ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第37話「ペロリスト・リターンズ」

 状況を整理してみよう。

 

 1.この夢世界で飛行船。

 2.豆の国は現在内紛中。

 3.仲間達は行方不明。

 

 これでどうして普通に食事が美味いわけもない。

 上の空と言われてもおかしくない呆け方だったらしい。

 要は気が抜け過ぎていたのだ。

 だが、それにしても呪われているとしか思えなかった。

 ペロリストは鼠算式に増える法則でもあるのか。

 

 総統閣下と呼ばれる老人と朝方から馬車で朝食を取りつつ移動して、街に入った途端、謎の襲撃者に襲われた。

 

 こちらと護衛を大量に載せた馬車が寸断されても、奇襲に狼狽する事無くパン共和国の精鋭は反撃した。

 

 負傷者こそ出しているだろうが、死人は殆ど出していないだろう。

 同じ馬車に乗っていた総統を先に逃そうとした近衛は何も悪くない。

 

 ついでに馬車から逃げようとした瞬間に敵の手榴弾が至近で爆発し、逃げる機会を逸したのは運が悪いで済まされる。

 

 総統閣下最優先で近衛が馬車を捨てたのも予想の範囲だ。

 

 だが、あのアイトロープという老人が……どうせ死なないと報告を受けていたのだろうが、のほほんと少し苦労してきたまえ、なんて感じに笑みを浮かべて手を振って密林に消えたのには腹が立った。

 

 総統が乗っていると誤解された馬車は即座に駆け寄ってきた何者かよって奪取され、内部を検める間もなく発進し、混乱のドサクサで強奪。

 

 どうやら目的である総統を確保したと勘違いした襲撃者達はそれに満足したか。

 引き際も弁えていた様子で即座に負傷者が増える前に撤退。

 

 こうして……ペロリスト及びペロリストもどきに誘拐される事、四回という偉業を達成したゲーマーは……現在、針の筵に座らされている心地で厳つい褐色のガチムチおにーさん達のど真ん中で引き攣った怒りの笑みを向けられているのだ。

 

 密林の中にある粗末な丸太小屋。

 

 連れて来られたのはどうやら椰子の木が密集するプランテーションのような場所だった。

 

 室内にはテーブルと食料やら資料やらが乱雑に詰め込まれた戸棚。

 

 後は壁に掛けられた古びれたライフル……たぶん、共和国からすれば、数世代前くらいのものがズラリと立て掛けられている。

 

「ぼくぅ? お名前言えるかなぁ?」

 

 狭い室内なのに四人もギュウ詰めなヤンキー……いや、確実にモヒカン兵の方がマシそうなタトゥーとピアスだらけの顔を緑色のアーミーな化粧で塗った男が、今にもキレそうな様子でこちらに尋ねてくる。

 

「カシゲェニシ……です」

「ああん?」

「カシゲェニシと言います」

「そうでちゅか~。でも名前なんてどうだっていいんでちゅよ~。総統閣下とやらは何処だ?」

 

 最後だけかなり生真面目に訊ねられて、相手のイライラが頂点に達しつつある事を悟る。

 

「逃げましたよ」

「ああん? ワンモアプリーズ」

「襲われた時に脱出して、一緒に逃げようとしたら、逃げそびれたんですよ。こっちは」

「テメェは何だ?」

「知り合いから総統閣下を紹介されてたんです」

「ほぉ? じゃあ、良いとこの出なのか?」

 

「居候してたところは良いとこでしたけど、個人的には文無しの書生……って言って分かりますか?」

 

「舐めてんのかコラァアアアアアアアア?!!! こちとらカレー帝国の中等部行ってたんやぞワレェエエエエエエエ!! 書生の意味くらい知っとるわボケナスがぁああああああああああ!!!!? それならその軍服何なんじゃ!!? オオオン!!!? テキトーな事言ってっと椰子油飲ませんぞゴラァアアア!!!?」

 

 感情を爆発させた男が胸倉を掴んでガンを飛ばしてくる。

 

「これはちょっと服を汚したら軍人さんが着せてくれて?!! そもそもこんなナヨナヨしたのが総統閣下の近衛に入れるわけないじゃないですか?!! 銃だって撃てないし、鉛筆以上に重いものなんてパンくらいしか持った事ないんですよ!?」

 

 唾が盛大に顔に掛かったが、頭部にゴリゴリと拳銃を押し付けられて、暴発したらどうするんだと血の気が引いた。

 

「けッ!!? クソが!!? こっちは六十人いた奴らの半分が手足ブチ抜かれて動けねぇんだぞ!!? なのにガキ一匹!!! ガキ一匹だぞッッ?!!? オイッッ!!? テメェの知ってる事を洗いざらい吐けッッ!!?」

 

「軍事機密とか教えてはくれなかったんですけど!? ただ、あの総統閣下の昔の武勇伝とか延々と聞かされてただけで!!」

 

「死にてぇのか?!!!」

 

 額に拳銃が突き付けられる。

 

「知ってるのは何だか誰かと話し合いに此処へ来たって事だけですよ!!? それもええとこのハヤシの何処かで要人と会うみたいな話はしてましたけど、それ以上は本当に知りません!!? 拳銃突き付けられて嘘言えるわけないでしょ?!!」

 

「チッ」

 

 ガッと後ろに倒されて、椅子に縛られたままこけた。

 

「オイ。牢に連れて行け。後で知り合いの住所聞き出して身代金吹っかけてやれ」

「了解しました!! ボス」

 

 大阪のチンピラヤクザ(偏見)みたいな男の声で男の一人がこちらの縄をナイフで切った。

 そのまま首根っこを捉まれて引っ立てられるまま移動となった。

 廊下は塵こそ落ちていなかったが、埃が溜まっている。

 

 通路の途中から呻き声が響く部屋の横(たぶんは負傷者の収容先)を通っていくと外に続く玄関から出て15m程先にある椰子の木の下に連れられていく。

 

 其処には太い枝で編んだらしき牢のようなものがあった。

 

「オイ!! もしも逃げ出そうとしたら、火ぃ付けんぞ!! 死にたくなかったら、黙って入ってろ。クソはその中でしろ。いいな?」

 

 捕虜の衛生環境なんて知った事ではないという事か。

 これが本当のペロリストかとげんなりする。

 

 何も言わずに入るとおざなりに閉められて、寂れた錠前が一つ枝と枝の間に付けられた。

 

 いつでも逃げられそうではあるが、逃げている最中に見付かったら、蜂の巣だろう。

 ついでに火を付けるというのも嘘には見えない。

 地面と然して変わらない場所に座り込んで辺りを見回す。

 そろそろ昼だ。

 

 だが、あの総統閣下がわざわざ自分の護衛で助けに来てくれると思うのは浅はかだろう。

 

(今までのペロリストがかなり良心的な部類だったのは分かったが、明らかにそっち系は初めてだな……というか、拳銃は怖かったけど、言う程焦らずに済んだ自分の肝の太さに感謝しよう。実際、ちびるかと思ったし……やっぱり、慣れか……)

 

 拳銃で撃たれる事、数回。

 拳銃を向けられる事、数回。

 狙撃で殺される事、二回。

 筋弛緩剤を塗られる事、一回。

 

 とにかく人の頭の事を気にせず気を失わせられる事……覚えていない。

 いい加減、この巻き込まれ体質をどうにかしたいと思うものの。

 それが叶うならば、最初からそうしている。

 

(はぁ……愚痴っても仕方ないのは分かるが、それにしてもあんな雑魚っぽいヒャッハーがボスとか。此処のペロリストも長くないな……自分達が何に喧嘩売ってるのか分かってない感じだったし)

 

 フラムの言葉ではないが、共和国の兵は精鋭揃いだ。

 練度だけ見てもかなりだと思うのは軍の施設へ行けば分かる。

 行き届いた規律と法規。

 高い精神性と自立性。

 

 無論、一般兵にはそこまで求められていないだろうが、とにかく将校課程のトップだと思われる人間の質が良い、と施設での検査時は思った。

 

 何故かと言えば、実験体かモルモットに過ぎないだろう相手に軽蔑やら奇異の視線を向けてくる輩が一人もいなかったからだ。

 

 検査状況を見に来た幹部連中なのだろう尉官、佐官、将官級の中には『協力感謝する。是非、頑張って欲しい。我が軍はいつか君の献身に感謝する事になるかもしれないな』なんて言う輩までいた。

 

 おべっかの類かもしれないし、人当たりが良いのは人を統べる為の仮面かもしれない。

 しかし、実際嫌味な人間が一人もいなかったというのが何とも逆に気味が悪く。

 暴力や権力に溺れたような様子が見受けられない彼らはかなり“全うな軍人”に見えた。

 その恐ろしさが分かるのはそれがどんなに特異な事かが分かるからだ。

 軍というのは灰汁の強い人間の溜り場だ。

 

 更に言えば、軍に取られて問題ない国家の底辺とインテリから成るというのがお決まりだ。

 

 現代の常備軍とは違うのだ。

 

 第二次大戦前や一次大戦よりも前くらいの感覚の軍の中に自分の地位を鼻に掛けず、暴力で適当に脅す事もせず、民間人と紹介されたモルモットに感謝さえする高級軍人ばかりという時点で……怖ろしいと思う事は真っ当な話ではないか。

 

(ぶっちゃけるが、質が良過ぎる……あんなのが指揮する軍隊と戦いたい人間がいるなら、自殺願望あるんじゃないかと疑うな)

 

 施設に出向いている内に見た光景は統制が取れた軍としては最高だ。

 確実に世界最先端に近いだろう武器の数々。

 

 砲はまだ発展途上で自走砲まで程遠いだろうが、野戦病院用のテントやら新型の輸送鉄棺……戦車に連なる機甲化の波は確実に車両技術に届きつつあり、電信やら極地戦用の装備も充実していたように思えた為、数年後には機甲化した機械化歩兵が出来上がっている事は想像に難くない。

 

 彼らが行う屋内訓練の様子や施設内での市街地戦想定の制圧訓練は堂に入っていたし、一般の歩兵ですら上官が見ていないところでだらけている様子が無かったのだから、軍の強さがどれ程のものなのか知れようというものだ。

 

 そして、何よりも笑いが絶えない本部施設内部での様子は異様と言っていいだろう。

 ギスギスした空気が無い。

 

 他の併合地域から少なからぬ兵を徴用していたはずだが、それでも空気は至って和やか。

 

 中には併合地域からやってきて、将官課程に推薦してくれた上司に涙ながらに感謝する相手すら見掛けた程だ。

 

 それを妬むどころか。

 

 本当に心から祝福した様子でおめでとうと言う同僚達という……何か悪いものでも食ったのかお前らと言いたい理想的な軍隊の姿が其処にはあった。

 

 訓辞を述べる将校がユーモアたっぷりにスピーチして下品さの欠片も無い書物に出てきそうな綺麗事を並べている様子、それを聞く下士官達の欠伸一つ漏らさぬ非人間的な聞き入りよう。

 

(現実の軍隊じゃ有り得ない光景だよな。どう考えても……)

 

 自衛隊だって苛めくらいあるし、米の海兵隊なんて最強粗暴の代名詞、エリートで占められる空軍も無い世界で、アレが単なる本部施設特有の雰囲気なのか、それとも軍全体のものなのか。

 

 それを今まで見たものだけで判断するなら、後者な気がした。

 

(EEだけが特別なのかもな……本当に軍隊の兵隊って感じがするし……)

 

 ナッチーな美少女の事を思い浮かべてみる。

 

 同僚という男性達とフラムが歓談している様子も見たのだが、厳しい顔付きで皮肉げな笑みを浮かべつつ、軍事談義に花を咲かせていた。

 

 そう、悪い笑みという奴だ。

 

 他国の出来の悪い兵隊には遠慮なく侮蔑の言葉を投げ、武装の質は良くても戦力的に弱い国の兵の話になれば、的にするのは気の毒だなとジョークのネタにする。

 

 正しく何処かの映画で出てきそうな会話ばかりだった。

 

 それに聞き耳を立てていたこちらを仲間に目敏く見つけられた美少女は……彼らからお前の男が聞き耳立ててるぞと囃し立てられて、微妙な顔となってこっちにツカツカ歩いてくると拳を震わせ、とっとと検査に行けと怒鳴ったりもしてくれた。

 

「ああ、あの怒鳴り声が懐かしいとか。完全に毒されてるなオレ」

 

 少しシンミリしつつ、これからどうしようかと悩む。

 そんな時だった。

 周囲で大きな声が響いたのは。

 絶叫ではない。

 敵だとの声。

 だが、あの老人が助けを寄越したとは到底思えない。

 ならば、それはたぶん元々から、ペロリストと敵対している誰かという事になるだろう。

 

 銃声。

 

 それもたぶんは機関銃の連射音が響いた。

 

 絶叫、こっちだとの声、ペロリスト達は混乱しつつも態勢を整えた様子で次々にアジトから出てくる。

 

 とりあえず、地面に伏せて戦闘を見守っていると。

 すぐにキュラキュラという金属音が聞こえてきた。

 

(無限軌道《キャタピラ》?! 共和国だけの秘密兵器じゃなかったのか? いや、此処は大陸最大の帝国の懐なんだよな。そういうのが同時に開発されてないとも限らないわけか!! 現地軍? 防衛部隊? さすがに重要な客人に手出しされて、黙ってられなくなったってところか?)

 

 戦車は高度な知識と確かな工業力が必要な製品だ。

 それを使うとなれば、確実に国家。

 ペロリスト達は何やら弾が効かないとか。

 アレは何だとか。

 新兵器に混乱している様子。

 

 逃げ出そうか迷っている間にも男達が何処かで次々と絶叫を上げ、最後には逃げ出そうとする者達が密林の奥へと死に物狂いで走っていく。

 

 逃げ遅れたらしい方向からは既に絶叫は途切れ、勝負は終わった事が見て取れた。

 

 物の数分。

 

 たぶんは正規軍だろう。

 そろそろいいだろうかと少し頭を上げた時だった。

 アジトがいきなり爆砕した。

 同時に非常に強い爆発音。

 

 砲撃だとそれに気付いた時には……ペロリスト達のアジトが木っ端微塵となっていた。

 

「クソ?! こんなのばっかりか!?」

 

 次々に降り注ぐ轟音の鉄槌は容赦なく呵責なく―――怪我人だらけだろう相手の拠点を更地としたのだ。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

「ぐぁッッ?!」

 

 吹き飛んだ残骸の一部が直撃し、吹き飛ばされる。

 目が回るで済めばいいが、砲弾の欠片でも刺さったらアウト。

 身体が回る。

 心も回る。

 死にたくないが、死にそうな光景。

 ペロリスト達を可哀想に思わなくも無いが、自業自得だろう。

 

 しかし、そうは思うのだが……何とか視線を上向けると……破れた檻の前には……死体があった。

 

「?!!?」

 

 空ろな視線。

 首が変な方向に捻じ曲がっている。

 砲撃を受けたのか。

 

 鼻と目と口から出血し、こちらを恨めしそうに見ているような―――正気が削れそうな光景で意識が急激に落ちていく。

 

【対象を発見、直ちに確保します】

【おお、ようやく見つけたでござるよ。縁殿】

【対象の安否確認を】

【ふむ。外傷は無し。詳しいところは検査してみないと分からぬが、大丈夫であろう】

【……外部協力者である貴女に引き渡すようにと司令部からの通達です】

【ご協力感謝すると大佐には伝えて欲しい】

【了解しました。ペロリストはこちらで】

【うむ。では、回収後にこちらは離脱する。貴官らの協力に感謝するでござる!!】

【はい。では、これで】

【……むぅ。それにしてもやはり、縁殿は心が細い】

【羅丈様。どうやら総統が予定されていた会談に臨むようです】

 

【こちらは単なる旅行者であるからして。そういうのは後で本国に伝書鳩でも飛ばして知らせておくでござるよ】

 

【畏まりました】

 

【さて、フラム殿から離れてしまった手前、後でお叱りを受けそうではあるが。土産も確保したし、一旦国境域まで戻ろう】

 

【……一つよろしいですか?】

【?】

 

【本国からは矢の催促です。このまま輸送可能なのはご存知のはず。それでも彼をあのEEの下へ帰すのですか?】

 

【本国の連中も我慢が足りぬと見える。縁殿の貴重さにようやく気付いたのはいいが、彼を今本国へ連れ出せば、今度こそ祖国が落ちるでござるよ】

 

【まさか、共和国がそこまで固執すると?】

【そこまで? はは、まだまだ修練が足らぬでござるな】

【……浅学非才である事、どうかお許しを】

 

【縁殿の能力。生き返るとか傷が治るとか。そんなのはおまけなんでござるがなぁ。本国の連中はこの気の弱い頑固な男《おのこ》を研究して、不死の軍団でも作ろうというのだろうが、まったく本質が見えていない】

 

【本質?】

 

【縁殿は沢山の知識を持っておられる。それとなくやんわりと知らないフリで通しているが、その中にもしも遺跡で発掘される以上のものが存在すれば、それはきっと世界を滅ぼすでござろうよ】

 

【世界を……】

【それにここだけの話。これは主上の命でもある】

【?!】

 

【塩の化身の一件の後、言われたのでござるよ。その蒼き目の男から決して目を離すな。そして、その身を賭して見守り続けよ、と】

 

【見守る、ですか?】

 

【ああ、主上は何か知っておられるのだろう。あの考古学者崩れの妄想家が知っているように……だから、こうして我らが見守り続ける事を本国は許容し続けるでござろう。喉からは手が出ていてもな】

 

【……出過ぎた事を言いました。どうかお許しを】

【よいよい。さ、縁殿を背負おう……ん?】

【どうかなされましたか?】

【……むぅ。これが世に言う命の危険とやらに反応する男の性、か】

【あ……その、どうしますか?】

 

【んふふ♡ ちょっとだけ、そう……ちょっとだけ運ぶのに時間を掛けよう。縁殿にはスッキリ目覚めてもらえるのが一番良いし、これで心の病みもちょっとは軽くなるでござろう♪】

 

【よいのですか?】

 

【某は覚えが良い方であるからして♪ 一度、覚えた事は忘れぬでござるよ。この立派な男《おのこ》の男《おのこ》がどうあやせば泣き止む。もとい泣くのかは知っておる】

 

【あちらに行って警戒を】

 

【いやいや、此処で見ているでござるよ♪ 後で某以外でも篭絡出来るくらい、此処で覚え込ませるのも一興。ふふふ……】

 

【羅丈様はお人が悪いですね……】

 

【これでも、ごはん公国の女諜報員であるからして。好きな男を篭絡する醍醐味はやはり女の性であろうか……やや子をこっそり儲けて驚かせてみるのも良いかもしれぬでござるな】

 

【もうお決めに?】

 

【うむ。時が来たら、そうさせて貰おう。フラム殿は一途過ぎる故、修羅場となるやも知れぬが……まぁ、某もそろそろ年頃。落とす標的を決めねばならぬとは思っていた。まぁ、そういう事で事後承諾的に納得してもらおう】

 

【……これが所謂()()()()というものなのですね】

【うむうむ。共和国の巷ではNTRと言うらしいが】

【好きな男本人も知らない間に恋敵へ完全勝利!! さすが羅丈様です!!】

 

【公国の諜報員が何故、大陸随一の手練手管を持っているのか。よくよく他国は分かっていないようだが、こんなのは簡単な話なのだがなぁ。好きな相手を落とそうというのだ。手練手管も極まるだろうに。くくく】

 

【そうですね。そういうのが分からないお子様が他国の諜報員には多過ぎるとわたくしも思います】

 

【さて、ではでは……ご開帳とゆこうか♪】

 

 背筋を駆け上る悪寒と高揚。

 

 人の意識を大切にしない夢世界は実に危険だと本能的なものが熱く心の何処かで訴えていた。

 

 真っ暗になる世界の只中で一つだけ確かなのは……何処からか響いてくる……とても楽しそうで邪悪な……何かに励む声だけだった。


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