あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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遅れて申し訳ありません。

こんな拙作ですが、お気に入り登録してくれた方々、待たせたな(イケボ)

スクフェスのイベントがね……ポイント報酬で花丸ちゃんだったんですよ。推しメンがポイント報酬ならやるしかないでしょ!?
まぁ、その甲斐あって花丸ちゃん3枚。ついでにランキング報酬の果南ちゃんも3枚ゲットしました。

それでは、作者のゴミのような努力は脇に投げ捨てて本編をどうぞ!


第4話 作詞なんてものは気分で片付けろ

“海の音”を桜内さんが聴けた翌日。

お寺で禿丸さんにみかんを渡し、恒例の花丸との読書会に興じている。

 

「…………」

 

「…………」

 

お互い無言になりながら本の文字を目で追い、その文字の羅列が創り出す場面を夢想する読書という行為はやはり楽しい。

 

だが、今日の花丸は少し様子がおかしい。

 

5分以上経つのにページをめくらない。どちらかと言うと、本を眺めながら考え事をしてるみたいだ。

 

「ハァ…………」

 

そしてこのため息。なんかあったのかもしれない。

 

「ズズズ……ふぅ、美味しい」

 

でも俺には関係ないしね。今日も今日とて花丸の淹れるお茶は美味しい。

 

「ハァ…………」

 

チラリと俺を見てからもう一度ため息をついてる。それでも俺は気にせず本をめくり、ペラリという馴染み深く耳に優しいを音を物語のお供に楽しむ。

 

同じ轍を踏まないように、今日はちゃんと花丸がくれた栞を挟んでいる。黄色いリボンがアクセントの綺麗な栞だ。

実は気に入ってたりする。

 

「ハァ…………」

 

「どうしたの?月の日?」

 

「ふん!」

 

「おっと危ない」

 

いい加減煩わしくなったので心配してみればお盆の縁を振り下ろすこの仕打ち。ただし、今回は上体を軽く逸らして避けてやった。ドヤァ。

 

「信一くん、今のセクハラされたってクレーム入れるずらよ?」

 

「花丸が心配で心配で仕方ないよ。何か悩み事でもあるのかな?」

 

「信一くんのそういうところ、嫌いじゃないずら」

 

「俺も優しい自分が大好きだよ」

 

「好きとは言ってないずら」

 

あっそ。先週言ってたような気がするけどね。

 

さて、とてつもなく面倒くさいことに花丸の悩み事を聞かなければいけなくなっちゃった。

別に時間はあるからいいけどさ。

 

「それで、なんかあったの?」

 

「うん…………」

 

聞いてみると、花丸は肩を落としてしまった。

 

一応周りを確認。見方によっては俺がいじめてるように映るかもしれない。禿丸さんに見られてそんな誤解をされたら給料が消える。

 

「先週マルが入学式だったのは知ってるよね?」

 

「うん。言ってたね」

 

「そこで幼稚園の頃の友達に再開したずら」

 

「へぇ。すごい偶然だね」

 

「ずら……」

 

コクリと力無く頷く様子から、その再開した友達とやらが花丸の悩みの種ってところかな。

 

「善子ちゃんって言うんだけどね。その善子ちゃんが入学式以来来なくなっちゃった……」

 

「ふぅん」

 

不登校か。学校という閉鎖された集団生活が行われる場所なら悲しいことに珍しい事案じゃないね。

 

でも、入学式からって言うのはちょっと変だな。

 

「なんか原因に心当たりは?」

 

「たぶん自己紹介だと思う……」

 

「自己紹介で……不登校?」

 

それはまた随分と新しい登校拒否だね。花丸には悪いけど、ちょっと面白そう。

 

「どういう自己紹介だったか覚えてる?」

 

「う〜んと、確か『堕天使ヨハネと契約して、あなたもリトルデーモンに……なってみない?』だった気がするずら。それでクラスがし〜んとなって善子ちゃん、教室飛び出してっちゃった……」

 

花丸が右手をチョキにしておでこに当て、左手を右肘に添えた変なポーズでかなりイタいことを言う。きっとその善子ちゃんの物真似だろう。

 

「学校生活、棒に振ったねぇ」

 

「それはさすがに言い過ぎずら」

 

不登校になった時点で間違ってないと思うけど。

 

それにしても、“堕天使ヨハネ”で名前が“善子”か。

なんか最近は数年前の記憶を引っ張りだされることが多い気がする。

 

「1つ聞いてもいいかな?」

 

「なんずら?」

 

「もしかしてその善子ちゃんの苗字ってさ、“津島”だったりしない?」

 

「信一くん、善子ちゃんと知り合いなの!?」

 

「やっぱりか……」

 

とても悲しいことに俺の予想は的中してしまった。まだその設定で生きてたのか、あのヨハ子は……。

 

ウチ(イーストサン)は、沼津市内の中学1年生が1月中に行う特別授業、職業体験の体験場所の1つになっている。

4年前のその時期、毎年恒例の職業体験に中学生5人が派遣されてきた。その中に花丸の幼稚園の頃の友達であり、今話題に上がっている津島善子ちゃんがいた。

 

ここでぶっちゃけてしまえば、イーストサンはあまり職業体験の場所としては人気がない。特に津島善子ちゃんが通っている中学校では。

理由は単純に沼津から遠いからだ。そして1月といえばみかんが旬な時期。つまり仕事も多い。

 

職業体験は1つの学校ごとに3日間行われ、彼女の学校が行う3日間の内の1日が俺の通っていた中学の創立記念日だった。それが、俺と津島善子ちゃんの出会いのきっかけ。

 

中1の頃から“堕天使ヨハネ”を名乗ってた彼女は5人の中でも浮いていた。それを見抜いた父さんは2人1組に分け、必然的に余る善子ちゃんを俺に割り当てたのだ。

 

たった1日だけ一緒に仕事をして、彼女の身の上話も聞いた。

どうやら善子ちゃんはとんでもない不幸体質だったらしい。

 

行きたかった職業体験の場所は全てハズレ。しかも、同じ体験場所になったメンバーは全く知らない人達。

 

まぁ、ここまでなら珍しい話じゃないよね。

 

でも彼女は、驚いたことにみかんが嫌いだったんだ。嫌いなみかんを育てているみかん農園が体験場所に当たってしまった。見事な不幸っぷりに当時の俺は関心すらしたよ。

 

これだけキャラクターの濃い人間は4年たった今でもよく思い出せる。

まぁ、堕天使を名乗るわりには仕事の覚えも良く、それなりに一生懸命やってたので好印象だったね。

 

そんな中途半端に善い子だったので、俺は“ヨハ子”と呼んでた。そう呼んだ時の反応は実に楽しいものだったよ。

 

「あの子、わざわざ浦女まで通ってるってことは……厨二病を卒業して高校デビューしようとしたのかな」

 

それで失敗して不登校になった、てかんじかな。

卒業するならするでしっかりすればいいのに。

 

「ねえねえ」

 

「なに?」

 

「善子ちゃんに学校来てもらうにはどうしたらいいかな?」

 

「ほっといていいんじゃない?」

 

「ずらっ!?」

 

何をそんなに驚くのだろう。

 

「やっぱり……信一くんはそういう考えなんだね」

 

「そういうって?」

 

「人の心を持たないって意味ずら」

 

またその話か。

 

「じゃあ逆に聞くけどさ、どうして花丸はそんなに善子ちゃんに学校に来てほしいの?」

 

幼稚園が同じだったと言っても、10年近く離れていた他人だ。

そんな他人にどうしてそこまでこだわるのかが知りたい。

 

少し語気を強めて尋ねると、途端に花丸がしょんぼりと八の字眉を作った。

 

「だって、せっかく再会できたんだもん……。また一緒にいたいずら……。それとも善子ちゃんには余計なお世話って思われてるのかな……?」

 

俯いて若干目に涙も浮かんできてる。

そんな花丸の様子を見て、少し言い方が悪かったと反省。

 

ハァ……本当に俺は人の心がないのかもしれないな。

 

手元の本に挟んでる栞のリボンを見て、花丸は仲良くなった相手にはとことん親切なことを思い出す。

赤の他人だろうと、その人のことを考えて頼まれなくても助けようとする優しい女の子。

 

俺から見ればただのお節介焼きだけど、そこが花丸の美点なんだもんね。そんなこと、前から知ってたはずなのになぁ。

 

ポンと花丸の形の良い頭に手を乗せる。涙目で俺を見る花丸の顔はとても不安そうだ。俺が怒ったとでも思ったのかな?

そんな顔は似合わないよ。

 

「花丸、目瞑って?」

 

不思議そうに首を傾げながらも言う通り目を瞑ってくれた。うん、良い子だね。

 

頭に乗せている右手で優しく撫でながら、左手でバックパックからある物を取り出し包装を解く。

 

「い、いきなりどうし……むぐっ!?」

 

そしてそれを、思いっきり花丸の小さなお口にねじ込んでやった。

 

普段しない俺の行動に困惑していた花丸は、いきなり押し込まれたもの……みかん饅頭に驚きたまらず目を見開いた。

 

しかし、咀嚼してるうちにあんこの甘さとみかんの爽やかさを舌で確認して顔が綻んでいく。

花丸の好物はみかんとあんこ。その2つを組み合わせたみかん饅頭は俺の得意料理でもある。

 

「そこまで考えてあげてるなら大丈夫じゃない?」

 

「なにが?」

 

「花丸は善子ちゃんが大好きなんだから、善子ちゃんだって花丸のことを悪くは思ってないよ」

 

「ホント……?」

 

「根拠はないけどね」

 

でも、普通そうでしょ。自分が相手に好意を向けるってことは、その相手が自分に好意を向けられるだけのことをしてくれたってことだし。

 

そんな人が自分を気遣ってくれる人を邪険に思うとは考えにくい。

特にあのヨハ子ならね。

 

「それにそんな迷惑かもしれないって顔に出してたら相手も困るし。ほら、スマイルスマイル」

 

少しまくし立てるような勢いだけど、このくらいが花丸にはちょうど良いだろう。

そう思いながら柔らかいほっぺたを摘まんで軽く持ち上げる。

 

「うん、やっぱり花丸は笑ってたほうが可愛い」

 

「可愛いって……信一くんのほうが可愛いずら」

 

そこは素直に照れてほしかった……。

 

まぁ、ちょっと顔を赤くしてるし照れ隠しだよね。そうであると信じよう。

 

「そういえばマル、すくーるあいどる?っていうのに誘われたずら」

 

「……………………………はい?」

 

「入学式の日に2年生の先輩にすくーるあいどる部に入らないかって」

 

マジか……。いや、まだわからない。もしかしたら千歌の他にもスクールアイドル部を設立しようとしてる人がいたのかもしれない。

 

「どんな人だったの?」

 

「アホ毛が特徴的な童顔の先輩ずら」

 

「花丸、俺の分のみかん饅頭も食べていいよ」

 

「ありがとう♪」

 

アホ毛の童顔。間違いなく千歌だね。あいつしかあり得ない。

 

千歌が勧誘したかった3人と1年生の内の1人が花丸だったのか……。

こんなみかん饅頭を満面の笑みで美味しそうに食べる奴が誘われるとはね。確かに可愛いけど。

 

部活の設立には最低5人必要だったから、花丸も入れた3人が入れば5人になるな。それとなく探りを入れてみるか。

 

「花丸の他にも勧誘されてた1年生って誰かいた?」

 

「う〜んと……マルと一緒にいたルビィちゃんと善子ちゃんずら。たぶんマルが誘われたのはルビィちゃんのついでだと思う」

 

「ついでではないと思うけどね。それで、スクールアイドル部に入るの?」

 

「マルには無理ずら。そもそも運動苦手だし」

 

そうだった……自分で回ってコケるくらいには悲しい運動神経の持ち主だった……。

 

アイドルは歌って踊る。単純な体力に人並み以上の肺活量が必要になり、それ以外でも大勢の前で常に笑顔でいるメンタルが大切だ。

残念ながら花丸には難しいかもしれない。

 

「てか、善子ちゃんも誘われてたんだ。あとルビィちゃんって言うのは花丸の友達だ……よ…………」

 

ルビィちゃんとは花丸の親友。

友達を進んで作らない花丸に中学の時できた友達で、名前は確か……()()ルビィ。

信夏の配達先でもある黒澤家の次女で、黒澤ダイヤさんの()

 

「どうしたの?」

 

「花丸、そのルビィちゃんと会えるかな?」

 

「信一くんが?」

 

「うん」

 

会ってダイヤさんがどうしてスクールアイドルに詳しいのに嫌っているのかを聞く。そうすれば、もしかしたら千歌たちの助けになるかもしれない。

 

「たぶん無理だと思うずら」

 

「なんで?」

 

「ルビィちゃん、極度の上がり症で男性恐怖症ずら」

 

そっか……。いや、俺の見た目なら女装してミックスボイスで女声を出せば……止めよう。

男の尊厳まで捨てる気にはなれない。

 

「わかった」

 

「なにか用があるならマルが代わりに伝えようか?」

 

「大丈夫。ありがとね」

 

やっぱり自分たちで解決するしかないのかな……。

 

幸せそうにみかん饅頭を頬張る花丸を見て、結局スクールアイドル関連では近道がないことを再認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。千歌から連絡があり、桜内さんが作曲をしてくれるようになったと伝えられた。

 

ただ、作曲するには歌詞が必要であり、その歌詞は今どこにあるかというと……どこにもない。

そもそも歌詞自体を考えてなかったので、今日は『十千万』で作詞をすることになった。

 

いつも通り海岸で潮風による吐き気を堪えながら待って、そこで合流。俺たちは『十千万』に向かう。

 

「そういえば桜内さん、浦女に転入したの?」

 

「「 今さら!? 」」

 

「いや、だってそんなこと千歌も曜も言ってなかったし」

 

毎朝千歌が梨子ちゃん梨子ちゃんいってるからなんとなく予想はついてたけどさ。

 

「音ノ木坂のブレザーも似合ってたけど、浦女のセーラー服だって負けないくらい似合ってるよ」

 

「…………」

 

しまった……またセクハラとか言われて攻撃される。

 

俺は両手を顔の前に上げ、目潰しがきてもパーリングで対処できるように身構えて桜内さんを見据えておく。ここまで構えれば、素人の女子高生なんて怖くないね。

 

「ふふ、ありがとう。朝比奈くんも臙脂色のブレザー、よく似合ってるわよ」

 

……何が起きた?なぜ桜内さんは笑って俺のことを褒めているんだ?

 

昨日までの態度を見れば、間違いなく罵倒の1つは飛んできそうなこと言ったとおもうんだけど。

 

なぜこの人は俺を優しい目で見ているんだ?

 

この人が俺を見る目はゴミ、もしくはクズ、あるいはゴミクズを見る目だったはずなのに。超怖いんですけど。

 

まぁ、優しくしてくれるならそれに甘えておこう。俺だって隣を歩く女子高生に常に警戒しなくちゃいけないのは御免だよ。

 

「やっぱり可愛い子は何を着ても似合うのかな?」

 

「褒め過ぎよ。朝比奈くんだって可愛いじゃない。男なのがもったいないくらい」

 

なるほど……物理的な攻撃は効かないと気付いて精神攻撃に移行したわけか。

やりおるな。

 

「羨ましいなぁ、そんなに可愛いと寄ってくる男子はたくさんいるんじゃ……っ!?」

 

あれ、おかしいな。『十千万』の門をくぐって見える玄関が滲んでるよ。

しかも目から海水が……あ、違うこれ俺の涙だ。

 

そんなやりとりを頭の中で行い、ボロボロになる心の補強工事をしていると、桜内さんが何かに気付いてなんとも言えない顔をしている。

 

「梨子ちゃん?」

 

「い、いえ……なんでもない」

 

異変に気付いた曜が桜内さんに尋ねる。

桜内さんの視線の先。そこには、言うなればブサカワ犬が犬小屋から顔を覗かせていた。

高海家が飼っている犬。名前はしいたけ。

 

「もしかして桜内さん、犬苦手?」

 

「そ、そんなことないわよ!?」

 

めっちゃテンパってる。図星かな。

 

「しいたけは大人しいよ?ほら、おいでしいたけ」

 

でも、これはしいたけが可哀想だ。ずっと桜内さんを見てるってことは仲良くなりたいのかもしれない。

なのに怖がられるのは、あまりにも不憫すぎる。

 

手招きし、小さい頃から面識のある俺はしいたけを呼ぶ。

この辺はペットを繋いでない人が多いので、のそのそと俺のほうに来てくれた。

 

そして、俺のローファーに後ろ足で砂をかけ、のそのそと犬小屋に戻る。

 

「……………………………………」

 

面識はある。でも、仲が良いとは言ってない。

 

これはあれだ。イヌ科の生物は柑橘類の匂いが苦手だからなのだ。それははみかん農園で働いてるから仕方ないわけで、断じて俺がしいたけに嫌われてるわけではない。

 

「シンくん、大丈夫?」

 

「ちょっと最近三味線が欲しくてね。おっと、あんなところに良い皮をしたワンちゃんがいるみたいだ」

 

「ストップ!しいたけを三味線にしちゃダメ!」

 

離すんだ曜。いつもいつも俺の靴に砂かけやがって!しかも憎たらしいことに、その為だけに出てきましたと言わんばかりに犬小屋に戻っていく。

 

「朝比奈くんの後ろにいれば大丈夫ね……」

 

おい、聞こえたぞ桜内。

なに俺を犬避けと同時に精神攻撃しようとしてんだ。

 

その意図を伝える為に睨んでいたら睨み返された。

ごめんなさい。

 

「もう!みんな早く私の部屋行こうよ〜」

 

千歌はなにやら自分が仲間に入れてないと思ったのか、不機嫌そうに服を引っ張ってくる。

 

なんで俺だけこんなに四方八方から攻撃されるんだろ?

 

日頃の疑問は今日もまだ尽きない。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって千歌の部屋。いつもは3人で集まっている場所に4人いるのは少し新鮮だね。

 

未だに俺と桜内さんの睨み合いは続いている。

 

「それで、千歌ちゃんはどんな歌にしたいの?」

 

「もちろん恋の歌!」

 

「恋?」

 

作詞の上で1番大切なコンセプトを質問した曜は、千歌の口から一生出るとは思えない言葉に目を丸くしてる。

 

かくいう俺もたぶんめちゃくちゃ驚いた顔をしてるだろうね。

 

「千歌?恋って言った?」

 

「うん!μ'sのスノハレみたいな曲を作りたい」

 

Snow halation

 

μ'sが第2回ラブライブ最終予選で披露した曲だ。

μ'sに今までなかったラブソングとでも言うべきアイドルらしい歌詞は、聴けば誰もが共感できるものだった。

 

「でも高海さん、恋愛経験ないでしょ?」

 

「なんで決めつけるの〜」

 

「あるの?」

 

桜内さんの問いかけにわりと本気で俺も聞き入る。千歌に恋愛経験があるのは……なんかちょっとイヤだな。

 

「ないけど……」

 

ふぅ、安心した。何に安心したかは自分でもよくわからないけど。

しかし、千歌の言葉には続きがあった。

 

「恋ならしたこと……あると思う……よ?」

 

何故に疑問形。

 

「えぇ!千歌ちゃん恋したことあるの!?」

 

「よ、曜ちゃん!恥ずかしいから大声で言わないでよ!」

 

「千歌、その話詳しく聞かせてもらっていいかな?」

 

「シンちゃんまで!?」

 

あたりまえだろう。

 

千歌と恋=水と油

 

の方程式が俺の中で出来上がっている。それを覆すような発言は見逃せないよ。

 

「どんな人に恋したの?」

 

「うぅ……言わない」

 

「ほらほら〜、千歌ちゃん。観念して言っちゃいなって?」

 

「今日みかん饅頭作ってきたんだけどさ、言ってくれたら俺の分あげてもいいよ?」

 

「うぅ……」

 

鞄からみかん饅頭を取り出し、千歌の部屋にあるちゃぶ台に置く。

 

余談だけど、俺はみかん饅頭を作るとき2種類作る。

1つはあんこ多めの甘いやつ。もう1つはみかん多めのさっぱり系。

 

On the ちゃぶ台のみかん饅頭は千歌も好きだと言っていた。さぁ、自分の恋バナとみかん饅頭という千歌にとっては究極の選択だね。

 

どっちを選ぶのかな?

 

「お饅頭食べたいけど……言わない!恥ずかしいもん」

 

「へぇ、じゃあ俺が食べよ」

 

朝は花丸にあげちゃったから食べてないしね。自分の為に作ってるのに食べられなのは悲しいのでいただこう。

 

「いっただきま〜す」

 

「あぁ……」

 

俺が自分の口元にみかん饅頭を持ってくると、とんでもなく悲壮な顔をする千歌。

言ってればこれも千歌のになってたのにね。

 

「むぅ……じゃあじゃあ!シンちゃんは恋愛経験とか恋とかしたことある……あっ」

 

「へぇ、千歌が俺にそれ聞くんだ?いい度胸だね?」

 

「ちょっと私〜、お手洗いにヨーソローしてくるであります」

 

「はは、待ちなよ。俺の恋バナでも聞いてからでいいんじゃない?」

 

「「 ひぃっ!? 」」

 

逃げようとする幼馴染2人を取っ捕まえて、強制的に出口から1番遠い場所に正座させる。もちろん座布団なんて気の利いたものは渡さない。

 

2人の怯えように桜内さんは首を傾げている。

 

「何かあったの?」

 

「まぁ、中学の時いろいろとね。この2人が原因で俺に彼女が出来なくなったんだよ」

 

「何があったかは知らないけど、たぶんそれが原因ではないと思うわ。朝比奈くんが人類から好かれるはずないもの」

 

桜内さんは俺の何を知っていて、ここまで断言できるのかな?

 

「まぁ、それはそれとしてね。この2人って美少女じゃん?」

 

「え、えぇ……そうね」

 

いきなり俺が2人を直球で褒めたことに桜内さんは戸惑っている。

そう。元を辿れば俺の幼馴染が美少女ということが最悪なのだ。

 

中学生といえば、男女問わず恋に恋する時期だろう。

俺たちの通っていた学校もそうだった。

 

やれ、あの子が隣のクラスのあいつに告白するだとか。

やれ、あいつがあの子と付き合い始めただとか。

やれ、ちょっとあいつ彼女できたから海に沈めようかだとか。

 

そんな会話は毎日のようにクラス中で飛び交っていた。

だからと言って俺には関係のない話だった。容姿がコレだから俺に告白してくる女子なんていないわけではなかったが、それでも1年に1回あるかないか程度だった。

 

それに対して何も思わないわけじゃない。俺だって年頃の男子だ。モテたいとか、告白されたいとかそういう感情はあった。

と言っても、こればっかりは俺がどんなに頑張ってどうしようもない。

そう諦めていると、事件が起きた。

 

千歌と曜が偶然にも同じ日に告白されたのだ。

 

それ自体に俺は口出しはしないし、2人がどう答えようとどうでもよかった。

しかし、この2人の答えは俺にとって最悪なものだった。

 

『私、幼馴染の朝比奈信一くんと付き合ってるから』

 

そう答えたらしい。

 

たぶん男避けに使おうと考えたんだろうね。でも、それを同じ日に2人が言ったことが問題だった。

 

俺は可愛い幼馴染2人に二股をかける最低な男ということが学校中に広まっちゃったわけだ。

その結果、俺は中学時代はもちろん、今の高校でもその噂が広まって男女共にあまりよく思われていない。

 

「とまぁ、こんなかんじでね。あ、2人とも?誰が正座崩していいって言ったのかな?」

 

「「 ご、ごめんなさい…… 」」

 

桜内さんにそのことを話し終わった途端にさりげなく足を崩そうとした可愛い幼馴染2人に笑顔で注意する。

 

2人とも悪気があったわけじゃないのはわかってる。頻繁に告白されて、うんざりしてるってよく愚痴ってた。しかも、同じ日に幼馴染が告白されてるなんて知る由もないし仕方がない。

 

でもさ、それはそれ。これはこれだよね?

俺、もう学生時代に恋人できなくなっちゃったわけだし。

 

「桜内さんは恋愛経験ないの?」

 

「わ、私!?」

 

「そうだよ!東京の女の子だもん!彼氏とかいなかったの?」

 

「梨子ちゃん美人だからモテモテだったんじゃない!」

 

「2人とも……座れ」

 

「「 はい…… 」」

 

まったく、これは俺なりのお仕置きなんだから大人しく受けてもらわないとね。しかも千歌が自分で掘り返したんだから。

 

中学時代のことを根に持つな、とよく言われるけどさ。それが今に響いてるんだから怒るのは当然でしょ。

 

「それで、桜内さんはないの?」

 

「私は……ないわね。ピアノばっかりやってたし、音ノ木坂は女子校だったし……」

 

「チッ、使えないね」

 

「あ゛……?」

 

「お?」

 

再び睨み合いが勃発。なんだ、やんのか?

 

「あ!あ!でもさ、恋の歌を作ったってことはμ'sの誰かがその時恋愛してたってことじゃない?ねぇ、千歌ちゃん?」

 

「そ、そうだね曜ちゃん!ちょっと調べてみる!」

 

「千歌ちゃん!?」

 

正座したままパソコンを手繰り寄せて調べ物を始める千歌の行動に、曜は裏切られたと言わんばかりに悲痛な声を上げる。

きっと俺と桜内さんの睨み合いを止めようとしたんだね。

 

でも安心していいよ。止められてもやめる気なんて毛頭なかったから。

 

「ふ、2人とも……喧嘩しないでよ〜」

 

あたふたと困っている曜に、俺はなんとなくゾクゾクくる。なんだろう、この感覚。

 

「それにしても、高海さんって本当にスクールアイドル好きなのね」

 

「確かに。スクールアイドルっていうかμ'sが好きなのかもしれないけど。すごい熱の入りようだよ」

 

「だってキラキラしててかっこいいもん!だから大好き!」

 

さすがに困らせ過ぎるのは可哀想だと思った桜内さんが話題を変えてきたので、俺も乗っかる。できれば、あの感覚がわかるまで続けたかったんだけどなぁ。

 

画面から目を離さず俺たちに応える千歌は本当にμ'sにご執心だね。

 

「ご執心……か…」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんとなくμ'sとかスクールアイドルに入れ込む千歌がね……恋する乙女にしか見えなくて」

 

「千歌ちゃんが恋する乙女?」

 

ちょっと俺には似合わないセリフかな。こういうのはもっとさりげなく言うのがかっこいいのかもしれない。

 

「それだよシンくん!」

 

「うわっ!?ビックリしたぁ」

 

「あ……ごめん」

 

いきなり大声を出す曜に抗議の視線をぶつける。

 

「それで、なにが“それ”なの?」

 

「千歌ちゃんは今、恋してるんだよ!スクールアイドルに!」

 

「そうだろうね。だから?」

 

一応遠回しにそう表現したはずだ。でも、それをはっきりと明言した曜のセリフになんの意味があるのかな。

 

「あ、なるほど……」

 

桜内さんは曜が何を言っているのか理解したように、膝を打った。

 

俺だけ解ってないって言うのは、なんか嫌だな。

 

「曜、どういうこと?」

 

「だ・か・ら、千歌ちゃんはスクールアイドルに恋してるわけだよ?だったらその気持ちを詩にすればいいんだよ!」

 

「そういうことか……」

 

なるほどね。確かにそうだ。

別に“恋”って感情が男女の仲だけというわけじゃない。盲点だった。

 

今も俺たちに目を向けず、夢中でμ'sについて調べる千歌は正に『恋は盲目』ということわざがお似合いだ。

 

「千歌ちゃん」

 

「なに〜?今調べてるんだけど」

 

「スクールアイドルが好きな気持ち、詩にしてみたらいいんじゃないかな?」

 

「今の高海さん、スクールアイドルやμ'sに恋してるようにしか見えないわよ」

 

「私が……あの人たちに恋?」

 

「うん。だから、千歌ちゃんのスクールアイドルが好きって気持ちをそのまま歌詞にするの。それなら書けるんじゃない?」

 

「好きって気持ちを……歌詞に……」

 

曜の言葉を噛み砕くように繰り返し呟き、顎に手を当ててその意味を考える。

そして理解したのかな。ぱぁっと一気に千歌の顔が輝く。

 

「そっか!うん、それなら書けるよ!」

 

そう言うと素早く立ち上がり……はしたものの、長時間の正座のせいで足が痺れたらしく、這って卓袱台に向かう。

鞄からルーズリーフを取り出して、シャープペンでさらさらとさっそく書き始めた。

 

どさくさに紛れて足を崩そうとする曜には、しっかりと目線で釘を刺しておく。

まだ許したわけじゃないからね。

 

「うぅ……」

 

それにしても、いつもハキハキとしてる曜に意地悪すると心の奥からゾクゾクとくるこの感覚。

いや、違うな。意地悪されて涙目の曜を見てるとゾクゾクくるんだね。

 

この気持ちは何だろう?この気持ちは何だろう?

 

春だからこんな気持ちになるのかな?

 

「できた!」

 

「もう?」

 

笑顔で顔を上げた千歌の手には文字の書かれた紙。まだ5分も経ってないはずだけどな。

 

「違うよ。好きって気持ちを歌詞にしたら、たぶんこんな風になるっていう参考」

 

桜内さんに渡された紙を横から覗き込むと、そこには『ユメノトビラ』と題名が書かれた歌詞があった。

 

「『ユメノトビラ』?これもμ'sの歌なの?」

 

「そうだよ」

 

歌詞を見ながら聞いてくる桜内さんに答える千歌は、本当に嬉しそうだ。μ'sの話題が出ただけでこんなに楽しそうになるんだもんなぁ。

 

「本当に千歌はμ'sが好きだね?」

 

「うん、大好き!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、俺と曜は『十千万』を出て終バスに揺られている。

 

結局7時前になるくらいまで4人でいたが、スイッチの入った千歌が歌詞を完成させるのは時間の問題となったので俺たちは解散という流れになった。

 

だが、桜内さんは今ここにいない。いくら俺をいじめてくる相手でも、一応女の子なので家まで送ると提案したところ、どうやら家は『十千万』のすぐ近くらしい。

 

まぁ、考えてみれば納得だよね。初めて会った日とか『十千万』の前の海に飛び込もうとしてたわけだし。

そんなことするなら、わざわざ家からバスに乗らないといけない場所は選ばないはずだ。

 

そんなわけで、今は俺と曜の2人きり。1番後ろの席で曜を窓側に座らせておく。俺のほうが降りるの早いからこれはあたりまえだよね。

 

「『ユメノトビラ』かぁ…どんな歌なんだろう」

 

「聴いてみる?」

 

隣で小さく呟く曜に、俺は音楽プレーヤーを出しながら答える。

なんか千歌の話を聞いていたら久し振りに聴きたくなっちゃった。

 

「シンくんもμ's好きだったの?」

 

「まぁ、μ'sが活動してた時は応援してたよ。だから歌も全部入ってる」

 

「へぇ〜」

 

イヤホンの片方を俺の耳にセットし、もう片方を曜に渡そうとして……ありゃ、届かないや。

 

それを察した曜が俺の肩に頭を預ける。その瞬間、髪からなんとも言えない良い匂いが漂ってきた。たぶん曜が使ってるシャンプーと曜自身の匂い。

 

ハァ……それにドキリとした自分を今すぐぶん殴りたい。痛いからやらないけど。

 

「シンくんさぁ、千歌ちゃんが恋したことあるって言った時結構食いついてたね?しかもちょっと怖い顔してた」

 

音楽が流れ始めてから数秒、曜がいきなりそんなことを言い出す。

 

「食いついたのは認めるけど、怖い顔なんてしてた?」

 

「うん。それはもう、鬼のような怖〜い顔だったよ」

 

両手の人差し指を立て、頭の上に乗せて鬼のポーズ。

あんまり動かないでほしいな。いい匂いがまき散らされるから。

 

カラカラと俺をからかうように笑う曜だけど、途端に真剣な顔になる。

 

「シンくんは……千歌ちゃんのこと、好きなの?」

 

「どっちの意味?Love or Like?」

 

「Loveのほうで」

 

あんまり真面目な雰囲気が好きじゃない俺は、英語を良い発音で言っておどけてみるけど、どうやら払拭できないみたいだね。

一応曜も乗ってくれたけど、顔は真剣なまま変わらない。

 

「さぁね。わからないよ」

 

「じゃあ、千歌ちゃんに彼氏とかできたら嫉妬する?」

 

千歌に彼氏かぁ……。

 

嬉しそうに千歌が俺じゃない男と腕を組んでいる様子を思い浮かべる。

楽しそうに千歌が俺じゃない男と話している様子を思い浮かべる。

幸せそうにに千歌が俺じゃない男と食事をしている様子を思い浮かべる。

 

「……うん、なんか嫌だな」

 

「やっぱり……」

 

「でも、たぶんこれ嫉妬じゃないよ。うまく言えないけど……疎外感とかそんな感じの感情だと思う」

 

小学校に上がる前からずっと一緒にいた千歌が俺じゃない男と仲良くしてるのは寂しい。千歌が俺じゃない男を俺よりも優先するのはつまらない。

でも、ただそれだけだね。

 

「曜に彼氏ができても、なんか嫌だし」

 

同じ状況を曜に置き換えてシュミレートしてみるけど、千歌の時と同じ気持ちになった。

つまり、これは単に俺が仲間外れにされるのが嫌だって感情なんだ。

 

「そっか……」

 

「うん。曜はさ、俺に彼女ができたらどう思う?」

 

「う〜ん……明日地球が滅びる確率よりも低いと思うけど……」

 

彼女ができないのは半分お前のせいだけどね。

 

「私もシンくんに彼女ができたら嫌かな」

 

「それは良かった」

 

曜の解答に俺は満足し、頷く。そう思ってくれるだけで嬉しさがこみ上げてくるよ。

 

「シンくん」

 

「ん?」

 

「大好きだよ」

 

「どっちの意味?Love or Like?」

 

「Likeのほうで」

 

さっきと同じような会話。それでも悪戯っ子のように歯を見せて笑う曜が魅力的で……だから俺はこんな幼馴染に彼氏ができてほしくないのかもしれないね。

 

「俺も大好きだよ」

 

「どっちの意味?Love or Like?」

 

「ご想像にお任せします」




オリキャラ紹介

名前: 童部紗良

趣味: 読書 刺繍

特技: 料理 栄養管理 手芸

好きなもの: 幼馴染

概要: 信一の親友、美郷蓮の幼馴染。親同士の仲が良く、家も近かったためずっと一緒にいた。
初恋の相手はもちろん蓮。それが今も続いている。

昔はわんぱくな女の子だったが、今では女子力の数値がカンストした女子の中の女子。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉が似合う学校のマドンナ。

蓮経由で信一とも中学と時と知り合い、本の貸し借りや、料理の味で勝負するなど仲は良好。
信一に対して、周囲の評判に左右されず接している数少ない女子。

得意科目: 全部
苦手科目: なし
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