この素晴らしい世界に転生したら女の子なホムンクルスになった   作:Dekoi

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ふと思いついたので投稿です。
取りあえず短編から連載に変更しておきます。


アクセルの街、到着

 ……うん、キャベツが空を飛んでいることは一旦無視しよう。これも異世界故なのだ、と認識して誤魔化す。そうじゃないと、俺の考えていたファンタジーの幻想が砕け散る。

 

 さて、家から外に出るなんて初めてだし、外の景色を見ることも初めてだ。今まではずっとガラス瓶から覗いた、薄暗く歪んだ部屋しか見てこなかったから、数十年ぶりともいえる太陽の光は眩しかった。

 

「……気温は、そこまで不都合なことはないな。この地域がそういった気候なのか、それとも日本みたいに季節があるのだろうか?」

 

 少なくとも元から着ていた露出の激しい、むしろ水着かそこらレベルのような薄い服と、丈が長く頭もしっかり羽織れる緑のローブ一枚でも肌寒さは感じなかった。とはいえ、これで人前に出るのは痴女扱いされないだろうか。というか、こんな服、マスターはどうやって準備したのだろうか。サイズとかもぴったり合っていたし、手縫いでやっていたのだろうか?しかも、ローブの下は水着レベルの薄着とか……マスター、相当の変態だな。それがマスターらしさでもあるが。そして、それを嬉々として着る俺も俺であるが。

 

 で、この家はいわば渓谷と草原の近くに建っていた家だったようだ。谷から吹き上げてくる風が心地よい。草原も、太陽の陽気と合わせて寝転んでしまいたいくらいに整備されている。……いや、所々に大穴が空いているから、何かの実験にでも使ったのだろうか?とりあえず、魔物とかはいなさそうだし、いいか。

 

「……うん、もう大丈夫だ。この家とも別れる覚悟はした。だから、大丈夫だ」

 

 口で何度も言って確かめる。もう、マスターはいないのだ。一人で歩けるといったのだ。今更うじうじしていても仕方ない。

 

 手に持っていた箒にまたがる。この箒は、マスターが錬金術の応用か何かの実験をした際に完成したものらしい。特に名前とかは付いていないが、しいて言うなら『空飛ぶ箒』とそのままな名前しか付けられない。魔力の消費も無く空を飛べるが、そもそもこの世界の住人は空を飛べるのだろうか。だとしたら、ただの失敗作の物だろう。

 しかし、少なくともガラスの少女(ホムンクルス)である俺にとっては大変有用なものである。それもそのはず、ガラスの少女(ホムンクルス)は大変貧弱な生物である。ガラス瓶の中という安全な場所ですら死ぬというのに、ほんの少し歩くだけで死んでしまう事なんぞ当たり前なのかもしれない。

 

 だから、こうして箒にまたがって空を飛ぶことは間違いでないはずだ。決して、見渡す限り人の気配が無くて歩くのが億劫だとかそんなことはない。これは安全をしっかりと考えた結果である。

 

「……というか、結構なスピードが出るな。これなら、逃走の時にも使えそうだな」

 

 取りあえず、今しばらくは青と白の調和が美しい空と、身を切る風を楽しんでおこう。

 

 

 ~~~~ 

 

 

 キャベツたちを追い越すついでに何個かカバンに収穫してから約1時間ほどだろうか?ようやく町と思われるものが見えてきた。

 

 街の外では大きなカエルと闘っていたり、何か薬草でも探しているのだろうか、地面にしゃがんでいたりする人たちが見える。そして、それ以上に何かに備えるように街の門に集結している、剣や弓、杖を構えた人だかりが見える。あれがマスターの言っていた冒険者なのだろうか?少なくとも、あんな荒くれ者でもなれるのなら、俺もなれるはずだろう。

 とりあえず、あの人たちに何か聞いてみるとしよう。マスターのお話はある程度聞いているとはいえ、それはもう何十年物前の話だ。そんな年月も経ってしまえば、常識や法律も変わっているかもしれない。冒険者のなり方だって、変わっているかもしれないしな。

 

 上空から低空に高度を下ろしつつ、速度を下げる。一応、何が起こるか分からないから箒からは下りないでおこう。

 

 話しやすそうなのは……あ、あそこの外れにいる人たちとかどうだろうか?男の子が一人、女の子が二人……いや、三人か?ま、いいか。女の子が多いなら、積極的に戦闘をする可能性は低いだろうし、見た目が女な俺に突然攻撃を仕掛けようとはしないだろう。とりあえず、この街での暮らし方とかから切り出して聞きだせばいいか。

 

「やぁそこの少年、ちょっといいだろうか?」

「あ゛っ?ただでさえキャベツの襲来って意味わからないので忙し、い……」

 

 おや、どうかしたのだろうか?俺の方を、眼を見開いてどうかしたのだ?後ろを振り返っても、いまだに黒点にしか見えないキャベツの群れが見えるだけだ。

 

「……少年よ、大丈夫か?なにか見えたのか?」

「…………そ、そそ」

 

 そ?

 

「空を飛んでるうううううううううううううっ!?!?」

 

 あ、俺のことか。でも少年よ、人を指ささない方がいいと思うぞ。

 

 

 ~~~~ 

 

 

 その後、俺が箒を使って飛んでいることをじっくりと説明したら、無事落ち着いてくれた。この少年に限らず、他の人の反応を見る限り、どうやらこの世界の住人は空を飛ばなさそうである。

 

「全く、歩くのが嫌だからって理由で、貴重な道具を使うとか初めて聞いたぞ……」

「ところがそうも言っていられなくてね、残念ながら俺は今日初めて外にいるんだ。歩くことだって、今日が初めてでな。どこまでできるか不安だからこうしているって訳さ」

 

 流石に初対面の奴に馬鹿正直に答えるのもアレではあるが、そう言わないと信じてくれなさそうである。というか、割とガラスの少女(ホムンクルス)だとどの程度の身体能力があるか分からないから、歩いただけで死亡なんて珍事は避けたい。

 

「そ、そうか……お前、今までよく生きてこられたな。辛い思いもあったんだろう?」

「……ん?いや、むしろ楽しくいられたぞ?少なくとも、お前が心配しているような事態ではないとだけは言っておくぞ」

 

 流石にあの言い方だと誤解を招きそうだから訂正だけはしておく。マスターといた生活は、少なくともかけがえのない生活だったと胸を張って言える。だからこそ、ではあるがな。だから、そうずっこけそうにならなくてもいいだろ。そうきつい思い出なんぞ、一度二度程度しかないしな。

 

「ま、俺の話はこれくらいで良いだろ?次はお前に質問……お前ってのもあれだな、まずは名前でも聞かせてもらえないか?」

「ん?ああ、そうだな。俺もお前ってのもあれだし……俺の名前はサトウカズマ。カズマって呼んでくれよ」

「ああ、わかったよ。俺は……」

 

 

 

 ――――そうだな……お前(ホムンクルス)の名前は……!!――――

 

 

 

「――――カランコエ。カランコエが、名前だ」

「ふーん、なんか不思議……いや、俺の仲間の方がよっぽどあれだな。ま、良い名前じゃねえか!よろしくな、カランコエ!」

「ああ、こちらこそ頼むぞ、カズマ。さて、これから俺も冒険者になろうと考えているんだが、どうやってなればいいか教えてくれないか?」

「うーん……キャベツの収穫警報ってのが出ているから、今抜けていいのかどうかわからないが……おーい、アクア―!ちょっと今知り合った奴が、冒険者になりたいって言うから、案内してもいいかー!」

「別にいいけど、さっさと帰ってきなさいよねー!」

 

 カズマの声に青髪の女が答えた。青髪と聞くと、俺を異世界に送り込む際にミスしてくれた女神を思い出すが、流石に別人だろう。見た目が似ていはしたが、きっと気のせいだと考えておく。

 

「……よっし、一応仲間からの許可は取れたし、ギルドに行くか!」

「む、何か用事でもあったのなら言ってくれるだけでも十分だが?」

「いいさ、気にしないでくれ。まだ件の用事は来てくれなさそうではあるからな、大丈夫だ。カランコエも来るまでの時間中に冒険者になって、すぐに依頼に参加すれば大丈夫さ」

 

 そういうものなのだろうか……?ま、いいか。冒険者をやっていたカズマが言うんだ、その言葉も間違いはないはずだ。

 

「それなら……ギルドだったか、そこまでの案内をよろしく頼む」

「ああ、それくらい任せてくれ……おっと、これを一つ言うのを忘れてるところだった」

 

 ?いったい何を言い忘れていたんだ?

 

 

「ようこそ、アクセルの街へ!俺個人としても歓迎するよ」

 

 




カランコエ:多肉植物、短日植物であり、繁殖能力も高く、丈夫で育ちやすい。

カランコエの花言葉
「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」「あなたを守る」「おおらかな心」
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