幼女戦記INリリカルなのは   作:路地裏の作者

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非常に、やっちまった感がある……!



沈む夕日、昇る旭日~ミッドチルダ宇宙大戦(sts編)

 初めまして、皆さん。ティアナ・ランスター二等陸士です。本日は私が現在所属している管理局地上本部所管・古代遺物管理部機動六課について報告させていただきます。

 

 機動六課は、ミッドチルダ近縁に危険を齎し得るロストロギアに即応すべく、新設された部隊になります。その設立にはベルカ聖王教会からの肝入りがあったと言われ、書面上の課長は存在していますが、それとは別に、管理世界の外から出向した部隊長が隊を統括しています。

 

 彼女の名前は、八神はやて部隊長。本来の所属は、近年になって独立自治が認められ、次元世界でも目覚ましい発展を遂げている『第97自治世界・地球』だと聞いています。その世界では珍しい魔導適性者だけで構成された国際的軍事組織――『サラマンダー戦闘団』の副団長を務めているとか。その上彼女は、正式にベルカ聖王教会から叙勲された騎士でもあり、現在では稀少な古代ベルカ式の継承者でもあります。彼女を部隊長に迎えている以上、聖王教会の介入が疑われても仕方がないことだと思います。

 

 そして、この機動六課は、その幹部メンバーが全て彼女の関係者で構成されていることが大きな特徴です。彼女の個人保有戦力である『ヴォルケンリッター』が各小隊の副隊長を務め、医務官も同様。他にも彼女の知己が多く流入しており、発足当初は地球からの政治的介入が懸念されたほどです。今のところそんな様子もありませんでしたが。

 

 ちなみに私の機動六課での所属は、前線フォワード部隊。その中のスターズ分隊に所属して指揮系統を任されてることが多くなります。ただ、色々と気苦労も多いです。陸士学校から一緒なスバルは天然ですぐ突っ走るし、ライトニング分隊のチビッ子二人はライトニング分隊の隊長であるフェイト・T・ハラオウン執務官の保護児童だし、オマケにもう一つの分隊が問題で……。

 

 その分隊とは、『クロイツ分隊』。管理局の外郭団体が主体となる分隊で、隊長も副隊長も管理局内の階級は無し。その上、その分隊に所属するのは、階級的にも上なギンガ陸曹とヴァイス陸曹。センターガードで指揮が執りやすいからって全体の指揮を任されても、階級無視では指示が出し辛いし、かと言って上官に煩く言う訳にいかないし……。ちなみに現場指揮権を私に譲る提案をしたのは、フェイト執務官でした。

 

 そして……この部隊の最も大きな特徴は、私たちフォワード部隊の他に、もう一つ実働部隊が存在するということでしょう。それは、八神部隊長の出向元であり、はるか地球からたった一年の設置期間を設けられた機動六課のためだけに出向いて来た、生粋の戦闘集団。『サラマンダー戦闘団』が、この機動六課のバックアップ部隊として、ミッドチルダまで出向いているのです。彼らが管理局内でも稀有な人材の宝庫であり、恐ろしい程の戦闘狂であることは、私たちスターズ分隊の隊長であるサラマンダー戦闘団の団長補佐と、クロイツ分隊の隊長を兼任する団長を見れば一目瞭然です。

 

 彼女らの名は――――高町なのはと、ターニャ・デグレチャフ。管理局内の地位など持たない彼女らではありますが、間違いなく次元世界でも指折りの実力者であると断言できる魔導師です。

 

 その片鱗は、全員の就任当初、部隊発足の初日から現れました。

 

「初めまして、諸君! 貴様らの教官を務めるターニャ・デグレチャフだ。とりあえず、地獄へようこそ」

「えぇと……初めまして、ヒヨッコ魔導師の皆さん! 高町なのはです! それじゃあ、『山』に行きましょう!!」

 

 片方は獰猛な笑みを浮かべ、もう片方はまるで丸暗記してきたように妙に棒読みな挨拶だったが、その後訓練着一丁で連れていかれた景色を見て、絶句した。そこは、管理世界からはほど近い所に存在する、とある自然豊かな世界。そこの『雪山』の中に、Tシャツと訓練服のズボンだけ履いた状態で放り出されたのだ。そして、上空からかけられた彼女らの声は、ある意味死刑宣告に近かった。

 

「えー、みなさーん! これから10分後、山麓一帯の危険生物駆除のため、皆さんがいる辺り(・・・・・・・・)に砲撃が降り注ぎまーす! 砲撃は合計36時間延々と降り注ぐ予定ですので、全員その場に塹壕を掘って身を守ってくださーい!!」

 

 そう言って落とされたのは、人数分のスコップ。そして目の前の空間に投影されたのは、部隊転属前に何故か署名させられた『死亡案件自己責任同意書』――つまり、死んでも自分の責任だと、同意する書類。

 

 ……そこからは、必死でした。全員一心不乱にスコップで塹壕を掘り、その上に蓋をするようにラウンドシールドを設置。そこからただひたすら降り注ぐ砲撃に耐え続け、外に満ちる爆音と光に精神を削られ続ける地獄のような時間……。何故か私たちの上空で、高町分隊長とハラオウン分隊長が口論しながら戦っているようにも見えたけど、余り記憶に残っていません。ただただ音と光に耐え続けるだけ……。

 

 そうして、悪夢は終わりました。音と光が止んでしばらく、全員が穴の中から這い出してきて、未だ生きていることに呆然としていました。分隊員の数が減っていなかったのは、奇跡としか思えません。皆が未だ呆然とする中、ハラオウン執務官をバインドで拘束した高町分隊長が、私たちの奮闘を讃えました。

 

「うん、皆よくがんばったね!」

 

 ……正直、褒められてうれしい気持ちよりも、やり遂げて安堵した気持ちしかありませんでした。本当にほっとしたんです。だから、彼女の頭上に「さっきまで撃たれ続けて周囲に拡散していた残留魔力」がどんどん収束し、巨大な球体を形成している光景を見た時は、本当に絶望したんです。

 

「諸君らの根性に、高町分隊長からプレゼントがあるそうだ。丁重に受け取り給え」

「それじゃあ皆の健闘を称えて、今から6時間、今度は私が砲撃し続けるね!」

 

 ……悪夢の次には、地獄が待っていました。その段になって高町教導官が類まれな空戦魔導師であると理解できたのですが、正直あの光景は思い出したくないです。皆揃って精根尽きた状況で、天より降り注ぐピンクの魔力光。一撃で積雪はおろか地盤までめくり上げる、ピンクの砲撃。まるでインターバルのように、周辺の地表や大気から上空目掛けて収束していくピンクの光。あ゛ぁぁぁ……ピンクのピンクがピンクでピンクにピンクピンクピンクピンクピンク――――――――――……!!

 

 ……はっ。失礼しました。ともかくそんな感じで高町教導官の訓練が始まり、様々な地獄すら生ぬるい鍛錬を行ってきました。デグレチャフ教導官はミッドやベルカ式の魔法は使用できないとのことで、軍隊組織に必要な様々な基礎的訓練を施していきました。途中行われた対尋問訓練では心は何度もへし折られましたが……私はブラコンじゃない百合でもない違う違う絶対違う……!

ともかく、そんな感じでした。なお、対尋問訓練はどういう訳かフェイト執務官も一緒になって受けていて、終わってからもしばらく部屋の隅から動きませんでした。

 

 そんなこんなで訓練開始から一か月後、ようやく地獄の訓練課程が終了。私たちはミッドチルダの海岸に立つ六課の隊舎に戻ってきました。みんな、涙を流して喜びました。かく言う私もです。嗚呼、生きてるって素晴らしい!

 

 久しぶりに寮のベッドで眠れる幸せに心躍っていると、解散前に高町教導官が一言。

 

「えー本日を以て、ヒヨッコの皆さんが現場で早々に死亡しないための訓練を終了します! 明日以降は『実戦訓練』に移りますので!」

「「「「えっ」」」」

「え?」

「……教導官、それでは今までの訓練は?」

「え? えーと、準備体操、かな?」

「まあ、ようやく蛆虫を卒業して、ヒヨッコになれたという事だ。もっと喜び給えよ、諸君」

 

 ……涙が止まりませんでした。その日を境に毎日もたらされるのは、朝夕に根こそぎ意識を奪い去るピンクの洗礼。朝起きて、訓練でピンクの光に薙ぎ払われて、仕事して昼食べて、またピンクの光に吹き飛ばされて、意識が戻ったら寮のベッドの中……。…………あの人、真性のどSなんじゃ――あああ!窓に!窓に!スイマセン高町教導官!何でもありません、何でも!だからその後ろのピンクのチャージはやめて止めて止め――(一度文章が途切れている)

 

 ……報告に戻ります。実際高町教導官の行われる訓練の効果は、非常に高いものと言わざるを得ません。おおよそ一か月の訓練で如何なる任務にも耐えうる精神力と体力を養えますし、またその後の戦闘訓練で極めて実戦に近い経験値を得られます。両教導官は、管理局にとって得難い教官であると言わざるを得ません。流石は『夜天の悪魔』と『ピンクの悪魔』と呼ばれ、次元世界にその名を轟かす魔導師です。

 

 ですが、連日の訓練に加え、徐々に実地での任務に就くことも多くなり、私も含め全員心身ともに疲れ切っていったと言わざるを得ません。最初の貨物リニアからのロストロギア『レリック』奪取任務、散発的に出現するガジェットドローンへの対応任務、極めつけはホテルアグスタでの警備任務です。施設防衛こそ上手くいきましたが、眩暈を起こしたせいで魔力弾が制御を外れ、スバルに当たりそうになりました。

 

 隊舎に戻って自分のミスショットに落ち込んでいると、極めて珍しいことに、デグレチャフ教導官が話しかけてきました。親身になって悩みを聞いてくれたその姿勢は、とても普段から想像できないものでした。いただいたアドバイスは、直射弾の活用法とか、射線を取ることの重要性とか、普段の体調管理や報(告)・連(絡)・相(談)の重要性などなど……。

 

 そして最後に、自分が執務官試験の受験を目指しており、ここにもキャリアアップのために来たことを迂闊にもポロッと話してしまったところ――――彼女の目つきが変わりました。

 

「素晴らしい考えだ!! そう! キャリアアップは、何よりも重要なのだよ!!」

 

 そこから延々と、軍形式の組織体における出世の秘訣やら、可能な限り早期に手柄を立てて後方勤務になることの重要性やら、何故かとんでもなく実感のこもったお話を聞き続け、解放されたのはそれから二時間後でした。

 

「いやぁ、まさかこんな所で『同志』に出会えるとは! やはり籠っていては分からないものだな!!」

 

 その後我らが六課は、一連の事件の主犯と目されるジェイル・スカリエッティの逮捕に向けて動く方針でまとまっていたのですが、地上本部で開かれた公開意見陳述会で事態が一変。なんと、管理局の最高評議会を名乗る一団が、旧暦最悪のロストロギア『聖王のゆりかご』を発掘。その恐ろしい威力を完全に掌握し、次元世界支配に乗り出したのです。

 

 そして、これらの詳しい内情を私たち六課にもたらしてくれたのが……。

 

「初めまして、諸君! 私の名は、ジェイル・スカリエッティだ」

 

 先日まで主犯と思われていた、次元犯罪者本人でした。何でも彼は、今まで最高評議会の命令で数々の違法実験を強要されてきたらしいのですが、先日『天啓』を受けたとかで最高評議会の陣営を離脱。その際置き土産として、『聖王オリヴィエ』の遺伝子データと、ゆりかご起動に必要なレリック、更にはそれを埋め込んだレリックウェポンになる方法まで、研究の全てを書き残してから逃げてきたそうです。これら全て、天啓による『天の導き』なんだとか。

 

 ――なんて事を、してくれたんですか!!

 

 おかげで次元世界は、現在進行形で新暦始まって以来の大戦が始まりかけてますよ!!まあ一応、彼らが施設を引き払って逃げ出したおかげで、違法実験に供されていた人々とか、彼が作り上げた戦闘機人は助かりました。その中にはかつて全滅した筈だった地上本部の精鋭魔導師や、プロジェクトFで生み出された聖王オリヴィエのクローン体の『ヴィヴィオ』という少女も。未だ幼い少女がゆりかごに乗せられて殺戮の限りを尽くすことが無くなったのは、本当に喜ばしいことではあります。

 

 でも、ミッド郊外から浮上したゆりかごが、これから次元世界でどれほどの被害を齎すか考えたくもありません。恐らくそうした被害予測を立てているであろうデグレチャフ教導官も、スカリエッティの話を聞いて、憤懣やるかたない顔をしていますし。

 

 やがて、それでもやるべきことをやるべきだと気持ちの整理をつけたのか、一度目を瞑り、大きく息を吸い込み――――告げた。

 

「諸君――――戦争のお時間だ」

 

 その顔は、獰猛な肉食獣のように歪んでいました。

 

「事もあろうに、時空管理局が手ずから我々に立身出世の好機をプレゼントしてくれるそうだぞ? 彼らは寄りにもよって、次元世界全土に既に放言しているのだ……自分たちは次元世界の統一支配を目指すと。つまりは、現在の次元世界全体の平和を崩す『賊軍』だとな」

 

 その言葉に、全員身の引き締まる思いでした。

 

「諸君らそれぞれ、一年間の六課所属以降は、希望する部署ややりたい仕事があるだろう。時空管理局は自ら悪役となって、諸君らの希望通りに進めるよう、ラッピングしてご丁寧にリボンなんかもつけて、手作り感満載のプレゼントを用意してくれた。これに応えずに何とする?」

 

 ……あるいはそれは、初めて生命のかかった戦いへと臨む新兵を励ますためだけの言葉だったのかもしれない。それでも、その言葉はその場の全員に響いた。

 

「なに、気負う必要などどこにも無い。やることはあまりに簡単――――勝てる戦争で! 勝てる軍隊で! 安全な場所から、敵を叩いて昇進するだけの簡単なお仕事だ!!」

 

 そうだ、気負う必要などどこにも無い。確かに敵軍は多いけれど、ハラオウン提督を始め、時空管理局本局にも向こうに付かずにこちらに合流した勢力があると聞く。それに伝説の三提督は全員こちら側だし、ベルカ聖王教会も完全にこちらに味方すると表明してきた。風向きは完全にこちら側なんだ。

 

「諸君らの為すべきことはただ一つ――――――地獄を創造(つく)れ!!」

 

 こうしてデグレチャフ教導官の言葉と共に、史上空前の『大戦』は幕を開けました。

 




最高評議会終了のお知らせ。存在Xに状況を操られて、次元世界の支配を企む悪の親玉にランクアップ。

フォワードメンバーは、順調にピンクの光線へのトラウマを形成中。デグさんの容赦のなさが、魔王様にマズい方向で影響してる……!しかも何故か、最初から一緒にしごかれてるギンガさんとヴァイスさん(笑)

スカリエッティに天啓齎したのは、毎度おなじみのアレです。おかげで世界大戦超える、『宇宙大戦』だぜ!これ全部、デグさんに神への信仰芽生えさせるためなんですよ?どんだけ考え無しなのか、存在X……。

-追記-(18:45)
書くの忘れてましたが、一応こちらの短編はこの話で完結です。皆さん読んで下さり、ありがとうございました!

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