鬼人軍伝録   作:ルペコック

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魔女は絶望したこの世界に、鬼は掬おうとした不幸に落ちる者を、
2つの歯車から始まる運命の物語。これにて1章という名のプロローグ完結です。
・・・これだけ書いてまだプロローグなんだぜ?信じられるかい?


彼と彼女の始発点

「はぁはぁ・・」

少女、マリーは丘を走っていた。ランドオロスに言われたトンネルに一刻も早くたどり着くために。そうとにかく早くたどり着くそれだけを思って。

とその時マリーは足元の木の根につまずき転ぶ

「っ!」

マリーは急いで立ち上がろうとする。

(ランドオロスが時間を稼いでいてくれているうちに、大丈夫ランドオロスならきっと後から追いついてくれる。)

そう自分に言い聞かせるように頭の中で呟く。もちろん彼女も分かってはいたランドオロスが来ることは絶対にない。銃弾をくらっても平気な顔で接していてくれたがあれはただのやせ我慢だということはマリーからもすぐに分かった。そんな状態で銃を持った兵士20人弱を相手に1人でなんの武器も持たず素手で戦いを挑むなど自殺行為に等しい。それでもマリーは最悪の状況を考えるなどしたくもなかった。

(本当にあなたって弱虫なんだね。)

ふとマリーの耳にそんな幻聴とも思える声が届いた。

 

 

「どらああぁぁ!!」

そう雄叫びをあげてランドオロスは拳を振りかぶり、敵を殴ろうとするが満身創痍の状態の彼の攻撃はいともたやすくよけられてしまう。

「ハハハ!無様だな!高々銃を持った兵士相手にそんな傷だらけになってこんなのが制圧部隊のエースとは聞いて呆れる!」

「黙れよ、くそ野郎は口だけはいっちょ前でその拳は飾りか?」

「フン!この私自身が直々に手を下すまでもないということだよ。」

チッっと内心舌打ちをしてランドオロスは打ち出された銃弾を躱し、間合いを詰めようとする。だがマリーをかばった時にダメージを受けすぎたランドオロスの体はもう気合だけでなんとか動かしているような状態だった。そんな状態ではいつも通りの動きなどできるはずもなし、だが彼には武器がないため普段通りの動きをすることを余儀なくされるのである。

(とにかくマリーが逃げる時間を稼がねえとな、あとはできるだけ奴らの人数を減らさねえとな)

そんなことを考えながらランドオロスはまた間合いを詰めるべく敵に突撃していった。

 

 

(本当にあなたって弱虫なんだな。)

不意にマリーの耳にそんな声が届いた。マリーの周りには誰もいない、ただの幻聴である。だがマリーはこの幻聴につい反論してしまう。

「私のどこが弱虫だっていうのよ!」

(弱虫じゃない、大切な人を置いて敵を恐れて敵前逃亡。これのどこを見て弱虫じゃないなんて判断下せばいいの?)

「別に、私は恐れてなんか」

(じゃあなんで一緒に戦おうとしなかったの?あなたには魔法って武器があるじゃない?)

「そんなのない!私は魔法を使えない!戦えなかったんじゃなくて戦えないだけ!」

(お次は言い訳、本当に呆れたものだね?そんな自分に嘘ついて恥ずかしくないの?)

「私は別に・・自分に嘘なんか・・・」

(ふーん・・ねえあなたが本当に恐れていることはどっちなの)

「どういう意味?」

(そのままの意味だよ。あなたはどっちに恐れているの?第4の連中?それとも彼の死?)

「そんなのランドオロスが死ぬことに決まってるじゃない!!」

(ふーん、だったら何を委縮することがあるの?)

「へ?・・・あっ」

(うふふ、気づけた?大切なこと)

「うん、ありがとう。いっぱい迷惑かけてごめん」

(いいよ、慣れっこだから。それよりも早く行きなさい?)

「うん!」

そう言って彼女は走る。今度は丘を登って、彼が、ランドオロスがいた場所に・・

 

 

「はぁはぁ」

「さあ鬼退治もそろそろ終わりといこうか?」

「はっ!笑わせる!知らねえのか?正義と漢は最後には必ず勝つんだよ!!」

「ふん!好きにほざいているがいい」

あれからどれくらいの時間がたったか、場にはランドオロスのパンチをくらい気絶している兵士が5人転がっている。

(くそっ!《オーラ・インパクト》が使えりゃまだ状況はよかったんだがな)

そう、ランドオロスには遠距離にも攻撃できる《オーラ・インパクト》がある。それを使えば事態は好転する。だが使えない理由があった、それは街への被害である。今兵士たちの後ろにはグリューネシルトの街がある。そんな状況で撃てば街への被害は免れなかった。

(状況は依然最悪。体はそろそろ限界。時間は・・まあ稼げたか?ハハッもうどれくらい戦ってたか記憶もぶっとんでやらぁ)

そう考え、また彼は立ち上がる

「だったらまだ倒れらんねえよな・・」

彼の今の役目はマリーが逃げる時間稼ぎ。それがきちんと完遂されたと分かるまでは倒れられない。そして彼はもう一度突っ込もうとする。だが・・

「ぐっ!?」

踏み込んだ瞬間、ランドオロスの体勢が崩れる。今まで受けてきたダメージのガタがついに足に来たのだ。

そして目の前にはすでに射撃体勢に入っている兵士たち。

(終わったか・・)

そう思い、目を閉じた時だった。

彼女の声が聞こえたのは

「《パダム》!」

その声と共に数人の兵士が炎に包まれる。

「はぁはぁ、なんとか間に合った。ランドオロス大丈夫!」

少女は戻ってきた。彼を窮地から助けた。だが彼は叫んだ。

「馬鹿野郎!なんで戻ってきやがった!」

「そんなのあなたを死なせたくないからに決まってるじゃない!」

少女は力強い眼差しを向けなおも叫ぶ。

「出会ってから今まで私はあなたに助けられてきた。今だって私を助けようとその命を張って。だから今度は私が助けるの!今まであなたに助けられてきた分を今あなたに返すの!」

だってとつなげて彼女は一呼吸おいてこう続けた。

「あなたは私にとって死なせたくない大事な人なんだから!!」

その言葉を聞いてランドオロスは涙をこらえ、だがこう返す。

「駄目だ。」

この返しにマリーはランドオロスの方に向き直る。だが彼女が向き直った後、彼はこう続けた。

「少女に助けられるだけってのは漢の名がすたる。だから、」

そこでランドオロスはマリーに手を差し伸べ、そしてこう言った。

「戦うなら一緒に、だ」

「そっちはさっきまで1人で戦ってたくせに」

「ハハッ、漢の見栄ってやつだよ。それでどうするよ?」

「決まってるじゃない。」

そう言って彼女はランドオロスに手をかざす。

「《アプリフ》」

そう言うとランドオロスの傷がみるみる治っていく。回復魔法をかけたのだ。そして彼女はランドオロスの手を握り、

「それがランドオロスの望みなら私はそれに従うだけだよ!」

「よっしゃ!バックアップは任せたぞ!」

「分かった!」

そう言ってランドオロスは兵士達に突っ込む。そのランドオロスに向かってマリーは魔法をかける。

「《ハサート》!」

するとランドオロスのスピードが上がる。

「馬鹿な!?魔女、貴様は魔法が使えなかったはず!?」

「ええ使えなかったわ、あなたたちへの恐怖のイメージにとらわれていたせいでね。でも今はそんなものない。思い知らせてあげるわ魔法の強さをね!」

「ヒッ!撃て!撃てぇ!」

ウェストロが部下にそう指示を出すがランドオロスはそれを全て躱し、そして兵士たちにパンチをくらわせる。だが兵士も負けじとランドオロスを撃とうとするが、

「《レイガ》!」

マリーが使った魔法により体が凍っていき動きが取れなくなる。

そして残るはウェストロ1人になった。

「ヒッ!ま、待て!そうだ!私に攻撃してみろ!反逆罪で上に報告してやるぞ!」

「そんな報告通ると思ってんのか?」

「へっ?」

ランドオロスの返答にウェストロから間抜けな声が漏れる。

「おそらくマリーの事は上の中でも数人しか知らねえんだろ?今回の件も参加してる人数とクリスの奴がいないことから正式な上からの命令じゃねえはずだ。そんな状況で報告したってトカゲのしっぽ切りで見捨てられるがオチだよ。」

「う、嘘だ!上が私を見捨てるわけがない!私は将来が約束された有望な人材とあの方たちも!」

「そう思うんだったら報告して死んでくりゃいい。上の命令で死ねるんならお前としても本望だろ?」

「・・要求はなんだ」

「もう二度とマリーに関わらないことを条件に今回の件を水に流してやる。どうだ?」

ウェストロは無言でうなずく。

「んじゃそういうことだ。マリー帰るぞ」

「うん、分かった」

そう言ってランドオロスとマリーは丘を降りて行った。

 

帰る途中マリーは聞く

「ねえ良かったの?」

「何がだ?」

「第4の連中の事。許しちゃって」

「別段良くはねえが。まあ全て丸く収まったからよかったじゃねえか」

「そういうもの?」

「そういうもんだ」

そんな会話をしていると日が昇ってきて辺りも段々と明るくなってきた。

「朝日ってこんなにきれいだったんだね。ランドオロス」

だがマリーの問いかけに答えは返ってこない。不審に思い後ろを振り向くと、

ドサッ

「!?ランドオロス!どうしたの!?ねえランドオロス!」

日が昇るとともにランドオロスは地に倒れた。

 

 

・・・

「ランドオロス先輩!本当にすいませんでした!」

「い、いやもういいって。もう解決したことだから」

「でも僕がふがいないせいで先輩にこんなに傷を負わせてしまって・・」

「だからってそれで謝られるのもう37回目だろ?もういいから、な?」

「・・先輩がそう言うなら」

そう言って今まで謝っていた青年は椅子に座る。

ここは言わずもがなグリューネシルトにあるとある病院である。あの後マリーがランドオロスから渡されていた通信機を使ってダーマと連絡を取り、そのダーマが手配したものである。

「それよりマリーが外をうろつけていたのはお前のおかげなんだろ?クリス?」

「いえ、それぐらいしかできませんでしたし。本当は隊長としてウェストロ君を止めるべきだったのに」

「あほぅ、お前の良心でマリーが外うろつけるようにしなきゃ俺がマリーをショウト通りで保護することもできなかったんだ。素直に受け取っとけ」

「は、はあ先輩がそう言うなら」

今この病室にいるのは三人まず入院しているランドオロス。見舞客として来てさっきから黙って二人の会話を聞いているダーマ。そしてさっきからランドオロスに対して謝っているのは本物の(・・・)第4前線部隊隊長であるクリス・ザツィオン。

「そういえばウォーバ先輩もいませんね。いの一番に来そうなのに」

「あああいつなら今は仕事中だよ」

「仕事ですか?」

「ああ」

 

 

「ええそれでは今日はグレズ隊長もいないので私から紹介するわね!」

そういってたくさんの兵士たちが座る中ウォーバは隣に立っている少女に自己紹介をするよう促す。

「は、はい!今日付けでこの第3後方支援部隊に配属されることになりましたマリーです!みなさんよろしくお願いします!」

そう力強く言うが内心兵士たちの強張った顔つきに恐怖していた。

そんな中一人の男性兵士が手を挙げる

「質問です」

「は、はい」

「・・好きな男性のタイプはどんなんですか?」

「・・・へ?」

そんな男の質問を皮切りに他の男たちも質問をしていく。

「好きな食べ物はなんですか?」

「趣味とかってあります?」

「変態といって蔑んでもらってもいいですか?」

「今質問したやつ今から訓練の的役の刑ね♪」

「そ、それだけは止めてくださいウォーバさん!」

そう言って周りに笑いがあふれる。

「えっと、これってどういう」

「驚いた?マリーちゃん。うちは割とあぶれ者たちが集まったりしてね。うちの隊長もできる限りアットホームな雰囲気作るようにしてるから多分前の隊より居心地はいいはずよ?」

そうウォーバが言った直後一人の兵士が手を挙げる。

「ウォーバさん」

「何かしら?」

「ウォーバさんとマリーさんってどういう関係なんですか?」

「聞きたい?実は私とランドオロスとの間に生まれた隠し子だったのよ」

「ち!違います!!それにランドオロスは私の!」

そこまで言いかけてマリーは急に恥ずかしくなったのか頬を赤らめてうつむいた。

 

 

「へえ、第3後方支援にですか」

「何かあったら頼れって言われてたしな。それにあそこの雰囲気ならマリーが無下に扱われることもねえだろ」

(ああ、ドンマイですウォーバ先輩)

「まあ何はともあれこれで無事全部解決したってわけだ!」

「はぁそうですね」

クリスはさっきからずっと押し黙っているダーマの方を見て助けを求めるが知らん顔で外の風景を見ていた。

グリューネシルトの温かい春の昼下がり、彼の笑い声が一帯を包み込み、そして病院の関係者に怒られたのはその数分後の出来事だったとさ。

Fin 第1章「鬼人と魔女の始発点」

 




くう疲!そしてこれで第1章終了です。ラストは落としどころ逃したせいで結構無理やりしめたがここまではただのプロローグです!ここからがこの物語の本番!どうか最後まで生暖かい目で見守ってくださいませ。それでは第2章の前&後書きでまた会いましょう! By作者
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