ごパン戦争[完結]+番外編[連載中] 作:Anacletus
警告:登録‐【クラス:タウミエル】‐の承認事前申告を要す。
貴方がアクセスしているこの情報は有機媒体、無機物媒体、もしくはあらゆる波を用いる全ての情報媒体における全知覚の公共優先権[前改定における文明時に存在した全知覚者間の知覚資源公共提供義務]を破棄する前提としてクリアランス・ゴールド以上のコード保持者にのみ承認者の生命活動の停止を持って開示される事とします。この情報のセキュリティ/プロトコルは前時代[情報所有者間の譲渡受け渡し時の文明より数世代前の文明]より改定されている場合があり、この情報の知覚者が世界規模の改変に巻き込まれない為、取得者は取得時よりクリアランス/クリアを取得する事となります[クリアランス/クリアは非常時、現地球上の共同体間における最大陸戦協定ユーラシア・コネクト/D223-1の特秘事項に補記された生存の為に予期される
取得者情報を共同体ストレージより全破棄/リクエスト実行中。
―――正常作動中。
―――01%―――01%―――お待たせ致しました……ファイルの一部を取得します。
全情報を取得者の大陸標準言語もしくはマスター言語-JP-に変換……完了。
●●●-104020
クラス:ユークリッド
概要:●●●-104020は過去[ ]文明前より出現した委員会雇用の数十人の委員からなる人格集積体です。人格集積体は各文明期中最大の功績を持つ複数の委員の人格ストレージを用い、既存人格の能力を上回る事を期待して作成された人工的な集合無意識、精神データです。作成された時点では優秀な研究者の統合人格としてプロジェクト・リーダーなどの役割を期待されていました。
●●●-104020は極めて安定的な事が人格的、能力的、精神的な要素の各種データから確実視されており、制御可能である事からユークリッドに指定され、数文明に渡って特定の時期に目覚めさせては重要プロジェクトが任されています。
●●●-104020に付いての補遺を参照するにはクリアランス・クリア3人以上の事前同意が必要となります。この補遺を参照しますか?
Y/N→Y
警告:現在、ミーム汚染が進行中です。ミーム汚染が進行中です。このまま汚染が終了するまで待つ場合はYを、待たずに接続を切る場合はNを選択して下さい。
Y/N→Y
警告:この確認においてクリアランス・クリアを破棄し、クリアランス・ゼロを取得して下さい。このクリアランスの保有者は全人格の洗浄及び情報の完全破棄を今後どのような時でも同意無く実行される事が有り得る事を了承するものとします。同意するかどうか2分以内に選択しなければ、人格の消却をミーム汚染で開始します。
同意しますか?
Y/N→Y
取得者の全情報破棄の同意を確認/リクエスト実行中。
―――正常作動中。
―――02%―――99%―――お待たせ致しました……ファイルを取得します。
全情報を取得者の大陸標準言語もしくはマスター言語-JP-に変換……完了。
クラス:アンクラスド:アザートゥルース
概要:●●●-104020は第[ ]文明期より変質が確認されて以降、アンクラスドに指定されています。ユークリッドであった頃の情報がカバーとして用いられ、収容不能である事から歴史改変系オブジェクトを用いての情報封鎖が試みられました。アンクラスドに指定されて以降、●●●-104020は歴史改変系オブジェクトの影響を受けず、あらゆるミーム汚染をものともせずに活動する事が確認されています。
収容プロトコル:●●●-104020はアンクラスドに指定されて以降、如何なる収容プロトコルも受け付けない為、歴史改変系オブジェクト群による情報封鎖を用いて誰にも知られない事で地球環境及び各期の文明への影響を最小限度にする方策が取られました。以下のプロトコルは補遺以外の関連情報を参照して下さい。
●●●-104020の特異性
●●●-104020は上記のカバー情報自体は全て事実であり、アンクラスドに指定されて以降は収容プロトコルによって本データ以外では如何なる媒体にも情報が記憶されません。●●●-104020がアンクラスドに指定された理由は当オブジェクトが研究していた技術による汚染が発生した最初期の事件を機としており、事件詳細は記録されておりません。ですが、
●●●-104020-01:事件概要
●●●-104020が研究していた金属水素が突如として原子核魔法数300番代以降の異なる物質へと原子変換され、当該研究の中心地であった委員会欧州中央研究所が爆心地から半径49kmを巻き込んで消滅しました。この事象を当時の委員会は金属水素が何らかの要因で収容されていたオブジェクトと結びつく事で相互作用を引き起こし、設置されていた核の起爆を引き起こしたものと考えられました。ただし、この最初期の推測は900年後の第二の事件における検証結果で覆されています。
●●●-104020-02:事件概要
●●●-104020-01から900年後、●●●-104020が研究していた金属水素が突如として原子核魔法数400番代以降の異なる物質へと原子変換され、当該研究の中心地であった再建後の委員会欧州中央研究所が爆心地から半径120kmを巻き込んで消滅しました。この時、900年前の原因が再究明を要求され、本当の事態が発覚しました。
研究中の金属水素は水素原子の超加圧超圧縮によって発生する物質ですが、地球の地殻内部などにあるとされる代物でした。ですが、この超加圧超圧縮を再現する為に用いられたシステムにオブジェクトが用いられていた事を怪しんだ解析陣によれば、研究中であった金属水素は完全にその実態を変質させており、この900年間のあらゆるデータが偽造されていた事が判明。その偽造を実行したプログラムの制作者は●●●-104020と確認されました。
その為、●●●-104020の解析と凍結が決定されましたが、委員会はこれを実行する事が叶わず、当時一部取り込んでいた財団による封じ込め案である収容プロトコルに当たる歴史改変系オブジェクト群の情報消去プロトコルが導入されました。これは封じ込めは不可能ではあるものの、被害を軽減する効果が確認されました。
●●●-104020-03:事件概要
●●●-104020-02から数か月後。当時の委員会が検証した結果が公表[
【●●●-104020-03-記憶1】
「あれは結局、何なんだね? 博士」
「………それを情報として記す事は許されていない」
「これは記憶だ。分かるかね? そう、記憶なんだ。これならば、君達も語る事が可能だろう? これは消去対象ではない」
「●●●-104020は……厳密にはアンクラスド指定される前と現在では性質的にまったくの別物と言わざるを得ない」
「つまり、変質したオブジェクトという事か?」
「ああ、そうだ。アレの研究していた技術に使われたオブジェクトが不味かった」
「具体的には?」
「我々の科学が進展して初めて分かった事だけを述べよう。あの研究で使われていた物質の超加圧超圧縮を行うオブジェクトは……本質的に物質を超加圧超圧縮するモノ、ではない」
「では、何だったのだ?」
「アレは超高密度の原子塊を無理やりに現実の物質から概念上の物質に置き換える代物だった」
「何?」
「アレは素粒子単位から、この宇宙内部に存在しない超高密度素粒子塊に変質させる。言わば、存在しない物質を似た物質から生成する代物だった」
「それがどうあのオブジェクトと関係ある?」
「巻き込まれたんだ」
「?」
「彼は巻き込まれた。そう、彼女も老若男女が巻き込まれた。ソレの圧縮や加圧と呼ばれる事象に……そのデータは無かったが、予想ではソレが起こった確率が最も高いと我々は結論した」
「巻き込まれたらどうなる?」
「この宇宙に存在しない物質が存在しているとなれば、歪みは無限大だ。特異点だよ。宇宙に例外を記述する術がない限りは……時空連続体内部で0と1の中間を取れる量子的な存在と言うべき何かとなったに違いない」
「……存在と虚無の中間だと?」
「そうだ。半端だからな」
「半端?」
「彼らが1人ならば、恐らく加圧されて我々の宇宙内部には存在しない単なる1次元以下の時空に集合されて消えていた。だが、アレは複数人だった」
「それで消えるのを免れたと?」
「くり込みだ。表出する人格は有無の中間的な性質を取る事によって曖昧性を加味された。量子化された人格は重力や時空が量子化したようなものと考えて良い。その分野における万能性を取得しているはずだ。精神や概念に干渉するシステムそのものと言える」
「……つまり、アレ自体がまったく新しい精神や概念に干渉する万能性に優れたオブジェクト、ミーム汚染の根幹である、と」
「そうだ。だが、それすらも問題で無くなっている」
「問題ではない、だと?」
「特異点だ。無限大になったものは数式に納まらない。精神や人格が何でもあり、という事は……あらゆる精神や人格を内包し得るという事だ」
「………」
「アレが単なるミーム汚染の根幹程度ならば、問題は我々人類の手に収まるだろう。だが、もしもXKクラスのシナリオに直結しているとしたら?」
「宇宙崩壊。精神的な万能性なのだろう? 何故、そこまでの……」
「干渉だ。外部からの」
「外部?」
「それが別の時間なのか。宇宙なのか。もしくは存在しないとされた並行世界からなのかは分からない。ただ、何処からかアレは影響を受けている」
「……一体、何になる?」
「分からない。ただ一つだけは事実だ。アレを止める手段は無い。その影響力を最小限度に留める方法は情報の規制のみだ。アレを誰も利用しようとしないよう。アレが単独でただ万能の精神性を以て孤独な何かに没頭するよう祈るしかない」
「物理的な封じ込めは本当に不可能なのか?」
「実働ユニット3個師団が当該人格データの入ったストレージ本体のある場所を破壊しようとしたが、既に壊滅している。ドローンも試してみたが、
「核及びレーザーやBC兵器は?」
「……効いたという事実は無い」
「そうか……」
「我々が認知していない技術力だ。恐らく、時間を超越して人格データが共有されている。もはや彼が我々の技術を越えているのは間違いないだろう。遠未来技術や未来の情報を使われるような状況……我々には勝つ術が無い」
「分かった。では、次に聞きたい事がある。アレが月に興味を示しているという話は聞いたか?」
「恐らく、アレの1人がやっていた月のオブジェクトの―――」
記憶の再生を終了します。
【―――頁項目が更新されました―――続きを御読みになる場合は次頁に移動して下さい―――この情報の読み込みはアナログ知覚のみで行われます―――ご迷惑をお掛けしていますが、古代機能項目からアプリケーションをダウンロードし、指での接触式スクロール機能をご利用下さい-前保守管理者-】
―――麒麟国首都地下F妖精さんの庵。
「そういうことか……」
ようやく色々とあちらの内実が分かって来たところで今まで見ていた映像から要請さんの方へ顔を向ける。
『ヤツを倒す手段は無い。人格データ、精神的に亡ぼす事は不可能だろう。肉体を持たないというよりは持つ必要が無い上に今は何処にその情報本体があるかも分からない。倒せる可能性があるとすれば……』
『芋虫さんくらいだよね』
『芋虫さんは最強だよね』
「精神を入れた器を物質世界で破壊すれば、かなりの確率で芋虫さんの乗っ取りで相手は無力化出来る、と」
『そうそう』
『アレも元々はクラス・タウミエルさ』
「どーだかな。至高天の事もそうだが、人類を救えるのは自分だけ的な独善野郎に見えるんだが?」
『救えるよ?』
『救えるよね?』
「芋虫宇宙になれば、誰も気にする事も無い話だと?」
『それもあるけど、彼……僕らが教育したからね♪』
『生徒としては及第点を上げてもいいよね?』
双子軍人の言葉に思わず顔が渋くなる。
「お前ら……どういう事か説明しろ」
『アレが作られた当時、委員会でお仕事してたんだよね』
『君の宿敵の委員長が傑作と言うくらいだったからね』
「……結局、アレはどういう理由で造られたんだ? 芋虫を改良すりゃ自分達の都合の良い復元が出来るとか考えてたのか?」
『実はそれ計画の副次的な理由なんだよね』
「何?」
『彼が作られた本当の目的って元々はそちらじゃなくてクラス・タウミエルの永続保存用の保守点検整備計画だったりして。その為のオブジェクトだったんだよね』
『オイ。今、こちらも知らない事をサラッと流したか? クソ双子?!』
F妖精さんが思わず半眼になっていた。
『『ああ、今思い出したからね。HAHA♪』』
「『………(な、殴りてぇ)』」
きっと自分は今妖精さんとシンクロしているに違いないと感じるくらいには無責任そうな笑顔だった。
『あの当時、人類滅亡に加速中だったから、タウミエル系のオブジェクトを一つでも永続的に残す方策を考えてたんだ。委員会って』
『でも、その方法が無かった。だって、ほら。複製すらもロクなものが出来ないのに復元なんてとてもとても。ついでにブラック・ボックスであるメンブレンファイルに使われてた物質を永続的に経年劣化させない技術。アレも当時は再現が凄い難しくてさ。貴重なタウミエルへ安全に施せなかったんだよ』
「……で、芋虫か」
『実は芋虫さんには幾つかの習性があってね』
『物体に変化した後は気付かれない限り、物体として振舞う。それも自分が復元した生物相手でも物体としてしか振舞えない』
「……つまり、認識されなければ、単なる完全に同じ物体でしかないと?」
『空間や次元みたいなものまで範疇だからね。情報封鎖しておけば、大抵は気付く人間を近付けないだけで完全復元された単なる同様の事象として使えたんだ』
「パラドックスか。知ってるヤツが使えば、芋虫さんの勝手にタウミエル祭りが始まって、知らないヤツが使えば、単なる道具。でも、知ってるヤツしか今やタウミエルを使えるヤツはいない、と」
『『いやぁ、参っちゃうよねぇ……』』
シンクロした双子が肩を竦めた。
「分かった。そっちは置いておくが、倒し方は?」
『『さぁ?』』
『「………」』
やっぱり、無言で殴ろうかという気分になったが自制する。
「ちなみに確認するが、お前らはどうやってこの状況を突破する気だ。オレとあの子にメンブレンファイルで何をさせてる?」
『君ってさ。ほら、女の子がいるとパフォーマンスが高いじゃない?』
『そうそう。やっぱり、護るべき相手がいると強くなれる主人公属性だよね』
「何が言いたい?」
『今、もう1人の君にはあの子と一緒にメンブレンファイルのプロテクトを外して貰ってて』
「プロテクト? それはもう外れたんじゃないのか?」
『まさかぁ。能力は全て解放されたけど、それを運用する為のプログラムは別なんだよね。実は♪』
『あのギュレ主神もアレを処理能力だけ使う事は出来ても、新しい専用のコマンドを創るには莫大な作業が必要だよ。少なくとも地表の天才ヴァイオレット並みの閃きが無きゃね♪』
「そうか……あのギュレ主神が月を隠してたのは……」
『その通り。彼女が本格的に独自のプログラムでメンブレン・ファイルを運用するのを防ぐ為さ。バックドアやウィルスを仕込まれたら堪ったもんじゃなかったんじゃないかな?』
『彼女と消えた君も助かったはずだよ。もしアレがブラック・ボックスまで使えてたら勝機0だったろうし』
「……で、そのプログラムとやら何なんだ? お前らがそうまでして使おうって言うんだ。どうせロクなもんじゃないんだろ?」
双子が軽く肩を竦めて微笑む。
『大したものじゃないよ?』
『ちょっと、古の呪文を唱えるだけさ』
「呪文?」
『僕らが昔に仕込んでおいた財団の最終フェイルセーフさ』
F妖精さんが渋いを通り越して無表情の無言になる。
「仕込む? お前ら……一体、元々は何なんだ?」
『ただの軍人さ♪』
『ああ、ただの軍人だよ♪』
シンクロした双子がウィンク一つ。
『『早く戻って来てくれないかなぁ。ウクレレおじさん♪』』
そう言って少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。