Fate/ Out Gate → 善悪の狭間に人はありけり
やっぱり和風タイトルの方が個人的に好きだ。
という訳で2話更新します。
冬木を代表とする名家のひとつである遠坂の屋敷。それを見下ろすことが出来る丘の上で、三人の男女がじっと屋敷を観察している。
「アンノーン、この茶番劇、テコ入れした本当の意味を教えてもらえるか?」
男の名前は言峰綺礼。教会で見かけるようなカソック姿を身に纏い、訝し気な視線で、眼前で優にたたずむ金髪の女性に話かけた。
アンノーンと呼ばれた女性の本来の名を八雲紫。
八雲紫は問いを投げかける綺礼に対して一切視線を向けることなく、遠坂の屋敷を睨むように見据えている。
英霊という呪術的な枠組みに縛られた隙間の妖怪は、自身への不甲斐なさと、自身を縛るマスターの存在に対して、苛立ちに満ちた内心を隠しながら無言を貫く。
そんな二人を見守るような位置で、全身の筋肉を目立たせるような黒い服を身にまとった一人の男が無言で立ち尽くす。
その表情は髑髏の面に遮られ、何を考えているのか知ることはできない。
ただ一言も発することなく、まるで木のようにそこに立って居た。
「……、もともと聖堂教会と魔術教会はその理念により合い入れぬ存在。当初は、協力体制を組んでいたとしても、教会の理念に反するとして、弟子が反逆。しかし呼び出した英霊はアサシンであり、力及ばず遠坂のサーヴァントであるアーチャーに敗北する。しかし、アサシンは実は敗退してはおらず、アーチャーの勝利の為に、この聖杯戦争で暗躍する―――」
言葉を切った八雲紫。
そして、八雲紫は今度こそしっかりと綺礼の目をまっすぐと見据えて次の言葉を紡ぐ。
「この私を使い捨てにしようなんて言い度胸ね」
顔を歪めて笑う八雲紫に、綺礼は知らず知らずに一歩後退する。
「あら、逃げなくて良いのよ」
八雲紫の言葉によってさらに警戒心を強める綺礼、その行動に不信感を持ったのか、髑髏面の男が一歩動きだす。
そんな髑髏面の男の行動を八雲紫は片手で制して、通常の笑顔へ戻して見せた。
「同盟を組むにあたって、最も必要なのものは何かしら? 信頼? 共感? そんなもの生きる時代も、求められる能力も違う者達でそうそうに生まれるものではないわ。ましてや早ければ数日で終わるこの戦争中に確固たる信頼を得ることは困難でしょう?」
もしも召喚者が幼きものであったなら、子共の柔軟性を持って、今よりは簡単に信頼を得ることができるかもしれないが、自我が完全に確率された大人とそれを結ぶことは困難であろうと八雲紫は考える。
「互いに信用するのに必要とするもの、それは利益よ。聖杯の勝者が得ることになるその権利の行方。サーヴァントが聖杯に求める願いの成就。あなた達は一度も私にそれらに関して口にすることはなかった」
歴史に名を刻むほどの英雄が、たかが魔術師に使役される理由、それが聖杯に掛ける願いである。願いをかなえる願望器を手に入れる可能性があるからこそ、サーヴァントは魔術師に従うのだ。
もしも、その願いをかなえる機会が最初から存在しないとすれば?
綺礼自身この聖杯戦争についてさほどの興味はなかった。
ゆえに呼び出されたサーヴァントが何を願って、この場にいるのかを問い掛けることも、その考えに至ることさえなかった。
「別にその事に対して、今更何を言うつもりはないわよ。でも覚えて置いてね、最初から裏切っていたのは貴方たちの方だと」
その言葉に、殺意はなかった。
先ほど見せた、歪な笑顔はなく、ただ事実をそのまま言葉にしただけ。
しかし、その言葉の奥にあるであろう憎悪を覗き見た後であるなら、これがどれほどの危険極まりないものかと理解できる。
憎悪や、嫌悪を振りまく者の危険性よりも、それらすべてを押し込めて機械のように振る舞い目的の為に行動する。それがどれほど厄介なものであるか、綺礼は、八雲紫への危険性を密かに心へ刻み込む。
だが警戒心とは別に、綺礼の中では八雲紫への好奇心が少しずつ育っていた。
「それにしても随分と余裕そうね。この劇には、貴方の命もかかっているのよ」
今回の戦い。綺礼が茶番劇と呼んでいるがまさにその通りだ。
しかし、八雲紫と言峰綺礼とっては、文字通り命をかけた舞台である。
サーヴァントの枠組みに囚われた状態で、遠坂時臣が呼び出した規格外のサーヴァントであるアーチャーと事を構えるほど八雲紫は命知らずではない。
ゆえにこの作戦を遠坂から提示された時点で八雲紫は一計を案じることにした。
この戦いの最中、自身の都合の良い一瞬の時間を作り出すように。
そしてこの戦いが、戦いを遊びとして成り立つように、アーチャーに対して枷ともいえるルールを提示したのだ。
現時点の紫に取ってアーチャーを倒し切る力はない。
綺礼が持つすべての令呪を用いれば可能性はあるだろうが、現時点で綺礼がそれを行うことはないであろうし、何よりリスクが大きすぎる。
「分かっている。私自身、別段自ら死を望むほど絶望しているわけではない」
この戦い、いや文字通りの茶番劇であり、強者の気まぐれな遊びである。
ルールは単純明快だが、遊びであっても紫達は命を賭けなければならない。
紫達の勝利条件は、アーチャーに対して一撃を与えること。
この勝利条件を持って、この遊びにルールを設けさせたことへの罪を不問にするとアーチャーは言った。
例えこの戦いに敗北しようものなら、あの規格外のサーヴァントは、マスターの制止すら振り切って自分達を殺しかかるだろう。
そして、もう一つの条件は、アーチャーの、武器の使用を制限。あらかじめ三種の指定した宝具のみでの迎撃。
アーチャーの強みは、古今東西の武器の原点を保有すること。
もしも、世界各地に散らばる妖怪退治の逸話持った宝具を前面に攻撃されれば、万に一つも勝利はない。
アーチャーは紛れもない強者である、そしてその事実を自覚したうえで自らの意思で驕る人物でもある。
強者であるがゆえに並ぶものなどほとんどいない、勝利の決まったゲームなど楽しくはないだろう。
そう囁くことにより、八雲紫は上手くアーチャーからのハンデを引きだした。
今回の茶番劇の結果どう転ぶかは分からないが、とにかくあのアーチャーに対して優位に立つには、どうしてもこの遊びで優位に立つしかない。
「なら、その証を見せて頂戴」
初めて会ったときのような、死んだ魚のような目はなくなったが、それでも気力に欠けるような綺礼の内心を八雲紫は指摘するように告げる。
この聖杯戦争の最中、各陣営が所有する三つしかない切り札の一つを使用せよと。
「アンノーンに告げる。アサシンを用いて、遠坂のサーヴァントに犠牲を厭わず勝利せよ」
綺礼は、手に刻まれた霊呪へ意思を込め、アンノーンへの勝利を命じた。
同時に、八雲紫は背後にたたずむアサシンの顔を掴むみ力を注ぎ込む。
「さあ、あなたの意思を、生きる意味を与える。遠坂時臣を殺しなさい。もしもそこに邪魔するものが居るならば全てを排除しなさい。急ぎ、我が命ずるままに、戦いに赴きなさいっ」
意思のこもらない瞳に、光が宿る。
そして、硬く結ばれていた唇が、ゆっくりとほどかれて人の言葉を発した。
「お任せください。主様」
アサシンは、八雲紫の隣に立つ言峰綺礼を一瞥した後、人には到底できないようなか速力を一速で発揮し、遠坂の屋敷を目指して駆けぬける。
吹けぬける風のように早く、ただの人間にとって、その姿は残像としても映らない。
与えられた知識を基にアサシンは、まず時臣の屋敷に張り巡らされた結界を破壊するため、核となる宝石の破壊を目指す。
到着した広い庭には、大小、色とりどりの宝石が美術館のように並んでいる。
しかし、その宝石の一つ一つが、この屋敷の防衛を維持するための罠である。
空中を浮遊し、または、巧妙に隠された宝石の一つ一つを柔軟に身体をくねらせるようにしてかいくぐる。
そしてその中心に位置する真っ赤な宝玉の元へ歩みを進める。
周囲に英霊の気配はない。
それを確認したアサシンは、腰につるした短剣の一つを持って、一突きにその宝玉を破壊する。
強力な呪が込められたその短剣は、人間にしては強固な守りのかけられた結界の要を破壊する。
アサシンの生みの親である八雲紫にとって、念入りな準備を行ったのであれば、この程度の結界を破壊するのは難しくなかった。
同時にすべての結界が停止し、浮遊していた宝玉が地に落ちるのを確認すると、アサシンアは屋敷へ潜入すべく短剣を戻す。
屋敷へ向かい駆けだそうとした瞬間、アサシンは真逆の方向へと大きく跳躍した。
「ほう、今の一撃を避けるとはな。どうやらただの木偶ではなく、多少できる木偶のようだ」
たった今までアサシンが立って居た場所には、大地を抉るように大きな穴が空いている。
そして、尊大な声を高らかに、屋敷の上から黄金のサーヴァントが姿を現した。
アサシンは、うなるように声をあげて、その姿を見上げる。
そして突如現れたサーヴァントに続き、さらに絶望を彩るかのように、停止したはずの結界が再び動きだした。
暗く沈んでいた世界に、明かりが灯る。
魔力を放つ光は、アサシンの行動を阻害するかのように、周囲を狭めて近づいてくる。
「たかが、魔術師の防衛機能だとしても、お前にとっては足枷くらいにはなろう。さあ、この圧倒的絶望の中で、お前の命をかけて我を興じさせてみよッ!」
無慈悲に告げる黄金のサーヴァントは、アーチャーの名を知らしめるかのように、無数の光弾を射出させる。
そのすべては、大小さまざまな宝玉の塊であった。
その攻撃は、人の一生を優に賄えるほどの財力を示す。
アサシンは、降りせまる宝玉の雨を瞬き一つせずに回避して見せる。
その一撃を受ければ、もはや敗北は逃れられないと悟り、全力で回避に専念する。
アサシンに逃走は許されない。
主に命じられた遠坂時臣の殺害という任務のた為に、障害となるこのアーチャーを排除しなければならないからだ。
「どうした木偶よ、このままでは死罪は待逃れぬぞ。我を此処に呼び出したのだ、退屈させるなど持ってのほかであるぞ」
嘲笑、嘲りの言葉がアサシンを挑発する。
アサシンは別段その言葉に反応したわけではない。
しかし、このまま避け続けることの危険性を十分に把握したアサシンは、腰につるされたいくつかの短剣を両手に携え宝玉の雨を掻い潜るようにして、サーヴァントに向かってその一本を投擲した。
宝玉の流れ、速度を完璧に計算に入れたような軌道で飛来する短剣であるが、アーチャーはその短剣をどこからともなく取りだした鈍い光を放つ刀によって、いとも簡単にはじき返す。
「はっはっはっ、所詮は木偶にできるのはこの程度で、おッ?!」
断続的に宝玉の雨を降らせ続けるアーチャーは、はじき飛ばした短剣が、空中で回転しながら再びこちらへ向かってくる光景に面白そうに笑い声をあげる。
「幼稚な児戯よ。これが貴様切り札か? ならば短剣ごと破壊してやろう」
再び、飛来する短剣に向かい、今度は反対の手で燃える刀身を持った剣を取りだして振るう。
「おおッ?!」
短剣と炎の剣が接触する瞬間、アーチャーは再び歓喜を含ませた驚きの声をあげる。
炎のが短剣に触れた瞬間、短剣は二つに分裂し、燃えることを逃れた一振りが、弧を描く軌道でアーチャーの首を狙い飛来する。
しかし、鈍い光を持った刀が、まるで意思を持ったかのよに、飛来するそれを一刀の元に両断した。
その後両断された短剣は、燃え盛る剣の炎によって焼きつくされる。
その瞬間、瞬く間に燃え上がる炎に意識が捕らわれる刹那にも満たない瞬間、アサシンは、二本の短剣のみを残して、すべての短剣を投擲する。
数の理により、霧散される意識の隙間を縫うように、アーチャーの霊核を破壊すべく一気に跳躍する。
無数の短剣は、背後から射出される多くの宝玉によって破壊される。
ただ、その中で唯一の本命と呼べる、柄が緑入りをした一本が、アーチャーの眼前にたどり着く。
だが、たった一本だけだ。
一本だけ迫った短剣など、アーチャーが視界に捉えることは、たやすいものであった。
燃え盛る剣を振り上げ、迫る短剣を撃ち払う。
そして、もう片方の鈍い輝きを持った刀で、迫り来るアサシンを一刀する、それにてこの遊びは終わるはずであった。
ただ、一つ両陣営の誤算によって、この劇の終幕は僅かに終末を変えた。
燃え盛る切っ先が、短剣に触れる直後、短剣の柄に彫り込まれた網目は、突如浮き上がり、薄暗い緑色を纏った蛇の姿へと変わる。
卓越したサーヴァントの視力は、その存在が何であるかを正確に把握した……。
―――
――――――
―――――――――
―――指先が、頬を伝う血の感触に触れた。
背後では緑の蛇が宝剣に押しつぶされ、無残な躯をさらす。
刹那の無言。
それは一転して怒りへと変わり、今すぐにでも全てを破壊すべき衝動へと変わる。
「この我に傷を付けただと。しかもこの忌々しき蛇ごときが―――」
アーチャーに取って、その生物は最も忌まわしき存在である。
過去の栄光の中、唯一手に入れ損ねた希望を奪い去った元凶なのだから。
世界の全てを手に入れた?
なんと滑稽であろうか。
世界の全てを手に入れた?
なんとういう道化であろうか。
最も欲して止まぬモノこそ、手から零れ堕ちた癖に。
もはや、罪人と交わした約束など頭から消えうせた。
その証拠に、眼前まで迫ったアサシンは、アーチャーの背後から射出された刀剣に身を貫かれ、見るも無残な針鼠へと姿を変えている
遊びであるなら確かに自身に傷を付けた手腕は褒めてしかるべきであろう。
これがもし、蛇ではなく、別の生き物であれば、その手腕を考慮し、この場は見逃したかもしれない。
しかし、あの罪人は王に対して最も行ってはいけないことをやらかしたのだ。
確かに遊びである。
ルールがある。
だがしかし、王に対する配慮、敬意、自らの身分を顧みる分別が足りていない。
身の程を弁えろと叫ぶ。
この遊び、罪人と化した奴との約束を守る必要はない。
これまで封印していた高ランクの宝具を背後へ無数に展開させる。
小石を投げ入れた水面のように背後の空間はゆがみ、その奥底からは黄金の輝きを伴った大量の宝剣が姿を現す。
「貴様ッ! 今すぐにこの場でその首を我に指し出せッ!! それを持ってこの遊びは終いだッ! 」
串刺しの針鼠を通して、どこかで見ているはずのアンノーンに対し、感情を抑えることなく怒鳴りつける。
刀剣だけではなく、槍や斧、古今東西のありとあらゆる武器がその切っ先を向ける。
もはや、マスターである遠坂の屋敷に対する配慮など欠片も存在しない。
ただ、怒りのままに振るう力は、まさしくアーチャーの暴君としての在り方を示している。
しかし、その暴虐にさらされることになった時臣は溜まったものではない。
当初は予定通り、今回の聖杯戦争に置いて、比類すべきものなき英雄を呼び出すことに成功したと喜んだものだが、感情のままに力を振るう暴君を御することは、繊細かつ緻密な配慮が必要であり、此処まで怒りを見せるアーチャーに対して、もはや口先だけでは、どうやっても納まらないと理解し、めまいを感じた。
このままでは、味方によって屋敷を破壊された挙句、大事な協力者さえも失いかねない。
もはや一刻の猶予もないと時臣は、数少ないアーチャーに対する切り札を切ることを決意した。
その手に宿った令呪を用いて、古の王に対して願いを命じる。
「トキオミッ! 貴様のごときの諫言で我に命令するのかッ!?」
人知が及ばない英霊に対して、魔術師が唯一対抗する手段。
三度だけ使用可能な、英霊に対しての絶対的命令権の一つを行使する。
令呪の力によって、アーチャーの身体は、この場でアンノーンに対する敵意を抱くことに、負荷が生じ始める。
アーチャー自身、この場で令呪に抵抗することは可能であったが、そこまでしてまで、アンノーンごときを殺す事もまた苛立つことであった。
ただ、心に怒りを燻らせながら、戦争序盤で令呪の使用に踏み切った時臣に対しての義理として、ただこの場では怒りを収めることを承諾した。
「いいだろう。今宵はこれにて終いだッ」
空間の揺らぎはその存在を消失させ、ただ残った一本の剣により、目の前のアサシンは首をはねられる。
その姿は、霧のように、すべてが幻で合ったかのように、押しつぶされた蛇の死体を除いて一切が消えうせる。
アサシンの敗北、それがこの街で聖杯戦争に参加していた者達が確信した瞬間であった。
分裂の宝具を持ったアサシンは、アーチャーに発見され、正面決戦を強いられ敗れる。
それが、この戦闘を監視していた参加者達の共通の認識であった。
そこには、釈然としない違和感を感じた者もいたが、英霊同士の初戦はこうして幕を閉じたのであった。
「アンノーン、ここまでが貴様の計算なのか?」
最後の最後、アーチャーに対しての切り札である令呪を切らせることになるとは、綺礼ですら考えつかなかった。
綺礼の問に対して、八雲紫は、意味ありげな笑みを浮かべながら、その姿を闇の隙間へと消失させた。
問いかけを拒絶された綺礼は、仕方なくサーヴァントを失ったマスターとして、教会の保護を受けるべく、夜の街へと一人歩きだす。
ただ、このような茶番劇で令呪の一角を失うことになった遠坂時臣と、かなり苛立っていたいたアーチャーの今後のやり取りを考えると、妙に頬が緩むのを抑え切れてはいなかった。
ちなみに八雲紫が連れているアサシンは、使い魔であって本物のサーヴァントではありません。
決して綺礼陣営がサーヴァント二騎保有しているわけではありません。
よろしければ感想、コメントなど頂けますと幸いです。