あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

25 / 29
マリー!誕生日おめでとう!!

はい、今回はマリーこと小原鞠莉ちゃんのお話です。
本編より4年前の信一と鞠莉ちゃんが初めて会ったお話。


Can I have another cup of coffee?

ブゥーンというエンジン音を聞きながら後ろに流れていくキラキラした海を眺める。うん、ビューティフォー。

 

「あんまり乗り出すなよ」

 

「りょ〜か〜い」

 

父さんに一応の注意をされたので連絡船の窓から顔を引っ込めてそっちを見る。

ちなみに今日の父さんの服装はマリオではなくスーツ。しかもそれなりに仕立てのいいやつだ。

俺はただの私服だけどね。風で髪が暴れるの鬱陶しいからいつも通り縛ってある。

 

「そういえばさ、結局これから何しに行くの?仕事ってことしか聞いてないんだけど」

 

「簡単に言えば商談だよ。淡島ホテルのオーナーに、ホテルの料理でウチ(イーストサン)のみかんを使いたいって言われてな。それについての値段交渉」

 

「それって俺は必要ないんじゃない?」

 

「普通ならそうなんだけどな。ホテルのオーナーが小原さんっていうんだけど、小原さんにお前と年が近い娘さんがいるんだ。あとはどうすればいいか分かるだろ?」

 

……………………………わからん。

 

俺の表情を見て察したらしい父さんが露骨に残念そうなため息をついた。

 

うっ……だってわからないものはわからないし……。

 

「信一には商談中にその娘さんと仲良くなってもらいたい。ここまで言えばわかるだろ?」

 

「…………なるほど」

 

別に父さんは俺に意地悪をしているわけじゃない。ただ単に商売人として将来やっていく為の勘を鍛えてくれてるだけ。

 

そして、さすがの俺も父さんが言いたいことは分かった。

 

ホテルのオーナーさんだって人の子だ。自分の娘と仲の良い人間がいる場所にはサービスしたいという気持ちが現れるはず。

 

悪く言えば、軽い癒着を狙うんだね。値段交渉でウチ(イーストサン)の利益を上げる為に。

 

「父さんの言いたい事は分かったよ。それで、その娘さんの好きな物ってなんだか分かる?」

 

「さすがだな。彼女はコーヒーが好きらしいぞ。あとレモン」

 

ポンっと俺の頭に手を置き、褒めながら父さんは娘さんの好みを教えてくれた。

 

別に質問を食べ物に限定したわけじゃないんだけどなぁ。まぁ、いいか。

 

「コーヒーかぁ。それは助かるね」

 

俺もコーヒーは好きだし、その話題で攻めていこう。あれだけ大きなホテルならドリッパーやサーバーくらいあるだろうし、お互いに飲み比べするのもアリだね。

 

「だろ?トークは商談の基本だからな。本来なら何も知らないゼロの状態から相手の話を聞いて相手の好みを探り、そこから仲良くなって商談での利益を少しでもあげる。今回のお前の仕事はその補助兼練習だ」

 

「……………………」

 

その技術はもはやカウンセラーの域なんじゃね?

 

そんな益体もないことを考えていると、いつの間にか淡島に到着していた。でかいなぁ、淡島ホテル。

 

 

 

 

 

ホテルに入ると、父さんよりちょっと年上くらいの男性と金髪の綺麗な女の子が俺たち親子をお出迎えしてくれた。

 

「ようこそ、淡島ホテルへ」

 

「こんにちは。本日は良いお話ができる事を楽しみにしておりました。こちらは息子の信一です」

 

「初めまして。朝比奈信一と申します」

 

「息子さん……ですか?随分と美形な顔立ちで」

 

まぁ、美形というか女顔なだけだけどね。

男が女に見える顔立ちというのは一般的に美形と表されるらしい。

 

幼馴染曰く、俺はすごく綺麗な顔してるけど、正確の汚さが圧勝してるんだとさ。もちろん海に投げ込んでやったよ。

 

遠い目で過ぎ去りし平和な日々を思い出している俺に、小原さんは隣にいる金髪の綺麗な女の子を前に差し出してきた。

 

「こっちは私の娘でね、鞠莉って言うんだ。年も近いし仲良くしてくれるかな?」

 

「もちろんです。輝かしい将来が約束された美しいお嬢さんとお話できるなんて、自分にとっても楽しいひと時になります」

 

「はは。随分と口が上手だね」

 

「本心ですよ」

 

ハッハッハと小原さんと俺は声を合わせて笑い合う。うん、娘さんを褒められて上機嫌みたいだね。良かった良かった。

 

「ほら鞠莉、挨拶しなさい」

 

「シャイニー!さ、早くマリーの部屋に行きましょ!」

 

「うえっ!?」

 

挨拶短か!?

 

俺が鞠莉さんの勢いに押されてる内に、手を引いて彼女の部屋へ連行されていく。てか俺たち初対面だよね?なんでフツーに男を自分の部屋に入れられるの?

 

俺が目を白黒させて振り返ると……おっさん2人は手を振って見送っていた。いや、小原さん……心配じゃないんかい……。

 

 

 

 

「パパが言ってたんだけど、シンイチもコーヒーが好きなの?」

 

「え、えぇ」

 

「自分で淹れたりもする?」

 

「しますよ」

 

「エクセレント!!」

 

「ひぃっ!?」

 

満面の笑みで拳を大きく掲げて声を上げる鞠莉さん。たぶん年上なんだろうけど……テンション高いな。

ちょっと萎縮しちゃうよ。

 

「えっと……良かったら淹れましょうか?」

 

「ううん。今回はマリーが淹れるわ!でも次来た時は淹れてくれる?」

 

「次来た時……ですか?」

 

え?また来んの?

 

「あら、知らない?パパ達が商談してるのは分かるわよね?」

 

「はい」

 

「商談は基本的に1日で終わることはないの。何度か話し合って利益を見積もっていって、最終的にお互いの利益がちょうどいいと分かったら契約するのよ」

 

「そうなんだ」

 

おぉ!勉強になる!

 

ん?てことは、俺はまた何度かここに来るってことか。

 

 

「それじゃあ鞠莉さんのコーヒー、いただいてもよろしいですか?」

 

「イェース!ちょっと待っててね」

 

嬉しそうに頷いた鞠莉さんは、この部屋にも付いている小さなキッチンに入りケトルに水を入れている。

さすがコーヒー好き。水道水じゃなくてミネラルウォーターを使ってるね。

コーヒーにこだわりがある人なら大抵はそうしてるけど。もちろん俺も。

 

「案外親しみやすい人だな……」

 

テンション高いけど、アレは俺とすぐに親しくなるにわざとしてるっぽい。その辺りはなんとか見抜けた。

 

問題は彼女が俺と親しくなった後に失望しないか、だね。

 

父さんや母さんが言うには、人との関係は作るより繋いでおくことの方が難しいんだそうだ。

人間生きてれば色々な人と会うし、色々な人と知り合いになる。その人たちとの関係は意外なところでありがたみを覚える時がくるらしい。

 

ぶっちゃけ、鞠莉さんとの関係はこの商談が終わる時まで繋いどけばいいんだけどね。それが俺の仕事だし。

それ以降はまぁ……彼女の采配に任せよう。商談が終わった後も俺と友達でいたいって言ってくれるならそれでいい。パタッと関係が途切れても構わない。

 

「おまたせ、シンイチ」

 

「ありがとうございます」

 

考えがまとまったところで目の前にコーヒーカップが置かれた。

そのカップもブランド品だ。イタリアで最大規模を誇る陶磁器メーカーの一品。

 

名前は確か……

 

「『リチャードジノリ』。この配色だと……“インペロ ヴェニス”ですか?」

 

「わかるの!?」

 

「一時期欲しいと思ってたカップでしたから」

 

イタリアは『La vita è bella(美しい人生)』が国民性の陽気な国。

人生を全力で楽しむことに本気だから一見イタリア人は適当な人間と思われるけど、人生を全力で楽しむ為に工夫を凝らしてきた国なんだ。

 

この『リチャードジノリ』のカップもその工夫が生み出した物。

ティータイムをもっと楽しくするためのバラエティに富んだテーブルウエアなんだよね。

 

「今は欲しくないの?」

 

「ちょっと前に妹がコーヒーカップをプレゼントしてくれたんで、今は必要ないですね」

 

信夏がくれたカップというだけで、俺にとっては世界中の芸術品がゴミの塊に見えちゃうくらいのお宝だ。

値段自体はたぶん大したものじゃないけど、信夏が俺の為に選んで買ってくれたということに意味がある。そしてやっぱり信夏は銀河一の妹だね。

 

「優しいリトルシスターなんだね?」

 

「はい。自慢の妹です」

 

今度は俺からもコーヒーカップをプレゼントしよう。

ありがとうお兄ちゃん、と言って嬉しそうに笑う信夏の顔が浮かんできた。それに俺も自然と口元が緩んじゃうよ。

 

 

 

 

 

 

ドキッとした。それが私の感想かしら。

 

コーヒーカップを見ながら優しく微笑むシンイチの顔にハートが高鳴るのを感じたわ。初対面の男の子?男の娘に変な話よね。

 

「ま、まぁ、リトルシスターのこともいいけど、コーヒーも飲んでみて?これでもパパは美味しいって褒めてくれるのよ」

 

こんな気持ち悟られたら変に思われちゃう。せっかくお客さんが自分と同じものが好きなんだもの。これを機に仲良くなりたいわ。

 

「へぇ。それじゃあいただきます」

 

少し口元に寄せて香りを楽しみ、その後に一口コーヒーを飲むシンイチは……なんだかちょっとエロいわね。一見美少女だから、唇が艶っぽくて。ずっと見ていたくなっちゃう。

 

ほぉ、と息を吐いてコーヒーの余韻を楽しみながらまた微笑むと……うん、男の子にこう言っちゃアレだけど可愛い。

綺麗なコーヒーカップも相まって有名な画家が描いた絵画のよう。

我ながらカップのチョイスがベリーグッドと自画自賛したくなるわ。

 

そして、そんなちょっとエッチな口から出るコーヒーの感想は……

 

「不っ味い」

 

「…………え………?」

 

「いや…えぇ……クソ不味いんですけど」

 

口汚い最低のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

え、なにこれ?泥水?コーヒーの香りをした泥水飲まされてんの?

 

「おえぇぇぇ……」

 

見事にエグ味と酸味しかない。それしかない。本当にそれ以外がない。

 

どうしてこうも芳潤な香りを広げ、綺麗なマグカップに入っているコーヒーが不味いのか?どうやったらこんなに不味いコーヒーを淹れられるのか?

とりあえず客人へのおもてなしより暗殺兵器として運用したほうがいいだろう。

 

今にも吐きそうな俺の顔を見て目を白黒させる鞠莉さん。

 

おい、もしかして……

 

「あの…鞠莉さんって自分のコーヒー飲んだことは?」

 

「ないわよ。いつもパパかママかホテルの従業員に淹れてあげるだけ」

 

やっぱりかあぁぁぁぁぁ!!

 

この味はやばいでしょ。かなりまずいでしょ、2つの意味で。

 

 

「よく家庭崩壊しませんでしたね?」

 

「そのレベルで不味いの!?」

 

「はい」

 

失礼を承知で肯定させてもらおう。いや、だって本当に不味いし。

なんかもうね……味がゲテモノ。ゲテモノ料理は美味しいって言うけど、これは逆だね。見た目は普通のコーヒーだけど味が腐った昆虫だわ。

 

まぁ、さすがにコーヒーの見た目をゲテモノにできる人はいないだろうけどさ。

 

俺の真摯な気持ちを受け取った鞠莉さんはトテトテとキッチンに走り、サーバーに残った余りをカップに注ぐ。

そして一息に飲み干した。

 

「Oh……very awful(めっちゃ不味い)……」

 

日本語じゃないので俺にはなんて言ってるのかわからないけど、顔を見ればなんとなく理解できる。

とりあえず女の子がしてはいけない類の表情を炸裂させていた。

 

「あのぅ……良かったら教えましょうか?」

 

「な……何を?」

 

「コーヒーの淹れ方」

 

さすがに愛娘が淹れてくれるコーヒーがコレでは小原夫妻が可哀想だ。何が可哀想って、コレを美味しそうに飲まないといけないってことがね。ほとんど拷問でしょ。

 

「シンイチは美味しいコーヒー淹れられるの?」

 

「とりあえずコレよりはマシな自信があります」

 

「うっ……」

 

俺の言葉に鞠莉さんはションボリと肩を落としてしまった。さすがに言い過ぎたかな?

一応今は商談相手の娘さんという立場だから下手なこと言うとそっちに影響が出ちゃいそうだなぁ。

 

ハァ……仕方ないか。

 

「鞠莉さん。『料理は愛情』って言葉、聞いてことありませんか?」

 

「それはまぁ…あるけど」

 

「あれの本当の意味知ってます?」

 

「本当の意味……?」

 

こいつは何言ってんだと言いたげな眼差しを向けてくる鞠莉さん。気持ちは分かるよ。

俺も信夏以外にこんなこと言われたら鼻で笑うもん。

 

「最近の若いもんは『料理は愛情』って言葉を履き違えてるんですよ」

 

「愛情さえあれば料理が美味しくなるって意味じゃないの?」

 

「いえ、どんなに愛情を注いでも不味い料理は不味いです」

 

残念ながらそんなロマンチックな言葉でクソ不味いコーヒーを淹れる女の子を励ませるほど、俺は理想主義じゃない。

ちゃんと現実的な意味がある。

 

「『料理は愛情』って言うのは努力の話なんです」

 

これは本で読んだとか、誰かから聞いたとかじゃなくて俺の経験談だ。

 

小学生の頃は父さんと母さんの2人で農園を切り盛りしてたから、信夏の夕ご飯は俺が作ってた。

でも、今まで料理なんてしてこなかった俺にとってはかなり難しくてね。初めて作った物なんておよそ食べ物とは思えない味と匂いを醸し出してたよ。

それでも俺にとって何よりも大切で大好きな信夏の為に上達しようと躍起になったのを今でもよく覚えてる。

 

「簡単に言ってしまえば、大好きな人には美味しいものを食べたり飲んだりしてほしいですよね?だから必死になって努力するんです。『料理は愛情』って言うのは、大好きな人を喜ばせる為に全力で努力するって意味なんですよ」

 

「I see…………」

 

ポカンと口を開けながら英語と思われる言語で相槌を返してくれた。分かってもらえてなによりだ。

 

「鞠莉さんはお父様やお母様、このホテルで働く方々が好きですか?」

 

「Of course!もちろん大好きよ!」

 

「じゃあ頑張りましょう。心配は要りません。コーヒーの淹れ方なんて基本ができればあとは回数で上達します」

 

なにより鞠莉さんには、どんなに不味くても美味しいと言ってくれる人がたくさんいるのだ。その人達が心からの笑顔で美味しいと言ってくれるのはすぐだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

新しいドリッパーにシンイチはフィルターをセットして、これをサーバーにイン。ここまでは私と同じ。とりあえず道具の使い方は間違ってなかったわね。

 

「まず、コーヒー1杯に使う豆の粉は10gが理想です。それをフィルターに入れます」

 

説明しながらハンドミルの引き出しを開けて粉をフィルターに入れた。ここも私と一緒ね。

 

「それでケトルから数滴落ちる程度に静かに淹れます。この時、粉面より3、4㎝程度の高さがいいでしょう」

 

トポトポと粉の中心にお湯を注いでいくと、粉がハンバーグみたいな形に膨らんできたわ。それと同時に豆の良い香りもしてくる。

 

「はい、ここでストップ」

 

「What?止めちゃうの?」

 

「はい。2、30秒ほど蒸らしの時間を入れます」

 

知らなかった……。コーヒーにも紅茶みたいに蒸らしがあるのね。

私はそんなの知らずにドバァっと一気に入れてたわ。

 

「蒸らしが終わったと思ったら今度は2回目の注湯です。『の』の字を書くように細めに注いで、また止めます」

 

また膨らんだコーヒー豆がへこんでいっちゃう。元気が無くなっていくみたいで不思議とこっちまで悲しくなっちゃうわ。

 

「粉がへこんで、お湯が落ちきる手前で3回目の注湯をします。この時粉の周辺部分まで注ぐとコーヒーの濾過層が崩れちゃうので、できるだけ真ん中辺りに入れてくださいね」

 

ドリッパーにセットしてあるフィルターごと豆を捨ててサーバーに入ってるコーヒーを新しいカップに注いでくれた。

 

それを恐る恐る飲んでみると……

 

「Wow!very delicious!!」

 

なにこれ!すごく美味しい!

私が淹れたのとは月とスッポンね。

 

「美味しく感じるのはたぶんさっきのコーヒーのせいです。俺が出せる味は回数次第で誰でも出せるものですよ」

 

そう言ってるわりにシンイチはほっぺを赤くして照れてるみたい。

Cuteね♪

 

「じゃあこれを飲み終わったら今度は鞠莉さんがやってみましょう」

 

「イエッサー!」

 

ふふ、それにしても美味しい。誰かと一緒にコーヒーを飲むなんて久しぶりだもの。これもコーヒーのスパイスになってるのかな?

 

 

 

 

 

 

自分の淹れたコーヒーを本当に美味しそうに飲む鞠莉さんは……なんだか猫みたいだ。悪戯好きっぽい雰囲気も相まって、年上ながらお世話したくなるよ。

 

それにやっぱり嬉しい。見本として淹れたとはいえ、手を抜いたわけじゃない。しかも鞠莉さんはお金持ちだし、美味しいコーヒーで舌が肥えてるはず。いくらさっきクソ不味いコーヒー飲んだとしても、その肥えた舌の持ち主にDeliciousと言わせたのは大きいよ。

 

そんな気持ちで嬉しそうにコーヒーを飲む鞠莉さんを見ていたら……ん?赤くなったぞ?

肌の色が白いからめっちゃ分かりやすい。

 

「あの……あんまり見られると飲みにくいんだけど……」

 

「すみません。コーヒーを飲む鞠莉さんを見てたら嬉しくなっちゃって」

 

「むぅ……」

 

「なんですか?」

 

俺の答えが気に入らなかったのか、鞠莉さんが頰を膨らませてる。柔らかそうだなぁ。某お寺のお孫さんには負けてるけど。

 

「シンイチって年上なら誰にでも敬語使うの?」

 

「う〜ん……大体はそうですね。小さい頃からお世話になってる旅館のお姉さんや、幼馴染のお姉さんには使いませんけど」

 

お姉さん、姉御、果南ちゃん。この3人は年上だけど、俺が敬語使ったら泣きそうな顔になるので控えている。

 

一応配達の時は使うけど、それ以外はね……本当に泣きそうになるので。

 

「なんでそんなこと聞くんですか?」

 

藪から棒になんなんだろうか?俺の敬語、どこか間違ってるのかな。

 

「なんか他人行儀で寂しい」

 

「はは、俺たちは他人ですよ?」

 

「そうじゃなくて!」

 

え?違うの?

 

鞠莉さんの真意が分かりかねて首を傾ける。何が言いたいんだ?

 

「敬語、やめてほしいの」

 

「どうしてです?」

 

俺は年下。鞠莉さんは年上。その関係の中で俺が敬語を使うのは当たり前のことだと思う。少なくとも俺の中では。

 

「なんか……一戦を引かれてる気がして。これ以上仲良くなれない気がするから」

 

「はは、どちらも予感ですね」

 

「ちゃ、茶化さないでよ!」

 

顔を真っ赤にしてムッとする鞠莉さん。

この人、可愛すぎない?今なら信夏の二番目くらいに可愛く思えちゃうよ。

 

だからかな……俺の手はナチュラルに鞠莉さんの頭を撫で始めた。

 

「うあ……」

 

「別に一線を引いてるつもりはないんですけどね。一応商談相手の娘さんですから無礼がないよう努めてるだけですよ」

 

「頭を触るのは無礼と思わないの?」

 

「だって寂しいんでしょう?」

 

「むぅ……」

 

俺の手の下でさらに膨らむ赤いほっぺたをツンツンしてみる。柔らかくて気持ちいいな。

 

「私ね、小学生の時に日本に来たの」

 

「どうしたんです、唐突に」

 

「独り言よ」

 

「ふぅん」

 

とりあえず座りたいと思ったので鞠莉さんの頭から手を離そうとすると……ガシっと手首を掴まれた。どうやら離すなという意味らしい。ちょっと怖かったんですけど……。

 

「最初は友達いっぱい作る!って意気込んでたんだけど、こんな容姿だから……友達になってくれる人なんていなかった」

 

まぁ、小学生なんてそんなもんだろう。自分や周囲と違うものは物珍しい。そんな物珍しいものと友達になろうとは思わない。

 

誰だって曲芸のできるパンダと友達になろうなんて思わない。それと一緒だね。

 

結局鞠莉さんは彼らにとって物珍しいものでしかなかったんだ。

そんな好奇の視線を、誰かと友達になることが当たり前で同じ小学生の鞠莉さんには辛かったのかもしれない。

 

「だから次第に友達なんていらないって思うようになったの。誰も私と友達になりたいなんて思う人はいないって勝手に決めつけてた」

 

「…………………」

 

「でもね、本当はそんなことなかった。その時同じクラスの女の子が2人、このホテルの敷地に忍び込んできたの」

 

なんとまぁ、こんな警備の頑丈そうなところによくその子たちは忍び込む気になったな。

 

でも、その子たちが出てきた瞬間鞠莉さんの顔が明るくなった。

 

「1人は元気な女の子で、もう1人はその子の背中に隠れてる小動物みたいな女の子だった。その子たちを私が偶然見つけちゃってね。そしたら元気な女の子のほうがなんて言ったと思う?」

 

「なんて言ったんです?」

 

「『ハグしよ?』って言ったのよ。笑っちゃうでしょ?ホテルに忍び込んだのを誤魔化す為にハグよ?」

 

「それは……随分と肝の据わった女の子ですね」

 

「ふふ、そうね」

 

「今その2人とは?」

 

「大切な友達よ」

 

きっとその子は鞠莉さんと仲良くなりたかったんだろうね。その為にホテルに忍び込んできたんだと……思う。

その子の真意は俺にはわからないからどうしようもないけどさ。

 

「それで?それが俺の敬語とどう繋がるんですか?」

 

確かに感動的な独り言だけど、ぶっちゃけ俺には関係ないお話だった。

 

もちろんどうしても止めてほしいと言うなら止めるけど、ここまで話したってことはそれなりの理由があると思うから。

 

「今まで友達になれなかった人たちとハグ1つでベストフレンドになれたんだもん。それは対等だったからっていうのもあると思うの。敬語って相手を敬ってるから使うものでしょ?それって……」

 

「対等じゃない、か」

 

鞠莉さん、結構良いこと言ってるけど俺に頭撫でられてるんだよ?

色々対等じゃないと思うんだけど……ねぇ?

 

「まぁ、鞠莉さんの言いたいことは分かりました……」

 

「むぅ……」

 

「……分かったよ」

 

「あともう1つ」

 

注文多いなぁ……。いや、分かったよ。分かったから俺の手の下から上目遣いで睨むの止めてよ。

可愛過ぎて惚れちゃう。

 

「私のことマリーって呼んで?」

 

「マリー」

 

「もっと感情込めて!」

 

チッ、面倒な。

 

「じゃあ俺は今から君と友達。これでいいかな?———マリー?」

 

「シャイニー!」

 

はい、どうやらいいみたいです。こんなので満足してもらえるなら何度でも言うよ。

 

「ふふ」

 

嬉しそうにしてるマリーを見てると本当に惚れてしまいそうなので、俺は自分のコーヒーを啜る。

 

冷めとるがな……。

 

「ハァ……マリー、今度はマリーがコーヒー淹れてくれる?」

 

「オーライ♪」

 

グイっとコーヒーをジョッキに入ったビールのように飲み干したマリーはそう言ってキッチンに入っていった。

 

 

 

 

 

 

ふふ♪新しい友達、できちゃった!

 

「〜〜〜♪〜〜♪」

 

鼻歌を歌いながらシンイチの言った通りにコーヒーを淹れていく。やっぱり、淹れ方そのものが違うのね。

 

また新しいカップを2つ用意して……ふと頭の中からインスピレーション!!

 

そういえば私にコーヒーを淹れてくれる人はいても、一緒に飲んでくれる人っていなかったかも……。

 

果南もダイヤもコーヒーよりお茶ってイメージだし、そもそもこの年頃だとコーヒー好きな人ってあんまりいないもの。

やっぱりシンイチは私にとって今までにないスペシャルな人ね。

 

そんなことを考えていても、手はシンイチの教えてくれた手順でコーヒーを淹れることを忘れない。

 

決めたわ!パパの商談が終わるまでにシンイチにマリーのコーヒーを美味しいって言わせてみせる!

そして、こう言わせたいの———

 

Can I have another cup of coffee(おかわり)

 

って!

 

だから、今日が終わってもまた来てくれるわよね?シンイチ♡

 




はい、どうでしたか?

マリーの口調、難しすぎる……。特に地の文。

次はヨハネちゃんのお話になりますね。まだ本編でしゃべってないヨハネちゃん……。とりあえず出さないとW(`0`)W
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。