あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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誕生日が来ても……友達からおめでとうの言葉が無いのは辛いですね。まぁ、自分もおめでとうって言わないのでお互い様ですが。

善子ちゃん編、中盤。相変わらずオリ主は人の心がないです。


第15話 みかん嫌いにはイチゴ・オレを

「…………………………」

 

なんだこの状況……。

 

学校が終わり、もはやもう1つの制服になりつつある浦女の制服に着替えてスクールアイドル部の部室に入ると、善子ちゃんがロウソクやら変な幾何学模様の入ったテーブルクロスの置いてある机の下で膝を抱えていた。

 

スカートでその座り方はいかがかと思いながら中を覗こうとするが……ちくしょう。ガード固いな。

 

そんな俺にAqoursの5人は大変冷ややかな目を向けている。

 

「シンくんサイテー」

 

「昔からよく言うでしょ?万華鏡とスカートは覗くためにあるって」

 

「聞いたことないよ!!」

 

「勉強不足だね」

 

主に男心の。

 

「んでんで、なんで善子ちゃんがここにいるの?」

 

「それは———」

 

俺の質問にルビィちゃんが答えてくれる。

 

どうやら善子ちゃんは今日久しぶりに登校したらしい。そこで久しぶりに来た善子ちゃんと仲良くなる為にクラスメイトが色々質問してきてくれたらしい。

そこまではいい。俺にはどうでもいいことだけど、一般的には喜ばしいことだ。たぶん…きっと……メイビー………。

 

それで、趣味をきかれたみたいなんだけど……そこで特にないと答えると陰キャラのレッテルを貼られると思った善子ちゃんは咄嗟に『占い』と言ったんだと。

そしたらクラスメイトの1人が占ってほしいと言ってきた。まぁ、当然の流れだね。

そこで断るのも変なので善子ちゃんが占ってあげようとしたんだけど……何やら幾何学模様の入ったテーブルクロス取り出すわ、変なローブ羽織るわ、ロウソクに火を点けるわで……うん、簡単に言っちゃえば『ヤラかした』わけだ。

 

「なるほどねぇ……。あれ?でもそういうのを始めたら花丸が止めるって約束じゃなかったっけ?」

 

「まさかあんな物持ってきてるとは思わなかったずら」

 

「左様でございますか」

 

つまり花丸はその光景に唖然としてたってことか。善子ちゃんには悪いけど、至極常識的な反応だと思う。

 

「ハァ……」

 

ため息が漏れる。この子は数年前の職業体験の日から何も変わってない。学習せぇや。

 

「率直に言ってさ、君はバカなの?」

 

「うっ……」

 

俺の言葉に肩をピクリと震わせ、それからノソノソと机の下から出てきた。

 

「本当はわかってる。自分が堕天使じゃないって。そもそもそんなものいないんだし……」

 

「だったらなんであんな物持って来てたの?」

 

梨子が理解に苦しんだ様子で善子ちゃんに聞く。これも至極真っ当な意見だ。

 

「それは…まぁ……ヨハネのアイデンティティって言うか……」

 

バッと右手を左下に伸ばし、左手をおでこに添える謎のポーズを取る。

 

「あれがないと、私が私でいられないっていういうか……はっ!?」

 

「なんだか心が複雑な状態にあるというのは伝わったわ」

 

まぁ、言ってることも謎だしね。ある意味色々謎の多い子だ。

英語で言うとミステリアス。なんとなく良いように聞こえるね。

 

「えっとさ、1つ俺からきいてもいいかな?」

 

「……なによ」

 

「君は一体どうなりたいの?」

 

とりあえずこれからきいておこう。ぶっちゃけこの子がどうなろうと関係無いし興味も無いし、ついでに言っちゃえばどうでもいいけど、一応たった1日だけだけど一緒に働いた相手だしねぇ。ほっとくのはちょっぴり気が引ける。

 

「リア充になりたい!!」

 

「身の程をわきまえろ、ヨハ子」

 

「ヨハ子じゃなくて善子……でもなくてヨハネ!!」

 

このやり取りも懐かしい。ここまで個性が強いと数年前でも忘れないね、この子と過ごした時間は。

 

「こう言っちゃアレだけどさ、女子校のリア充ってどんな感じなの?共学なら恋人ができればリア充、みたいな風潮があるけど」

 

「う〜ん……放課後友達とカフェでお茶したり、休日に友達と出かけて可愛い雑貨屋さんに行ったり……とか?」

 

「とりあえず友達がいないと女子校ではリア充になれないわけか。———善子ちゃん」

 

俺は真剣な眼差しで善子ちゃんの目をまっすぐ見る。何か神の一手的なものを思い付いたのかと、期待の眼差しが返ってきた。

 

確かにこれは神の一手だね。コレをすれば、善子ちゃんの悩みはあっさりと解決する。自分の頭のキレに内心拍手喝采だよ。

 

 

 

 

「———リア充になるのは諦めよう」

 

「……………………………………」

 

あ、目が死んだ。

 

「信一さん、人でなし……」

 

周りを見ると、千歌以外のメンバーが信じられないバカ野郎を見るような冷たい目で俺を見ている。

 

今日は冷たい眼差しがよく向けられる日だね。夏も近くなってきたし、ちょうどいいのかな?

 

そんな風に考えて今まで優しかったルビィちゃんにすら見放された俺は心の補強工事に勤しむことにした。

 

「コレだ!」

 

ただいま工事中の俺の耳に、さっきから黙っていた千歌のそんな呟きが入ってきた。そちらを見ると、どうやらノートパソコンで動画を見ているようだ。

 

「千歌、何見てるの?」

 

「うん?善子ちゃんの動画」

 

クルッとノートパソコンを回し、俺に向けられた画面の中には……ゴスロリで頭に輪っかが乗ってる善子ちゃんがいた。 相変わらず謎のポーズを取っている。

 

『またヨハネと堕天しましょ?』

 

「やめてぇ!!」

 

バタンと突っ込む勢いで乱暴にノートパソコンを閉じるリアル善子ちゃん。

 

「なに今の?」

 

「一応……占いみたいです」

 

「どんだけ黒歴史を大量生産してんだよ……」

 

なんか本気で掘り起こせばザクとは言わないまでも、ドムくらいは生産したんじゃないの?

 

そういえば信夏はドムが好きだったなぁ。あのずんぐりとしたデザインが可愛いらしい。そう語る信夏の笑顔は俺のハートにジェットストリームアタックだった。

 

「信一くん、そんなにニヨニヨ笑って……何考えてるずら?」

 

「やっぱ信夏って可愛いよね」

 

「話変わりすぎじゃない!?」

 

花丸の質問に答えたら曜からツッコミを入れられた。どうやら1年生と2年生の仲は良好なようだ。

 

「で、なんの話だっけ?」

 

「少しは感心持とう!?ほら、善子ちゃん泣きそうな顔になってるじゃん!」

 

「よくわからないけど泣かないでほしいな。泣いてる人見ると笑いが止まらなくなっちゃう」

 

「本当に最低だね!?」

 

「まったく……曜と会話すると話がどんどん明後日の方向に飛んじゃうよ」

 

「こっちのセリフだよ!!」」

 

ツッコミの嵐が吹き荒れる中、俺は閉じられたパソコンが流していた動画を思い出す。

ゴスロリのよくわからかい格好をした善子ちゃんが占いをしていて、それを見た千歌が『コレだ!』と言ったんだったね。どゆこと?

 

「千歌ちゃん、『コレだ!』ってどういうこと?」

 

梨子も意味が分からず俺と同じことを考えていたらしい。

 

「人気を上げる方法!」

 

声高に叫んで、千歌は善子ちゃんの手を握った。

 

「津島善子ちゃん……いや、堕天使ヨハネちゃん。スクールアイドル、やりませんか?」

 

そんな千歌を見つめる善子ちゃん。とても困った様子で、

 

「……なに?」

 

と言ってこちらを見てくる。知らんよ。

 

 

 

 

 

 

日付が変わり、翌日。今日はどうやら浦女じゃなくて『十千万』集合らしい。なので着替える手間もなく、男子制服のままだ。

 

というわけで『十千万』の裏口からお邪魔して千歌の部屋へ。いつも通り襖をノックする。

 

「千歌、入るよ」

 

「あ、ちょっと待って!開けちゃダメ!」

 

「ん?了解」

 

着替え中かな?なんかドタバタとうるさいし、曜とか梨子の声も聞こえる。

とりあえず温泉旅館らしい板張りの床に座り、読者しながら待つ。

 

「お、信一じゃん。久し振り」

 

すると廊下に姐御こと、美渡さんがしいたけと共に姿を現した。

 

「やぁ、姐御。あとしいたけも」

 

本を閉じて挨拶を返す。もちろんしいたけへの挨拶も忘れない。

 

「まだ千歌のスクールアイドルに付き合ってるの?悪いね、バカな妹で」

 

「千歌がバカなのは昔からでしょ。それに、案外楽しいよ。姐御もやってみたら?アイドル」

 

「もうそんな年じゃないよ」

 

「それもそっか」

 

「なんだと〜」

 

自分で言ったクセに俺がそれを肯定したら頭をグリグリしてきた。なんという理不尽。

あとしいたけ、さり気なく俺の足をど突くのやめて欲しい。

 

一通りグリグリして満足したのか、すぐに解放してくれた。

 

それから、少し大人っぽく笑いかけてくる。

 

「———ありがとね、信一」

 

「いててて……なにが?」

 

「あの子のライブの時。成功したのは信一のおかげだって、千歌大喜びだったよ」

 

「俺が何もしなくても成功してたよ。ただ、やってもやらなくても同じことをやっただけ」

 

「…………………」

 

うわぁ腹立つ。なにその『何も言わなくたって私はわかってるよ』みたいな生暖かい目。

 

「頑張ったのは俺じゃなくて、あの3人。あとは姐御でしょ?」

 

「なんでアタシなんだよ」

 

「だって会社の人、大勢連れてきたんでしょ?ちゃんと知ってるんだよ」

 

主に信夏から聞いた。なんか信夏の中で異様に姐御の株が上がってる気がする。

あの時は控えめに言って、燃え尽きてしまいそうなほど嫉妬に身を焦がしたよ。

 

「妹の頼みくらい聞いてやるのが普通だろ」

 

「それには激しく同意するよ」

 

逆に妹以外の頼みとか、馬が唱える念仏くらい聞いてやる価値なんてない。

 

そんな考えが頭に浮かぶと、姐御が心底心外そうに俺を見てる。なんぞ?

 

「さすがにアタシは信一ほど妹優先ってわけじゃないからね?」

 

「………?………………!?———っ!?」

 

「驚き過ぎでしょ!?」

 

姐御はなんだかんだ言って千歌のこと大好きなのだとばかり思ってた。

いや、たぶん大好きなんだろう。少なくとも嫌ってはないはず。ケンカ多いけど、『頼みくらい聞いてやる』って言ってるし。

 

これはアレだね。年を取ると素直になれない人類の習性だね。

 

「ねぇ、姐御」

 

「なによ」

 

「年取ると大変だ……イタタタタタタッ!?」

 

姐御の両拳が俺は頭をグリグリしながら万力の如く潰しにかかってきた。マジ痛い。

 

「信一、年上として教えておくわ。20歳を超えた女性に年齢に関する発言はするな」

 

「い、イエス・マイロード」

 

「わかればよろしい」

 

パッと離された俺は頭を抱えて激痛に耐える。そしたら、しいたけが寄ってきた。慰めてくれるのかな?

 

「ワンッ!」

 

ゲシッと前足で俺を蹴り、姐御と共に去っていくしいたけ。なんでそんなに俺のこと嫌ってるの?体臭がみかんだから?

 

「信一くん、入っていいずら」

 

痛みが引いてきたタイミングで花丸から入室の許可が出たので、入る。なんか2年生組が顔を赤くして俺を見ないけど……まぁ、それによ気になることがある。

 

Aqours+善子ちゃんの服装だ。善子ちゃんは昨日パソコンで見た動画の服装なんだけど、なんとAqoursのメンバーも似たようなゴスロリ姿になっていた。

 

「なにこれ?」

 

「千歌さんの提案で、Aqoursは堕天使系スクールアイドルをやってみることになったずら」

 

そういう花丸の服装もゴスロリ。いや、可愛いっちゃ可愛いけどさ……スカート短くない?俺が座り込んだら見えちゃうよ?あえて何がとは言わないけど。

 

「なんか迷走してない?」

 

「あ、信一くんもそう思うのね。良かった」

 

「よく似合ってるよ、梨子」

 

「ありがとう。でもできればスカートじゃなくて目を見て言ってほしいんだけど?」

 

「ナンノコトカヨクワカラナイナ」

 

だって梨子の目、ゴキブリを見るような目なんだもん。生物だから許すけどさ。

 

「んで、提案者の千歌。なんでこの格好に?」

 

この状況の元凶である千歌を見ると、よくぞ聞いてくれた!!と言いたげに目を輝かせた。

 

「私調べたんだけど、堕天使系アイドルっていなかったんだ」

 

たりめぇだろうが。

 

「だからインパクトあると思って!」

 

「なるほど。インパクト狙いか……」

 

確かにインパクトはあると思う。AqoursのMVは今のところ“ダイスキだったらダイジョウブ”だけだし、この格好で同じ曲を歌ったら歌ったで印象も変わるだろう。

 

「でもいいの?」

 

「これでいいんだよ!ステージ上で堕天使の魅力を思いっきり振りまくの!」

 

「堕天使の……魅力……クククッ」

 

おい、ヨハ子。乗せられるな。『なんかそれいいかも』みたいに不気味に笑うな。

 

「だからヨハネちゃん!協力して?」

 

「わかったわ……この堕天使ヨハネに任せなさい!リトルデーモン達!!」

 

「やったー!」

 

乗せられちゃったよ……ヨハネ様。リトルデーモンに。

 

 

 

 

 

 

 

そして記録係の俺が撮影した動画がさっそくネットに上げられた翌日。Aqours+善子ちゃんはダイヤさんに呼び出された。

 

そこでは件の動画を浦女の理事長(マリー)生徒会長(ダイヤさん)が見ている。Aqours+善子ちゃんは机を挟んだ反対側で並んで立っていた。

 

『ヨハネ様のリトルデーモン4号、黒澤ルビィ。1番小さい悪魔……可愛がってね!』

 

「ワオ!Pretty bomber head!!」

 

理事長、大興奮である。対してリトルデーモン4号のお姉さんはプルプルと震えている。

それを尻目に、俺はコーヒーの入ったマグカップをマリーの前に置く。

 

「マリー、コーヒー淹れたよ」

 

「サンキュー、シンイチ。あなたも一緒に飲みましょう?」

 

「もちろん」

 

そう言われると思って、ちゃんと自分の分も淹れてある。というか、この部屋にいる人数分、紅茶とコーヒーを半々にして淹れてきた。

 

「あ、ダイヤさんは紅茶とコーヒーどっちがいいですか?」

 

「ど・う・し・て!あなたはナチュラルにここにいますの!?」

 

「……男女差別か」

 

「ここは女子校ですわ!!」

 

未だ現代社会に蔓延る悪しき慣習を嘆くが、どうやらダイヤさんには共感してもらえないらしい。本当に口惜しいばかりだ。

 

「まぁまぁ、ダイヤ。ほら、ちゃんとシンイチは制服着てるんだし」

 

「そういう問題ではありません!!」

 

「男子禁制という性差別……まさにジェンダー」」

 

「女子校に男性が入れないのは一般常識です!!」

 

マリーと俺の猛攻にツッコミ疲れたのか、ダイヤさんが肩で息をしている。

たぶんダイヤさんは紅茶かな、と思い置いておいたそれを飲んで一息。結局飲むんか〜い。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です」

 

ダイヤさんの必死さにドン引きしながらもなんとか千歌が声をかけてる。

 

「そもそも!」

 

落ち着いたダイヤさんはバンっと机を叩いて、本題に戻してきた。

どうやらかなりご立腹のようだね。

 

「わたくしがルビィにスクールアイドル活動を許可したのは、節度を持って自分の意思でやりたいと言ったからです。こんな破廉恥な格好をさせて……」

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん」

 

「うぐっ……とにかく!キャラが立ってないとか、個性がないと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことをするのはいただけませんわ」

 

一応俺も撮影してネットにアップした側なので、マグカップを置いて千歌達の方に立ってお説教を食らっておく。

それにしても……さてはダイヤさん、シスコンだな?ルビィちゃんが申し訳なさそうな顔で謝ったら少し罪悪感が沸いたっぽいし。

 

「でも、一応順位は上がったし……」

 

「そんなもの一瞬に決まっているでしょう。これを見てみなさいな」

 

そう言ってダイヤさんは動画を見ていたパソコンを回転させながら机を滑らしてこちらに渡して来る。

 

「危な!?」

 

「避けるな!!」

 

かなりの勢いで飛んできたので、受け止めずに避けたら当然ながらパソコンは机から落ちた。学校の備品だったらしく、ダイヤさんは少し慌ててる。

 

だが、ご心配には及ばないね。俺は避けると同時に机に収まっていたパイプ椅子を引いてそこに落とすように仕向けた。パソコンは寸分違わずパイプ椅子のスポンジに落ち、傷1つない。

 

それを改めて机の上に置き、慌てていたダイヤさんにドヤ顔したら……どうやらダイヤさんは俺を無視することに決めたらしい。

 

「その程度で上がった順位、すぐに落ちるに決まってますわ」

 

ダイヤさんの言う通り、ランキングはさっき見たよりも下がってるよ。あ、また下がった。

 

「本気で目指すならどうするべきか、改めて考えるのですね」

 

吐き捨てるように言って、ダイヤさんはプイっとそっぽを向いてしまう。

困ったようにマリーに目を向けると、軽く笑ってお説教は終わりだと手振りで教えてくれた。

 

俺たちはそれに従い、おとなしく出て行く。その時、この案の元になった善子ちゃんの表情は……Aqoursのメンバーよりいっそう暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

特に落ち込んでるというわけではないが、今日は練習する気分にもなれず、なんとなくAqoursと善子ちゃんは海沿いに腰を下ろしている。

 

「ハァ……」

 

それを見てるのも気が滅入るので、俺は立ち上がって近くのコンビニに向かった。

 

千歌、曜、花丸はみかん系のジュースで、梨子はミルクティー。ルビィちゃんはメロンソーダでいいか。善子ちゃんは……

 

「確かみかんが嫌いだったし、これでいいかな」

 

6人分の飲み物を抱えてレジに向かい、俺は最近設置された100円で飲める本格アイスコーヒーの容器をもらう。レジの近くにあって、自分で淹れるアレだ。結構美味しいからお気に入り。

 

「ありがとうございました〜」

 

コンビニを出る際の名物である、まったく心の篭ってないありがとうございましたをいただいて彼女達の元に向かう。

すると、その方向から善子ちゃんが歩いてきた。表情は生徒会室を出た時と同様に暗い。

 

「もう帰るの?」

 

「あっ……信一さん」

 

目の前に来て、ようやく俺に気付いたようだね。

 

「信一さんも、ありがとね。堕天使に付き合ってくれて。楽しかったよ」

 

「お気になさらず。俺も久しぶりに善子ちゃんと話せたのは楽しかったし」

 

「ふふ……嬉しいなぁ」

「社交辞令だよ」

 

「うん、わかってる」

 

そう言って善子ちゃんは笑うけど……なんか違うな。素の表情を隠すような、そんなお面みたいな笑顔だ。

 

「スクールアイドル、無理矢理付き合わせちゃったのはごめんね。最終的に生徒会長さんに怒られちゃったしさ……」

 

「ううん。それも私が元凶だし、気にしないで」

 

善子ちゃんは……善い子だね。本当に善い子だ。善い子のお手本みたいな、今時いないけど、いたらいたで目立たない子。

素の善子ちゃんはそんな感じだ。

 

「善子ちゃんはさ、スクールアイドルやる気ない?堕天使とか抜きにして」

 

「さっきずら丸達にも言ったけど、やめとく。迷惑かけそうだし」

 

「そっか。それは残念」

 

「それも社交辞令?」

 

「いや、わりと本心」

 

善子ちゃんと過ごす時間は楽しい。今も昔も、それは変わらない。だからスクールアイドルをやってくれれば、面白くなりそうだったんだけどな。残念。

 

まぁ、俺が残念でも善子ちゃんがやらないって言うなら無理強いはしない。面白くなりそうでも、やっぱり善子ちゃんは俺にとってどうでもいい人だから。

 

「これ、渡しとくね」

 

コンビニの袋を漁って取り出したのは紙パックのイチゴ・オレ。

それを渡された善子ちゃんは目をパチクリさせて俺を見てる。

 

「確かイチゴは好きだったよね?」

 

「……うん、覚えててくれたんだ」

 

「善子ちゃんのことだからね」

 

あんなに濃いキャラクターはたぶん一生忘れないだろう。自分を堕天使ヨハネとか言っちゃう痛い子だけど、それでもすごく楽しそうだったからね。

 

でも、今の善子ちゃんは三歩歩いたら忘れちゃいそうだ。

 

何かが吹っ切れたというよりも、何かを諦めたといったような表情で笑う奴なんて覚えておくほうが難しい。

 

もう用は済んだので黙っていると、善子ちゃんも察したらしく俺の横を通り過ぎていく。

 

「じゃあね、信一さん」

 

「うん、バイバイ」

 

小さくなっていく善子ちゃん。やがて、道を曲がって見えなくなった。

 

それを見届けて俺は自分のスマホを開く。グーグルのアイコンをタッチして『堕天使ヨハネ』と打ち込むと、動画サイトへのリンクが表示された。その中の1つをタッチ。

 

『リアルこそが正義!堕天使ヨハネ、降臨!』

 

相変わらず謎のポーズを決めて画面に映し出された善子ちゃん。その表情は、それこそ堕天使ヨハネを演じているリアル(現実)を楽しんでいるようだった。

 

さっきの諦めたような笑顔と、この画面に映る善子ちゃんの表情。

 

どちらが魅力的かなんて考えるまでもない。

 

だからかな……不本意ながら、千歌と同じ感想が生まれた。きっとステージに見せたらキラキラするって。

 

「ハァ……」

 

まぁ、結構善子ちゃんといると楽しいしね。もう一回くらい誘ってみようかな。作戦は考えたし。

 

でもその作戦の内容、微妙にストーカーチックなんだよなぁ。

 

「今夜、寝られるといいんだけど」

 

そう軽く呟いて、俺はすっかり温くなった飲み物をAqoursのメンバーに届ける為、そちらに歩き出す。








はい、いかがでしたか?何気に美渡姉初登場でした。

善子ちゃんってなんだかんだ言って、やっぱり善い子だろうなぁと思って書いちゃいました。

次の投稿は千歌ちゃんの誕生日になるのかな?お楽しみに。
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