狂喜乱舞のテンションで書きました。みなさん、最近狂喜乱舞してますか?
1日遅れてしまいました。花丸推しとしては切腹ものの所業ですが、どうか許してくださいお願いします。
今回は番外編ということで、本編開始の1ヶ月前です。
ちょっと長いですが、飽きずに読み切ってもらえれば幸いです。
文学少女は朴念仁の夢を見るか?
高校1年生で居られる時間も1ヶ月を切った3月。
イーストサンの忙しい時期も過ぎたが、それでも毎週月曜日の配達に終わりはこない。
そんな暖かくなり始め、野戦服の上に着ていたミリタリーコートも必要なくなった春の訪れ。
お寺の縁側で隣に座る女の子が不意に本から顔を上げ、口を開いた。
「そういえば信一くん」
「うん?」
「4日の午後、空いてる?」
「4日?何曜日だっけ?」
「金曜日ずら」
スマホのカレンダーを開き、予定表を確認する。
3月は学校の授業も昼までなので、午後となれば高校生は友達と遊びに行ったりバイトをしたりと各々が自分達の時間に当てている。
かくいう俺も、朝の配達が終われば基本的に仕事もないので趣味のゲームをしたり、本を読み耽ったり、信夏や幼馴染と遊んだりと楽しく過ごしていた。
「うん、特に何もないね」
信夏との約束は予定に入れてなくても忘れることは絶対にないし、予定表には特に何も記されていない。
「じゃあ、マルと一緒に沼津行かない?」
「別にいいけど……どうしたのいきなり?」
花丸が俺と出掛けようなんて、もうちょっとで5年の付き合いになるけど一度も言われたことがない。
何か企んでるのかな。
「なんとなく。マルも来年から高校生になって忙しくなるから今のうちに信一くんと遊びに行きたいなぁ〜って」
「ほとんどの高校は部活が強制じゃないから、わりと中学よりも楽だったりするよ?」
「でもお勉強頑張らないといけないから」
「ふぅん。花丸は本をよく読んでるから心配しなくても大丈夫だと思うんだけどなぁ」
「それ、偏見ずら。本を読んでるからってお勉強ができるってわけじゃないよ。現に信一くんも本はよく読むけど追試だったんでしょ?」
「一応クリアしたけどね」
ちなみに学年で追試を食らったのは俺だけだった。
親友とその友達に教えてもらい、なんとかクリアしたけどギリギリだったよ。
そういえばクラスメイトに『なんで本読んでるのに馬鹿なの?』と、どストレートにきかれたっけ……。
まぁ、今はその話は置いておこう。心が抉れる。
「まぁいいや。じゃあ、3月4日の金曜日。どこで待ち合わせする?」
「
「OK」
こうして俺は花丸と出掛けることになった。
珍しくウキウキと楽しそうな表情をしてる花丸の様子から、たぶんなんか高いものでもねだられるのだろうかと勘繰ってしまう。
まぁ、その日くらいならいいか。
そして当日。
2時ジャストに待ち合わせ場所へ到着した俺を、先に着いてバス停前に駐車してある移動販売のクレープ屋さんの近くにいた花丸が睨みつけてくる。
時間合ってるよね?腕時計を見るけど、しっかりと短針は2に、長身は12を指している。
とりあえずこういう時のテンプレをやっておこう。
「待った?」
「ううん、オラも今来たところ」
一応乗ってはくれるんだね。笑顔で言ってくれたら嬉しかったんだけどなぁ。
「なんか不機嫌じゃない?」
「マル、30分くらい待ってたずら」
「待ち合わせって2時だよね?」
もしかして俺が勘違いしてたかな。それとも腕時計がズレてるとか……。
「2時だよ。2時だけど……普通10分前とかに来ない?」
「普通は指定された時間ジャストに着くようにするでしょ。配達の時に早く来過ぎちゃいけないし」
「むぅ……」
なんかほっぺた膨らましてむくれちゃった。正直俺はまったく悪くないと思うんだけど、花丸を30分待たせちゃったのも事実だしなぁ。
よし!特別に花丸にはあの店を教えてあげよう。
「まぁ、ごめんね?お詫びに良いところ連れてってあげるから許してくれない?」
「良いところ?」
「うん。きっと花丸も気に入ると思うよ」
「あ……」
丸顔を膨らましてもはやフグみたいになってる花丸の手を取り、歩き出す。エスコートは男の役目だからね。
手を取っただけで花丸は紅くなってるけど、今さらこんなことで照れるような仲でもないでしょ。
沼津は内浦よりも都会なので、わりと小さな雑居ビルが多い。
その間に入り手を繋いだまま歩くこと数分。人気もなくなり、薄暗くなってきたことから花丸が不安そうに見上げてくる。
「信一くん……マルに変なことしないよね?」
「変なこと?」
「えっと……」
「こういう場所でそういうこと言うってことは、案外官能小説も読んだりするの?」
「っ…!?よ、読まないずら!」
「へぇ〜。そんなに顔真っ赤になって言っても説得力ないけどね」
たぶん読まないって言うのは本当だろうね。でも日本文学は官能描写も結構あるって聞くし、そこからそういう知識が身に付いちゃったのかな。
この話題でもう少し花丸をイジるのも楽しそうだけど、残念ながら目的地に着いてしまった。
「ほら、この店だよ」
未だに頑張って言い訳をしている姿は大変俺を楽しませてくれるけど、一応ここには待たせたお詫びで連れて来たからね。
あんまり笑っているとまたむくれちゃうのでこのくらいにしておこう。
雑居ビルの一階にある無骨な扉を開ける。すると、柑橘系の爽やかなさっぱりとした香りが店から流れ出し、俺たちを包み込んだ。
「いらっしゃいませ」
白いシャツに黒のスラックス、腰にも黒いエプロンを巻いたモノクロのダンディーなおっさんが読んでいた本を閉じて、落ち着いた低い声で接客の常套句を述べる。
「あぁ、信一くんか。お好きな席へどうぞ」
「は〜い」
カウンター席もあるが、今日は花丸も一緒ということでテーブル席に着く。
花丸は座ってからもソワソワと落ち着かない様子で店の中を見回しているけど、店の一角にある物を見つけてそこをガン見now。
「ここはみかんを使ったお菓子が自慢の喫茶店だよ」
「あの大きな本棚は?」
「オーナーさんが本好きでね。最初は日本文学しかなかったんだけど、頼んだら外国文学も置いてくれたんだよ」
「信一くんが頼んでくる本は入手するのが難しい。スティーブン・キングの『IT』なんて全然売ってないんだから驚いたよ」
お冷を持って来てくれたオーナーさんが、本棚に置かれている本の経緯をうんざりしながら話してくれる。それでも揃えてくれるんだから人が良いとしか言えない。
「君は……信一くんの彼女かい?」
「うえっ!?ち、違います!」
「だろうね。君みたいな可愛い子が人間としても男としても魅力の欠片がまったくない信一くんを好きになるわけがないか」
お客に対してその発言はどうなんだろう……。
「オーナーさん?花丸はただの友達で……痛い」
なんか机の下で花丸に脛を蹴られた。抗議の視線を向けると、睨み返してくる。すいませんでした。
そんな俺たちの様子を見てオーナーさんがニヤリと笑う。このおっさん、俺が蹴られたのがそんなに面白いのかな。
今度はオーナーさんに抗議の視線を向けると、無視して花丸に優しく話しかけた。無視のほうが傷つくんですけど……。
「君は本が好きなのかい?随分と本棚を見ていたようだけど」
「は、はい。あの本棚見てもいいですか?」
「あぁいいよ。良かったら料理を作っている間読んでいるといい」
「いいんですか!」
「ま、もちろん注文してからだけどね」
オーナーさんはすぐに花丸も本好きだと気付いたらしく、リピーターになってもらうべく宣伝をしている。
さすがだ。
「信一くんはいつも通りでいいのかな?」
「はい、お願いします。花丸は何にする?」
「えっと……みんな美味しそうで迷っちゃうずら〜。特にこのみかんタルトとみかんマーマレードシフォンケーキが……」
「ちなみに俺はみかんタルトを注文したよ。ここのみかんタルトは文句なしでおすすめできるからね」
「じゃ、じゃあマルも同じので……」
「かしこまりました」
洗練された動きで頭を下げ、オーナーさんはカウンター裏の厨房に向かう。
それを確認した花丸は待ちきれないと言わんばかりに本棚へと一直線だ。いつもの鈍臭さが嘘みたいな動きだね。
キラキラと擬音が付きそうなほど輝いてる目は本棚の日本文学の欄に並ぶ本に向けられている。
俺もなんか新作の確認でもしようかな。
「お、『ブラック・コーヒー』あるじゃん」
アガサ・クリスティーの『ブラック・コーヒー』。しかもクリスティー文庫のほうだ。ハヤカワ文庫の小説版はよく見るけど、こっちは珍しいな。
隣を見ると、花丸も何か見つけたらしくピョンピョン跳ねて喜びを表現してる。こんなに動く奴だったっけ?
「おまたせしました、2人とも」
10分ほどすると、オーナーさんがみかんタルトと何故かみかんマーマレードシフォンケーキの乗ったお皿を俺たちの席に置いてくれた。
その後にコーヒーも2つ。
「あれ?花丸が頼んだのもみかんタルトじゃなかった?」
「う、うん。そのはずずら……」
「信一くんがみかんタルトを頼んだからね。花丸さん、みかんマーマレードシフォンケーキのほうも食べたそうだったから、良かったら食べさせ合うといいよ」
あぁ、なるほどね。わざわざ同じものを頼むより、別のものを注文すれば花丸がどっちも食べれたわけか。
お客さんの注文を勝手に変更したのはちょっとアレだけど、この機転の良さもオーナーさんの魅力かもしれない。
「良かったね、花丸」
「あの……ありがとうございます」
「いいや。僕としても色々な料理を楽しんでもらいたいからね。それに……」
オーナーさんはチラリと俺を見て、
「……花丸さんはもっと信一くんと仲良くなりたいみたいだったから」
そう続けた。
それを聞いた花丸は顔をトマトの如く真っ赤に染める。
「別に俺と花丸は仲良しですよ?そうじゃなきゃこの店に連れて来ませんし」
「ハァ……そういうことじゃない」
なんだその呆れた表情は。
「信一くんにはもう少し人の心を理解してほしいずら……」
なんだそのバカを見る目は。
「まぁ、こんな人間として色々終わってるニブチンには何を言っても無駄なのかな?それより早く食べるといい。あんまりケーキやタルトが温まると味が落ちてしまうよ」
もしかしてオーナーさんは俺のことが大嫌いなのかもしれないな。
まぁ、それに関してはまた今度考えるとして、いただこうかな。
「「 いただきます 」」
ちょっと早いおやつだけど、ここのみかんタルトは満腹時でも完食できる自信がある。それほど美味しい。
まず口から鼻腔に透き通るように流れるみかんの爽やかでスッキリとした風味。そこなら薄く塩がまぶされたタルトの部分が、みかんの甘さを引き立てている。
このような料理を人は絶品と呼ぶんだろうね。
「やっぱり美味しいなぁ。花丸はどう?」
フォークでシフォンケーキを一口サイズに切り、刺して口に運ぶ。
モグモグと咀嚼の数が増すごとに、どんどん花丸の頰が緩んでいくのがわかるよ。
「美味しいずらぁ〜」
もう今が幸せの絶頂と言わんばかりのとびきりだらしない笑顔が零れている。
本当に美味しそうに食べるなぁ。
「あ、コーヒーの豆変えたんだけどわかるかい?信一くんは苦味が強い方が好きだったよね?」
「はい。前はキリマンジャロでしたよね?これは……トラジャですか?」
「正解」
自分でもコーヒーを淹れる俺は結構豆にもこだわっている。
特に好きなのが偶然にもオーナーさんが淹れてくれたこのトラジャ。あんまり知られてない豆だけど、日本でメジャーなコーヒー豆は酸味が強い部類のものが多いので仕方ないかもね。
「花丸も飲んでごらん。甘いケーキによく合うよ」
「信一くんは砂糖とか入れないの?」
「俺はブラックのほうが好きだからね」
「そっか……」
コクリと納得したように頷くと、花丸はジーとカップに入ってるコーヒーをガン見。そして、意を決したように一口飲む。
「うっ、苦いずら……」
舌を出して顔をしかめてる。別に俺に合わせることないのに。
「砂糖入れたら?」
「そうするずら」
スティックシュガーをザァーと一本丸々入れて、もう一口。またも舌を出して顔をしかめてる。なんだこの面白い生き物。
「俺のもいる?」
「うん」
もう一本丸々入れて、また一口。少し顔をしかめたが、なんとか飲めるくらいにはなったみたいだ。
「よくこんなに苦いの飲めるね?」
「好みの問題かな。ほら、みかんタルトも一口あげるよ」
花丸はこっちも食べたかったみたいだからね。フォークで花丸の小さい口にも入るように切り、差し出す。
オーナーさんがニヤニヤとこちらを見ているのがとても気になるが、何も言ってこないので無視しておこう。
「はい、あ〜ん」
「うえっ!?えっと……えぇ……」
「どうしたの?こっちも食べたかったんでしょ?」
「そうだけど……恥ずかしいずらぁ……」
「別に恥ずかしいことは何もしてないと思うんだけど?」
「それにかんせ……すになっちゃうし」
「うん?何になっちゃうって?」
別に今は口に何も入ってないだろうに何やらもごもごしてる。
「間接キスになっちゃうって言ったずら!」
なんだそんなことか。まったく……花丸は俺がそんなことを気にするような狭量な男だと思ってるのかな?心外極まりない。
「別に俺は気にしないから大丈夫だよ?」
「マルが気にするの!」
“好意も懇意も人それぞれ”とは誰が言ったのか。俺の懇意は花丸に受け入れてもらえないみたいだ。
「じゃあいらない?」
「いる」
いるんかい……。
「だったらは〜や〜く。腕疲れてきたから」
「うん……」
顔が林檎のままみかんタルトを食べる姿は少しシュールだね。てか笑える。
「あ、こっちも美味しいずら……」
「でしょ?」
「うん!はい、お返しにこっちもどうぞ」
「ありがとう」
と言っても俺はここのメニュー全部制覇してるから味は知ってるんだよね。
それにしても、やっぱり食べ物の力は偉大だな。さっきまで照れ照れモードだった花丸がみかんタルト一口でリラックスしてる。
今度俺もみかんタルト作ってみよう。上手くできたらみかん大好きな幼馴染連中に食べさせてあげようかな。きっと喜んでくれるよね。
「信一くん、女の子とのデート中に別の女の子を考えるのは如何なものかな?」
「なんで俺の考えてることが分かるんですか。ていうか、どうしてオーナーさんは花丸にサムズアップしてるんですか?」
オーナーさんの視線の先にいる花丸もサムズアップを返してる。俺の知らないところでおっさんと女子中学生の間に友情が生まれたみたいだ。
ここから恋愛に発展していけば1冊本が書けそうなものだけどなぁ。
「あ、あとデートじゃないですか……痛い」
花丸は俺の脛に何か恨みでもあるのかな?
オーナーさんは憐れみの視線を何故か花丸に向けてるし。普通俺でしょ。もう少し優しくしてくださいよ。
「花丸さん、こんな妹以外の人間にはまったくもって感情移入しない人間性の腐り落ちたシスコンだけど……頑張るんだよ?」
「ず、ずらぁ〜……」
まぁ、何か2人の間で通じ合うものがあったみたいだしいっか。
できれば俺を仲間外れにせず会話に入れてほしいけど、蹴られるのも嫌だしなぁ。
それから暇になったらしいオーナーさんもテーブル席に着き、花丸と日本文学の話に花を咲かせている。
日本文学の話には入れない俺は、2人の様子をコーヒーを啜りながら眺める。
店に入った時よりも幾分か緊張が解けたらしい花丸は、楽しそうにオーナーさんの話に相槌を打ち、時には自分なりの作品の解釈を述べたりと有意義な時間を過ごせてる様子だ。
連れて来て正解だったみたいだね。
口調も敬語だけど、いつも通りのものになってる。
1時間ほど談笑していると店の扉が開き、女子高生3人組がご来店。
部活帰りなのかな。スポーツバッグを肩から提げてる。
さすがに新しいお客さんが来てまで談笑に興じることはできないオーナーさんは席を立ち、3人組に頭を下げる。
「おっと……それでは僕も労働者に戻らなくてはならないみたいだ」
「あの!オーナーさんのお話、とっても新鮮で面白かったずら!」
「僕もだよ。やっぱり同じ作品でも読む人によって解釈が変わってくるからね。良かったらまた来るといい」
「はい。今度はあの本棚の本も読みたいです」
「あぁ、その時もまたお話しようか。……ついでに信一くんのこともね」
最後の方は耳打ちしたのでよく聞き取れなかったが、それを聞いた花丸はまた林檎になったので何か弱味でも握ったのだろうか。
もしそうなら是非俺にも教えていただきたい。花丸の弱味を握っていればもう脛を蹴られることがなくなる。
「信一くん……僕が花丸さんに耳打ちしたことは間違いなく君が考えていることではないよ」
「オーナーさんは読心術でもできるんですか?」
「観察をしてその人の考えていることを読み取るのは客商売に必要なスキルだと心得てるよ」
それができるのはあんただけだよ。
そうは思ったが口には出さないことにした。どうせ読まれただろうし。
俺は2人分の会計を済まして店を出る。また来た道を上機嫌な花丸と並んで戻っていく。
「どうだった、あの店?」
「もう最高ずら!オーナーさんはダンディーな見かけに反してお茶目だし、お料理は美味しいし。星3つの花丸満点だよ」
「それは良かった」
「でも、どうしてあんなにお客さんが来なかったのかな?平日って言っても、もっとお客さんが入ると思うんだけど……」
あぁ、当然の疑問だね。もちろんそれには理由がある。
「あの雑居ビルの上の階、なんだったか見た?」
「見てないずら」
「二階がゲイバー。三階がキャバクラ。四階が闇金だよ」
「えぇ……」
みかん好きの花丸が絶賛するあの店がどうして繁盛しないのか。簡単に言えば立地だ。
しかし、あのビルで働く人は全員オーナーさんに頭が上がらないらしい。あのおっさん……何者なんだろう。
「あれ?でも、それだとどうして信一くんはあんな隠れた名店知ってたの?」
「あそこで使ってるみかん、
もちろんオーナーさんの腕があってのことだとは思うけど。
「ま、これで遅れたことはお許しいただけますかな?お姫様」
「仕方ないから許してあげるずら」
ふふん、とおどけたようにふんぞり返る花丸にクスリと笑いが零れる。
どうやら機嫌も直ったみたいだね。まぁ、それは見てれば分かるけどさ。
「じゃあ、次はどこ行こうか?本屋とか?」
「う〜ん……本屋さん行きたいけど、今日風呂敷持って来てないずら」
「風呂敷なんて何に使うの?」
「買った本を包む為ずら。本屋さんに行くと欲しかった本とか気になる本とかどうしても買っちゃうんだよね〜」
「風呂敷が必要なほど?」
「ずら」
ニコニコと話してるけど、さすがに冗談だろう。
風呂敷一杯の本を背負って本屋から出てくる人間なんて生まれてこの方見たことがない。
こういうこと考えちゃ失礼だと思うけど、友達が少ない花丸は冗談を言うのも慣れてないのかもしれないな。
まぁ乗ってあげよう。
「じゃあ今日は買う本を厳選する練習でもしてみたら?せっかくここまで来たし、本屋行きたいんだ。いいかな?」
「いいずらよ」
決まりだね。本屋なら目的の物もあるだろうし、何より俺たちが1番楽しめる場所だし。
「うぅ……あの本も欲しかったずらぁ……」
「いやいや、一回の買い物で小説を5冊も買えば十分でしょ」
本屋に入って2時間。俺は目的の物も手に入り、花丸は手持ちの鞄になんとか入りきるだけの本を厳選し終わった。
今日くらいは買ってあげても良いと思ったけど、さっきも奢ってもらってそれは悪いと断られてしまった。
さっきのはお詫びだから気にすることないのになぁ。
親しき仲にも礼儀を忘れない花丸には感心したけど、中学生の少ないお小遣いで無理をする必要はないと思う。
「信一くんはなんの小説買ったずら?」
「ラノベだよ。新刊が出てたのは知ってたんだけど買いに来れなかったから」
「やっぱりお仕事が忙しいの?」
「いや、単にここまで来るのが面倒だっただけ。そもそも俺はインドア派だからね」
「でも信一くん、何かスポーツやってるって言ってたずら。確か……格闘技だったよね?」
「格闘技はインドアじゃない?」
「あ、言われてみればそうずら」
ロードワークとかやる人にとっては微妙なところだけどね。
俺は趣味の範疇で一生懸命やってるので、ロードワークやウェイトトレーニングはやっていない。ていうか、ロードワークとウェイトトレーニングが合体したようなのを2日に1回やってるのであまり必要ない。
「花丸はその小説、大体どのくらいで読み終わるの?」
「この厚さのが5冊だから……3日もあれば読み終わっちゃうずら」
「1日1冊ですらないんだね……」
「オラも午前中で授業終わりだから時間は結構あるずら」
「だとしても、学校にいる時間以外を全て読書に費やさないと3日で5冊は無理だと思うんだけどなぁ」
「読んでると物語に引き込まれちゃうずら。だからつい夜更かししちゃうんだ〜」
てへへ、と照れるように笑いながら買った本を大事そうに撫でる花丸。ここまでいくと活字中毒なんじゃないかと疑っちゃうよ。
「信一くんは本を読んでたら朝になっちゃった〜とかいう体験はないずら?」
「ないね。徹夜で本を読むことはあるけど、のめり込み過ぎていつの間にか朝になってたっていうことは一度もないよ。それがクセになったら仕事に支障が出るしね」
「お仕事に関しては意外と真面目だよね……」
当たり前だろう。
「お金をもらっているのに不真面目なんてお客さんに失礼極まりないでしょ。給料もらってるから分かるけど、俺の給料は花丸のお爺さんやさっきのオーナーさんが俺たち家族が育てたみかんに対して払ってくれる対価なんだよ?対価を払ってくれる上にいつもありがとうって言ってくれるんだから、俺だってみかんを渡す以上に誠実な態度で仕事に臨むのは普通だと思うけどな」
「ほえ〜……」
俺の仕事に対する認識を聞いて花丸はポカ〜ンとアホっぽく口を開けいる。
感心してるのか呆けてるのかもよく分からないな。
「ちょっと見直したずら」
「見直したって……見直されるほど俺ってダメなところある?」
『10代のガキが生意気だ』と思われるかもしれないけど、仕事に関してはかなり完璧な自信がある。
「うん。今まで信一くんはお金の為に真面目を装ってるのかと思ってたずら」
「いや、装ってるよ」
「ずら……?」
何をアホっぽい顔晒しくさってるんだろうか?
「さっき言ったのはあくまでも俺の仕事に対する
「えっと……なんでそれをマルに話しちゃうずら?」
「花丸はお客さんだからね。さっきも言ったけど誠実な態度で接してるだけだよ?」
「……1つ聞いてもいいずら?」
「なに?」
「信一くんってマルのことどう思ってるの?」
「友達だよ。でも、それ以前に大切なお客さんだと思ってる」
「……………………………………」
俺が花丸に対しての気持ちを述べると、とても悲しそうに顔を俯かせた。
「じゃあ、信一くんが今日マルと一緒に出掛けてくれたのもお客さんへのサービスなの?」
「そうだよ」
「お客さんの頼みだから待ち合わせもマルが指定した時間ちょうどに来たの?」
「うん」
なのにそれで不機嫌になった理由がわからなかった。指定された時間ジャストに着いたはずなのに、それで怒られるのはどう考えても理不尽でしかない。
「……………………………」
会話が途切れたと思ったら、花丸が俯いたままプルプルと肩を震わせている。手もぎゅっと握りしめ、爪が掌に食い込んでるのが分かる。
「やっぱり……信一く…に期……たマルが……ず……」
俯いた花丸の顔からポタポタと水滴が落ちている。
「なに?」
「やっぱり信一くんに期待したマルがバカだったずら!!」
珍しく大きな声を上げた花丸は……泣いている。
俺を一度睨んだから、踵を返して走り去ってしまった。
しかし、俺は目を見開いたまま花丸の後ろ姿を眺めることしかできないでいる。周囲にいた人達は好奇の視線で残された俺を見て、それから興味を失ったようにどこかへ歩き去ってしまう。
10秒だろうか?1分だろうか?それとも10分だろうか?
どのくらい経ったかは分からないが、俺は消えてしまった花丸の後を追いかけた。
「マル……大馬鹿ずら……」
駅前のベンチで呟く。
3月4日はマルの誕生日。だからと言って、それに何か特別な気持ちが湧くわけでもない。
中学の図書室で出会った親友に1週間くらい前、
『そういえばそろそろマルちゃんの誕生日だね』
と言われてそういえばそうだったと思い出す程度にしか価値を見出してなかった。
幼稚園を卒園して以降、友達らしい友達がいなかったマルにとって、久しぶりに家族以外に言われた自分の誕生日に関する言葉はとても嬉しかった。
だからって……調子に乗ったのが悪かったずら。
本当は他にもオラの誕生日を知っている人がいるのかもしれない。
そう思って、親友より少しだけ早く出会ったみかん農園の男の子も自分の誕生日を知っていると期待して……勇気を出して人生初のデートに誘ってみた。
結果はまさかのOK。
事がマルの思い通りに進み過ぎて……勝手に舞い上がっていた。
だから、デートに遅れた信一くんに怒ってしまった。
いや、それだと語弊があるずら。マルがデートだと
それで勝手にへそ曲げて、でもそれを解決しようと信一くんがマルの為に行動してくれたことにまた喜んで……。
でも……結局信一くんはちっともデートなんて思ってなかった。
ただ嫌々
それを知って……本当は勝手に舞い上がってたマルが悪いのに……信一くんを怒鳴っちゃった。
「マル……大馬鹿ずら……」
最初は自分の誕生日をおめでとうと言ってもらいたかっただけなのに……。
本当は一緒にお出かけしてくれるだけで嬉しかったのに……。
勝手に舞い上がって……一緒に食べるとカップルになれるって噂のクレープ屋さんも聞いて一緒に行ってみたいって思って……そこで待ってて……
「マル……大馬鹿ずら……」
さっきから同じ言葉しか出てこない。
ただ自己嫌悪が強くなるだけなのに……それを言って自分を嫌いになって……結局それで楽になろうとする自分がもっと嫌いになる。
自分で自分を嫌いになっても……信一くんに嫌われたかもしれないって疑惑が心を締め付けてくる。
「信一くん……ごめんなさい……」
嫌われたくない。
優しくなくても……人の心がなくても……マルは信一くんが……信一くんのことが……----------------だから……
「だから……嫌いにならないで……」
「ならないよ」
一瞬幻聴かと思った。普通はそう思うはず。
だって、こんなに理不尽なことを言う嫌な子のことをわざわざ追いかけてくる物好きなんていない。
だから今のは都合の良い幻聴。それを確認する為に顔を上げる。
「俺が花丸のこと嫌いになるわけないでしょ?」
そこには……マルと同じくらいの長さまで伸ばした髪を乱雑に結んだ男の娘が立っていた。
「俺が花丸を嫌いになるわけないでしょ?」
あちこち探し回って、ベンチで顔を伏せている花丸を見つけた。
顔なんて見なくても分かる。もうちょっとで5年の付き合いになる女の子だ。見間違えようがないね。
「信一……くん?」
「まったく……いきなりいなくならないでよね」
腰に手を当てて、怒ってますのポーズを取る。
「どうして?」
「どうしてって?」
「どうして追いかけてきたの?マル、信一くんにひどいこと言ったのに……」
花丸は俺の目を見ようとしない。また俯いてしまった。
「あれがひどいなら、今まで俺に言ってきた罵詈雑言はなんて表現するんだろうね?」
「だって……」
「俺はさ……どうして花丸が怒ったのかわからない。花丸が俺に何を期待してたのか知らない。でもね、花丸が俺に怒ってたのはわかる」
傷ついた表情をしていた。あのタイミングでその表情をしたということは俺が原因だろう。だったら謝るべきだよね。
なのに、どこをどう考えれば俺が花丸を嫌いになるなんて考えに辿り着くんだろう?不思議だ。
「だからさ、ごめ……」
「ごめんなさい!」
俺が謝ろうとした瞬間、花丸が一歩早く頭を下げた。自分が目を見開いているのがわかる。
「マル…勝手に舞い上がってたずら……。信一くんがマルの誕生日覚えていて、それで今日は一緒にお出かけしてくれたって勝手に思い込んでたずら」
ポタポタとまた涙を零しながらも、しっかりとした口調で花丸は言葉を紡ぐ。
「なのに……信一くんはマルのことなんて考えてなくて……嫌々付き合ってくれてたのがなんだか悔しくて……だから……」
ふむ、随分と舐められたものだね。
「そりゃ!」
「イタっ!?」
下げられてる頭にチョップを一撃入れる。それに驚いた花丸はやっと俺の顔を見てくれた。
「俺さ、嫌々花丸に付き合ってたわけじゃないよ?」
「え……?」
「結構楽しかったよ。あの店に信夏以外と行ったのは初めてだし、花丸がオーナーさんと話してる時の楽しそうな表情を見れたのは新鮮だった。本屋で本を厳選してる時に相談してきてくれたのは嬉しかったし、大したアドバイスができなかったのは申し訳ないと思った」
そもそも嫌なら俺は断る。間違えてはいけない。
俺の給料の一部になっているのは花丸のお金ではなく、花丸のお爺さんのお金だ。花丸に対して仕事関連の話で付き合いを考えたことは……あんまりない。
「今日は短い時間だけど楽しかったよ。また一緒に遊びに行きたいと思った。……ここまで言わせてもまだ俺が嫌々一緒に出かけたって言う?」
「……本当に楽しかったずら?」
「もちろん」
ここは笑顔で答えておく。胡散臭い詐欺師のような笑顔と幼馴染にはいわれるけど、これが俺の笑顔ですから。
「だからさ、そんな楽しい時間をありがとう。誕生日おめでとう」
ここで俺は本屋で買ってラッピングされた
俺が本屋に行きたかったのはこれを買いたかったからだ。ラノベはついでに過ぎない。
「これ……」
「誕生日プレゼントだよ」
花丸が不思議そうにそれを眺めている。別に本屋で買った物だから、変ではないと思うけど。
「開けてもいいかな?」
「どうぞ」
ラッピングをバリバリと破り、中身を見て花丸は目を輝かせた。どうでもいいけど、もう少し綺麗に開けられないかな?
「わぁ……綺麗ずらぁ〜」
中身は栞だ。ステンドグラスみたいにパーツがはまってるいる、みかんが描かれた栞。
金属製で丈夫なので、失くさない限りはかなり長い間使えるだろう。
「気に入ってもらえた?」
「うん!ずっと大事に使うずら!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
良かった。これで喜ばれなかったらここまで追いかけて来たのに格好がつかなかったからね。
泣いてる女の子を追いかけて誕生日プレゼントを渡したが微妙な顔をされる。
それめっちゃダサいやんけ……。
「ねぇ信一くん」
「うん?」
「少し我儘言ってもいい?」
「ものによるけどね」
「むぅ……そこは快く“いいよ”と言うところずら」
「はは、世の中そんな小説みたいに事が進むわけないでしょ?」
「小説みたいな兄妹の信一くんに言われると凄く悔しいずら……」
俺と信夏の兄妹愛を小説なんかと一緒にしないでもらえないだろうか。
「それで、ある程度なら聞いてあげるから我儘って何?」
「その妥協してやる感がとっても腹立たしいけど……一緒にクレープ食べたいずら」
「そんなことでいいの?」
「うん」
そんなことをどうしてそんな勇気を振り絞った風に言うんだろう?
「あ、もしかしてバス停の前にあった移動販売のクレープ屋さん?」
「そうずら。……そこの噂、知ってる?」
「噂?」
バス停の前で移動販売をしているクレープ屋さん……あぁ、学校で女子連中が騒いでたっけ。
「知ってるよ。やっぱり花丸も興味あるの?」
「う、うん……」
俯いて恥ずかしそうにモジモジとする花丸が妙に可愛い。ま、女の子ならあの噂が気になるのは当然か。
「いいよ。じゃあ、一緒に行こうか」
「ずら!」
太陽も夕日へと呼称を変える中、まだクレープ屋さんはやっていた。
クレープを焼いているのはガッチリとした体格で背も成人男性の平均より高いイケメン。しかも俺と同年代だ。
俺はこんな容姿だから嫉妬しちゃうよ。どう見たって存在が俺に喧嘩を売ってるとしか思えない。というか、とてもよく知っている人物だ。
「……なんでお前は俺をそこまで睨むんだ?」
「やあ、蓮。バイトお疲れ様」
「……まだ終わってないけどな。ていうか、そういうのって笑顔で言うもんだろ」
知るか。労いなんて必要ないだろう。どうせ蓮目当てで来る女性客から色々貢がれてるんだからさ。
「……それで、クレープ食べるのか?」
「うん。ほら花丸、何にするの?」
移動販売のカウンターは高い位置にあるので、花丸は背伸びをしてなんとかメニューを見ることが出来ている状態だ。
「……信一、その子は?」
「俺の配達先のお孫さんだよ。今日一緒に出掛けようって誘われたんだ」
「……ふぅん。高海と渡辺が知ったら怒りそうだな」
「なんであの2人が出てくるんだよ」
「……別に」
花丸と俺の幼馴染2人って面識あるのかな?でもそれを蓮が知ってるのは不自然だ。
まぁ、どうでもいいか。
「あの!ミックスベリーを2つ!」
「……あ、すみません。今日ミックスベリー終わっちゃったんですよ」
「えっ……」
花丸が注文したミックスベリーって言うのがここの1番人気みたいだね。
売り切れになるほどなんて凄いな。
あと、どうして花丸はそんな絶望の淵に叩き落とされたような顔してるんだろう?そんなにミックスベリーが食べたかったのか。
……仕方ないな。
「蓮、ストロベリーとブルーベリーある?」
「……それならあるよ」
「じゃあ、それを1つずつお願い」
「……了解。ちょっと待っててくれ」
ミックスベリーがそんなに食べたかったのか、花丸が一気に意気消沈してる。
ミックスベリー……ないんだ……。
親友が言うには、ここのミックスベリーを好きな人と食べるとカップルになれるっていう噂だったんだけどなぁ。残念ずら。
「……おまたせしました」
信一くんの知り合いと思われるイケメンの人がストロベリーとブルーベリーのクレープを差し出してくれる。たぶん友達ではないずら。信一くんの性格上、友人関係を結ぶのは困難だと思われるずら。
「ありがとうございます」
「……たぶん難しいと思うけど、頑張りなよ」
イケメンの人がマルにだけ聞こえる声量でそんなことを言ってくる。
たぶんこの人が言ってることはさっきのオーナーさんと同じ意味だと思うけど……そんなにマルってわかりやすいのかな……。
「お〜い、早く食べようよ!もう終バスまで時間ないよ」
「う、うん……」
「どうしたの?顔紅いけど」
「なんでもないずら。それより、信一くんはどっちにする?」
「どっちって?」
「ストロベリーかブルーベリーずら」
まぁ、ミックスベリーがなかったのは残念だけど、こっちはこっちで美味しそうだから今日は我慢しようかな。
「どっちも花丸が食べていいよ」
「ずら?」
「ミックスベリー、食べたかったんでしょ?」
「そうだけど……これ、ストロベリーとブルーベリーずら」
「一緒に食べればミックスベリーじゃん」
それは……随分と無理矢理なこじつけずら……。その発想力には感服するけど。
「でも花丸さ、お店間違えたね」
「え?」
「だってあの店、ミックスベリーなんて
信一くんの言葉に耳を疑う。え、だってクレープ屋さんの名前は親友に聞いたものと同じだったずら。表記は英語だったけど、スペルもしっかり確認したし……。
なにより、店員さんがお店にはミックスベリーがある趣旨の発言をしてるずら。
「存在しないミックスベリー?」
「はは、何そのミステリー小説のタイトルみたいなやつ」
「むぅ……さすがに2つはマル1人じゃ食べきれないずら。信一くん、片方食べて?」
「いいの?ミックスベリー食べたかったんじゃないの?」
「うん」
とりあえず右手にあるストロベリーのほうを信一くんに渡して、マルはブルーベリーのほうにかぶりつく。あ、美味しいずら。
そのままやけ食いっぽく半分まで食べて……うっ、ちょっと飽きがきたずら。
いきなり動きを食べるスピードが落ちたマルをストロベリーのほうを食べていた信一くんが不思議そうに見つめてくる。
そして、得心がいったようにポンと手を打った。
「もしかして飽きた?」
「う、うん」
うぅ……自分で注文してこういうことを言うのは気が引けるずら。
「交換する?」
信一くんが食べかけのストロベリーを差し出してきた。さっきもそうたけど、この人はデリカシーというものが欠けてるように思えるずら。
でも、このままじゃ食べきれそうにないし……お言葉に甘えよう。
だ、断じて信一くんと間接キスしたいわけじゃないずら!断じて!
「……ありがとう」
「いえいえ。俺もブルーベリー食べてみたかったしね」
それならお互いwin-winずら。
せっかくなのでストロベリーも一口食べて……ピンと来たずら。
存在しないミックスベリーの秘密。
「そっか……だからミックスベリーなんだ……」
ストロベリーとブルーベリーを食べさせ合う。そんなことは好き合ってないとできない行為だから……もしかして信一くん、マルの気持ちに気付いてる!?
「ねぇ信一くん」
「うん?」
「ここの噂、知ってるって言ってたよね?」
「クラスの女子が話してたのが偶然耳に入ってね」
うぅ……今になって顔が熱いずら。食べさせ合った時よりも熱くなってるずらぁ〜。
なんで信一くんは平然としてられるのかな……。
「せーのでその噂、言ってみない?」
「え、なんで?」
「なんでも!!」
これ以上は本当に恥ずかし過ぎておかしくなっちゃうずらぁ……。
「じゃあ、いくよ?」
「OK」
すぅっと息を吸う。この噂を信一くんが知ってたらマルの気持ちも分かってることになるずら。
一緒にクレープが食べたいって言っちゃったから……。
「「 せーの…… 」」
「ミックスベリーを好きな人と食べたらカップルになれる!」
「イケメンがここでバイトしてる!」
え?
「ん?花丸、今なんて言った?声重なってよく聞こえなかったんだけど俺と違ったよね?」
ハァ……どうやらこの朴念仁には気付かれてないみたいずら。
残念なような、安心したような、そんな複雑な気持ちがマルの胸の中でグルグルと回ってるずら。
これ、どうやって発散すればいいんだろう?
よし!信一くんの脛を蹴ろう!
どうやら信一くんがマルの気持ちを理解してくれるには、もう少し時間が必要みたいずら……ハァ。
はい、どうでしたか?
ちなみにプロローグで花丸ちゃんが「捨てちゃうずら」と言ったのが、ここで信一がプレゼントした栞のことです。
ミックスベリーの元ネタは……知ってる人は知ってるのかな?わりと有名な作品から引っ張ってきました。
ちゃっかり美郷蓮も出てきましたね。
それでは、改めて記させていただきます。
花丸ちゃん!誕生日おめでとう!!