あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

4 / 29
アニメの2話にあたります。

信一の海嫌いは作者の実体験が元です。みなさん、海水を飲むのはやめましょう。


第3話 ダイビングはするまでが大変なんだよ

スマホを買い換えて、記録用のデジカメも買った日の夜。

風呂にも入り、あとは寝るだけの俺はベッドで本を読んでいる。

隣には信夏。部屋で一緒に本を読んでいたら寝ちゃったので、今日は一緒に寝ることになった。安心しきった寝顔が日頃色々なところでいじめられてる俺に癒しをくれる。

 

そんな幸せのひと時を買ったばかりのスマホが着信音を鳴らして邪魔しやがった。画面には“アホ毛”と書いてある。千歌からだ。

 

明日海に投げ捨ててやろう。

 

そんな決意を胸に、通話ボタンを押してスピーカーを耳に当てる。

 

『次の日曜日、梨子ちゃんとダイビングするから一緒に行こう?』

 

どうやら下の名前で呼ぶまで仲良くなったみたいだね。もしくは千歌のことだから勝手に呼んでるのかもしれない。

 

まぁ、そんなことは今どうでもいい。

 

「なんで?」

 

『海の音を聴くためにだよ!』

 

「桜内さんの?』

 

『そう!」

 

夜なのに元気良いな。俺は信夏との時間を邪魔されてめっちゃイラついてるのに。

 

「う〜ん、俺は遠慮するよ。じゃあね」

 

『ちょっと待って!なんでよ?』

 

「ダイビングするってことは果南ちゃんの家に行くんだよね?」

 

『そうだよ』

 

果南ちゃんの家は淡島でダイビングショップを営んでいる。昔はよく船に乗せてもらったけど、潮風がダメになってからは遊びに行く回数もめっきり減った。

それに加えて果南ちゃんは今休学している。親父さんが骨折して、仕事ができなくなっているので、その繋ぎを高校生ながら頑張っているのだ。

 

そんな果南ちゃんに久しぶりに会いたいという気持ちはある。でも、淡島は内浦から船に乗らないといけない。つまり、潮風と船の上下運動を乗り越えて俺は淡島に辿り着かなければいけないということだ。

 

考えただけで吐きそうになる。

 

「船はちょっとね。ごめん」

 

『そっか……。そういえば全然関係ない話なんだけどさ?』

 

「じゃあ興味ない。また明日ね」

 

スピーカーを耳から離し通話を切ろうとすると、かすかにそのスピーカーから男として聞き捨てならない言葉が発せられた。

 

『梨子ちゃん、結構スタイル良いみたいだよ』

 

「日曜日の何時何分何秒にどこ集合だか正確に過不足なく教えてくれるかな?」

 

『……変態』

 

変態でも良いし。こんな見てくれでも健全な男子ですから。むしろこれで釣られなかったら本当に女なんじゃないか、と疑われちゃうよ。

 

男として行かなければダメでしょ。男として。大切なことだから2回言わないとね。

 

時間は午後1時ジャスト。連絡船の船乗り場に集合と罵倒混じりに教えてもらった。

まさか千歌の口から“キモい”なんて言葉が出るとは思わなかったよ。

 

幼馴染のちょっと予想外な成長を心で感じ、俺は涙を堪えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、高海さん。どうしてこの人がいるの?」

 

約束の日曜日。集合場所にキッチリ10分前に着いた千歌に問われた言葉は、悲しいことに予想通りだった。

 

今日は日曜日ということで私服で集まった4人。

千歌、曜、俺、そして桜内さん。

 

さすが東京から来ただけあって、桜内さんの私服姿はお洒落だ。

そんな考えを脳に巡らせ、どのコーディネートをすれば信夏が可愛くなるかシュミレーションしてみる。

 

結論。ぶっちゃけ何着ても可愛い。

 

そんな結果を永久保存し、俺は千歌の代わりに答えることにした。

 

「ひどいなぁ。曜を仲間外れにするなんて」

 

「渡辺さんじゃないわよ!あなたのことを言ってるの!!」

 

「……俺……だとっ!?」

 

「なんでそんなに驚いてるの!?」

 

いや、だって一緒に行こうって誘われたの結構前だし。てっきり千歌から報告がいってるものだとばかり思ってた。

 

「いやぁ〜、やっぱこういうのはシンちゃんの口から直接言ったほうがいいかなって思って?」

 

「あぁ、なるほどね」

 

確かにそうかもしれない。3人の女の子の中に男が1人混ざるんだったら理由は直接言ったほうがいいよね。

 

「それで、どうしてあなたも来るの?」

 

「一言でまとめるなら……」

 

「えぇ」

 

「性欲かな」

 

「もしもし警察ですか?なんか女装した男が性欲を理由に付きまとってくるんですけど」

「ちょっとストップ!!」

 

危ない危ない。てか女装してねーし。

 

「ごめん、冗談だから」

 

「えぇ〜、シンちゃん電話でもそう言ってたじゃん」

 

「千歌、みかんあげるから黙ってて?」

 

「わ〜い♪」

 

よし、余計なことを言うおバカちゃんは黙らせた。あとは犯罪者か性犯罪者を見るような目で俺を見てる桜内さんだけだ。

 

この際、曜は放っておく。あとでみかん与えとけばいいや。

 

「いや、あれだよ?これから行くダイビングショップって俺たちの幼馴染の実家でね?それで久しぶりに会いたいと思ってさ」

 

“嘘も方便”なんて不誠実な言葉にはもう頼らない。

 

何かの本で書いてあったな。

『誤魔化す時は、嘘の中に真実を混ぜるとバレにくい』って。

 

「……へぇ」

 

半信半疑と言ったジト目で俺を見てるけど、なんとか信じてもらえたようだね。

やっぱり本は“知識の宝箱”だ。

 

ありがとう中学の時の社会科の先生。

 

「そういえばシンくん?そのリュックサックどうしたの?」

 

「うん?これはお土産だよ」

 

「お土産!?」

 

「曜にじゃなくて果南ちゃんの家に、だよ」

 

まぁ、一応この3人にも用意はして来たけどね。

 

「お、連絡船来たよ〜!」

 

千歌が一番乗り〜と、嬉しそうに連絡船に飛び乗る。それを見て、俺はこれから来たる地獄に顔を青ざめさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっぷ……やばい…………これはマジでやばい……」

 

10分にも満たない船の旅で着いた淡島の船着場に、俺は両足と共に膝と手をつく。

 

「潮風と船のコントラストが……俺の胃液を逆流させて…………」

 

「無理やり詩的表現しなくていいから」

 

久しぶりの船だった。もしかしたら大丈夫なんじゃないかな、と思ってたけどやっぱ無理。曜が優しく背中をさすってくれている。

だが、リュックサックの上からさすっても効果がないことに気付いてはないようだね。

 

俺の豹変ぶりに、さすがの桜内さんも心配そうにしてくれてる。

ありがとう。その優しさを普段もくれると嬉しいよ。

 

「えっと……信一、大丈夫?」

 

船着き場で待っていてくれたダイビングスーツ姿のポニーテールが特徴的なお姉さん。松浦果南ちゃんも心配してくれてる。

 

とりあえずこんな潮風が通りやすい場所にいたら、マジで吐くので曜に肩を借りて立ち上がる。

「信一、本当に大丈夫?ハグする?」

 

果南ちゃんが見るに見かねて両手を前に出してくれた。ハグのポーズだ。

 

果南ちゃん、小学校の頃から急にハグ魔と言えそうなくらい何かある度にハグをしてくれるようになった。

 

そんな果南ちゃんのダイビングスーツの胸元はチャックを下ろして大胆に開いている。そこから見える母性の塊(おっぱい)と谷間は汚れを知らないみたいに白くまぶしい。

 

ふむ、

 

「しましょう……ぐえっ!?」

 

果南ちゃんの胸に飛び込む直前、後ろから千歌と曜に襟を引っ張られて止められた。今の状態でそれはかなりきつい。

 

「今エッチなこと考えたでしょ?」

 

「シンくん、変なこと考えてない?」

 

「えぇい、離せ2人とも!変なことなんて考えてないから!おっぱ……もとい果南ちゃんが待ってる!!」

 

「「 考えてるじゃんっ!! 」」

 

思いっきり引っ張られて、俺はあと数㎝のところでおっぱ……もとい果南ちゃんから離されてしまった。ちくしょう……今なら血の涙だって流せそうだよ。

 

「もう2人とも、そのくらいにしてあげなよ。信一だって男の子なんだから」

 

そう言ってくれる果南ちゃんはいつも通りの快活な笑顔だ。さすが、心は海よりも広く、懐は海よりも深い。ついでに谷間も深い。

 

「あなた、本当に人間のカスね」

 

もはや桜内さんの目はゴミを見るようだった。

 

俺はカスと言われ、ゴミを見るような視線を浴びながら汚いものを撒き散らさないように慎重にダイビングショップまで向かう。

自分で言うのもアレだけど、今の俺って完全に汚物扱いじゃね?

 

「シンくん、お土産渡さなくていいの?」

 

「あぁ、3人が潜り終わってから渡すよ。楽しみにしててね」

 

「え?果南ちゃん家のお土産なのに私達が楽しみにするの?」

 

「……いや、なんでもない。気にしないでよ」

 

「えぇ〜、気になるよ〜」

 

曜が俺をガクガクと揺らしてきた。今それはやばい。冗談抜きでやばい……。

 

「ストップ。吐くからやめて?」

 

「よ、ヨーソロー……」

 

うん、いいお返事だね。

 

「あとこれ、渡しておくね」

 

リュックサックから先日買ったばかりのデジカメを曜に手渡す。色はピンク。信夏がこの色が可愛いとのことでこれに決めた。

 

「ここが電源ボタンで、ここに合わせると写真ね。それでこっちが動画。このスイッチをライブラリーに合わせると撮った写真が見れるよ」

 

「それはわかったけど、どうしてデジカメ?」

 

「海の中撮ってきてよ」

 

「シンくんも来ればいいじゃん」

 

「俺はね……海を汚したくないんだ」

 

青く綺麗な海。今は残念ながら曇っているので薄暗いけど、晴れていれば太陽の光を反射してキラキラと輝く内浦自慢の海に俺の吐瀉物を撒き散らすわけにはいかない。

 

「そっか……私も隣で吐かれたら一生海に入れそうにないや」

 

「でしょ?」

 

ご理解いただけて良かった。

まぁ、曜に渡した理由は色々あるけどね。単純に千歌に渡すのは怖い。まだ買ったばかりなんだから。

 

「では、曜に任務を与えます。このデジカメで素晴らしい海の景色を撮ってきてください!」

 

「了解であります!」

 

お互いに敬礼で向かいあったあと、クスリと同じタイミングで吹き出す。この様子なら壊すことはないだろう。曜の写真を楽しみに待っていよう。

 

「ねぇねぇ、シンくん?既にライブラリーに写真が400枚くらいあるんだけど?」

 

「あぁ、信夏の写真だよ。1番可愛く撮れたのは134番目ね」

 

こんな会話があったのは2人だけの秘密だ。可愛い信夏はできるだけ他人には見せたくないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船でダイビングスポットまで向かった4人を待つため、俺はダイビングショップのテラスで本を読む。

いや、正確には本を開きながら考え事をしていた。

 

「さて、どうやってダイヤさんを説得するかだよね……」

 

今の状況は最悪。そもそもスクールアイドル部すら出来上がってない以上、スクールアイドルとして活動ができない。

これはかなり深刻な問題だ。

 

一応、曜が入ることになり部員は2人になった。1人から2人に、つまり倍になったと言えば聞こえは良いけど、結局は足りない。

 

浦女では部活を発足する為に最低5人の部員が必要なのだ。

これは学校の決まり事である以上浦女の権力者、例えば理事長や校長、生徒なら生徒会長などが許可を出さない限り覆らないだろう。

 

「でもダイヤさんは異様に“ラブライブ”に詳しい、か……」

 

スクールアイドル部を理由も聞かずに頭から否定するからには相当嫌いなのだろうと思ったが、そのわりにはスクールアイドルの大会、“ラブライブ”のルールにとても詳しいと千歌は言っていた。

 

詳しく知っているのは、彼女が勤勉だから?

 

網元だからこそ、俗物的なものも一応はよく知り、その上で否定している。そう考えれば辻褄が合う。でも、それだと……

 

「μ'sについて()()詳し過ぎる……」

 

μ'sをu'sと間違えた千歌にブチギレたダイヤさんはμ'sのクイズをいくつか出したらしい。しかも楽しそうに、だ。

 

特に最後に出された問題。

『曲の冒頭でスキップをしているのは誰?』という問題はファンだった俺にもわからなかった。

 

つまりファンだった俺にもわからない程の問題を出せるくらいダイヤさんはμ'sに詳しいということになる。これだとただ勤勉だから、では説明がつかない。

 

「もしくは……」

 

俺以上のファンだった、とか?

 

確かにμ'sが大好きなら俺より詳しいのも納得できる。“ラブライブ”のルールに詳しいのもまた然り。

 

でもそれなら、

 

「どうしてスクールアイドルを否定するんだろう……」

 

結局振り出しに戻ってしまう。

 

そもそも俺の『スクールアイドルが好き』という仮説が間違っているのか、それともスクールアイドルを嫌いなように振る舞わなければならない理由があるのか。

現状では何もわからない。俺はダイヤさんと直接話したのは一度きり。しかもスクールアイドルの話題じゃなかった。

 

判断材料が足りなすぎる。まず、どうしてスクールアイドルを否定するのか。そこが分かればもうちょっと解決の糸口が分かるはずなんだけどなぁ。

 

「ま、それでもデジカメ買っちゃったしね。腹括って解決するしかないか」

 

防水耐衝撃機能付きの最新型を買ったんだ。これでスクールアイドルできませんはさすがに笑えない。

 

俺は海風で乱れた髪を一度解き、綺麗に、しかしいつも通り乱雑に結び直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「 ただいま〜 」」

 

考え事を止め、読書に集中していた俺の耳に千歌と曜の元気な声が響く。随分と嬉しそうにしている。

 

「何か面白いことでもあった?」

 

「聞いてよシンちゃん!“海の音”聴こえたんだよ!」

 

「へぇ。あ、磯臭いから着替えてきてくれない?その後聞くから」

 

「むぅ……」

 

そんな不満そうな顔をされても臭いもんは臭い。

 

それにしても、本当に桜内さんスタイル良いな。スレンダーながらも出るところは出てるし、へこむところはしっかりへこんでる。

そして、それがちゃんと均整の取れた美しさを醸し出して男の目を釘付けにし、ピアノをやっていただけにこれまた綺麗な指が俺の顔に近付いてきて……あれ?目の前がいきなり暗く……

 

「痛ってえぇぇっ!?」

 

目を抑えた瞬間、激痛が両目に走る。え、なんで!?

 

「視線が気持ち悪いわ」

 

貴様か桜内!ついに暴力まで振るってきやがったか!!

 

着実に内浦の女の子になりつつあるね。内浦の女の子は基本的に俺に厳しい。花丸然り。千歌然り。曜然り。

 

もう俺の癒しは果南ちゃんと信夏だけだ。あぁ、信夏に会いたい。

 

両目を抑えながらホームシックに駆られる俺を置いて、4人は着替えのあるダイビングショップに入っていった。

 

あれ?果南ちゃん心配してくれないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?“海の音”が聴けたって?」

 

「うん!今日曇ってたから海の中は見えなかったけど、ちょっとお日様が出た時に上を向いたら聴こえたの!」

 

「幻聴じゃない?」

 

「違うもん!ちゃんと聴こえたもん!ね、曜ちゃん?」

 

「うん!これがその時の写真だよ」

 

曜がデジカメに千歌が言ってた時の情景を撮っておいてくれたらしい。それを見ると、

 

「おぉ……!」

 

とても綺麗な光のカーテンが海の中を照らしていた。

なるほどね。ダイビングって海の中を見るだけだと思って下ばかり見てたけど、上を見上げればまた別の綺麗な光景が広がってたんだ。

 

ちょっと羨ましいな。こんなに綺麗なのを生で見れたなんて。

 

「果南ちゃん、プリンター借りてもいい?」

 

「いいよ。私の分もお願いね?お店に飾るからさ」

 

「もちろん」

 

早くこれを現像して見てみたい。デジカメの小さな画面じゃなくて、手に持って。

 

ダイビングショップのプリンターにSDカードを刺して、その写真を選択。5枚プリントアウトして、走って戻る。

 

「はい、桜内さんも」

 

「え、あの……ありがとう……」

 

さっき俺の目を潰しにかかったとは思えないほど狼狽えながらお礼をされた。そんなに不思議ですか?俺があなたにも写真を持ってきたことが。

 

「そういえばシンくん、お土産渡すんだじゃないの?」

 

「あぁ、そうだったね。果南ちゃん、悪いんだけどお皿を人数分持ってきてもらえる?」

 

「ん?いいけど……」

 

果南ちゃんがダイビングショップに戻りお皿を取りに行く。

 

曜に言われて思い出した。

俺はリュックサックからクーラーバックを取り出し、それをテラスの机の上に置く。

 

「あれ?この匂い……みかんだ!!」

 

「うん。正解」

 

千歌の言う通り中身はみかんだよ。でも普通のみかんじゃない。

 

「はい、お皿持ってきたよ」

 

「ありがとう」

 

お皿も来たのでクーラーバックを開ける。そこには俺の作ったみかんタルトが7つ、冷気と共に姿を現した。

 

「「 おぉ!! 」」

 

みかん好きの千歌と曜は嬉しそうに声を上げてる。うん、喜んでもらえると作った甲斐があったね。

 

「これ、あなたが作ったの?」

 

「そうだよ」

 

俺の家、みかん農園“イーストサン”はこの時期、スーパーや八百屋さんにもみかんを買ってもらっている。文明の利器(ビニールハウス)で栽培したものは天然の太陽をいっぱいに浴びたものより味が落ちる為だ。それでも充分美味しい自信はあるけどね。

 

ただ、農園の宿命かなのかな?どうしても形の悪い物が出来上がってしまうこともある。形が悪いってだけで売り物にならなくなっちゃう。

味は変わらないのに、形が悪いってだけで破棄するのは心が痛む。

 

なので、そういうのは俺や父さんがお菓子にしてしまうのだ。これなら形なんて関係ないし、ほかの材料費や時間はかかるけど、せっかく作ったのに捨てちゃうよりは絶対良いはずだからね。

 

まぁ、俺が作るようになったのはただのみかんに飽きただけなんだけどね

 

 

「あ、でも桜内さん」

 

「なに?」

 

「そろそろ名前で呼んでほしいな」

 

千歌から聞いてるはずだし、知らないとは言わせない。

名前を呼んでくれたら桜内さんにも恵んであげようじゃないか。

 

「……あ…ひな……ん」

 

「聞こえませーん」

 

「……あさひ……くん」

 

「聞こえませーん」

 

「朝比奈くん!」

 

「聞こえませーん」

 

「聞こえたでしょ!!」

 

痛い。机の下で脛蹴られた。もう俺に対する暴力に躊躇はないみたいだ。これは仲良くなったって喜ぶべきかな?

 

「いてて……。よく言えましたっと」

 

俺はクーラーバックの中から桜内さんのお皿にみかんタルトを乗せてあげる。

すると、やっと解き放たれたかのようにみかんの甘酸っぱい香りがテラスに広がって行く。

 

千歌は待ちきれないと言わんばかりによだれを口の端から零している。曜と果南ちゃんも桜内さんのお皿に乗ったみかんタルトに釘付けだ。

 

「シンちゃん、早く早く!」

 

「はいはい」

 

3人のお皿にも乗せて、家から持って来たフォークを配る。

最後に自分のお皿に乗せて、さぁ食べようと思った時だ。千歌が提案してきた。

 

「ねぇねぇ、どうせなら乾杯しない?」

 

「なにに?」

 

「う〜ん……じゃあ『梨子ちゃんが海の音を聴けた記念日』に」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「あ、じゃあ飲み物持ってこないと」

 

「大丈夫だよ、果南ちゃん」

 

果南ちゃんはまた席を立って店の中に向かおうとするが、それを千歌が呼び止めた。

まさか千歌が飲み物を持ってきてるのだろうか。

 

「シンちゃんのみかんタルトがあるもん。これで乾杯したい」

 

「…………」

 

随分と嬉しいこと言うじゃん。そうだよね、別に乾杯は飲み物じゃなきゃいけないなんてルールはないしね。

 

「じゃ、行くよ〜」

 

「落とさないようにね?」

 

「そう言う人が大体落としそうじゃない?」

 

「え?え?本当にやるの?」

 

「諦めたほうがいいよ、桜内さん。千歌に関わっていくならこのくらい慣れないと」

 

みんな口々に言いながらも皿を持ち上げる。

 

「それじゃあ!『梨子ちゃんの海の音聴けた記念日』に……」

 

「「「「「 かんぱ〜い!! 」」」」」

 

カンっと各々のお皿と笑顔を交わし、淡島全体に届くように俺たちは乾杯をした。

 

その時一瞬だけ見せた、果南ちゃんの寂しげで羨ましそうななんとも言えない表情の意味を、俺はまだ知らない。




オリキャラ紹介

名前: 美郷蓮

趣味: シャドーボクシング ミット打ち

特技: 勉強 運動 人心掌握

好きなもの: 幼馴染の作るお弁当

概要: 朝比奈信一の親友。背が高く、運動神経抜群の成績優秀。加えてイケメンで性格も誠実。寡黙で天然。

どこに行ってもモテるが幼馴染一筋の一途な男。
幼馴染と一緒にいることが当たり前過ぎて、両想いにも関わらず相手の気持ちに気付けない。

夢はプロキックボクサー。自分の夢は自分で叶えると心に決めていて、ジムの月謝やグローブなどの器具は全て自分のバイトしたお金で払っている。

小学生の頃同じジムの信一と知り合い、良きライバルと考えているが実力は蓮のほうが格段に上。プロを目指している蓮と趣味でやっている信一では差が出るのは当たり前だが、それでも見下したりしない。

基本バイト先は沼津駅周辺。その近辺ならわりとどこにでも出没する。

得意科目は全部。
苦手科目はなし。ただし恋愛に関しては0点。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。