善悪の狭間に人はありけり   作:空箱一揆

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未完小説三つも抱えといて新作書くとか怒られそうですが、許してください。
実は私の書いてる東方のクロス二次の世界設定はすべてつながっており、霊夢が主人公の物語で、すべての元凶が明らかになる予定なのです。
ただ、霊夢が無事元の世界に帰還するには、最低でも八雲紫と蓬莱山輝夜の協力が必要なので、今年はこの作品の完結を目指して頑張ります。


第1話 怪異招来

 

「来たれ。転輪の守り人よ」

 

 無機質に冷え固まった石畳の上には、宝石を溶かして描かれた魔法陣。

 部屋の床一面に描かれたそれは、注ぎ込まれた魔力と、呪文によって、まばゆいばかりの奇跡を発光する。

 その輝きの中心を、活力の欠けた瞳でカソック姿の神父が見つめる。

 全身から、魔力が吸い取られていく虚脱感に堪えながら、今回の聖杯戦争で自分の役割を果たすためのサーヴァントと呼ばれる使い魔を召喚する。

 望まれサーヴァントのクラスは“アサシン”。

 最強のサーヴァントを活かすため、輝かしい舞台の裏方を担うサーヴァントが望まれたためだ。

 神父の名前を“言峰綺礼”。

 綺礼の召喚を見守るのは、実の父親である“言峰璃正”と、教会とは決して相まみえることが無いはずの魔術師の師匠、“遠坂時臣”の二人だった。

 やがて光の輝きは、一つの輪郭をなす。

 一人の女性のシルエットを浮彫にして、その輝きを消滅させた。

 そして、足元をふらつかせたように、地面に崩れ落ちる女性だったが、すぐさま自身を召喚した言峰綺礼に向かってまっすぐと視線を向けた。

 一刻交差した視線は、冷え切った感情を露わにしていたが、即座にその表情は、柔和な笑みを纏い、感情を抑えた声色で言葉を紡ぎ出す。

 

「―――、なるほど。あなたが私の(マスター)ね」

「そうだ」

.

 美しいその姿に対して、綺礼は何の感情を感じることなく、無機質な声で答えた。

 自身の問を肯定する言葉に、女性は柔和な笑みを浮かべゆっくりと立ちあがる。

 その容姿はともかく、その身に纏う衣服に対して、綺礼は僅かな違和感を覚えた。

 そして、怪訝そうな表情を浮かべながら、綺礼は疑問を口にする。

 

「君は、アサシンのサーヴァントで間違いはないか?」

 

 綺礼が召喚を望んだ英霊のクラスは暗殺者のサーヴァントである。

 しかし、目の前の女性からは、およそ暗殺教団の教祖である山の翁の姿を連想することが出来なかった。

 

「いいえ、私はそのようなクラスではありませんわ。私は此度の聖杯戦争において“アンノーン”の(クラス)を持って招かれました。聖杯の意思により、聖杯への道のりを共に歩むことを此処に契約しましょう」

 

 アンノーンと答えた女性。

 それは人間達から忘れ去られた一種の妖の姿であった。

 彼女は、煮えたぎる苛立ちと、自身の不甲斐なさに感情を支配されそうになりながらも、プライドによって必死にその感情を押し隠していた。

 なぜ、こんなことになったのか?

 アンノーンと名乗った女性、真の名を“八雲紫”は、故郷の異変を調べるために地霊殿を訪れていた。

 そこから地上へ隙間を繋げた突如、漏れ出した力の本流に意識を奪われ、気付いたときには、通常では知りえない情報を刻みつけられ、クラスという名の強力な呪いによって囚われていた。

 サーヴァントと呼ばれる枷。

 7人の魔術師が、七つの枠に当てはめた使い魔を使って戦いを繰り広げる聖杯戦争の駒として、自身は捕虜となってしまったのだ。

 何百年と生きてきた妖怪ですらも縛り付ける巨大な儀式。

 この呪いを解くのは、並大抵のものではなかった。

 さらに、妖怪の賢者と呼ばれたこの自身が、外の人間の呪力如きに縛られることも不快であった。

 幻想郷の管理人と呼ばれる自身が、外来の人間ごときに、頭を垂れさせられているのが不快であった。

 それを行っているのが、自身の意思もなく、流されるように、死んだ目をする人間であることも不快であった。

 何もかもが気に入らない。

 そんな、不愉快な思いを押しとどめながら、努めて平静に八雲紫は口を開く。

 内心を気取られぬように、最新の注意を払いながら。

 

「ちょっといいかな? この聖杯戦争では、通常アンノーンと呼ばれるクラスが召喚されることはないはずだが? 綺礼、彼女の言っていることは本当かい?」

「はい。時臣師、彼女のステータスを見る限り、クラスは“アンノーン”となっております」

 

 突如二人の会話に割って入ったのは、大きな宝石が付いたステッキを持った、顎髭の男であった。

 

「マスター、この人間は何です?」

 

 突如割り込んできた男に対して、八雲紫は警戒を隠さずに問う。

 

「私の魔術の師匠である時臣師だ。今回の聖杯戦争において、同盟を組むことになっている」

「そうでしたか。ならばこのアンノーン、不祥の身なれど共に聖杯戦争を勝ち抜けるよう協力をお願いしますわ」

「ありがとう、ならば今回の聖杯戦争で、綺礼には、アサシンを呼び出してもらい、諜報を担ってもらうつもりだった。できれば貴方にその役目を担ってもらいたいが、アンノーンというクラスはいったい何ができるのか、開示していただきたいのだが」

 

 マスターである綺礼を刺し置き、話を進めようとする時臣に対して、内心冷ややかな目を向けながらも、紫はあたりさわりのない程度自身の能力を分かりやすく見せつけた。

 

「私の能力は、大量の使い魔を使役することに特化しております。直接的な戦闘力は苦手としていますが、人間が使役する使い魔よりは強力であると思います」

 

 紫は、服の内側に隙間を作り出し、その中からいくつもの符を取りだした。

 そして、無造作に空間にそれらを放りだすと、そこから、黒烏や、狐、狸などの小動物を模した式神を作り出した。

 

「素晴らしい、これならば当初の予定通りに計画を進めることが出来る。できれば、貴方の宝具についても教えてもらいないだろうか?」

 

 宝具。それは、サーヴァントが持つ切り札の名前。英霊が持つ逸話や、武器が具現化された、神秘の結晶である。いくら同盟を組むといえ、そう簡単にそれを明かせとは、いささかこの男は自身を下に見すぎではないだろうか? と、八雲紫は表情に出さずに考える。

 そして、自身の(マスター)に対して、一度確認を取る。

 

「マスター?」

 

 視線を綺礼に動かし、自身の情報を開示して良いかと、確認を取る。

 

「問題ない、アンノーン」

 

 八雲紫の言葉に、綺礼は答える。

 その言葉からは、完全に師匠を信頼しているのか、はたまたこの聖杯戦争を勝ち抜く気がないのかわからない。

 だが、その瞳からは、この聖杯戦争を戦い抜くという気概が一切見えてこなかった。

 そんな綺礼の様子に、紫はさらに苛立ちを募らせる。

 こんな男に、一刻であっても使役されているかと考えるとうんざりとしてくるのだ。

 

「私の持つ能力の中で、自信を持ってお見せできるのが式の『藍』にございます。ここで見せるには、少々この場は狭すぎますが、その爪は敵を容易く切り裂き、その牙は、敵を軽々く屠るでしょう」

 

 堂々と笑みを浮かべて語る姿に、よほど自身の宝具に自身があるのだろうと時臣は思う。

 

「素晴らしい、同盟相手としてこれほど心強いことはない。では綺礼、後は計画通りに頼む」

 

 一通りの確認を終えて満足したであろう時臣は、後の事を綺礼に任せて、退出する。そして、これまで黙っていた言峰璃正も、綺礼の心労をねぎらい、早々に教会へと戻っていった。

 

 残された、綺礼はすでに打ち合わせていた事がらをサーヴァントに告げるべく、一人や雲紫と向かい合った。

 

「アンノーン、先ほども言ったが、お前にはまずこの聖杯戦争を勝ち抜くために、諜報を担ってもらいたい」

 

 先ほど見せた、使い魔達。そして、マスターとして、確認できる能力で確認したステータスを見ると、そのステータスは、アサシンと、キャスターを合わせたようなものであった。

 事前に打ち合わせていた通り、他の陣営の情報を集めるためにサーヴァントへと命じる。

 八雲紫も、それについては異論はなく、先ほどよりも多くの式神を作り出し、この冬木の街へと解き放つ。

 街へ解き放たれた使い魔達を見送り、そこに残った八雲紫と、言峰綺礼は互いを見つめ合いながら、無言で立ち尽くすことになった。

 特別サーヴァントに対して思い入れもなかった綺礼だが、今回の聖杯戦争に向けて、自身のサーヴァントができることについて詳細を聞きだすべきかと考える。

 だが、何を問おうか考えるよりも先に、八雲紫が口を開いた。

 

「ねぇ、マスター? 貴方はどうして聖杯戦争に参加しているのかしら?」

 

 問われたことに対して、綺礼は自身の父と遠坂時臣が親交があったことを語る。

 口調は自然ゆっくりしたものとなり、時臣を勝者にする為に、動かなければならないた事をぼかして伝える。

 それに対して八雲紫は、感情なく語る綺礼の目を逸らさずに眺めながら、最後まで聞き終えると、

 

「そう」

 

 つまらなそうに、一言つぶやいた。

 その後はただ、事務的にこれからのことがらを確認し、魔力の回復を図る為に休むこととなった。

 

 

 

 

 

 街中解き放たれた使い魔達により、冬木の町は、八雲紫にとっての情報網が引かれていく。

 そして集まるマスター達の情報を元に、八雲紫が一つの気がかりとなるマスターを見つけ出した。

 聖杯戦争の仕組みを作り上げた御三家の一角。

 間桐のマスター“間桐雁夜”である。

 当初潜入させた通常の使い魔は、屋敷に潜入すると同時に多数の不快な蟲達に捕食されてしまった。

 以後、この屋敷だけは八雲紫自身の目によって監視している。 

 しかし、大幅に力が制限された状態で、間桐のマスター達に気付かれずに監視するのは、多大な労力が必要であった。

 ゆえに紫は、一通りの生活サイクルを把握した後は、間桐のマスター達への干渉を控えて、周囲の人間の監視へと切り替えたのだった。

 そこで見つけたのは虚ろな瞳の少女の姿。

 およそ、無縁塚で朽ち果てる手前のような精神状態。

 彼岸のたもとを彷徨うようなその姿を見ていると、食欲は減衰していく。

 およそ、少女に何があったのかは、間桐のマスターを見れば、だいたいの推測は立つ。

 虐待と呼べる蟲達の責め苦によって、生ける屍となったのだろう。

 まっとうな人間にとっては、目をそむけたくなるような業。

 妖怪である紫であっても、それは気分の良いものではなかった。

 これまでにも、強者である妖怪に立ち向かうため、禁呪として似たことを行うものは何人かいた。

 弱き人間が、強者に追いすがろうとする過程で稀に見る犠牲である。

 何がそこまで人間達を駆り立てるのか、妖怪である八雲紫には到底理解できないものである。

 ただ、少女が内包するその力には僅かに興味を惹かれる。

 時期が合えば、攫ってみたいものだと考えながらも、ここ数日で日課になった報告を(マスター)である綺礼に告げる。

 淡々と報告を受ける言峰綺礼は、何ら感情を高ぶらせることなくその報告を聞き入れる。

 だが、この報告の中で僅かに綺礼が表情を見せる時があった。

 それは、御三家間桐に対しての報告を告げる時であった。

 明日には、この家に新たな英霊が召喚される。

 ゆえに八雲紫は、この日、活力のない自身の(マスター)に対して、行動を起こすことに決めた。

 

「ねぇ、マスター解かってる? あなた笑っているわよ」

 

 その言葉に、たった今気付いたというように瞳を大きく見開きながら、八雲紫より一歩下がる。

 そんな綺礼を逃がさんとするように、悪魔的な笑みを浮かべた八雲紫の指先が、凍り付いたように固定された笑みをなぞる。

 

「いつもそうね、追い詰められ嬲られ、身に余るほどの造形を追い求める愚か者を思い浮かべる時にあなたは笑う。それは、聖職者としてどうなの?」

 

 ただただ、単純に事実を述べただけでありながら、此処まで悪意的にそのセリフを吐くことのできるこれは、きっと純粋たる英雄ではないと綺礼は思い居たる。

 

「今の貴方、とっても人間らしいわ。そして、自分の罪を見つけられた子共のよう」

 

 とっさに武器である黒鍵を取りだそうとするが、その行動は空間を裂くようにして現れた八雲紫の手によって制される。

 

「私は貴方とお話しているのよ綺礼。そんな無粋なものはひどいんじゃない?」

「ッ、貴様ッ!? いったい何をッ?!」

「いつもの死んだ表情よりも、その目の方がいいわ」

 

 ゆっくりと、甘ったるいような声で耳元で囁く言葉と全身を抱きしめるように拘束する八雲紫。

綺礼は必死にその手を振りほどこうとするが、およそその見た目からは想像できないほどの腕力により、それを振りほどくことはできなかった。

 

「あなたは、人の苦痛に愉悦を感じる」

 

 否定したたくとも、否定する言葉が出てこない。

 

「救い求める手だって、あなたは笑って振り払うことが出来るのでしょうね」

 

 これ以上その言葉を聞きたくなかった。

 目を背けて、これまであやふやにしていた自身の領域が、悪という形に定義されていく。

 

「止めろッ!? それは罪人の魂だ。罰せられるべき悪徳だ。わけても、この言峰綺礼が生きる信仰の道に於いてはない!」

 

 もはや、令呪を使用することすら頭から消え去り、叫ぶように否定する。

 

「聖職者としての致命的な破綻を抱えながらも、その場所にこだわるのね」

 

 その言葉は、愉悦を含んでいた。

 咎めるように吐き出された言葉と、破綻した性質をまるで道化を見るかのように、あざけるような表情であった八雲紫。

 それは、自身を堕落させようとする悪魔の囁きに聞こえた。

 綺礼は、これから起こりうるであろう、自身の崩壊を感じて必死にこの場を逃げ出そうとした……。

 しかし、次の言葉は、まるで綺礼の全てを肯定するかのように告げられた。

 

「あなたは、ほんとに素晴らしい人間ね」

 

 その言葉の意味、それを認識し、理解できずに問い返すには数秒の時を有した。

 

「自身の弱さと、悪徳に苦悩しながらも、正しくあろうとするその姿は人が持つ強さの一つよ。およそあなたは聖職者に向いていない。だって、あなたは救うよりも、救われる側の人間なのだから。人として強く在るがゆえに、周りはおよそあなたを理解しない、それでも前に歩いて行けるあなたは、ある種の英雄へ至る資質をもってるわ」

「こんな悪徳を抱えたこの身が英雄だとっ?」

 

 綺礼は自身のサーヴァントが、およそ狂ったのではないかと思い、その顔を凝視する。

 

「結果よりも過程を重視するのは大半の人間の性よ。でもね、実は過程よりも結果こそがこの世には必要なのよ。悪でありながら善を成すことが出来る、人の社会はそういった矛盾を孕んでいる」

「……、アンノーン、お前は、言ったい俺に何を望んでいる……」

 

 当初の会話だけで見れば、まるで悪魔が聖職者を堕落させるがごとくのものであった。

 しかし、その会話の終わりはこれまで重くのしかかっていた、心のわだかまりの多くを軽くすることになった。

 このサーヴァントが言ったい何を望んでいるか?

 単純に考えれば、自身の望みの為に、師の元で動く自身を反目させることとも考えられる。

 だが、到底それだけとは思えなかった。

 

「別に何も、ただ私と一緒に戦いに行こうとするものが、そんな死んだ目であることが不快だっただけよ」

 

 その言葉に、嘘はない。

 しかし、それだけが真実ではない。

 綺礼は、目の前のサーヴァントの危険性を改めて理解した。

 しかし、今やその危険性を時臣師に告げることも、令呪を用いて縛るこことも考えられなかった。

 

「お前の在り方、それは、およそ英霊ではないな」

 

 確信を持ち。僅かに愉悦をこもらせた声で綺礼がつぶやく。 

 その言葉に反応するように、八雲紫はただ自信と誇りに満ちた声で答えた。

 

「当たり前よ、だって私は英霊などではなく、化け物なのだから」

 




もともとは綺礼の救済ルートを考えてできたこの作品です。
『悪党ではないが悪人。非道ではないが外道』←このフレーズが大好きです。原作者はよくこのキャラクターを作り上げたと尊敬します。
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