“HAPPY PARTY TRAIN”って4月5日発売だけど、その場合フラゲって何日になるんざましょ?
今回はついに3話ラストですね。お楽しみいただければ幸いです。
「雨か……」
ライブ当日。朝から雨がしとしとと降っている。天気予報では雷雨になるらしい。
ハァ……ついてないな。
雨となると来る予定だった人も面倒になって来なくなる可能性がある。特に沼津周辺の人たちはバスや車で来るので、交通の便も悪くなっちゃうな。
まぁ、それでも外でやるわけじゃないから雷雨になってもライブに支障はない。
髪を綺麗に梳かし、桜内さんから借りた赤縁メガネを装着。浦の星女学院の制服を着て準備完了。今日は1年生のスカーフを着けていく。
開場は1時半からだけど、会場設営はもっと前にやっておく必要がある。
照明の角度、マイクの音量etc。たぶん力仕事もあるだろうから男手はいるだろうね。男とバレないように頑張らないといけないのが面倒だけど仕方ないか。
「今日はその格好なのね?」
家を出る為玄関まで来ると、母さんに声を掛けられた。
俺は家から浦女の制服を着て出て行くことはあまりしない。ていうか、家族に女装姿を見られたくないのでしたくない。
「ライブだからね。母さんも来てくれる?」
「う〜ん……どうだろう。お客さんが来なかったら行こうかしら」
「そっか。来るなら父さんも引っ張ってきてよ」
「……零が女子高生に鼻の下伸ばすからイヤだ」
なんだその子どもみたいな理由は……。
別に父さんは鼻の下伸ばしてない。単にダンディでかっこいいからモテるだけだ。あ、ちょっとムカつく。
「まぁ、それはないと思うけどね。父さんは母さんにゾッコンだし」
「もう!そんな当たり前のこと言っても信一の給料が増えるだけよ」
我が母親、マジチョロし。
両手をほっぺたに当てて体をクネクネさせて照れてる姿はとてつもなく気持ち悪いけどね。これで給料が増えるならぼろ儲けだよ。とてつもなく気持ち悪いけど。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。雨が強いから気を付けるのよ」
「は〜い」
ちょっと今の母さんの姿は見るに耐えないので、さっさと浦女に向かおう。
バスで合流し、浦女の体育館で3人のクラスメートや友人達と会場の設営を行う。
「一女ちゃん、これ上まで持っていって〜」
「一女ちゃん、この機材3つくらい運べる〜」
「一女ちゃん、飲み物買ってきて〜」
まだ入学式から1ヶ月ちょっとしか経ってないので、1年生なら顔を覚えられてないと思いそのスカーフを着けてきたのは正解だったな。
ちなみに設定は高飛び込みの選手である曜に憧れて入学してきた1年生。
ただ問題は……
「ありがとう。一女ちゃんは働き者だね」
「お疲れ様、お菓子あげるね。ほら、あ〜んして?」
「はい、お姉さんがナデナデしてあげる〜」
年下に対する女子の対応かな。
女子校だけあって女子に対するパーソナルスペースがとんでもなく狭い。というか無いに等しい。あ、俺男子です。お菓子のあ〜んは当たり前。しかも、今は素直な子を装っているので身長は俺のほうが高くてもあまり関係なく頭を撫でてくる。
ぶっちゃけ、同い年以下の連中に頭を撫でられるのは不快でならないよ。
「あ、シンちゃ……じゃなくて一女ちゃん!ちょっと来て?」
「わかりました」
千歌がナデナデされている俺を呼んできた。助かるけど、今シンちゃんって言いそうになったね。言い切ってたら後日改めて海に投げ込んでたところだったよ。
「なに?」
「チャオ!シンイチ」
「あ、鞠莉さん。こんにちは」
呼ばれて来てみれば鞠莉さんがいた。一瞬どうして会場設営の時間にいるのかと思ったが、そういえばこの学校の理事長だったね。
「何か用ですか?」
「イェース!良かったらこのライブ、一緒に見ない?」
「一緒に……というと、隣でってことですか?」
「はい!」
隣でか……。できれば俺としてはお客さんとして来る信夏と一緒に見たかったんだけどなぁ……。でも鞠莉さんは鞠莉さんでウチのお客さんだし。
「妹も一緒になってしまいますが、それでよろしければ」
「シンイチのリトルシスター!?」
「えぇ。とっても可愛いですよ」
「「 うわ……出たよシスコン 」」
なんか千歌と曜が末期患者を見るような視線を向けてくるが、あんなに可愛い妹がいればシスコンにならないほうがおかしい。なにより信夏は信夏でブラコンなんだから仕方ないよね。
とりあえずギロリと2人を睨んで黙らせる。
「2人とも、人が話してる時に割り込んじゃダメって教育されなかったのかな?されなかったなら俺なりのやり方で……教育してあげるよ?」
「あっ、私歌詞のおさらいしてくる〜」
「ヨーソロー!」
少し泣かしてやろうかと思ったら2人とも素早く逃げてしまった。
「まったく……」
「あはは!仲がベリーグッドなんだね?」
「長い付き合いですからね。鞠莉さんにもいるでしょう?」
「うん。いた……かな」
俺の質問に鞠莉さんの顔が暗くなった。何か友人同士でトラブルでもあったのかな?
それとも……Aqoursのことと何か関係でもあるのか。
まぁ、今は些末な問題か。それより鞠莉さんのご機嫌を取らないといけないや。
「今度、暇な時に鞠莉さんの部屋へ遊びにいってもいいですか?」
「Why?どうしたの、藪から棒に?」
「久しぶりに一緒にコーヒーを飲みたいと申していたので。それに鞠莉さんの家で出るお菓子は美味しいですから」
「あ、そっちが狙いでしょう?」
「あはは、バレちゃいましたか。でも……」
「うん?」
ここで鞠莉さんの金糸のように美しく、流水のように柔らかな髪を耳からどかし口を寄せて、
「鞠莉さんとの時間を過ごしたいのは紛れもない本心ですよ」
そう申しておく。
うん、肌が白いから赤くなったのがすぐに分かるよ。そんなに俺の淹れるコーヒーを楽しみにしてもらえてるなら光栄の極みだね。
「それでは、あの3人の様子を見てきます。ライブが始まる前には戻ってきますので、分かりやすいところに居ていただけると助かります」
「お、オーライ……」
ぶっちゃけ、鞠莉さんの金髪は目立つのでどこにいようが見つけられる。
しかし、たくさんのお客さんが入っていた場合に俺の身長だと見えない可能性があるので釘を刺しておいた。これで俺が約束をすっぽかしたと父さんに伝えられたら給料が消えちゃうからね。
配達に関係ないことでもクレームなら24時間受け付け中のみかん農園なんて珍しすぎるでしょ!
「……そういうキザなことを言うなら、せめて男装してほしいわ」
なんか鞠莉さんが言っているが聞こえなかったことにしよう。
分かっていると思うが、俺が男の格好をしても男装とは言わない。
今の格好が当たり前と認識される前に早急に俺がれっきとした男ということを鞠莉さんにご理解いただきたいね。
3人の控え室になっている舞台袖に入ると、既に着替えが終わった後だった。断っておくが、別にラッキースケベとか狙ってないよ?
それにしても……
「お、可愛いじゃん」
衣装がよく似合っている。若干μ'sのスタダに似てるように感じるけど、あえて似せたのかな。
「えへへ〜、そうでしょー」
どこか誇らしげにその場でクルっと回る千歌はとてもアイドルっぽい。ちなみに俺が可愛いと言ったのは衣装のことであり、間違っても千歌のことじゃない。
「うん。馬子にも衣装ってこのことだね」
「あ、ひどい!」
千歌はオレンジ色、もしくはみかん色。曜は水色で桜内さんはピンクっぽい色の衣装で、頭にもそれぞれリボン付きのカチューシャが乗っかっている。
「……なんかさ、ここまで来ちゃったね」
千歌が感慨深そうに呟いた。その言葉が何を指すかは分かる。
「本当にね。千歌のことだからてっきりすぐやめちゃうと思ったけど」
でも、ライブを開くまでになった。ホント……信じられないよ。
「私もスクールアイドルなんてほんの2ヶ月前まで知らなかったのに……」
「私もだよ。人前でやるのは高飛び込みだけかと思ったら体育館でライブだもん」
桜内さんと曜も、今からやることに未だ実感がないみたいだ。
じゃあ実感を持たせてあげようかな。
「ねぇ、写真撮らない?」
スカートのポケットからピンク色のデジカメを取り出し、3人にきく。
「ライブ前の様子、記録したいな」
「終わってからじゃダメなの?」
「ライブ前の写真は今しか撮れないからね」
終わってからももちろん撮る。けど、始まる前と終わった後では表情が違ったりするし、なによりこれからライブが始まるんだというスイッチにもなる。
千歌を中心に曜と桜内さんがくっつき、俺は三歩ほど下がって画面に3人が入るように位置取り。よし、こんなもんかな。
「撮るよー。掛け声どうする?」
「う〜ん……じゃあシンちゃんはAqours!って言って?そしたら私たちが声を出すからそのタイミングでお願い」
「了解」
なんか俺に秘密で掛け声があったらしい。あれ、仲間外れにされた?
「じゃあいくよー。Aqours!」
「「「 サンシャイン!! 」」」
パシャリとシャッター音がなり、薄暗い舞台袖を照らしたフラッシュの中に見えた3人の表情は……緊張しながらも輝こうとする意志に溢れているね。
撮影の後3人の緊張感を解そうと少し駄弁り、ライブ開始5分前に再び俺は体育館に戻って来た。
「……チッ」
そして、その体育館の様子に舌打ちが漏れる。
人が居なさすぎる。
千歌達の友達が数名。渡り廊下の入り口のところには花丸とルビィちゃんが来ていてくれてる。あとは鞠莉さん。そして水色のコートを着て頭にお団子を作ったサングラスの不審者が1匹。
外の出入り口には傘を差した人。顔は見えないが、鞠莉さんがその傘を見て小さく微笑んだ。
あと、体育館の隅にいるのは……ダイヤさんかな。
とりあえず約束通り鞠莉さんの隣に立ち、ステージの幕が上がるのを待つ。
外では天気予報で言っていたように雷の音と激しい雨音が響いていて、その影響で渋滞でも起こっているのか、車のクラクションがたくさん聞こえる。
今の俺の心境では、完全に不協和音でしかない。
しばらくすると幕が上がり、3人が手を繋いだ状態で姿を見せた。
そして、3人もまた体育館の様子を見て悲痛な表情を浮かべる。この瞬間、これが最初で最期のライブになってしまったから。
それでも俯かず、最初に千歌が一歩前に出る。
「私たちは!スクールアイドル……せーの!」
「「「 Aqoursです! 」」」
「私たちは、その輝きと……」
「諦めない気持ちと……」
「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました。目標は……スクールアイドル、“μ's”です!聴いてください」
言い切り、数秒が経過。3人が目を瞑り何度も練習した立ち位置についた。
そして、曲が流れる。
『キラリ!』
千歌のアイドルに対する気持ちを綴った歌詞を、桜内さんが作った曲に乗せて、曜の繕った衣装を着て全身で表現する。
そのステージを見る少ない観客の表情は……とても明るい。でも、その観客に負けないくらい3人の表情は楽しそうだ。
今、千歌が苦手だと言っていたステップをミスった。
桜内さんの動きが少しズレた。
曜が歌詞を噛んだ。
それでも、3人は輝いてるよ。
『温度差なんていつか消しちゃえってね 元気だよ 元気を出していくよ……』
ブツッ
そう表現するしかないような音が体育館のスピーカーから鳴り、次の瞬間、体育館を闇が包んだ。
少し遅れて落雷の音が耳に入る。この停電は、たぶん今の落雷が原因だね。
「……ついてないな」
本当に運がないよ。サビに入る前のタイミングでの停電なんてさ。
「諦めるの?」
「はい?」
隣から鞠莉さんが耳打ちをしてくる。
「シンイチは……諦めるの?」
何を言っているんだ、この人は。そんなの決まっているだろう。
「諦めますよ。もうこんなのはどうしようもありません」
別に誰かが悪かったわけじゃない。何かを失敗したわけでもない。
ただ単に……運が悪かっただけだ。本当にそれだけなんだよ。
どんなに努力しても、どんなに本気でも、それを理不尽に踏み潰すのが運というものだ。
そんなこと……もっと前からわかってたんだけどなぁ。
「シンイチはそれでいいの?」
「ん?」
「あの3人が頑張っているのを1番近くで見ていたのはシンイチじゃないの?そのシンイチが真っ先に諦めるの?」
「……………………………」
何故か鞠莉さんの言葉にイライラする。
「学校はね、ただ勉強する為だけの場所じゃないの。勉強だけの場所なら体育祭も文化祭も必要なんてない。何かを諦めずに一生懸命やり通すことを学ぶことができるのも学校なのよ」
「じゃあ諦めなければ停電は直るの?諦めなければ一瞬でこの体育館を満員にできるの?」
鞠莉さんの……いや、マリーの言葉が俺を苛立たせる。丁寧語は崩れ、マリーが留学する前の口調に戻っているのが自分でもわかる。
「それはできないわ」
「だったら……」
「でもね、まだあの3人は諦めてない」
マリーがゆっくりと手を上げてステージを指差す。
「気持ちが……繋がりそうなんだ」
「知らないことばかり……なにもかもが」
「それでも……期待で…足が軽いよ」
そこにはマイクも切れ、音もない中で3人がアカペラで歌い続ける姿があった。
声が揺れている。きっと涙も溢れそうになっているだろう。
「温度差なんて……いつか…消しちゃえってね……元気だよ……元気を出していくよ……うぅ…」
ついに千歌の口から嗚咽が漏れる。
その嗚咽が聴こえてしまうほど体育館は静まり返っている。
「うぅ……ひっく…えぐ……」
もはや歌ですらなくなった声が俺の耳まで届く。
外の雨音や雷の音なんて気にならない。車のクラクションはうるさいが、それでも千歌の声が俺の耳朶を強く叩き続けていく。
「あんなに頑張っている人にシンイチは諦めろって言えるの?」
「言えるよ」
今諦めなければ、これからがもっと辛くなる。正直信夏以外がどれだけ辛かろうと大して関心はないが、幼馴染が辛い思いをするくらいなら今止めてあげたほうがいいだろう。
だから俺は息を吸い、ライブを終わらせる為に声を上げようとして……
バァンっ!!
体育館の扉が開く音に遮られた。
そちらに視線を向けると、体育館の中を見て小首を傾げている信夏がいた。
とりあえず手を振り、こちらに来て貰う。
「お兄ちゃ……むにゅっ!?」
信夏の小さなお口をつまむ。
危ない危ない。こんなところで“お兄ちゃん”なんて呼ばれたら社会的に終わっちゃうところだったよ。
「お姉ちゃん、でしょ?」
「はーい」
そう返事をして、信夏は俺の腰に抱きつく。
「ねぇお姉ちゃん、ライブ終わっちゃったの?」
俺の胸にしばらく頬ずりをして満足したのか、上目遣いでそう問いかけてくる。そっか、見に来てくれたんだね。
信夏が見に来てくれた。しかし、そのライブは停電で中止を余儀なくされている。
せっかく信夏が楽しみにこの雨の中を来てくれたのに、ライブはできない状態にある。
うん———
そんなことは許されないかな。
頭をフル回転させて、今から電気を復帰させる方法を考える。
そしてマリーの言葉を思い出した。
『学校はね、ただ勉強する為だけの場所じゃないの』
OK、閃いたよ。
「ねぇ、マリー。非常用電源とか予備電源バッテリーとかさ、そういう災害時に電気を繋ぐための道具ってどこにある?」
「外の倉庫にあるはずだけど……」
「鍵は?」
「開いてるわ。非常時に誰でも持ち出せるように」
「ベリーグッド」
警備的にどうかと思うけどそれは助かるよ。
信夏が楽しみに来たのにライブができないなんて、間違いなく最悪の非常事態だ。使っても問題ないね。
俺は赤縁メガネを外し、スカートのポケットにしまう。そしてメガネと入れ違いに出したヘアゴムで降ろしている髪をポニーテールに結び直す。
「信夏、ライブは終わってないよ。そもそもね……」
優しく信夏の頭を撫で、おでこにキス。
「まだ始まってないから。だから、少しだけ待っててくれるかな?」
「うん!」
お返しと言わんばかりに信夏は俺の頰にキスをくれた。
これを貰えたなら俺に頑張らない道理はないね。
名残惜しいが信夏をマリーに預け、俺は大雨の中に飛び出した。
外の倉庫にあるという非常用電源。この存在を今まで忘れていたよ。
確かにマリーの言う通りだった。学校は勉強をする為だけの場所じゃない。
災害時の
だったらあるはずなんだよね。むしろなくちゃいけない。
「今度マリーにお礼しないといけないな」
マジ結婚したいな、マリーと。美人だしお金持ちだしスタイル良いしお金持ちだし。そしてなによりお金持ちだし。
「あった、あれだね」
倉庫を見つけた。何故か既に開いてるけど誰かいるのかな?
中を覗いてみると、そこには俺に背中を向けたでかい日本人形がいた。
「あれ?ダイヤさん?」
「ピギャア!?」
いや、ピギャアじゃなくてね。
「あ、朝比奈さん?どうしましたの?」
そう聞いてくるダイヤさんの手には非常用電源と思わしき物がある。なるほど、この人も俺と同じ考えか。あれだけスクールアイドルを否定していたクセに……ツンデレさんなのかな?
「それ、非常用電源ですか?」
「そうですが……」
「自分が運びます。すみませんがダイヤさんはこのコードを素早く繋げられるように準備しておいてください」
「でもあなた……そんなずぶ濡れで……」
「いいから早く!!信夏が楽しみに待っているんです!」
「……っ!?わかりましたわ。2つ持って来てください」
ダイヤさんは傘を差してタッタと走って体育館に戻っていく。しかも意外と早い。
そんなことよりこれを運ばないとね。……って重いな!?
それでも日々鍛えてるからこんなの平気だけど。あのジムの筋トレを舐めてはいけない。
「よいせっ……と」
みかんのダンボールが入ったバックパックを持ち上げる掛け声でそれを持ち上げ、体育館に向かう。
それにしても……
ブーーー!ビィーーーー!!ブーーー!バァーーーー!!
車のクラクションがうるさい。そんなに渋滞しているのだろうか?
いや、おかしい。ここは小高い丘にある浦の星女学院だ。
バス停から校門までが坂になっているこの学校は、坂の途中から振り向けば海の綺麗な景色が楽しめる。
つまりそれくらい長い坂が必要な高さにある学校だ。しかも晴れてる時ならいざ知らず、今は雷雨。
車のクラクションなんて
いつもならね。
でも今日は“いつも”とは違う。この学校では今日、ライブが行われている。だから特別にその坂をお客さんの車が登ることもあるだろう。
そこで渋滞になってクラクションを鳴らす人もいるだろう。
そこで鳴らしたクラクションなら小高い丘の上に届くこともあるだろう。
「はは……」
口から乾いた笑いが漏れた。結局なにもかもが上手くいってたんだね。
だったら、早くこれを体育館の放送室に届かないと。
「持ってきました!このコードはどこへ?」
「ここです。そっちはこちらへ。あなたは非常用電源を連結させてください」
「わかりました」
さすがは生徒会長。学校の設備なら熟知してるんだね。
ダイヤさんの指示に従い、電気は復活した。
その明かりで気付いたが、体育館には既にたくさんのお客さんが入っている。言うまでもなく満員。
そしてお客さんの全員が、3人のイラストが描かれた、俺と信夏が作ったチラシを手に握っている。
カラー印刷のものもあれば、モノクロ印刷のものもある。クラスメイト達が自腹で印刷してくれたのかな?
「ふぅ……手伝ってくれてありがとうございます。あれだけスクールアイドルを否定してたのに。ダイヤさんは優しいですね?」
「せ、生徒会長なのですから生徒の活動を応援するのは当たり前のことですわ」
そんな照れたように顔を赤くしながら言われてもな。
なんていうんだろう、こういう人のこと。ツンデレとか安っぽい言葉じゃ足りないな。
うん、ピッタシの言葉を思い付いた。
「ダイヤさん、いい女って言われません」
「よく言われますわ。特にあなたの妹さんには毎週のごとく」
「あはは、さすが信夏だ…ね……うん?」
確か
まさか……!?
「あなた、朝比奈信一さんですわね。女装して女子校に侵入とはどういう了見ですの?」
バレてる……!?
え?なんで?どうしてバレてんの?
いや、今はそんなことより優先するべきことがある。
「ダッ……」
ダッシュで逃げようとしたら肩を何かゴツい物に掴まれた。
振り向いてみれば、俺の肩には血管の浮いた逞しい手。そこから上に血管の浮いた逞しい腕。さらに上を見ると血管の浮いた逞しいご尊顔の警備員さんがいらっしゃった。
「さ、来てもらいましょうか」
「……ダイヤさん、このライブが終わったら信夏にこう伝えてもらえますか?」
「なんですの?」
ふぅ、と息を吐き、ゆっくりと目を開く。そして可能な限りのイケボとサムズアップをダイヤさんに向けて言い放つ———
「I'll be bu……」
「連れて行ってください」
「わかりました」
前に俺は腕を引かれて警備員室に連れて行かれました。
結果として、3人のライブは大成功。
ダイヤさんにこの成功は町の人の善意と今までのスクールアイドルの努力のおかげということを諭されたが、逆に3人はそれでもなお自分達は輝きたいと宣言したらしい。
終わり良ければ全て良し。スクールアイドル部も設立され、これからが本格的な活動になる。しかし、その来るべき活動に3人は胸を躍らせたいた。
ちなみに俺、朝比奈信一は警備員さんにめっちゃ怒られたが、マリーの計らいによりなんとか俺の学校や警察には連絡がいかないで済んだ。
驚くべきことに、これ以降浦の星女学院に出入りする場合は浦の星女学院の制服を着用することを言い渡されるのはまた別のお話。
どうでしたか?
信一、バレましたね(笑) そういう部分でもこの話は一区切りついたお話にしたかったのでダイヤさんに確保をお願いしました。
それでは、次回からやっと自分の推しメンでもある花丸ちゃんのお話……と見せかけて、ライブ終わりの打ち上げの話です。
明日から始まる新学期や新生活が始まる新入生や新入社員の方々、頑張っていきましょう!