あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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はい、今回からアニメ第5話の内容に入ります。言うまでもなく、ヨハネ回ですね


第14話 親方!戸棚っぽいところから女の子が!

久しぶりに夢を見た。

中学1年生の時、学校の職業体験で行った場所の夢。

 

場所はみかん農園。そこでその日偶然創立記念日で学校が休みだったみかん農園の息子さんは、脚立に乗りながらなんでもない風に私に言った。

 

『自分に不満がない奴なんていないよ』

 

目は収穫するみかんに向いていて、脚立を支える私を見ていない。

なんとなく私の身の上話を聞いて、それについて感想を言っただけなんだろうけど……でも、その言葉がとっても嬉しくて……。

 

私はその人の横顔に見惚れてた。

 

元々綺麗な顔立ちが、さらに眩しく見えた。何故か野戦服を着てるけどそれが気にならないくらい。

 

『ねぇ……』

 

私は急に恥ずかしくなって、なんて声をかけたのか……。今はもう思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん……」

 

「今日も上がってない」

 

千歌が唸り、曜が現状を口にする。

 

場所は浦の星学院スクールアイドル部の部室。

そこでノートパソコンとAqoursのメンバーは睨めっこをしていた。とりあえずその様子をデジカメで撮ってみる。

 

うん、これほどつまらない写真は見たことないね。

 

「昨日が4856位で今日が4768位」

 

「まぁ、落ちてはいないよね〜」

 

5人になったことで予選への申し込みを済ませたAqoursなんだけど、どうにもランキングが伸び悩んでる。

当然っちゃ当然なんだけどね。

 

申し込みしてからライブをやったわけじゃないし。今のところAqoursの持ち札は千歌、曜、梨子が披露した『ダイスキだったらダイジョウブ』だけ。あとは花丸とルビィちゃんが加入したくらいか。

 

もちろんその2つが劇的にランキングを上げる効果なんてあるわけがなく……。まぁ、新加入の2人の評判はかなり良いみたいだけどさ。

 

そんな評判の良い2人のうちの片割れ、花丸なんだけど……

 

「お……おぉ………」

 

感動したようにノートパソコンへにじり寄ってる。なにしてんの?

 

「こ、これがパソコン……」

 

「そこ!?」

 

「もしかして……これが知識の海に繋がってるというインターネット!」

 

「そ、そうね。知識の海かどうかはともかくとして」

 

ノートパソコンごときで感動してる花丸に梨子が若干引き気味だ。

 

しかし、花丸の目にはパソコンにか映っていない。めっちゃキラキラしてるやんけ……。

 

「信一くん!これでマルのうぉーくまんにも音楽が入るずら?」

 

「専用のソフトを入れて、パソコンの中にCDを読み込ませればね」

 

「パソコンがCDを読むの!?未来ずら〜!」

 

未だサンプル曲しか入っていない花丸のWALKMAN。虚しすぎる。

まぁ、それでも喜んで聴いてるけど。

 

「あの!触ってもいいですか?」

 

「もちろん」

 

千歌のお許しをもらい、花丸の目はさらに輝く。それはもう、天の川みたいにキラッキラに輝いている。

 

Enterキーを押そうか、spaceキーを押そうか、パソコンのキーボードの上を彷徨う花丸の指は……

 

「ずら!」

 

電源ボタンを押した。

 

ブツッと画面を暗くしてめでたく強制終了。ノートパソコンはお役目をまっとうし、リストラされたようだ。

 

「な、何を押したの、いきなり?」

 

花丸の影になって見えなかった梨子は画面を暗くしたパソコンを見て慌ててる。

 

「え?あ……えへ…。一個だけ光るボタンがあるなぁ〜と思って……」

 

瞬間、梨子と曜が風を切ってパソコンに飛びつく。

 

皆さんご存知パソコンは、強制終了すると保存していないデータは容赦なく消える。

このパソコンには曜が考えた衣装のデータや梨子の作った曲が入っているので、慌てるのは当たり前だ。

 

とりあえず俺は不安そうにしてる花丸に近寄る。

 

「し、信一くん……マル、何かいけないことしちゃったのかな?」

 

「いけないことしちゃったよ、このアホ丸!」

 

悪気がなくてもやっちまったものは落とし前をつけましょう。

ということで俺は花丸の柔らかいほっぺたを痛くならない程度に引っ張り回す。うん、超楽しい。

 

 

 

 

練習の為、俺たちは屋上に移動した。したはいいんだけど……

 

「おぉ!弘法大師空海の情報がこんなに!!」

 

花丸は未だにパソコンではしゃいでいた。練習しましょうぜ。じゃないと帰りたくなる。

 

「ねぇ、ルビィちゃん。花丸っていつもあんな感じ?」

 

「そうですね。この前沼津行った時なんか、トイレのハンドドライヤーに興奮して頭から浴びてました」

 

「なんとまぁ……」

 

知らない人が見たら完全にやばい人だね。SNS栄えしそうな奇行だよ。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「信一さん……って呼んでもいいですか?」

 

なんでいきなり?とも思ったけど、よくよく考えれば黒澤家には信夏が配達に行ってるんだったね。ごっちゃにならないようにかな?

 

「ご自由に」

 

まぁそれに、これを機に距離を縮めるのもアリだね。俺もルビィちゃんと仲良くなれば、ルビィちゃん経由で信夏に俺がスクールアイドル部でどのくらい力になってるか客観的な評価が行くだろうし。

 

「そういえばさ」

 

「なんですか?」

 

「ルビィちゃんは男性恐怖症って聞いてたんだけど、俺は大丈夫なの?ほら……こんな見た目でも一応俺も男だし」

 

「なんだか信一さんは男の人って感じがしないので大丈夫です!」

 

とんでもなく可愛らしい満面の笑みで言われてしまった……。

 

いや、怖がられないならそれに越したことはないんだけど……男として見られてないと真正面から言われるとね?ちょっと複雑。

 

ハァ……もう少し筋肉つければ男っぽくなるのかな?

 

「それに……花丸ちゃんが信一さんのこと好きな理由もなんとなくわかりましたし」

 

「花丸が俺のこと好きな理由?」

 

「ピギィッ!?声に出てましたか……?」

 

「うん、バッチリと」

 

恐る恐るといったように聞いてくるルビィちゃんに、俺はサムズアップ付きで頷く。

 

それにルビィちゃんは顔を青くして俺と花丸を交互に見ている。ちなみに件の花丸は未だにパソコンでテンションMAXだった。

 

「まぁ、四月にそれは言われてるしね」

 

「何をですか?」

 

「だから、花丸が俺のこと好きだってこと。本人から言われたよ」

 

「そ、そうなんですか!?あの……なんて答えたんですか?」

 

あの時は確か……

 

「俺も花丸と同じ気持ちだよって」

 

うん、たぶんそんな感じだったね。俺も俺のこと大好きだし。

それを伝えたらルビィちゃんの顔が真っ赤になった。なにゆえ?

 

「どしたの?熱中症?」

 

「いえ……その……じゃあ信一さんと花丸ちゃんはお付き合いしてるんですか?」

 

お付き合いか……。まぁ、確かに毎週配達が終わったら読書に付き合ってるし、俺もその時間が嫌いじゃない。

 

「うん。お付き合いしてるよ」

 

そう答えると、さっきにも増してルビィちゃんの顔が赤くなった。

大丈夫かな?さすがに熱中症で倒れられたら困るんだけど。

 

「なんか……意外です」

 

「そう?ちなみに花丸って外で俺のことどんな風に言ってる?」

 

「気になりますか?」

 

「そりゃあね」

 

客商売にとって、評判は生命線とも言える重大なものだ。例え世界一美味しいみかんを作っていても、評判次第で簡単に潰れるのが農園だからね。

 

なんかルビィちゃんの意味ありげな笑みが気になるけど。

 

「花丸ちゃんはよく……信一さんの悪口を言ってます」

 

「ほう……」

 

悪口の内容にも寄るけどあとでほっぺたを100回くらい引っ張り回してやろう。

 

「でも、その時の花丸ちゃんはすっごく楽しそうなんです。なんていうか……信一さんのことを自慢するみたいでした」

 

「というと?」

 

「誇らしげっていうか、信一さんとお友達なのが本当に嬉しいみたいで」

 

それは俺を言葉のサンドバッグにしてストレス解消してるだけじゃないのかな?最近さらに辛辣になってきたし。

いつかマジで泣かされそう。

 

と、言ってもね。あれはあれで花丸なりの信頼の証かもしれないな。

 

初めて会った時なんか俺の顔伺ってビクビクしてたし。どうしてそんな相手の隣で毎週読書しようと思ったのかは謎だけど。

 

まぁ、なんだかんだ言ってもこんな俺に親しくしてくれてるわけだし、ほっぺたを引っ張り回す回数は70回くらいで勘弁してやろう。

 

そう考えて、花丸に視線を向ける。……あれ?

 

「花丸がいないや」

 

「あ、ホントだ」

 

ルビィちゃんとの話に夢中で気付かなかったが、いつの間にかパソコンの前から消えていた。

 

なんかファイブマーメイドとか言ってじゃれあってる2年生組は行方とか知らないだろうし……仕方ないか。

 

「ちょっと花丸探してくる。あいつらのじゃれあいが終わったら伝えといてもらっていいかな?」

 

「はい、いってらっしゃい。……ごゆっくり」

 

「いや、ゆっくりするつもりはないけど」

 

そもそも花丸がパソコンに夢中で練習が滞ってるってのに、さらにどっか行っちゃうとか……。さすがに自由行動が過ぎるんじゃないかな。

 

とりあえず見つけたらほっぺたを引っ張り回そう。お仕置きができてなおかつ俺が楽しい。パーフェクト!!

 

 

 

 

 

 

ということで俺のストレス解消グッズ……もとい花丸を探して校舎に入ると、すぐに見つかった。

何故か浦の星女学院の廊下に大量設置されている戸棚みたいなのに話しかけている。

 

お寺の子だし、何か見えちゃいけないものが見えてるのかな?

 

とりあえず校舎内ということで、ミックスボイスを使って呼びかける。

 

「花丸」

 

「あ、信い……じゃなくて一女さん。どうしたの?」

 

「いきなりいなくなったから探しに来たんだよ。まだ練習始まってないのに勝手にどっか行っちゃダメでしょ?」

 

腰に手を当てて、俺怒ってますというムードを出してやると花丸はハッとした表情を浮かべた後にしゅんとなる。

そんな叱られた子犬みたいな反応をしないでほしい。もっと叱りたくなっちゃうじゃん。

 

「ごめんなさい……」

 

「まぁいいけど。それで、なんかあったの?」

 

俺が問いかけると、花丸が話しかけていた戸棚みたいなのがガタンと音を立てて揺れた。え、マジでなんかいるの?怖いんだけど。

 

視線で花丸に開けていいかきくと、コクリと頷いた。

どうやらいいみたいなので開ける。

 

「……………………………」

 

「……………………………」

 

中のブツを見て、俺は無言で扉を閉める。疲れてるのかな?

すると、今度は内側から勢いよくバァンと開けられた。

 

俺と中のブツはまたもや視線を交わす。ふむ……

 

「親方!中から女の子が!」

 

「誰が親方ずら!」

 

花丸から拳骨を食らった。痛い。

 

いや……だって普通思わないでしょ!戸棚みたいなのに女の子が入っていて、しかもその子が知り合いだなんて!!

 

戸棚みたいなのの中にいた女の子———津島善子ちゃんは慌てて出てきて、俺から隠れるように花丸の後ろへ回る。

 

「私と視線が合った!?もしかして見えているの……?」

 

「……………………」

 

そして、なにやら意味不明なことをのたまった。あ、この子にとってはそれがデフォか。

 

「えっと……こんにちは。久しぶりだね、善子ちゃん」

 

「え……?」

 

花丸の後ろで善子ちゃんはきょとんと首を傾げている。まぁ、それが普通の反応か。最後に会ったのが3年半くらい前だし、なにより今俺女装してるし。

 

なので、俺はヘアゴムをスカートのポケットから取り出して降ろしていた髪をポニーテールに結び直す。

これでわかるかな?

 

「あなた……“イーストサン”の……」

 

「うん。思い出してくれた?」

 

善子ちゃんは心底驚いた顔をしている。

それから何度も瞬きをして……深呼吸をして……もう一度息を吸って……

 

「不審者でえぇぇぇぇ………もがっ!?」

 

「ちょっと待てえぇぇぇぇッ!?」

 

大声でえらいことを叫ぼうとした寸前、俺はなんとか善子ちゃんの口を塞ぐことに成功した。危ねぇ……。

 

「ちょ、ずら丸!なんで男がここにいるのよ!?しかも女装して!!」

 

「女装については触れないであげてほしいずら」

 

うん、触れないであげてほしいずら。じゃないと泣いちゃうぞ☆

 

「あなた……なんでここにいるの?」

 

「まぁ、色々諸事情があってね……。とりあえずこの学院の理事長公認だから不審者ではないよ。それだけは絶対だから信じてくださいお願します」

 

理事長が公認していても生徒会長が許してくれないんです。

 

とりあえず俺の言ってることが本当なのか、と花丸に無言で問いかけている善子ちゃん。花丸が頷いたことでなんとか信じてもらえた。

 

「ずら丸、あんたこの人と知り合いなの?」

 

「一応お友達ずら。不本意ながら」

 

「うん、俺も花丸とはお友達だよ。不本意ながら」

 

ゲシッ!と文学少女にすねを蹴られる。理不尽な……。

 

「それより善子ちゃんはどうしたの?高校デビュー失敗して初日から不登校かましてたって花丸から聞いてたけど」

 

「…………………」

 

なんか傷ついた表情が浮かべ始めたので、2発目を蹴ろうとしている花丸に目を向ける。おっと危ない。

 

「たまたま学校の近くを通りかかったから寄ってみたらしいずら」

 

「君にとって学校はコンビニか何かなのかな?」

 

てか、それが本当ならこの子は制服を私服にしてることになるんだけど……。

まぁほぼ毎日女装している俺が言えたことじゃないか。おや、目から海水が……。

 

「だって……あんなこと言ったんだもん。普通に登校できるわけないじゃない」

 

「あぁ……うん……」

 

善子ちゃんが初日にどんな自己紹介をしたのか、似ていない花丸のモノマネを思い出して妙に納得してしまう。

なんというか……やらかしたって言えばいいのかな。

 

「でも、みんなそんな事気にしてないずら。むしろ心配してたよ」

 

「ホント……?」

 

「うん」

 

「本当ね?天界堕天条例に誓って、嘘じゃないわよね?」

 

「ずら」

 

花丸が頷くと、善子ちゃんは感動したように空を仰ぐ。校舎内だから天井だけど。

 

「よし!まだいける!まだやり直せる!!」

 

いきなり拳を握り、でかい独り言を言ってる。さすがに怯えた花丸が俺の後ろに隠れたけど……すぐに前へ差し出す。

ちょっとこの子はハイレベル過ぎるので。

 

「ずら丸!」

 

そして、善子ちゃんは何かを決意したかのように花丸へ詰め寄った。

 

「な、なんずらぁ〜」

 

「ヨハネたってのお願いがあるの」

 

その内容を聞く限り、どうやら善子ちゃんは明日から登校するようだ。

 

頑張れ〜と俺は他人事のように思いながらその場を離れる。この善子ちゃんの頼みが後々Aqoursにも関わってくるなんて、その時の俺は知るよしもなかった。





はい、いかがでしたか?

ここでちょっとお知らせがあります。
7月13日は善子ちゃんの誕生日ですね。なのですが、善子ちゃんのHappybirthday storyを延期させていただきます。

理由としては話が思ったように進まず、善子ちゃんが加入していないからという間抜けなものですが、どうかご容赦ください。

下手すると千歌ちゃんの誕生日が先に来ちゃうかも……
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