ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第46話「聖女様フライング・マリッジ」

 

 夢を見ていた。

 儚くて、悲しくて、楽しい夢を。

 苦しくて、寒くて、怖い夢を。

 それでも何故か、温かい悪夢を。

 

『御主様。御主様は何をお祭りで願うの?』

 

 赤いアホ毛がピョインと跳ねていた。

 顔は見えない。

 それでもきっと、あの少女と同じように天真爛漫な素顔だと思える。

 枝に実が成り始めた頃。

 オリーブ畑を見下ろす丘で少女は踊る。

 

『―――はね。みんながこれからもずっとずっと幸せに暮らせるように願うのよ!!』

 

 何処までも続く温かな日差しの中。

 影を作って、少女の瞳が煌く。

 差し出された手は小さく。

 それでも懸命に歩いてきた証のように日常で付いた傷だらけで。

 

『御主様!! お祭りが終わったら、結婚して!!』

 

 それは願いではなく。

 きっと、勇気を出した告白、少女の想いで。

 

『えへへ。御主様……みんながみんな、御主様みたいになれる日が来たら、料理を食べさせてあげよう? そして、テーブルをずっとずっと囲むの!!』

 

 少女は太陽だった。

 どうして、それが翳るのか。

 どうして、それが消えるのか。

 夜がもしも魔物ならば、永遠を掛けても退治していいと。

 そう、望むのに……どうして、こんな終わりなのか。

 

『御主様。此処はもうダメみたい……あの国が攻めてきたら、きっとみんな消えちゃう。でも、でもね……どうにかする方法、あるの……』

 

 どうして、少女は泣いている。

 どうして、少女は助からない。

 何故、自分はこんなにも無力なのか。

 砕け散る刃で少女のいる施設を背に戦う。

 何一つ出来ない自分だとしても、少女の望みを叶える事は……出来るはずだと。

 

『御主様の赤ちゃん……欲しかったな……きっと可愛いんだろうな……ごめんね……御主様に全部押し付けて……本当は帰りたい場所があったんだよね……大切な人達が待ってるんだよね……なのに……あたし……』

 

 血に塗れていく。

 涙すらも笑顔すらも消し去っていく。

 その悪魔の枝の中で、少女は最後に気遣いを口にした。

 だから、返す声は明るくなければならなかった。

 一欠けらの不安すら抱かせてはならなかった。

 夢の先ですら、きっと安寧に眠れるようでなければ、ならなかったのだ。

 

『惚れた女の願いくらい叶えて死ぬさ。それくらいは出来る男だと信じていい。救われた分は救って返す……それが―――』

 

 少女の瞳が見開かれて、ようやくその最中に蒼き隻眼を見る。

 それは何時か、何処か、誰かの夢。

 尊い願いの為に生まれた。

 

『オレの流儀だ。女神様』

 

 やがて大樹となる教えの始まりに違いなかった。

 

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【縁殿~】

【エニシ!! 貴様!! くたばる時はこの私に断ってから死ね!!!】

【死んだら許さないと言いましたよ!! エニシ】

【エーニシ君!!】

【君が此処で死んだら、殿下に何と言い訳すればいい!!!】

 

 煩い。

 極めて余計なお世話な声が混じっているような気がした。

 しかし、身体は動かない。

 瞼一つ開かない。

 

【これは……極度の疲労と脱水症状……とりあえずは大怪我の類はしてないようでござるな。ならば、水分を……んくんく、ちゅ~~】

 

【何、口に水を含んで口付けしようとしている!? 野蛮か!!?】

 

 ツッコミを入れる苦労を美少女も少しは身に着けたのだろうかと期待してみよう。

 

【ゴクリ……こういう時は口移しがいいんでござるよ。というわけで、もう一回。んくんく、ちゅ~~】

 

 どうやらファーストキスがピンチらしいが、悔しい事に何も出来ない。

 

【殿下の様態が安定したと!!】

 

【そうか!! 一応は大丈夫そうとなれば、後は専門の者に任せよう。守備隊の方はどうか!!】

 

【現在、一部のマイナーソース派が蜂起したようですが、民は()()()()で次々に都市から出て武器の放棄と投降を始めているそうです】

 

【陛下のお声も今、電信で飛ばしているらしいが……やはり、エーニシ君と関係があるのか……】

 

【あちらからの放送も加わって、順次各城砦都市の主要行政長官が白旗を揚げていると】

 

 どうやら色々と上手くいったらしい。

 

【エニシ……不潔です……馬鹿……私を妻だと言ったのはあなたなのに……】

 

 命の危険に対する方便が何故か罵倒になって返ってくる。

 理不尽なものを感じたが、指先一つも動かない以上、言い訳でも出来なかった。

 生温いものが口を割って入り、喉に何か非常に甘いものが流し込まれていく。

 だが、それだけでは飽き足らず。

 ヌルリと舌が絡められた。

 

【く!? 衛生兵としての技能が無いのは悔やまれるな……というか!!? いつまで口を合わせている!!?】

 

【痛ッ?! げんこつ痛いでござるよ!? フラム殿!? これでも某は縁殿の命を救おうと舌の感触と温度から健康状態を測っているのであって?!】

 

【く?! 傷病人の状態を盾に取る気か!?】

【疚しい気持ちなんて!! 八割くらいしかないでござるよ!!】

 

 二割しか心配してないのかよとツッコミを内心で入れつつ、ゲッソリする。

 

【エニシ……やっぱり不潔です……どうしてそう節操が無いのですか。あなたは……】

 

【とにかく何か液体で栄養があるものを口に入れればいいんだろう!! なら、これでいい!! 退け!!】

 

 ガボッと今度は大きいストローの口のようなものが口内に押し込まれ、辛い液体が流し込まれていく。

 

 思わず咽そうになったが、身体は咽る気力すら無いらしい。

 そのドロリとしたものが胃の底へと落ちていく。

 

 窒息するんじゃないかと思ったのだが、流し込まれた後に今度は二つ目のストローが同じ風味のサラリとした液体を大量に放出、口内と喉を洗い流した。

 

【一体、何を流し込んでいるのでござるか?】

【ベアトリックス様が此処へ立つ前に持たせてくれた真空密封式容器に入ったカレーだ】

【カレーとは飲み物だったんでござるか?!!】

 

 百合音以上に衝撃の事実なのだが、とりあえず人の肺をカレーで溺れさせたら、絶対後で文句を言ってやろうと固く誓う。

 

【ふ、当たり前だろう。カレー水というものを知らんのか。帝国では病人にコレを飲ませるのだそうだ】

 

【あ、あの、それさすがに違……】

 

 常識人らしいプリースト少女の声にそうだ言ってやれと強く希望する。

 

【何だ? リュティのレシピに問題があるとでも言うつもりか? 今回は手土産として相手側に渡されたそうだが、酷く絶賛されたそうだぞ?】

 

【それなら間違いないです!!】

 

 何やら一瞬にして人がカレーで容易に窒息するという忌避が払拭されたようだ。

 

 オールイースト家専属な料理上手過ぎるメイドさんの恐ろしさに戦慄する以外ない。

 

 本人が悪いわけでもないのに命の危険が間接的に襲ってくるなんて、運命という奴は呪われてしまえばいいと切に思う。

 

【ふぅ。これでいいだろう。疲労と脱水症状だったな。背中の部分が血で染まっているようだが……まさか、またか……とりあえず脱がして傷や変調が無いか確かめる。手伝え】

 

【おお、フラム殿もようやくその気に!!】

【わ、分かりました……これも妻の役目、ですから】

【何やらさっきから妻とか何の話をしている!!】

【あ、えと、その……エニシが私の事を妻だと言ってくれて……】

【【?!!?】】

 

 フラムにそんな少し恥ずかしげな声で誤解を招く事実を言ってどうする気なのか。

 

 せめて、もっとちゃんと状況説明とか色々する話はあるはずなのだが、サナリにそういう気配は無い。

 

【く、思わぬ伏兵!? や、やられたぁ!!? でござる!?】

 

【こ、ここ、こいつは!! こいつはなぁ!!? これでもこの私のッ!! ワ・タ・シ・ノ!!! フラム・オールイーストの婿候補なのだぞ!? くッ?! 叔母連中とお母様からもう実質婿扱いされてるこいつがこんなところで浮気!?! 私の青春を危険に晒す気か!!? エニシ!!!?】

 

 少女達が勝手に喚く。

 さすがに物申したい気分で一杯だったが、未だに唇は動きすらしない。

 そんな時だった。

 何かの駆ける音と同時に複数の止めに入る声が近付いてくる。

 

【A24!!! 死んじゃダメぇええええ!!!!】

 

 ドズッと腹部が猛烈なタックルによって抉られるような衝撃を受ける。

 

「かはッ?! 殺す気か!?!」

 

 何かのショックが足りなかったのか。

 身体がようやく動くようになった。

 

 カッと目を見開いて上半身を起こせば、薄曇りの紫雲を微かな明かりが染め上げていく最中。

 

「縁殿!!」

 

 背後からの奇襲で首が嫌な感じに軋む。

 

「ケガ人なんだからせめて大切に扱ってくれ!? いや、本当に!!?」

 

「むぅ。主要臓器も大丈夫そうでござるな。心臓は動いているのに神経の反射すら無かったから、寝た切りになるかと思ったでござるよ?」

 

 顔の後ろから何やら本当にホッとした様子の百合音が安堵の息を吐く。

 

「まさか、今までのやり取りでツッコミ入れさせようとしてたか?」

 

「何?! 大丈夫では無かったのか!? く、傷病人の情報を偽るとは!!? これだから野蛮人は信用出来ん!!」

 

 一部、まったくそんな事を知らされていなかったらしいナッチー美少女が腹に抱きつく聖女と後ろから迫ってくるお付達の事もお構いなしに目の前でこちらを睨んで来る。

 

「……久しぶりだな」

「エニシ。何か私に謝る事は無いのか?」

「色々有り過ぎて、逆に何を謝ればいいのか分からないんだが」

 

 いつもならば、撃つぞくらい言いそうな美少女が、拳を作り、殴るのかと思いきや。

 そっと、頬にソレを当てた。

 

「次は殴るぞ……」

「気を付ける」

「なら、いい」

 

 立ち上がったフラムは自分の外套の埃を払って、こちらに背を向け、ようやく夜明けを迎える街並みへと視線を注ぎ始めた。

 

 風音にグスッと少しだけ鼻を啜る音が混じる。

 

 よくよくそちらを見てみれば、街の至るところに共和国の象徴たる白い正鍵十字の旗が翻っていた。

 

「エニシ……こちらを向いて下さい?」

「?」

 

 サナリの声にそっちを向いた瞬間にパシンと軽く頬が鳴る。

 

「許さないと言ったはずです。これは自分の身体を大事にしなかった罰だと思って下さい」

 

 そのいつも飄々としたような雰囲気のある少女の瞳は薄く潤んでいた。

 

「悪い……後、ありがとう。サナリ」

「本当に、心配したのですから。少しは自分の事を顧みて下さい……」

 

 そう心配そうな顔をされては頷くしかない。

 どうやら顔を見られたくないらしく。

 

 水を持ってくると言い置いて、その背中は周辺の共和国軍人らしき男達が屯する幕屋の方へと向っていった。

 

「……で、いつまでそうしてるつもりだ。パシフィカ?」

「いつまでもなのよ!!」

 

 ガバッと顔を上げた聖女様は涙を拭って、ギュッと服の端を握ってくる。

 

「あたし!! ずっと待ってたわ!!」

「悪かった……間に合わなくて……」

「痛いの我慢したわ!!」

「お前が強くて助かった……」

 

 頭を撫でるとジワリと瞳に再び涙が滲む。

 

「怖かった……凄く、怖かったんだから!! このまま、みんなと会えなくなっちゃうのかって……」

 

 何も言わずに抱き締めると。

 胸元から小さな泣き声が響き始める。

 

 子供をあやすなんて経験は今のところないので、それからどうしていいのか分からない。

 

 何やら数m先でヴァルドロックが何やらシーレスと他の信者らしき男達に取り押さえられている。

 

 その口からは『まだ、聖女様にああいうのは早いのだぁあああ』という悲鳴のようなものが零されていた。

 

「泣き止むまでこうしててやる。それが終わったら、この事態を収拾しないとな」

「………ぅん」

 

 どうやら自分の働きは無駄では無かったようだ。

 それが何よりの収穫だろう。

 百合音がようやく背後に引っ付くのを止めて目の前へ出てきた。

 

「縁殿の事。どうなったか気になっているんであろう?」

「ああ、聞かせてくれるか? そもそも、この惨状……一体、何があった?」

 

 周囲を見渡せば、瓦礫の山となっていた。

 あの王城の半分以上が崩れているのが見て取れる。

 自分がいるのはたぶん王城と地下空洞から少し出た辺りだろう。

 

「とりあえず、縁殿があの男に予定通り、浚われてから6日が経っておる」

「6日? という事は2日以上くらい気を失ってたのかオレ……」

 

「某も見ていたわけではないので、詳細は分からぬ。ただ、現地に潜入させている者からは数日前、急に王城が崩落し始めたと話を聞いた」

 

「そうか……」

 

「どうやら前皇帝を排撃する為にマイナーソースは殆どの者達を城から追い出していたらしく。今確認が取れる限り、犠牲となったのはマイナーソース派の高官と手下達だけでござる」

 

「前皇帝はどうした? あの人は王城にいたはずだ」

「前皇帝の事は承知している。縁殿の入れ知恵であろう。あの放送」

「ああ、娘の言葉に裏付けするよう、ちょっと頼んでおいた」

 

「捜索しておるが、どうやら崩落時のドサクサで残された女官達と街へ出たらしい。詳細な足取りは掴めておらぬが、電信機材で生の声を発しておった事から、生存は確実と言っておこう」

 

「死んでないならいいんだ」

「……それにしてもあの大規模な王城を発破するとは。何かしらの遺跡の力でござるか?」

 

「いや……分からない。マイナーソースにナイフで背中を攻撃されて、致命傷だったんだが……最後に部下達が来た辺りから記憶が無いな」

 

「ふむ。一度死んでおると。いや、この大崩落の最中に聖女殿と瓦礫の地表付近に埋もれるようにして倒れていた事から、自力で何とかしたのかと思っておったのだが……」

 

「そこら辺は分からないが……また発掘されたのかオレ」

 

「いやぁ、もし深い場所だったなら、軽く二週間は共和国軍に発掘して貰わねばならないところだったでござるよ。ははは」

 

「笑い事じゃないな。で、地下空洞はどうなってるんだ?」

 

「ああ、あそこでござるか? 瓦礫の山に押し潰されておったぞ。遺跡としてはもう機能せぬだろう。配下の者に使えるものがあるかとコッソリ調べさせておいたのだが、機材の大半が完全に破壊。また、重要そうな機器があった付近は特に崩落が激しく全損のようでござる」

 

「そうか。正直ホッとした」

「今回の遺跡、枝の事を詳しく聞いても?」

 

「教えないし、教えたくもない。ただ、胸糞が悪過ぎて同じものがあったら、絶対壊す努力をするとだけ言っておく」

 

「まぁ、仕方ないでござるか。某はこれから用がある故。これにて……あ、他の都市の詳細も入ってきたら報告する運びだが、縁殿のおかげで死人は殆ど出ていないと言っておくでござるよ」

 

 風のようにササッと離れた百合音が手を軽く振って、ひょいひょいと煉瓦や瓦礫の山を奔り、何処かへと姿を消した。

 

「………それで安心したか?」

「ぐす……A24はお父様と会ったの?」

「ああ、お前の事をとても心配してた。だから、色々と手伝って貰った」

「そっか……じゃあ、パシフィカもそうしないと。あたしはみんなの聖女様だから」

 

 涙を拭って立ち上がった少女は目元が腫れていたが、それでもいつもの如く溌剌としていて。

 

 だからこそ、それが虚勢だと分かった。

 

「なぁ、いいか?」

「なぁに? A24」

「………記憶、ちゃんとあるか?」

 

「―――あのね。みんなの事は分かるし、今あたしがどういう立場にいるのかも覚えてるけど……1年くらいから昔の事、覚えてないみたい」

 

 やはりかと。

 僅かに顔が固くなった。

 

「それだけか? 他にも知識にも影響があるんじゃないか?」

「あのね。その……何食べられるの? あたし」

「それか……他には?」

「何か、今はゴチャゴチャしてて……ちゃんと落ち着いたらきっと分かると思う……」

「二人にこの事は?」

 

 訊ねるとパシフィカの顔が僅かに苦笑した。

 

「今、二人はとっても大事なお仕事ばっかりだから。あたしの事は後にした方がいいと思うの」

 

「……そうだな。まだ、あの二人には働いて貰わなきゃならないのは事実だ。とりあえずお前の身柄はこっちで面倒見る。二人と軽く話してくるといい」

 

「うん……」

 

 頷いた少女が何やら少し躊躇いがちにこっちへ近付いてくる。

 

「どうした? まだ、泣いてくか?」

「違うの……あの、あのね。A24……」

「言ってみろ。あの状況で生き残れたんだ。無理な事以外なら手伝うぞ」

「……ちょっとだけ、目を瞑って?」

「分かった。悪戯書きとか止めろよ」

「ち、違うわ!!」

「じゃあ、ほら、これでいいか?」

 

「うん……色々あったけど、ありがとう……みんなの事……あたしの事……この国の事……だから、あなたに……オリーブの枝……和解の証たる名の下に祝福を……」

 

 厳かな声。

 何処か緊張した声。

 だが、それはすぐに形となって。

 

「おい。エニシ!! さっさと野戦病院に移―――」

「ん…………」

「?!!」

 

 ゆっくりと顔が引かれて、遠方から『殿下ぁあああああああああああああ!!!!!?!』との絶叫が水を差す。

 

 しかし、それでも水を差し切れないだろう笑顔で。

 頬を染めた笑顔で。

 少女はニコリとして、呟いた。

 

「だいだい、だーいすき、なのよ!! A24!!」

 

 こちらを見ていた共和国の兵隊の間から口笛と驚きの歓声。

 

 ヴァルドロックを押し潰さんばかりに重なって押さえ付けながら、信者達が涙を零しつつ笑顔でパチパチ拍手し始め、残った美少女が猛烈に痛い気がする拳を湯気の上がりそうに見える真っ赤な顔の横で震わせ、水をようやく貰ってきたらしいサナリがその水の入ったコップを落として、こちらを真冬のような冷たい視線で睨み。

 

「パシフィカ・ド・オリーブはカシゲ・エニシを古の契約に従い」

 

 少女の顔は赤く。

 それでいて、勇気を持った毅然さに凛々しく。

 確かに聖女の風格を漂わせ。

 

「永久の契りを持って、伴侶とします。なのよ!!」

 

 そう宣言が為された。

 もはや涙目でブクブクと口から泡を吹きながら過保護そうなカイゼル髭が気を失っている。

 

 その横ではシーレスが拳を震わせながらも一瞬で冷静さを取り戻し、氷よりも冷たい視線で『分かってるな?』と言外の意をこちらに向けてきた。

 

「あの……オレの意思とかどうなるんだ?」

 

 えっへんと偉そうに。

 何を自分が言っているのか分かっているのか。

 超弩級の問題をサラッと宣告してきた少女は大丈夫と頷いた。

 

「分かってるわ!! 答えはYESなのよね!! ちゅ♡」

 

 頬が熱い。

 共和国の兵達がいる時点で情報統制とか無駄だろう。

 信者もかなり目撃している。

 つまり、無かった事に出来るはずもなく。

 

「エニシィイイイイイイイイ!!?!!」

 

「やっぱり極めて不健全ですッッッ!!? あなたはッッッ!!」

 

 どうやら、聖女様から与えられた受難は当分続く予定らしかった。


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