むうと住み始めてから二日が経った。その間むう以外の妖怪等の人外とは会っていない。
それと、この家族の順応性も驚くものだ。今ではむうが母さんの家事を手伝ったり、夢とむうが一緒に寝ていたり、むうが俺の宿題の丸つけを共にしてくれたり。俺は宿題を終わらしていても丸つけは休みの最後の最後までしない。ついでにデッサン等めんどくさいものもだ。
只今むうに宿題の丸つけをしてもらっている最中。家には俺達以外誰も居ない。自由って素晴らしい。
母さんはスーパーに買い物へ、夢は遊びに行ってる。
夢よ、予定は無いと言っていたのに、二日の間に何があったんだ。
現在の時刻は朝の10時。普通なら寝ている時間だが、
「はい、丸つけ終わったよ」
「あ、ありがとう。いやー、むうが居るとめんどくさい丸つけがすぐ終わって楽だよ。朝っぱらに起こされなければだけどね」
「この時間は朝っぱらって言わない。あと、間違ってるところはやり直ししなくちゃ、答え見たら駄目だから」
前言撤回、世話を焼きすぎて鬱陶しい。丸つけし終えたら間違ったところは答え見てやり直せばいいじゃないか。
なんて、人外にまだ緊張している俺が言える筈もなく、やり直しをさせられた。隣にむうが居る状態で。
「あの、何故まだこの部屋にいらっしゃるのですか?」
「ズルをしないか見張る為」
「見られていると余計に気が散ってやり直しどころじゃないんだけど」
「私頭無いから見られている気はしないんじゃない?」
「じゃあ何処で俺達を見てるんだよ」
「さあ?」
さあ?じゃないよ。俺の人生で一番の謎になってるんだから。
「そうだ、明日佐竹達が家に来るからお菓子買いに行かなきゃ」
「露骨に逃げないでよ」
逃げてない。ただ皆が明日来るからお菓子を買いに行かなきゃならないだけだ。決して逃げてるわけではない。
「逃げる訳じゃない、明日の為だ」
「行くなら連れてってよ暇だし」
「そっか家に俺達しか居ないもんな。仕方がない、連れていってやる」
「優しいね」
「むうの事もっと知りたいしな」
「……」
むうが無言で部屋から退出していった。何故か首元を真っ赤にして。出かける用意をしに行ったのだろうか?それなら俺も用意しなければ。
早速黒の服に着替えて、持ち物は……財布と携帯だけでいいだろ。財布は左ポケットにいれ携帯は右ポケットに入れる。
それから部屋を出てむうを探す。
「むう、用意できたー?」
「うーん、できたー」
むうの声は一階から聞こえてきた。
一階に降りてみるとむうはリビングにいたが、服を着替えていなかった。むうの服は寝巻きかジャージしかない。そこで俺は提案する。
「服なら夢のやつ来ていけば?」
「私が着て嫌がられないかな…」
「どこに嫌がられる要素があるよ」
「妖怪で頭が無いところ?」
「もうこの家族は馴れてるよ」
そう言うとむうは服を引っ張ってきた。
「どうした」
「どの服を着てもいいかわからない」
それを俺に聞かれましても。めんどくさいけどついていくことにする。
二階に上がり夢の部屋の扉の前に来る。
無断で入るのは怒られそうな気がする。ましてや兄が入るとほとんどの妹は怒るはずだ。
(ばれなきゃいいさ、ばれなきゃ)
むうは普通に夢の部屋を開けた。こちらにも心の準備と言うものがあるのだがな。
それでも俺の心情を知らないむうは服を引っ張ってくる。俺は気が進まないまま入らされてしまった。
何処か心の中のでは入りたいと思っていたのだろうか?
足が普通に入っていった。
中は綺麗に整理されていて自分の妹として誇らしかった。が、机の上はゴチャゴチャしている。見なかったことにしよう。
「何処にある?」
「俺が分かる訳がないだろ。母さんと一緒に家事をして何処に服をしまってた?」
すると、クローゼットを指差した。わかってるじゃないか。俺が開けるのも嫌なのでむうに開けるように言う。首を傾けていたが察してほしい。
むうは普通にクローゼットを開けて服の引き出しを取り出した。
「うーん、この辺りかな」
「何が?」
「いや、むうが着れそうな服を夢が持ってるかどう…か…この辺りか? むう、一回立って」
むうを立たせて服のサイズが良いぐらいか確かめる。少し大きいけどそのくらいがいいだろう。
むうにこの辺りだ、と言うとどの服がいいか調べ始めた。
「俺はリビングに戻るけどいいか?」
「わかった」
「ほい」
そう言い残して俺はこの部屋を去る。夢の部屋に入っているのはあまり気分が良いものではない。
階段を降りながらふとむうの事を考える。
(むうに表情があったらどんなに可愛い子がここにいるんだろう)
首無し妖怪に表情と言うものがあるのかどうかすらわからないが1度だけでもいいから見てみたいな。
そんな事を考えリビングに着く。動きたくないから椅子に座る。ふー。椅子は落ち着く。
すると階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。着替えるのが早すぎではなかろうか?
その辺りは女の子の秘密と言うものなのだろうか。
するとリビングの扉が開いた。と思ったらむうが服を2着持ってきて困ったような顔をしていた。
「どっちが良いと思う?」
「自分の好きな方でいいんじゃない」
「選んで」
「俺が?」
「うん」
どうしたものか。片方の服は真っ白なワンピースにフリルが付いた如何にも女の子というような感じで、もう片方は黒色のラインワンピース。こちらは大人な感じがある。
どうしたものか。どちらもむうに似合う、あえて言うならむうには白が似合う。ラインワンピースの白色だったらそれを選んでるのに。
妹はワンピースしか持ってないのか?
決めた。白のワンピースで。
俺は白のワンピースを指差す。
するとまたむうは二階に駆けていった。子供は元気だ。
(待っている間に一応置き手紙でもしていくか)
適当に書こう。
俺が置き手紙を書いているとドアが開いた。
振り向いてみると誰も居なかった。この家も建ってから何十年も経ってる。歪み始めたんだろうか。
立つために椅子を後ろに動かすと何かにぶつかった。
振り向くと黒がおり、どうやらぶつけてしまったようで俺はしゃがみこんで謝った。
「ごめんな黒。ぶつけちゃったな」
「クゥーン」
「何処か痛かったところは?」
「……」
また口元を舐めてくる。この癖も直さないとな。かれこれ物心が付いた頃には舐められてた記憶がある。
(…あれ?黒何処から来た?)
リビングに居なかったし流石にキッチンにも居なかっただろ。まあいいや。
なにぶん俺はめんどくさがりなんでね。
黒を静止させていると、またドアが開いた。
次はむうがいた。服は…うん、似合ってる。が、服がブカブカなのが気になる。
それにしてもむうには悪いがやはり頭があったらどんなのなんだろうかと想像してしまう。
「どうどう?」
「似合ってるよ」
「えへへ」
…可愛い。似合っていると言ったらクルクル回りだした。
頭が無くても今笑顔であることぐらいは馬鹿でも分かるだろう。可愛いなあもう。これは夢とはまた違う可愛さがあるな。むふふ、買い物ついでになんか買ってやろう。
「…い、契ってば。」
「どうした?」
「鼻の下伸ばしてどうしたの?お菓子早く買いに行こうよー」
いちいち可愛い。俺があった子供の中でぶっちぎりで一番可愛い。結婚してやろうか。
そんなことを考えているとまたむうに注意された。全ての行動、言葉が可愛く感じられる。
……あれ?俺ってちっちゃい子って好きだったっけ?いや、あの特有の手の柔らかさは好きだけども。
俺は決してロリコンではない!!断言しておく。
また考え事をしていると玄関まで来ていた。むうはもう靴(夢のもの)を履いてスタンバイしている。
俺もさっと靴を履いて玄関を出る。
玄関を出るとむわっとした熱気が全身を包む。早速家の中に戻りたくなるが明日のことを考えると行かない訳にはいかない。
むうを見ると…あれ、むうどこいった。
「契おそーい、早く行こうよー」
「いつの間にそんなところまで行ってんだー」
むうは本当にいつの間にかに50メートルほど先まで行っていた。子供は元気だ。
俺もゆっくりではあるがむうの居るところまで歩く。地面からの照り返しが半端じゃない。
頭上からの直接の熱と地面の照り返しでサンドされているような状態に本気で帰りたくなってくる。
それでもむうは元気なようで道端の花を眺めていたり、虫を追いかけていたり。
子供の天真爛漫さには負けるよ。
俺がむうのところまで行くとむうはしゃがんでなにかを見ていた。
俺もしゃがみこんでむうの目線の先を見ると蟻が列をなして歩いていた。
昔はこういうのを見ると水を流したものだ。今はそんな酷いことはしないけど。
「むうは虫が好きなのか?」
「好きか嫌いと聞かれたら好きだけどあんまり」
「そうか、今さっきから虫とか見てるからてっきり虫が好きなのかと」
「私は虫が一生懸命生きてるのを見るのが好きなの」
予想を斜め上を行く感想だった。むうは働いているものを見るのが好きなのか?
そんなことを考えているとむうが立ち上がってスーパーに行こうと急かし始めた。
子供の考えていることはわからないや。
「早く行こうよー」
「そうだな。あ、まだむうに色々と聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「いいよ」
ここから俺の質問攻めが始まった。
「むうは意識がはっきりしたのは数日前なのになんで自分が妖怪の中で偉い分類に入るって知ってるんだ?」
「前に契のお父さんに憑いていたって言ったでしょ、その頃の記憶があるの」
「父さんに憑いてた頃の記憶か。父さんってどんな人だった?」
「私あの人がどうも嫌いでどんな人かという風に考えずに無心で監視してたからわからないや」
「そうか、それじゃどんなところが嫌いだったんだ?」
「何処が嫌いだったんだろ?雰囲気とかそういうのかな」
「そうなのか。それじゃ話変わるがなんで神様はお前達の中では悪いやつなんだ?」
「……あいつらは…妖怪を…殺して回ってるんだよ…昔の名残でっていうよりも…楽しげに動物でも殺すみたいに…」
「は?あいつら?昔の名残?なんのことだ?」
「神様にはいろんな種類がいる、それも数えきれないほどに。水とか土地とか箸の神様だっているぐらいね。
少し話が変わるんだけど…昔、神の中で妖怪を殺す術を作った奴がいたそうで。その神が一人の神にその術をおしえた。
他人から教えられたことは試したくなるでしょ?
その神はその辺の妖怪に術を使った。そして、術は成功しどんな奴でも出来ることがわかった。
それから神が妖怪を殺し始めた。最初のうちは乗り気じゃなかった神も段々楽しくなっていったんだろうね。妖怪達を守っていたはずの神様でさえも妖怪を殺し始めたんだから。そんなことがあって妖怪殺しの神がねずみ算のように増えていったんだ…」
「そんなことがあったのか、それとむう。人格変わってませんか?」
「人格位変わるでしょ!!」
「……」
変わらないでしょ。俺はむうの迫力に押し黙るしかなかった。
それと今さっきのむうは何だか怖かった。背中からドス黒いオーラが出てる感じで。
「それにしてもむうはそんなに昔のことも知ってるんだな凄いな。話を聞きながら気になったんだがむうって何歳なんだ」
言ってからしまったと思う。女の子だけど仮にも女性。普通に考えれば頭の悪い質問だった。
「400歳だよ」
答えてくれるところを見るとまだ子供なんだろうと思う。ん?400歳?
「むうもう一回言ってくれないかな、耳が悪くなったみたいだ」
「400歳だよ?」
「はは、あはは……すんませんでしたッ!!」
俺は日本特有の文化…DOGEZAをし始める。
「ど、どうしたの契!!」
「そんなにも歳上の方とは全くこれっぽっちもかんがえておりましぇんでした!」
「ううん、大丈夫だよ!と言うより、もう言ってたつもりでいたよ!それに妖怪は年取っても容姿は余り変わらないから、気にしてないよ!」
「むうさんが気にしなくても俺が気にする」
「それと!前いったけど他の人には私見えてないからね!」
「え?」
あ、あれ?そんなこと言ってたっけ?言ってたような気がするけど…あれ?もしかして今俺って…。
恐る恐る顔を上げてみるとむうの足の間から向こうの景色が見えた。
十数人。
死のうではないか。
どうせこの世界なんてつまらなかったんだ。もしかしたら一秒前に作られ始めた世界なのかも知れない。記憶が埋め込まれているだけで俺達なんて傀儡のようなものなのかもしれない。生きてるって概念は何なんですか?逆に死んだらどうなるんですか?無になったら何処に行くんですか?
これは決して現実逃避ではない。
「う…う…」
「け、契?」
「スーパーまで走るぞぉぉぉぉ!!!!」
「け、けーい!」
俺は今、風と一体化した。俺が風となり風が俺となる。生きてきた中で一番の走りをした。
周りの人の目がこっちばかり向いている気がしてならない。
数分後いつの間にかスーパーに着いていた。
後ろを振り向くもむうの姿は見当たらなかった。
第参話読んでいただき有り難うございました。
妖怪と神様の話は独自の考えなのでこういうのが苦手な方は申し訳ございません。
次回も読んでいただければ幸いであります。