あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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アニメ二期、発表されましたね!!

しかもデュエット曲や新しいユニット曲の企画も発表されて作者のテンションやばいことになってます。


第7話 チラシ配りにも正装を

「ふぅ、これで出来上がりだね」

 

自室のパソコンから顔を上げて、体を伸ばし腰をひねる。バキバキボキボキと音を鳴らしながらも、若干それに心地良さを感じたのは5時間ほど座りっぱなしだったからだろうね。

 

現在時刻は午前3時半。昨日『十千万』に行ったし、月曜日ではないので幸いにも配達がない日だ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

俺のベッドでは信夏が規則正しい寝息を立てて安心したように眠っている。

 

この時間まで俺は、いわゆるチラシを作っていた。3人がライブをやることも決まり、そのライブを絶対に成功させる為の宣伝用だ。

“ライブやります”という文字やライブの日にちはパソコンのソフトで作り、3人のイラストも載せた。このイラストは信夏が俺のデジカメに入っていた写真を参考に描いてくれたもので、出来も間違いなく上々。

丁寧でありながら可愛らしい絵は、数時間で描き上げたものとは思えない。

 

「おつかれ様。ありがとね」

 

少しめくれてしまっている掛け布団を直し、サラサラとした髪を優しく撫でる。くすぐったそうに身じろぎをしたが、起きる様子はないみたいだね。

俺の頼みごとにどこまでも期待以上の成果を出してくれる信夏は、やっぱり銀河一の妹だよ。

 

チラシの印刷は後にしよう。音で起きちゃうかもしれないしね。

 

さて、たまには俺が朝ごはんの支度でもしようかな。もうこの時間に寝たら確実に朝練に間に合わないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チラシ作ったから今日の放課後、沼津に配りに行くよ」

 

朝練の休憩タイムに俺はそのことを3人に告げた。もちろん反対意見なんてなかった。

 

「えぇ……昨日の今日でもうチラシ作ったの?」

 

「うん。信夏にも手伝ってもらってね。徹夜しちゃった」

 

「えっ!?シンくん寝てないの?」

 

「そのわりには隈とかないわね」

 

「妹の寝顔を見たら疲れなんて吹き飛んじゃうよ」

 

「さすがシスコン」

 

ありがとう。そう言う曜にはみかんをあげよう。

 

「こんな感じなんだけどどうかな?」

 

「「「 おぉ! 」」」

 

スマホで撮ったチラシの写真を3人に見せる。反応は……悪くはないね。

 

「文字はパソコンでやって、3人のイラストは信夏に描いてもらったよ。一応女の子視点から見てどうかな?」

 

「一応って……なに?」

 

「言葉の綾だよ」

 

めっちゃ千歌が睨んでくるんだけど。いや、ホントに他意はないからね。

 

「これ、可愛いわね」

 

「当然。可愛い信夏が描いたんだから可愛くないわけないでしょ」

 

「妹をここまで絶賛する朝比奈くんって……ちょっと怖いわ」

 

なぜ桜内さんは俺を褒めるということができないんだろう。不思議だ。

 

「そういえば最近信夏ちゃんに会ってないなぁ」

 

「ライブには絶対行くって言ってたよ。だからダンスも歌も完璧に仕上げていこう?もし信夏が見る舞台で中途半端なもんやらかしたら……わかるよね?」

 

「「 は、はい…… 」」

 

そんなに怯えた目で見られるのは不本意なんだけどなぁ。

 

「桜内さんもOK?」

 

「元々やるからには本気でいくつもりよ」

 

「うん、頼もしい」

 

桜内さんが作った曲は聴かせてもらった。まだ歌詞はなかったけど、曲調だけならスクールアイドルっぽさは十分感じられたよ。

 

「じゃあ最後に一回通してみよう。シンくんのアドバイスのおかげで揃ってきてるし」

 

「うん!」

曜のかけ声で千歌と桜内さんもパッと立ち上がる。本番の具体的な日にちが決まったからか、気合入ってるね。

 

そんな3人の様子を、俺はデジカメでパシャリと撮る。記録係として頑張ってる姿も記録するのは当然の仕事だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが言った。

『正当性と必要性は必ずしもイコールではない』と。

例えばエスカレーター。

 

あれは正しいのか?それとも必要だからあるのか?

 

答えは後者かな。

 

エスカレーターは確かに便利だ。階段を登ることが辛い人にとってはエレベーターの次には必要だろうね。

 

でも、あれが正しいのかと問われれば首を傾げてしまう。

階段を登ることに必要最低限な体力が衰えてしまうからだ。

 

正当性は必要性を正当化したものに過ぎない。

 

では、正当化してくれるのは誰なんだろう?

それは、それを必要としてくれる人々だろうね。

 

さて、それでは例え話をもう1つしようか。

 

例えば、女子校に通う幼馴染がいるとしよう。その幼馴染は紆余曲折あって、学校でアイドルのようなライブをやることになった。

その宣伝をする為にチラシを配らなければならない。

 

では、チラシを配る時の正しい服装は?

 

「お願いしま〜す!ライブやりま〜す!」

 

俺は幼馴染の学校が指定している制服だと思う。

 

俺、朝比奈信一は、昨日に引き続き浦の星女学院の制服に身を包んで、ミックスボイスを駆使して笑顔で今朝作ったばかりのチラシを配っていた。しかし、今日は桜内さんが貸してくれた赤縁メガネを掛けて。

 

「これ君も歌うの?」

 

「いえ、あの3人が歌うんです。自分はマネージャーみたいな感じで……」

 

「へぇ、君も可愛いんだから歌えばいいのに」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

『これは必要なこと』と、心の中で唱えて今の自分を正当化すること1258回。

その時声をかけてきたのは、いかにもチャラそうな男の人だった。

 

別にチャラそうだからってだけじゃないけど、これは完全にナンパされる流れだな。

 

「俺も結構カラオケとか行くんだよね〜。歌のコツとか知ってるんだけど、あっちの喫茶店で少し話さない?」

 

「う〜ん……嬉しいんですけど、まずはこのチラシ配らないとダメですから」

 

ほら来た。もうこれで10人目だよ。

 

男としてナンパされたいとは思ったことはある。でも、それは女の子にであって、間違っても同性からではない。

 

「あとで俺も手伝うからさ?ちょっとくらいいいじゃん」

 

「えっと……じゃあ連絡先教えてもらってもいいですか?」

 

「え、マジで!いいよいいよ!」

 

「あ、でも今日スマホ忘れちゃったんで……紙にお願いします」

 

「OK」

 

そう言ってサラサラと紙に自分のメールアドレスと電話番号、名前を書きチャラ男が渡してくる。てか、コンビニのレシートってナンパとしてどうよ?

 

「ありがとうございます!家に帰ったら連絡しますね?」

 

「うん、いつでもいいよ!」

 

「はい!」

 

とりあえず、今日学んだナンパ撃退法。

連絡先を教えてもらう、だ。

 

ここでダラダラと口説かれるのはチラシ配りの邪魔なのであえて話には乗り、連絡先を教えてもらうのだ。

こうすれば相手は俺が連絡してくれると思って帰ってくれる。もちろんしないけどね。

 

満足したように帰っていくチャラ男さんに笑顔で手を振り、見えなくなったところでハァとため息をつく。

 

そんな俺に近くでチラシを配っていた曜が近づいて来た。

 

「シンくんモテモテだね?」

 

「なんで俺にばっかり来るかなぁ……」

 

「可愛いからじゃない?」

 

「曜だって十分可愛いじゃん」

 

「シンくんには負けるよ」

 

カラカラと楽しそうに笑う曜がとんでもなく腹立つ。

 

「ま、そのおかげでチラシ配りも捗ってるんだけどね〜」

 

「なぜか俺のほうに女の子が来ない……」

 

「男の人がいっぱい来てるんだからいいじゃん。その束も3つ目でしょ?」

 

曜の言う通り、俺が配っているチラシの束は3つ目に突入していた。

しかし、俺が配るチラシを受け取っている人が9割9分9厘男性なのは何故だろう?

 

たまに通りかかる女の子にも差し出すが、顔を紅くしてさっさと行ってしまう。俺は女装しても女の子に嫌われるのかな?

 

「千歌ちゃんと梨子ちゃんはまだ1つ目も配り終わってないんだもんなぁ」

 

「千歌はもう終わりそうだけどね」

 

先ほどから明らかに気の弱そうな女子中学生を壁ドンで追い込んでは渡すを繰り返してる。

 

逆に桜内さんは最初、こういうのは苦手と言って渡せないでいた。ポスターの女の子に渡そうとした時は、おつむが沸いてるんじゃないかと疑っちゃったよ。本人曰く練習らしいけど。

 

「あれ、あの子……」

 

「ん?」

 

「ほら、今梨子ちゃんがチラシ差し出してる子。どこかで見たことない?」

 

桜内さんと対面してる人。

マスクにサングラス、水色のコートを着た変質者チックな……シルエット的に女性かな。顔が見えないし、俺みたいな例外がいるけどたぶん女性。しかも、高校生くらいに見える。

 

そんな女性の右側頭部には、確かに見覚えのあるお団子があった。

 

「中学の時の知り合いかな?俺も見たことある」

 

「う〜ん……私はつい最近会ったと思うんだけどなぁ」

 

お団子の女性は警戒するようにチラシと桜内さんを交互に見て……あ、受け取った。そしてトテテと走って行っちゃった。

 

でも、桜内さんは嬉しそうにしてる。受け取ってもらえたのが嬉しかったのかな?よく見ると桜内さんのチラシは最初とほとんど変わってない。

 

「はなまるちゃ〜ん!おーい!はなまるちゃ〜ん!!」

 

打って変わって千歌は誰か知り合いを見つけたらしい。しかも、結構俺が知ってる名前の子みたいだね。

 

まぁ、さすがにこんな偶然はないだろうし、珍しい名前だけど同名の人だよね?

 

「こんにちは」

 

「…………………………………」

 

マジか……。いや、分かってたけどね?少しは信じたいじゃん。

 

「シンちゃんシンちゃん!この2人可愛いんだよ!」

 

「シンちゃん?」

 

俺を呼ぶなぁぁぁ!?

 

よく見ると花丸の後ろには赤いツインテールが隠れてる。十中八九花丸の親友でダイヤさんの妹の黒澤ルビィちゃんだろう。

 

さて、呼ばれたからには行かないといけないな。でも、めっちゃ知り合いな花丸には絶対に俺だってバレたくないし。

赤縁メガネをしっかりと直し、降ろしてる髪も手櫛で梳かす。小さく咳払いをしてミックスボイスの準備も完了。

お願いだからバレないでくれよ。

 

「どうしたの?」

 

「ほら、この2人!前に勧誘したい1年生の話したでしょ?」

 

「してたね。あ、でも千歌の言う通り本当に可愛い」

 

「初めまして、国木田花丸って言います。こっちは黒澤ルビィちゃんです」

 

「うゆ……は、初めまして」

 

「はい、初めまして。朝比奈一女って言います」

 

よし、バレてない。なんか2人揃って首を傾げながら俺の顔見てるけどバレてない。

 

「あの、1つ質問してもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

花丸が顎に指を当てながら俺にきいてくる。なんだろう?朝比奈信一の親戚ですか、とかそんな質問かな?

 

「千歌さんが言ってた“シンちゃん”って朝比奈さんのことですよね?どうして“シンちゃん”なんですか?名前には“シン”なんてなかったと思うんですけど……」

 

「……………………………………………」

 

読書好きな花丸が推理小説を読んでるところは何度か見たことがあるけど、まさかこんな誰でも聞き流しそうなところに気付いてくるとはね。

 

……詰んだ。

 

赤縁メガネをクイっと上げて、優しく花丸に微笑む。

これで花丸が目を逸らした瞬間に逃げよう。さっきから通りかかる女の子には警戒されないようにこうやって微笑みかけてたら、顔を紅くしてどっか行っちゃってたし。

 

しかし、俺の考えを裏切るように花丸はジト〜とジト目で俺を見据え続けている。

 

「マル、朝比奈信一くんって言う1つ年上の友達がいるずら」

 

「へ、へぇ……そうなんだ」

 

「その信一くんは“千歌”っていう幼馴染から“シンちゃん”って呼ばれてるんだって言ってたずら」

 

「き、きっと仲の良い幼馴染なんだね」

 

やばい……やばいやばいやばい!ほとんどバレてるんじゃないの!?

背中に冷や汗がダラダラと流れている。

 

助けを求めるように千歌のほうを見る。千歌はチラチラとこちらを見ながらもチラシ配りに戻ってやがる。

クソ、あのクサれ幼馴染……自分の失言に気付いた時には既に逃げてたな。

 

「朝比奈さん?ちょっとメガネ取ってもらってもいいずらか?」

 

「な、なんでかな?メガネ外しちゃうとよく見えなくなっちゃうんだけどなぁ〜」

 

「なんとなく信一くんに似てるような気がするから」

 

こいつ……気付いてるぞ。ちょっと口の端がヒクヒクしてるし、何より丁寧語が抜け落ちていつもの口癖が出てる。

 

「えっと……国木田さん?この後何か予定とかあるんじゃないの?」

 

「もう終わってこれから帰ろうとしてたずら」

 

確かに学生鞄とは別に風呂敷を背負ってる。

そういえば、前に本屋に行くとつい欲しい本とか気になった本を全部買っちゃって鞄に入り切らないから風呂敷を持って行ってるとか言ってたな。

さすがに冗談だと思ってたけど、ガチだったんだね。

 

「ちょっと失礼するずら」

 

話を逸らす作戦に失敗して苦笑いを浮かべていると、業を煮やした花丸が背伸びをして俺の首元に鼻を近づけてきた。

 

「スンスン……やっぱり」

 

「に、匂いなんて嗅いでどうしたの?」

 

犬かお前は。確かに猫耳より犬耳のほうが似合いそうな丸顔だけど。

 

「ほんのりみかんの匂いがするずら」

 

「私みかん好きなんだよね。国木田さんも好き?」

 

「あとみかん以外にもよく知ってる匂いがする」

 

俺の質問を無視して言葉を続ける花丸。どう見ても俺を追い込んで楽しんでる。意外とSだな。

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「信一くん」

 

「……はい、なんでしょう」

 

「次の配達の日を楽しみにしてるずら」

 

「イエス・マイロード」

 

ハァ……今日のうちにお菓子の材料買っとこう。

 

「あ、それと……」

 

「まだ何か?」

 

「性格だけじゃなくて目も悪かったの?」

 

「伊達メガネだよ。てか、それどういう意味?」

 

「特に他意はないずら」

 

少なくとも花丸が俺の性格を悪いって思ってることは伝わったよ。

悔しいので少し意地悪してやろうかな。

 

「あのさ、いつまでその体勢でいるつもり?」

 

「体勢?」

 

「どう見ても花丸が俺にキスをせがんでるみたいだよ」

 

そう教えてやると、今更になって自分の体勢がどうなってるのか気付いたらしい。

チビな花丸が俺の首元に鼻を近づけるには背伸びをして上を向く必要があり、しかもそのまま内緒話をしていたので周囲にいた何人かは既に誤解しているようだった。

 

「花丸ちゃん……本当は女の人が好きだったの?」

 

「ち、違うずらルビィちゃん!マルが好きなのはちゃんと男の人ずら!」

 

「へぇ、国木田さん好きな人いるんだぁ〜。どんな人〜?」

 

「ずらっ!?」

 

形成逆転したのを見て取ったので追い打ちをかけておく。

普段落ち着いてる花丸が慌てふためく姿は案外貴重だったりするかも。

 

「マルが好きな人は……えっと……」

 

俺とルビィちゃんをチラチラ見て、口をあわあわさせてる。

うん、このくらいでいいだろう。やり過ぎて逆襲を食らうのは避けたいし。

 

「ま、それはまた今度聞かせてね?それよりこれ」

 

「これ……」

 

「ライブやるんだ。それで絶対に満員にしたいの」

 

「ライブ……」

 

ルビィちゃんはアイドル好きと花丸から聞いていたのでチラシを見せてみると、案の定食いついた。

 

「来てくれるかな?」

 

「信一く……朝比奈さんも歌うの?」

 

「ううん。歌うのはあの3人」

 

そう言ってチラシ配りを続行してる3人を見る。

千歌が俺に見られたことで怯えた表情をしたけど、安心していい。

チラシ配りが終わった後の練習で海に投げ込むことはもう確定事項だからね。

 

「あの……」

 

人見知りなルビィちゃんが自分から俺に話しかけてきてくれた。

 

「うん?」

 

「グループ名って……なんていうんですか?」

 

「グループ名?」

 

「はい。えっと……その……ここには書いてないから……」

 

ルビィちゃんに続いて俺も束の1番上を見る。

ライブの時間と場所。3人のイラスト。ライブやりますという文字。

 

その中にあの3人のグループ名にあたるものは書かれていなかった。

 

 




オリキャラ紹介

名前: 朝比奈一女

趣味: 読書 記録

特技: ミックスボイス 作り笑い 作り話

好きなもの: 自分の正体を見抜けない知り合い

概要: 歩けば誰もが振り向き、笑えば誰もが息を零す絶世の美少女。
その正体は浦の星女学院の制服を着た朝比奈信一。

基本正体がバレないように言動に気を使っているが、結局どこかでボロが出る。

髪はサラサラのセミロング。千歌のヘアピンの予備を付け、梨子から赤縁の伊達メガネを借りて掛けている。

女装しても“人間性の腐り落ちたシスコン”なのは変わらない。
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