 

 極めて単純なる話。

 最後は力技。

 文明人には有るまじき話だが、時には仕方ないと渋々やる事も必要らしかった。

 


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