「もし、体が動くようになったらどう生きればいいの?」
「好きに生きろ、それが命というものだ」
それは夢、目覚めを前にした「彼女」が見た夢。
―――――
「久しいな、真琴明日葉……まさか、お前に呼ばれるとは思わなかった」
「……好き勝手にしたバカのおかげで「アレ」を自由にしてやろう、という決心がついてな」
「何の話だ」
「そうだな、簡潔に言えば「賢者の石」の事だ、ディーンハイム」
「なんだと」
月の昇る夜、小さな屋敷で真琴明日歌の叔母である明日葉と錬金術師キャロルの密会が行われていた。
「そうだ、私達錬金術が求めて止まないアレの事だ、もっとも……そんなに良いものではないがな」
「全く、5年越しに連絡をよこしたと思えば賢者の石とは、奇跡(アスカ)といい……どれだけオレを驚かせれば気が済む……だがお前の表情を見る限りいい話では無さそうだな」
「そうだな、まどろっこしいのは無しでいこう……その賢者の石を自由にしてやりたいんだ」
「待て、話が見えないぞ、まるでそんな賢者の石が生きている様な」
歳の割に若いが終始疲れた様な表情でプラスマイナスゼロとなっているアスハ、歳の割に少女にしか見えないキャロルは少女らしい百面相をして最後には顔色を青くした。
「あれはな、錬金術の叡知なんてキレイなモノじゃない……穢らわしい世界の呪いを凝縮した様な邪悪なモノだ、もっともソレ自体には罪……『原罪』すら無いが」
「……オレも生娘じゃない、とっとと見せろ……どんなおぞましいモノが出てくるのかさっぱりわからん……」
「ついてこい……」
階段を下っていく影が二つ、まるで母と娘くらいの身長差があるが、歳は真逆を通り越して曾孫くらいの差。
厳重に錬金術で封じられた扉を開けて地下室へ入ると明かりが灯り、ソレが姿を現す。
強固な鉛の封印箱。
「気をしっかり持てよ、吐いたら自分で始末させるからな」
「……いいから見せろ、覚悟は出来ている」
そのパンドラの箱には、希望が詰まっているだろう、しかし希望が詰まっている事がそのおぞましさを更に引き立てた。
「―――これを成したのが人間なら……イカロスに滅ぼされた方が正解だったかもな……しかもこれがあの『明日歌』の親がやった事か」
「そうだ、私があいつらを『ぶっ殺した』理由だ……これは一番下の娘、明日歌達の妹になる筈だったモノだ」
赤い水の中に浮かぶのは脈動する『胎児』の形をした『賢者の石』だった。
「どうやって作ったかなど、予想もしたくない……しかしこいつを自由にするという事は……殺してやるのか……?」
「出来たならとうにやっている、こいつは死なないんだ……命が死ぬのは魂が宿っているから、魂が宿らぬモノに死は訪れない……という理屈だ」
「成る程な、原罪もオレ達の魂に由来するモノと考えれば辻褄があう……でオレにどうしろというのだコイツを」
真琴明日葉はたった数十年しか生きていない割にはかなりの錬金術師だ、その柔軟な発想は時に長い時を生きるキャロルをも驚かせる。
「お前の次の身体に使って使い潰し」
「絶対嫌だぞ、こんなの使いたくないよ本当に勘弁しろ」
その柔軟な発想もかなりトビすぎている事もある、とにかくアスハ的にはこの賢者の石に原罪を持った魂を宿して不安定化させて壊れる様にしたいらしい。
「そう言うと思ってだな、用意しておいたのだよ、改良型ホムンクルスのレシピ……肉体と魂の拒絶反応怖いだろう?命題を果たす前に朽ちたくはないだろう?」
「お前ッ本当にッ最悪だッ!そんな所は30年前から全く以て変わらん!どうせあの明日歌の教育方針も……」
「いや、あれはアイツが好きに生きた結果だ」
「やっぱお前の一族全員バカヤローだわ」
「ぐうの音も出ない程の正論だ、でも妹(クソ外道)だけは本当に救い難いよ……それに唆された旦那も糞野郎だが本当に……」
キャロルとアスハは30年来の友人、錬金術師としてだけではなく、何故だか互いが安心の出来る相手故の友人だ。
それは多分、苦労人というか、人の闇を見続けた者同士が惹かれ合ったのかもしれない。
「そういえば旦那の方は昔はマトモだったな、娘を思いやれるくらいは」
「最後は妹の人形にされてたがな」
「……しかし、随分と顔色がよくなったな……余程堪えていたな」
「妹を殺して明日歌と花音への罪悪感と母と父への罪悪感をずっと抱えてきたからな、やはり持つべきは友だな」
「それはともかくして、お前……つい最近その姪が死んだにしては随分と堪えてなさそうだが……」
「それは死んでないからな」
「は?」
「あのマリアの指輪あるだろ、あれに「分霊」してるぞ」
「……明日歌は確か錬金術も魔術もやってなかったと聞いていたが」
「才能だろうなあ……」
「お前の一族の女怖すぎるだろ……」
■
「賢者の石」は穢れを持たない完全なる存在だ。
その完全な物質で出来た「奇跡」を殺す為に、キャロルは真琴明日葉に呼び出された。
「それにしてもその賢者の石も分霊したお前の姪の身体にしてやればいいではないか、血の繋がりもある分間違いなくオレよりも相性がいいぞ」
「分霊とは本来なら神が行うモノ、そこまでアレの魂は強固ではないからな……今度こそ成仏してしまうかも知れない」
「それだけの理由でオレにコイツを押し付けるのか」
「私が頼れる友はお前しかいない、そもそもこんなモノを他の錬金術共や政府の犬共に渡してみろ、地獄が生まれるぞ」
「……オレは世界を解剖する事を命題とした錬金術師だぞ」
「そんな事出来ないさ、愛を知ってるお前には……それに解剖と言ったって、時代が進んで世界は広がり続けている、もっと『透析』の様な新しい技術でやって見せろよ」
かつてキャロルは父を人の手によって奪われて心を閉ざした、故に託された『世界を知る』という命題は解剖という暴力的な手段で成し遂げると決めていた。
だが30年前、対等な『友』との出会いが、彼女を揺らした。
「マクロコスモスとミクロコスモス、世界を知るにはまず己をよく知れ……一にして全、全にして一、錬金術の基礎にして真理だな……穢れ無き器なら、オレは本当の自分に向き合える……かもな」
「引き受けてくれるか……キャロル」
目に見えて安堵の笑みを浮かべたアスハ。
「ただし条件がある、お前の『姪』を……『真琴明日歌』を貸せ」
「いいぞ、手始めにコレなんかはどうだ」
そういってアスハが取り出したのは翡翠色の結晶が入ったケース――それは明日歌の残した欠片だった。
「それは……まさか奴の欠片か……まあいいだろう、ちなみにお前の事だからコレの解析も済んでいるのだろう?」
「これは賢者の石の真逆の存在だよ、賢者の石が全なら、こいつは一……あの馬鹿にちなんで『愚者の石』とでも呼ぼうか」
「ックク……言えてるな、でどんな効果があるんだ」
「一言でいえば『呪い』だ、『偽り欺く力』で……まあ実際にほら――『私、真琴明日歌です』」
アスハがガラスケースから取り出した『愚者の石』を口元に当て喋ると『声が変わった』。
「うわ……」
別に見た目とのギャップに引いた訳ではなく、『本当に別人の声と認識してしまった』為に引いたのだ。
「『とまあ』『こんな風に』『使い方次第に』『何にでも化けれる』『その上に特殊なエネルギー派まで出て機械まで』『あざむく』『危険物だ』」
次々と声を変えていくアスハに、キャロルも絶句。
「これ、本当に大丈夫なのか?相当まずい事にならないか?あの『バラルの呪詛』より目に見えて効果があるぞ」
「特殊な加工しなければまず気付かれないが……まずいぞ、だからもう一つの頼みだ」
「いややめろ言うな!」
「明日歌の欠片を全部処分する為に『ちょっと世界敵に回そうよ!キャロルお姉ちゃん!』」
「畜生!お前の一族はどれだけ世界を脅かしたら気がすむ!オレに世界を解剖させろよ!!」
こうして始まるのは
世界の危機を救うために敵を演じた「少女」の遺産を巡って、世界を敵に回す錬金術師達と「少女」が
再び世界を欺く歌である
そして錬金術師キャロルの受難でもある。
■
キャロルとアスハの新しい拠点は、無数の器材がところ狭しと敷き詰められ、『賢者の石』で『錬成』された『新たな躯』の入った容器のせいで非常に狭かった。
「おい、なんの冗談だアスハ!オートスコアラーどもを何処へやった!」
「ああ、『そこ』にあるぞ」
「アスハ、お前なんてことをしやがる!?」
「いいじゃないか、『愚者の石』を搭載して『変身』出来るようにしたって、こうすればエネルギー問題も解決だし『偽装』して活動もできる」
そこにあったのは人形ではなく、4体の『四神獣像』だった。
「しかも朱雀、玄武、青龍、白虎でちょうどいい上に、合体だって出来る様にした」
「余計なお世話だこの大バカ者ッ!」
キャロルはここ最近、アスハに振り回されていた。
それこそ久しく動いていなかった感情と表情筋が筋肉痛になりそうなくらいに。
「マスターもそうカリカリしなぁ~い!」
青龍と化したガリィ
「性格は変わってないので」
白虎と化したファラ。
「こう言うのも悪くないゾ」
朱雀と化したミカ。
「私はちょっと地味なのが気になるが……」
玄武と化したレイア。
オートスコアラー達が次々と喋り出す、本来なら出来るだけ節約したい通常行動のエネルギーも余裕だ。
「ほら、お前の心を分けた作品達もそう言ってる、お前もそう思ってるのでは?」
「確かにそれぞれの特性が強化されている!ミカのカーボンロッド精製は薄型のフェザーブレードとして省エネルギーで大量に飛ばせるようになっているし、ガリィはさらに水流のコントロール力と本体戦闘力が上がっている、レイアは質量攻撃力とテクニカルさを兼ね揃えたし、ファラは主力のソードブレイカーを二本に増設できているッ!だが!オレが言いたいのは勝手に弄るなという事だッ!」
一発で施された改造をすべて見抜き言い切るあたり、キャロルの錬金術師としての技量の高さが伺える、だが技と心は別なのだ。
「えっ?お前の「ホムンクルス」は弄って良いと言っていたが……」
「エルフナイィイイン!お前、さっきからやけにこそこそと作業をしていると思えば!そういう事かッ!」
「すみませんキャロル、良かれとおもって……まさかこんな事になるとは……」
器材の山からこそこそとハムスターの様に出てくるのはキャロルの「躯」となれなかったホムンクルスを再利用して作られた「エルフナイン」だ。
主に製作作業や製作物の管理作業などをやっているのだが、実はエルフナインに物事の決定権など無かったのだ。
「まあ次から私も気を付けるからその辺りにしておいてやってくれ、それにどうせ戦力の充実に過ぎる事はないだろ?」
「まったく……で、一つ気になるが『合体』するにしては『主体』が『足らない』ではないか、どういう事だ?」
実際にオートスコアラー達を人形に「変身」させ動作確認をするキャロルが疑問を口にする。
「それはだな、まだ未完成というのもあるが――メインボディはお前の『新しい躯』になる、オートスコアラー達は『増幅器』だ……楽しみにしておくといいよ」
アスハの不敵な笑み、キャロルは『ああ、絶対また何か企んでいる顔だ』とげんなりした。
こうして新たな『黒幕』達の計画は着実に進んでいく。
◆◆◆◆
その頃、マリアは一人海辺で黄昏ていた。
燃え尽き症候群とでもいうべきか、何もする気力が起きず、歌手として復帰しようにも歌が浮かばないスランプ状態になっていた。
「ねえ、明日歌……私、何をすればいいのかしら」
返事はない、それはそうだ、話し相手は『指輪』なのだから。
「そういえば……世の中には貴女こそが真の黒幕だって言う人が居るらしいわ……全ては月の落下を阻止する為エネルギーを得るための茶番劇だったって、もし本当にそうだったら私、余計に貴女を尊敬するわ……私達を立ち上がらせて、世界を一つに纏めるなんて事を本当に成してしまったのだから」
返事は変わらずに無い、指輪に滴が落ちる。
「でもね、それならそれで私は貴女を恨む、どうして生きてくれなかったのって……で、どうなのよ……明日歌」
返事はない。
「答えてよ……答えてくれないなら、私泣いてしまうわ……また……姉さんと呼んでよ……」
夕焼け空に、白いカモメが飛んでいった。
■
『白い猫』を抱いた少女が夕暮れの街を行く。
「これが都会ですか、どうしてなかなか……空気が不味いですね『ファラ』」
「なー」
少女の名は『真琴花音』、育ての『親』がしばらく『出掛ける』というのでボディガード代わりに押し付けられた『ファラ』という白猫と『ある場所』で世話になるように指示された。
それは――。
「花音ちゃーん!こっちだよー!」
「そんなに大声出さなくても聞こえる距離まで行きゃいいだろバカ!」
かつての姉の仲間達の居る場所、S.O.N.Gだ。
これには育ての親である真琴明日葉の思惑があった、それは『花音の将来』と『自身の計画』の両方に関わる物で、『明日歌の件』を利用して、花音をS.O.N.Gに向かわせたのだ。
「お久しぶりです、立花さん、雪音さん」
真琴花音の将来の夢は『アイドル』
現役『アイドル』が二名程所属しているS.O.N.Gは間近でアイドルの裏側を見れる絶好の場所であり、何より運がよければ――花音自身の夢に大きく近付けるのだ。
そして。
――気付かれては、いませんね
『ファラ』はその瞳で二人の装者を見つめる。
この白猫は『愚者の石』を搭載し『獣化変身』した『オートスコアラー』だ。
彼女の見たもの、聞いたものは全てキャロル達のもとへ送られる。
つまりはスパイであり、花音の護衛であり、S.O.N.G内部への伏兵なのだ。
そしてファラの最大の目的は日本政府が持つ『愚者の石』の所在地を明らかにする事。
――レイアなら地味と嫌がりそうな仕事だけど、これは中々楽しみね
装者達も、花音自身もまさか連れてきた猫がそんな目的を持っているとは露知らず。
計画は緩やかに遂行されていく。
◆◆◆◆
そして所変わり、国連が保有する『秘密研究所』。
「殺しは無しだぞキャロル」
「わかっている、とは言え見つかったらどうする」
「知らんのか、真琴家の女は拳で記憶を消せる」
「知らんわッ!」
愚者の石の保管されている倉庫へと侵入を果たしていた二人の錬金術師、『パヴァリア光明結社』の『迂闊なスパイ』からキャロルが『聞き出した』おかげで国連所有分は『ここ』にある分だけだと分かったのは幸運だった。
「なあ結局これなら潜り込ませたファラとオレ達だけで十分だろう……愚者の石を回収するのに世界を敵に回す計画は要らなかったんじゃ」
「お前は風鳴のクソジジイのヤバさを知らないからそんな事を言うっと……見つけた、石だ」
「目標達成だな、案外簡単にいったが……それほどなのか?風鳴の家とは」
「もし奴が愚者の石の使い方を知ったら本当にこの世の地獄を見る事になるだろうな……さて後は……ここを吹き飛ばすだけだ」
「結局、吹き飛ばすのかッ!」
――風鳴訃堂、国防の鬼、腐れ外道、あの妹(あくま)の協力者……
アスハは静かに思い返す、真琴家が『まだ』日本の暗部である風鳴機関の『一員』だった頃の事を。
「一応、念を入れてだ」
第一次世界大戦前に亡命してきた錬金術師の末裔、より良い研究の為に風鳴の犬として暗躍していたのが『真琴家』だ、最も、訃堂は『明日菜』が死んで『不良児である明日葉』しか錬金術師が残ってないと知ると役目を解いたが。
「なら、愚者の石の場所に爆石でも置いていくか」
こうして二人は目標の半分を達成した、この後、国連は何者かが『聖遺物』を狙って襲撃してきたとS.O.N.Gに通達したが、結局何を『奪われた』のか知る事はなかった。
◆◆◆◆
「もうよい下がれ」
風鳴本家、巨大な屋敷の奥に構え老人こそ風鳴訃堂。
定時報告にやって来た『使い』を下がらせて扉が閉じた事を確かめると虚空へと視線をやる。
「ふん、死んだと思っていたが……」
他には誰も居ない筈の部屋、気配すらもしなかった筈が、空気が歪み、一人の「少女」が現れる。
「冥土から帰ってきてたけど、姉さんが厄介だから暫く隠れてたんだよ、けど娘が面白い事をやってさ~楽しそうだからまた出てきた訳」
「お前が言っていた『転生』が上手くいったのか、ふむ……で何が目的だ」
それはかの『奇跡の少女』によく似た姿をしていて、それでいて邪悪な魔性を秘めていた。
「ちょっと融通して欲しいモノがあるんだ~言っちゃえば『娘の欠片』なんだけどさ……その代わりに何でもしちゃうよ?」
「いいだろう、お前は約束は守るからな……で何でもすると言ったな?『真琴明日菜』」
邪悪と外道、世界の平和はまだ遠く。
■
とあるマンション、そこはかつて明日歌が住んでいた場所。
「久し振りだ……な」
「初めまして花音、私はマリアよ」
風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
今、花音が理想とする者達が目の前に居る。
「はじめましてマリアさん、私は明日歌の妹の花音です、将来はアイドル志望です」
「……アイドルね……夢があるわね」
「はい、世界を支配するレベルのアイドル目指してます」
その全てに一片の曇り無し、真琴花音は――生まれながらにしての目立ちたがりだ。
フロンティア事変で姉である明日歌が世界中継でその姿を晒し有名人になった事、それは目立ちたがりの花音の琴線に触れた。
「私はさんざん目立ちたくないとほざいていた姉とは違います、この世界全てに私という存在を刻み付けてやるのです!必ず!」
その為の右手と言わんばかりに力強く天を指差す花音。
「――ねえ翼、なんだか凄いのが来たけど?」
「ああ、私もこういう性格とは知らなかった……」
呆気にとられる二人、白猫のファラの視線も心なしか生暖かい。
――レイアと波長が合いそうね……
「それはそれとしてです、ここでしばらくお世話になるのでよろしくお願いします」
「ああ、話は聞いている……アスハさんが海外の友人の所に行っているんだったな、この部屋は自由に使ってくれていいぞ」
「報告と違い随分と部屋が綺麗ですね、もしかして緒川さんが?」
「いえ、私よ……ギリギリまで頑張ったわ」
「マリアさん……お疲れ様です」
「待てなんで私の扱いがそんなにひどい!?」
「だって姉さんの親友ですよ?まともなフレンズじゃありませんよ…という冗談は置いておいて弦十郎さんから言われてたので、もし部屋が散らかっていたら容赦なく言ってやれと……」
花音は割と遠慮の無い性格だ、それこそテクニカル遠慮の塊みたいな明日歌とは大違いだ。
「まあ、翼さんの事は信じてます、マリアさんも……だからお世話になります」
それ故に好感も包み隠さず伝える、だから明日歌とは大違いだ。
「ああ、よろしくな花音」
「よろしくね、花音……何なら気軽にマリア姉さんと呼んでくれても」
「ハハッナイスジョーク、マリアさん」
最近、妹ロスから切歌や調や、響達にまで「姉」と呼んでもらいたがるマリア、その闇は深い。
◇◇◇◇
キャロルとアスハとエルフナインはキャロルの拠点で一体の「竜」を造り上げていた。
その人造の怪物(フランケンシュタイン・モンスター)こそ計画の要である「ドラゴン・ファーヴニル」。
これを暴れさせ、世界の視線を釘付けにし、その隙に「愚者の石」の残りを回収する、集まった愚者の石は全て「焼却」して破壊し、最後には「ファーヴニル」と「黒幕」を装者達あるいは自分達で倒して計画を完了とする。
ちなみに黒幕は新たに用意している最中のオートスコアラーで名前は未定だ。
「にしても人手が多いのは助かるし、キャロルの知識の写しが出来てるのだろう?すごいなエルフナインは……」
「えへへ…それほどでも」
「おだてられて喜ぶな!アスハもエルフナインに余計な事を教えるのはやめろよ」
和気あいあいと作業をする三人の錬金術師、とてもではないが世界の危機を相手にしているようには見えない雰囲気だ。
「そうは言うがな、「自由に生きるのが命」だとあの日私に言ったのはお前……」
「わーっ!言うなバカ!」
「キャロルとの馴れ初めですか?ボクは記憶の転写の方はそれほど精度がよくなかったのでぜひ聞かせて……」
「嘘つけエルフナイン!貴様のは肉体の差異だけだ!」
「まあ良いじゃないか、あれはだな――」
◇◇◇◇
当時、風鳴機関に所属していた真琴家には三人の錬金術師が居た。
母である真琴アザミと娘である明日葉と明日菜。
娘二人は母を越える程の才能を持っていた、が姉である明日葉は体が弱く、錬金術の秘術でも生きていくのが精々、故に「国防」の責務から遠ざける為に真琴家の故郷である「欧州」へと留学という形で送られた。
そして留学先での生活に疲弊した明日葉は出先で倒れる、なんとか錬金術で体力を回復しようとするもうまく行かず、これまでかと思われた時、偶然錬金術反応を見かけたキャロルと出会う。
それ以来の付き合いで、キャロルは明日葉に新たな錬金術を教え、明日葉はキャロルの話し相手となった。
蓄積した技術でやがて明日葉は自分の体質の改善を決める、しかし「命題」を持たない明日葉は「その後」についてキャロルに問い、キャロルは答えた。
「自由に生きろ」
と。
◇◇◇◇
「という訳でキャロルは私の命の恩人で、師であり、親友な訳である」
「その割に尊敬が足りんようだがな」
「そんなものは要らないと言ったのはキャロルだろう」
「そうなんですかー!ならボクももっと自由にしても」
「良い訳なかろうが!お前はオレ!オレはお前だ!働けエルフナイン!」
そのエルフナインとキャロルのやり取りにかつてまだ仲のよかった頃の「姉妹」を見て、明日葉は少し寂しそうに笑った。
――私いつか、姉さんの体を治したげるよ!絶対、約束する!
彼女が何処で狂ったのか、何故自分が彼女を殺さねばならなかったのか。
「過ぎた時は戻らない、私達は……結局、今を生きるしかないのか」
「……アスハさん」
「当然だ、いつだってオレ達は今を見続けなきゃいけない……――そうだな……そうだよね……パパ……」
錬金術師達は進む、より良い明日へと向かって。
■
汝、真実の名を冠し、成すべきは――
「出来たな」
「アスハ、そのオートスコアラーのガワはわざとなのか?」
「当然だろう、アスカの姿をしてれば「奴ら」の足止めにも使える」
「……変な恨みを買いそうだ」
「これから起こす」事件の偽物の黒幕となるべくして作られたオートスコアラー「トゥルース」。
その姿は寸分の狂いもなく、真琴明日歌の姿をしていた。
「なんだかんだ言ってもマリアが持っているアスカの分霊も回収しなきゃならんしな、この姿の方が間違いなくやりやすい」
「オレはそうは思わん、絶対面倒な事になると思う」
アスハは愚者の石の始末と平行して、アスカの蘇生も考えていた。
「魂」があるならやらない理由などない、たった三人の家族なのだから。
「まあ問題は器だが、追々合うモノを考えよう」
◆◆◆◆
『切り裂きジャック、現代に蘇る!?』
時が変われば世間を騒がせるモノも変わる、フロンティア事変からも少し経った頃、世間を騒がせていたのは『謎の猟奇殺人鬼』だ。
ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、世界中場所を問わず、『妊婦』を狙った殺人事件が多発している。
事件の発生時刻から推測するに組織的な犯罪であるのは間違いないとされているが――。
真実は違う、監視カメラの映像や現場に残された足跡、被害者の『傷』から犯人は『同一犯』と判明しているのだ。
犯人は『テレポート』が出来る、それが犯人の確保を困難とし、各国が頭を悩ませる原因となっている。
この超常犯罪に対抗する為に各国はその道のスペシャリストを集結させた組織を作ろうとやっきになっている。
「超常に対する危機感を煽り、各国も異端技術を研究するようになる、そうすれば日本だけが異端技術関連で各国から睨まれる事がなくなる、回りくどいね~訃堂のじいさんは」
『切り裂きジャック』こと『真琴明日菜』はラジオから流れるニュースを聞きながら、『7個』の『賢者の石』を精錬する。
風鳴訃堂が望んだのは異端技術を含んだ軍拡だ、日本が他国に脅かされる事のない様にする為なら何でもする、真の思惑こそはわからないが。
「まあ、おかげでいい隠れ家も出来たし「聖者の石」も手に入った、これでまた私の夢に近づく」
目的の為なら手段は問わぬ、それは彼女もまた同じだった。
彼女が「聖者の石」と呼ぶソレはかつて実の娘であった「真琴明日歌」の欠片。
「完結した完全なる生と死、これを解き明かせたなら……私は世界をやりなおせる」
犠牲となった妊婦から抜き出した胎児で作り出した「賢者の石」を慈しむ様な瞳で見つめ。
「だから待っててね、アスハ姉さん」
狂った「少女」は愛を囁いた。
◆◆◆◆
雪音クリスはエメラルドが嵌め込まれたブレスレットを磨いていた。
それはかつて明日歌とお揃いで買ったモノだ。
「よし、今日も1日よろしくな」
気がつけば、彼女は一人ではなくなっていた。
翼、響、マリア、切歌、調、未来……けれどその出会いを与えてくれた彼女は、もういない。
だけどクリスはそれを乗り越えた、正しくは受け止めた。
マリアから聞いた話では彼女は最後まで月の落下から世界を救おうとした、最後まで立ち止まらなかった。
だから彼女に「愛されていた」親友である自分もまた、立ち止まらない。
「世界の平和は今日もアタシが守るよ、だから心配せずに見ててくれよな、アスカ」
◆◆◆◆
白猫に化けたファラは今、停泊する二課本部に居た。
その目的は簡単、「愚者の石」の行方を探る為。
大気操作による光の屈折と猫特有の忍び足は侵入を手助けし、やがて発見した端末からハッキング。
そしてそれが日本政府の聖遺物保管施設にある事を知る。
――目的は達成ね、でも
しかしその場所は、『風鳴機関』の管轄だった。
――面倒な事に、なりましたわね……これは報告が必要……
一筋縄ではいかない、錬金術師達の目的を果たす為に越えるべき困難はあと幾つか。
ファラは静かに二課本部を抜け出すが、それを見ていた者が一人。
「ふーん、あれが噂の二課……案外雑な警備……それにあの『オートスコアラー』……姉さんの気配を感じる……」
それは真琴明日菜だった。
「でもまあ……いっか……一先ずの目的は『花音(むすめ)』だし」
二つの思惑がぶつかるまで、あと少し。
■
深く、深く、地の底に埋められた先史文明の遺跡。
大地に埋め込まれた11個の『要石』から伸びる『青銅の鎖』、その先に繋がれているのは浮遊し、黄金の様な輝きを放つ『石のような物体』。
かつて誰かが『産土神黄輝ノ塊』と名付けた『ソレ』を囲む様に二重の『黄金の円環』が浮かぶ。
「これでまた一つ」
真琴明日菜が『黄金錬成』によって産み出し、賢者の石を埋め込んだ『第一の制御輪』、聖者の石と名付けた明日歌の欠片を埋め込んだ『第二の制御輪』が回転を始める。
「また一つ『永劫回帰』に近付いた」
明日菜の『全てをやりなおす』という願いに反応し、石のような物体は輝きを強くする。
「残すは第三の制御輪を取り付け、封印を破壊するだけ……」
信念、意志、時に人は創造者さえも測り得ない事を成す。
「早く会いたいな、姉さん」
◆◆◆◆
夜、練習を終えて駐車場へ向かう三人。
「今日はいい経験ができました、翼さん、マリアさんありがとうございます」
二人のライブに向けての実際の練習を見学し、体験した花音はご機嫌だった。
「初めてだというのにあれだけ歌えるとは、案外夢も近いぞ花音」
「そうね、セレ…アスカが初めてライブで歌った時よりしっかりして…」
「マリア」
「痛い痛い痛いやめなさい翼」
翼がぐいっとマリアの脇腹を掴む、この話題は翼にとってのタブーなのだ。
主に嫉妬心が燃え上がりどうしようもなくなるのだ。
「フフフー!私は姉さんとは違いますから!」
「……」
「……」
「なんですか、二人してなんでいきなりお通夜になるんですか」
実はこの二人、相変わらず亡くした者を重ねて見る癖が治っていない、翼は奏を、マリアはセレナをアスカに見ていた、アスカ亡き後は今度はアスカを花音に見ていたのだ。
「私を姉さんみたいな物体と一緒にしないでくださいよ!それと勝手に落ち込まないでください、ヤツならどうせまたしばらくしたらリスポーンして来ますよ」
花音にとって姉とは殺しても死なない存在という認識である。
「階段から落下」「池に水没」「生き埋め」「トラックに追突」「毒キノコ」「餅」「イカ」「カキに中る」「なんか爆発」花音がカウントしているだけでこれだけあっても死んでいなかったのだ、故に今回も生きてると信じた。
それと同時に家族の繋がりというものがヤツの存在を感じるのだ。
「姉さんならいずれ現れます、間違いなく厄介事を引き連れて」
花音が言い切ったと同時にふと音が消え、カツンと足音が響いた。
その凍える様な気配にマリアと翼は即座に戦闘態勢を取った。
「こんばんは、娘を迎えに来たのだけど……」
その姿はまるで、真琴明日歌そっくりで。
「…明日歌…、いや違うな」
「ねえ花音、心当たりは?」
「あいにく……母は当の昔に死んでいるので……あの世へのお迎えもまだしばらく要らないので、やっちまってください」
「心得た!」
真琴花音には母の記憶は殆どない、あの姉みたく死に難い何かであっても、今さら出て来た所で、付いていく理由はない。
「なるほどね、風鳴のは殺すなという約束だけど「地割れ」に巻き込まれた不幸な事故死なら、問題はないよね」
みしりと大地が動いた様な音がした。
それより早く二人は聖詠を唱え、マリアは花音を守り、翼が跳躍した。
同時に周囲の地形がズタズタに陥没、破壊されたガス管から爆炎が吹き上がった。
「なんてこと……」
周囲数百メートルに渡る惨状、人為的に引き起こしたとはとても見えない。
「ガス爆発事故とでも処理されるかな、まあいいか……」
「貴様ッアア!」
翼の怒りの剣が振り下ろされる、が。
「なるほどこれが噂のシンフォギア……で、それだけ?」
翼の刃は右手で受け止められた。
「なっ……」
それは大地に刃を突き立てたかの様な感覚。
翼は思わず剣を手放したが、それが彼女を救った。
剣が突然赤熱して爆裂、衝撃で翼は後ろに吹き飛ばされる。
「翼!!」
「なんだ……貴様は!?」
「そうね、真琴花音と真琴明日歌の母、真理に辿り着きし錬金術師、真琴明日菜とでも名乗っておこうかな」
爆炎を風で巻き上げ、炎の刃として錬成した明日菜がそれを放とうとしたその時、空から一つの影が落ちてきた。
ズダンと瓦礫を巻き上げ、土煙をあげて落ちてきたのは少女だった。
「まさか……」
「アスカ…?」
その姿は紛れもなく、彼女だった。
「ほら来た、厄介事ある所に姉さんありだ!」
花音が思わず叫ぶ。
「姉さん……姉さんねぇ……」
明日菜は花音と違う者を浮かべながらもフフと笑った。
◆◆◆◆
「オイオイオイ、娘の危機だぞ」
「くそったれ生きてやがったあのアバズレ!!」
「オイ待てアスハ!何をしてアーッ!!貴様ーッアア!なんで「トゥルース」を送った!」
「ヤツを始末する為だァ!」
そろそろ作戦を決行しようとしていた錬金術師二人、しかし謎の爆発に思わず目をとられガリィに様子を見に行かせればそこには惨状。
「だから黒幕を投入するバカが居るかぁーっ!?」
思惑激突、作戦は進路変更を余儀なくされそうだった。
■
「とはいえ、受けきれるかしら、私の力を!」
明日菜が放つ炎の刃、瓦礫を溶融させる程の脅威。
迎え撃つその少女は純白の鎧を纏った人形。
―その人形は真琴明日歌にはなれない。
―故に無駄を極力省いた、シンプルなAIで、任務を執行する。
「守る」
左手をかざし、「愚者の石」をコアとしたアクセラレーターシステムを起動、飛来した炎を受け止めてそれを「分解」して「陽」のエネルギーに変換し吸収する。
「解放」
装甲表面が黒い光を帯び、受け止めた逆の右手から「陰」のエネルギーに変換し、黒いレーザーとして打ち返す。
それは沸騰した大地を瞬く間に冷やし、明日菜の周りに漂っていた炎を瞬く間に打ち消した。
『陰陽思想』と『錬金術』の融合によって生まれたオートスコアラーとの一撃のやりとりで、明日菜は自分の姉と姉の「共犯者」の技量を見極めた。
「なるほど、「この」私じゃ勝てないねー、さすが姉さんとあの女の合作……認めざるを得ない……ここは引こう」
それだけ言うとテレポートによって明日菜は姿を消した。
「戦闘終了、通常モードへ移行」
脅威が去った事を確認するとオートスコアラー・トゥルースは装甲から輝きを失わせ、灰色になる。
「明日歌!」
「セレ…アスカ!やっぱり生きてたの!?」
すると先程まで圧倒されていた二人が駆け寄ってくる。
「姉さん……あ」
遅れて花音も瓦礫の山に佇むオートスコアラーの姿を見た。
「これ大体姉さんだけど姉さんじゃないよ、魂が入ってない」
一目で魂が入ってるかを見極める少女も異様であるが、トゥルースは無表情で頷き。
「左様」
と一言告げた。
「左様て」
「左様って」
翼とマリアはあまりにも潔いロボ対応に浮き上がる気持ちが一気に沈静化させられた。
◆◆◆◆
「そういうわけでだ、エルフナイン、お前が行け」
「なんでですか!?」
「オレもアスハも奴への対策を至急練らねばならなくなった、とはいえ装者共をやられると困る、つまりトゥルースとオートスコアラー共を貸すから行け」
「私からも頼むエルフナイン、あの姉が何時から蘇ったのかはわからないが「賢者の石」を複数個持っているのは間違いない、それをどうにかする為の策を練る為にも装者達と時間稼ぎをしてくれ」
「わかりましたアスハさん」
「まて何でオレには返事をしない」
「だって詳しい説明してくれたのアスハさんですし」
「クソ!自由になりやがって!行ってこいエルフナイン!」
◆◆◆◆
「してお前は、何者なんだ」
先程助けられた恩もあり、翼とマリアは少し警戒しつつもトゥルースに問い掛ける。
「私は、真琴明日歌をベースに作られた戦闘用オートスコアラー、現在あなた達を守る様に設定されています」
「誰があなたを作ったの?」
マリアが問い掛けるとトゥルースは笑みを浮かべ。
「秘です」
「秘って……」
「そこから先はボクが説明しましょう!」
その時、赤い転移光と共に現れたのは小さな少女。
若干いかがわしい衣装のエルフナインだ。
「ボクの名はエルフナイン、トゥルースの主じ」
「違いますエルフナイン、私のマスター登録はキャロルとアスハです」
「ちょっとキャロル!?アスハさん!!台本!!」
想定されていたよりポンコツなAIに思わず虚空に叫ぶエルフナイン。
「アスハ……ってことはおばさんが作ったのこれ?」
おばの名を聞いて即座に理解した花音にエルフナインが頷く。
「あ、はい……あなた達を守りサポートするようにボクと共に派遣されてきました、全てはあの邪悪な錬金術師である真琴明日菜を倒す為に」
本当の目的は愚者の石の回収だったのだが、真琴明日菜という存在を放置は出来ない。
「あれは世界を壊す錬金術師、と聞いています…どうか共に戦ってください」
■
エルフナインを迎え、二課本部には装者達が集う。
「はじめまして皆さん、僕はエルフナイン、こちらがオートスコアラー『トゥルース』です」
「アスカじゃねーか」
「アスカさん!?」
「マッキー!!」
思わずクリスが叫び、それに続く響と弓美。
「アスカではありませんが」
しかし表情一つ変えず、トゥルースはそれを否定。
周囲に落胆の空気が満ちる。
「とまあ…そのぬか喜びさせて申し訳ないんですが、アスカさんの育ての親であるアスハさんが作った戦闘用オートスコアラーです」
「戦闘用、つまりは戦うべき相手がいる、そういう事だな」
弦十郎が、そういうとエルフナインとトゥルースは頷く。
「真琴明日歌の生みの親、真琴明日菜、錬金術師、現在時点で少なくとも過去に100人規模の殺人、先程の爆発による被害を起こしています、何よりその危険性は超エネルギー物質『賢者の石』を所持する事です、単純にそのエネルギーを解放するだけでツングースカ級爆発と同レベルの反応兵器相当の危険性を発揮できます」
トゥルースがさも当然のごとくモニターに資料を転送するが、これは明日葉が急いで用意したデータだ、トゥルースは遠くにいる二人の錬金術師から暗号化されたデータをいつでも受信できるように設計されている。
「なにより危険なのが、真琴明日菜はその賢者の石を大量に錬成できる手段を持っている事と、それだけの力を既に持っている彼女が、何らかの理由で真琴花音さんを狙っている事、その二つです」
続けてエルフナインが纏める。
「それほど危険な賢者の石とは一体どんな手段で作られるんだ?」
「それは……」
弦十郎の問いに言葉を詰まらせるエルフナイン。
「人間の胎児を素材とし、純粋な魂をエネルギー変換します、これは他人を使用する事も可能で、母体の生死も問いません、単純に考えれば地上にいる妊婦の数だけ反応兵器が作れるという事です」
トゥルースは情報を容赦なく開示した。
「そんな……どうしてそんな事が……」
「ふざけんなッッ!なんて事をッッ!」
「なんという外道の所業だッッ!」
「ひどい……」
「そんな……アニメじゃないんだから」
「うぷっ」
「マリア!?大丈夫デスか!?」
「マリア!ここに吐いて!落ち着いて!」
反応は阿鼻叫喚だった、弦十郎も叫びたかったが今は装者達が取り乱している、自分まで冷静さを失うわけにはいかないと抑えた。
「……それで、俺達に協力を依頼しに来た……と」
「……はい…皆さんにお願いしたい事はただ一つだけです、花音さんを守ってください、真琴明日菜が何の目的を持っているかは不明ですが、花音さんを守っている限り彼女はまた来ます、賢者の石への対抗手段も今、キャロルとアスハさんが探しています」
「当然チャンスがあれば、真琴明日菜を始末しても構いません、しかし過去に一度死んでいるにも関わらず復活している為、油断は禁物です」
その場にいる者達はエルフナインとトゥルースの言葉をしっかりと受け止める。
「……もし必要な事なら、私も囮になります」
最初に口を開いたのはずっと沈黙していた花音だった。
「何を考えてるかはわかりませんがその策を潰す為なら、この命を断ってやります、それが私のせきに―」
『花音、それは違うよ』
ふと、その場に居ない筈の者の、真琴明日歌の声が聞こえた。
一同は一斉にトゥルースを見た。
「『生きろ』と真琴明日歌なら言うでしょうか?あなたが死んでも解決するとは限りません、むしろ計画が破綻した真琴明日菜が自棄や癇癪を起こして大暴れされたら被害は広がります、『自分を大事にしてください』」
確かにトゥルースは明日歌ではない、しかし。
そこに明日歌が居ると皆に感じさせた。
「守るよ、絶対に花音ちゃんを守るッッ!」
響が叫ぶ。
「おうよ!もう何も奪わせるかよッッ!」
クリスがそれに続き。
「当然だ、人を守る事こそ防人の務めだ」
翼が真剣な眼差しでトゥルースを見た。
「相手が明日歌の母親だからといって、いえだからこそかしら…私は真琴明日菜は許せないわ」
マリアもトゥルースに視線を向けて言う。
「私達も」
「花音を守るデス!」
調と切歌も確固たる意思で、戦うと決める。
「私も…戦えなくても支えるよ!」
「……私だって!」
未来と弓美をそれに続く。
「だから安心して俺達に守られてくれ、花音くん」
弦十郎も今回ノイズ相手ではないとわかっているが故に自分も出ると決めた。
こうして二課と、真琴明日菜との戦いが始まった。
一方で。
「……」
マリアと翼、そして時々クリスからの視線が気になるトゥルースだった。
■
真夜中、トゥルースは格納庫にて静かに佇む。
それは明日葉が作り出した「空間跳躍技術」にて目印さえあれば何処へでも瞬時に「フォール」できるが故だ。
「アスカ……いえトゥルース、少しいいかしら」
そこへやってきたのはマリアだ。
「なんでしょうか、マリア」
「この指輪……これは明日歌が私に託したモノだけど……あなたにはこれに何か感じる事はない?」
アスカが残したニーベルングの指輪、アスカの魂の分け身が入っているとアスハが感づいていたそれだが。
マリアにとっては破損していた「アガートラーム」を「再生」させたという効果以外はわからなかった、故に錬金術というまた別の技術的観点から何か感じられるモノがないか知りたかった。
「私の検知システムは戦闘に特化しています、悪意、敵意、害意、殺意、故にそれに特別感じ入るモノはありません」
「そう……それは……」
あくまで戦闘マシーンとしての姿勢を貫くトゥルースにマリアは落胆した。
「しかし、私のシステムの分析によれば、特定の思念の周波数の検知が可能。それは味方と認識していいと診断されています。つまりは信じていいという事です」
「トゥルース……ありがとう……」
それは機械的な分析にすぎない。
「私の任務は真琴花音の保護、装者のサポート、真琴明日菜の抹殺……他、その任務を遂行したまでです」
何処まで行ってもトゥルースはアスカではない、けれど、どこまでもアスカに近い。
――守る。
アスカは心より命を守る事を優先した、トゥルースは心を守る事を優先した。
それは彼女らが自分の命を守れると、創造主達がそれを助けられると信じているから。
◆◆◆◆◆
「S.O.N.Gのみなさぁん初めまして、アタシはガリィ、まあエルフナインと一緒に貴方達をサポートするオートスコアラーの一体、他にもまぁ居ますけどぉ~一応まだ秘匿しておく事になってまして~ひとまず先に挨拶する事になりました。以後よろしく」
「一応、未完成の一体を除いてボクには全戦力を動かす権限が与えられています。今はそれぞれ配置についていますので異常事態にはすぐ対応できる様にはなっていますがくれぐれも皆さんお気をつけてくださいね」
ガリィとエルフナインが現状の開示できる情報を説明する。
戦力の秘匿は主に明日菜が未知の手段でこちらの情報を知っている、などの可能性を少しでも減らすためだ。
「それにしてもまるで人形とは思えない、気配も人間そのものだ……それに何処と無くアスカの雰囲気が……」
ガリィのあまりもの偽装の上手さに翼が思わずつぶやく。
「あ……アスカさんに似てるのはやはり開発にアスハさんが関わってるからだと思います」
愚者の石、アスカの欠片を使っているという事はさすがに言えないエルフナインは思わず冷や汗が出た。
「アタシの出来を褒めてくれるのはうれしいけどどっちかと言うと真琴家の人間に似てるっていうのは傷つくからやめて」
するとそれまでニヤケ笑いだったガリィがちょっと苦笑いになってそういう。
「な……なんで、傷つくの?」
思わず響が問いかけるとガリィが真顔になる。
「まぁ、アタシらの人格は創造主たるマスター由来なんだけどぉ、まぁ……マスターは真琴家とそれなりに付き合いが長いから真琴家の嫌な所まで知ってるワケ」
「そういえば……アタシらはアスカは知っていてもアスカの家の事はあんまり知らねぇな……」
クリスがそう呟くと、エルフナインは言っていいものかと困った顔をした。
「……私も言う程自分の家について知りませんが、確かにちょっと他の人と違う所はあります……」
すると花音が話し出す。
「なんというか皆、偏屈というか変人というか……認めたくないんですが私もその……我が強いですし?例のアレも変なところで頑固でしたでしょ?おばさんも大概アレですし……」
「というか実のお姉さん例のアレ呼ばわり……」
「アレは例のアレで上等です、切歌ちゃんのデス口調とか誤字がやばすぎて読めねぇ文章とおんなじです」
思わず調が困惑するのに対して、はっきりと言い切る花音。
「デェース!?」
「それは置いて置くとして、その、真琴家はちょっとばかりクセの強い人間ばかりなので……不本意ながら私含め……あまり一緒にされたくない気はなんとなくわかります」
「そういうこと」
花音の言葉にガリィが同意する形でこの話題は終わったが。
その場にいた装者達が今まで色々と謎の多かった真琴家に興味を持つ事となった。
■
「姉さん、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、今日は体調がいい……それに妹の頑張りを見届けるのも姉の務めだからな」
「姉さん、私の頑張り、見ててくださいね?」
◆◆◆◆
インド、午後2時。
平和、真昼の街を人々が行きかう。
ルナアタック、フロンティア事変から既に時は経ち、多くの人々は既に今を生きる事を考えて、明日が来ると信じていた。
最初に異変に気づいたのは誰だったか。
「地面が、光ってる!?」
誰かが叫んだ時には遅かった。
街は一瞬にして赤い光に包まれ、悲鳴も、断末魔も無く、多くの命諸共跡形も無く蒸発した。
そしてその赤熱した大地に残った、否、現れたのは黄金の巨体。
「人の命の重さ、尊さが目に見えるっていいものね」
2万近くの命を一瞬で100メートル程の「黄金の楔」へと「練成」したのは、錬金術師、真琴明日菜。
「我ながら自分の技量に惚れ惚れするわ、あの間抜け人形じゃきっとこれぐらいの人間を使ってもビタ一文程の黄金しか作れないかったでしょうねぇ」
そして空にそびえる「楔」を大地へと突き刺す。
「まずは一本」
目的を成した事を確認すると明日菜は姿を消す。
余波によって目測できる地域が壊滅した為に。
国連にその事態が完全に知れ渡るまでに丸一日掛かり、犠牲者数は最低でも10万人以上と推定された。
◆◆◆◆
「なんという被害だ……」
モニターに映る映像に思わず絶句する弦十郎。
待機していたオペレーター達や緊急招集された三人の装者達もその映像を見るたび驚愕の表情のまま固まる。
「これも、まさか、真琴明日菜の……した事なのか……?エルフナイン……?」
長く戦場に身を置いてきた翼もそれが本当に現実に起こった事なのか飲み込めないまま問いかける。
「…………断定はできません、協力者がいても……錬金術であっても…これほどの規模の、ましてや黄金の練成なんて……僕らの想像の規模を超えています」
突然の事にエルフナインもまた驚愕して理解が追いついていなかった。
そこへ、思念波(テレパス)によってキャロルから事実を告げられる。
「……今、現地に居るキャロル達から連絡が入りました……間違いなく真琴明日菜がやったと言っていました、地下に円形の空洞、つまりは巨大な「練成陣」が残されていたそうです、それが、アスハさん曰く昔に真琴明日菜が描いた練成陣に「癖」がそっくりだと」
「わかった、それであの塔の正体はわかるか?」
司令という立場上、弦十郎は冷静さ保ちつつにエルフナインに尋ねる。
「効果そのものはまだわかってないそうです、ですが地球に走るレイライン、つまりは地脈そのものへ楔として打ち込まれていて、下手に破壊すると、どれほどの災害が起こるかわからないので、手も出せない状態だ、と言っています」
「そう、か……俺達が戦おうとしている相手は思っていたより、強大だな……」
重い沈黙、それを破ったのはクリスだった。
「弱気だなんて、オッサンらしくねぇな、結局アタシらはそいつをぶっ潰す以外ねぇだろ、アスカの母親だろうが知った事じゃねぇ、アタシは絶対にそいつの企みを阻止してやる」
「そうです、師匠!こんなときこそ!修行です!!相手が強いからって立ち止まってちゃダメです!」
「立花や雪音の言うとおりです、人々を守る事こそ我々の務めです!」
確かに恐れが無いといえば嘘になる、しかしそれでも。
「大事な仲間が命を賭して救おうとした世界、壊されてたまるものか!」
翼の言葉が全てだった、居なくなっても確かにその想いは残った。
◆◆◆◆
「これは私の我侭だ、付いてくる必要はない」
「なに言ってるるのよサンジェルマン、あーしらもついていくに決まってるじゃない」
「寂しい事は言わせないワケだ」
「……ならば討ちにいくぞ、真琴明日菜を」
■
この星にカストディアン・アヌンナキが降り立ち、ルル・アメルが生まれるよりも昔。
この世界を支配していたのはまた違う星から来た巨人達だった。
彼らは互いに相手の心を読むのが得意でありながら、非常に好戦的で、相手を理解しながらも、尊敬していたとしても、愛していたとしても、むしろ愛しているからこそ、平気で欺き、殺しあう様な種族だった。
故に降り立ったアヌンナキとの戦いもまた、必然であった。
最初こそアヌンナキに歩み寄り、自らの技術などを交換する様な関係であった。
しかし、何らかの切欠で二者は戦争を始めた、巨人達は持ち前の残虐さでアヌンナキに有利に戦いを進めた、しかしアヌンナキが作り出した「ルル・アメル」の「力」によって敗北し、文明としては滅びた。
それが形を変え、今も多くの神話の中に語り継がれている。
そして当時の生き証人も、一人。
「くそっ……まるで巨人じゃないか……あの馬鹿げた力は……」
アダム・ヴァイスハウプト、霊長のプロトタイプ。
彼が作られたのはカストディアンさえも脅かした「巨人族」に対抗する為だった。
しかしアダムは巨人族の貪欲なまでの発展性に勝てない「無能」とされ廃棄された。
己が作られた理由であり、己が不必要とされた理由である、アダムの中に創造主に対するモノよりも黒い感情が浮かぶ。
真琴明日菜の引き起こした惨事、インドでの黄金練成を見て、過去の記憶を蘇らせる。
「滅んだ筈だ、巨人族は、なのにどうして使えるんだ人間如きが、あの力を」
無能なアダムにはわからない、その力を持たないアダムにはわからない。
そして「分かろうとしない」それがアダムの、最大の欠点。
「だとしても何とかするか、人間達が」
立ち向かわない事、それがアダムが勝てない理由。
◆◆◆◆◆
「次の星辰に間に合わせるために、そろそろ動く時かしら」
「そうね、私が動くべき時ね」
「星の力の私はこれで3分の1、第二の楔の陣を描くのに目を逸らさせなければいけない、「うまれかわるもの」を取りにいく私を一つ使い捨てましょう」
「それにしても面倒ね」
「そうね、同じ私なのに一々言葉に出して連絡しなきゃいけないなんて」
「大勢なるもの(レギオン)は失敗だったわね、もっとこう、同じ神経で動けると思ってたのに」
「仕方ないわ、姉さんに感づかれて身代わりにするのもギリギリだったし」
「でも私の中でズレがあるのはやっぱり気持ち悪いわ、早く統合したいわ」
◆◆◆◆◆
「おい、アスハ……賢者の石で出来たこの体ですらもう厳しいんだ、いい加減に休め」
「何を仰るお嬢さん、私達がやらねば出来んだろ」
既に3日、眠る事もなく、休む事もなく、食べる事もなく、「楔」の解析を進めるアスハと賢者の石を持つであろう明日菜に対抗する為に武器を作っていたキャロル。
「愚者の石のおかげで賢者の石に対抗する為の『銀の弾丸』は出来た、いい加減に一度休め、楔はオレが調べておく……支えあうのが……その……友だろ?……こっ恥ずかしい事を言わせるな!!!」
「かわい…いやなんでもないぞ………でもキャロルも休もう、やはり人間寝ないと頭がダメになる」
「………そうだな」
圧倒的に人手が足りない、エルフナインのありがたみを再確認した二人であった。
「あ~~~どっかに落ちてないかな技術者……」
アスハの呟きの先には静寂と二つの寝息だけが残された。
◆◆◆◆◆
同時刻:国連所属の研究所
「今誰か僕を呼びました?」
「いえ、博士、我々は誰も話してないです……少しお疲れになってるのでは?」
「そうかも……にしても意外に忙しいですねこの研究所」
「それはそうですよ、聖遺物研究の最先端ですからね」
■
理想(イデア)、私が望むのは笑顔の溢れる世界。
家に引きこもり、外の世界を見なかった姉さんの為に見てきた景色を歌ったのが全ての始まり。
その時、姉さんが見せたあの笑顔で私は嬉しくなった。
そんな姉さんが世界を守る為に命を賭して歌って、いなくなった。
いつもだらしのなかった姉さんも大事な人を得て変わった。
私もいつか姉さんの様に皆を笑顔にする歌を歌えるのだろうか。
夕暮れの街を行く、今日の花音の護衛はクリスと緒川が担当していた。
装者達にも生活や事情というものがあり、響と切歌は課題が終わっていない、調はそれに付き添い、マリアと翼は次の仕事の為の練習、弦十郎も本部で忙しいのでこの二人だ。
「なぁ花音、花音は暇な時は何をしてるんだ?」
「主に歌ってますね、あの例のアレに負けたくないので目下練習中です」
「アスカも歌は上手かったからな……壁は高いぞ」
マリアと米国でセレナとして歌ってた事を知るクリスはふと思い出す、意外にアスカは歌が上手かったなと。
「厄介な事にアレは歌と家事は出来ましたからね……私も何度悔しい思いをした事か……しかし乗り越えて、いえ粉砕して突破してやりますよ、そんな壁なんて!私は世界を統べるアイドルとなるのです!その為にも身内の不祥事をまずなんとかして欲しいのです」
「ああ、わかってるさ。お前がきちんと夢を叶えられるように守ってやる」
夢、かつて苦しむだけだった日々の中ですっかり忘れてしまっていた言葉、しかしアスカのおかげで陽だまりの中に戻ってこれたクリスは思う。
――アタシの夢は、この平和を守る事。アイツがくれたこの平穏を。
その為にもアスカの母である「真琴明日菜」を倒し、世界を守る。
そんな時、少し離れた所を歩いていた緒川が音も無く近づき二人に耳打ちする。
「気をつけてください、何者かが見てます」
「敵か?」
「敵だと思います、このまま人気の無い場所まで何気なく移動しましょう」
「……わかりまし……ッ!!急いで離れましょう!!」
「いきなり何……」
突然何かを感じ取った花音が叫び、クリスが驚く。
「緒川さん!!」
即座にクリスじゃ対応が遅れると緒川に目線を移す花音、緒川も瞬時に何かがあると理解し二人を抱きあげ跳躍。
その直後、直前まで三人が居た場所一帯が文字通り凍りついて氷の柱が生まれた。
「よく、気付いてくれました花音さん」
緒川も思わず冷や汗を流す、敵意や殺意といったものすら感じ取らせない一瞬の攻防、花音が感じとらなければ自分を犠牲にしなければ二人を同時に守る事はできなかった、と思わせる程の不意打ちだった。
「力の流れみたいなものがおかしかったからなんとか気付いた、気付いても私には知らせるしかできないから」
「ッ!!」
花音が気付けて自分が気付けない。
守りたい者に守られて、自分は何も出来なかったとクリスは悔しく思う、けれどその悔しさをバネに聖詠を唱える。
幸い周囲に人は居ないが為に、巻き込まれる者は居ない。
「出てきやがれ!蜂の巣にしてやる!!」
「じゃあお望み通り、出てきてあげるわ」
氷の柱を中心から四方に割り砕きながら現れたのは真琴明日菜。
「さて……私の目的はただ一つ、その娘を渡しなさい。そうすればあなた達の命の保障はするわ。邪魔さえしなければだけれどね」
「ふざけんなよ、くそったれ!誰がお前みたいな人でなしに花音を渡すかよ」
「私もあなたに付いていくならここで死んだ方がマシです」
「別にあなたの生死はどうでもいいのよ、花音。どうせあなたは何をされても死なないから」
「えっ」
「何言ってやがる……!?」
明日菜の突然の宣告に驚く花音とクリス。
「別にあなた達に教える必要なんてないけど、まあ教えてあげるわ。その娘は私の最高傑作、出来損ないのアスカとは違って死なないの、生まれながらに死なない「運命」を持っている、こんな風にね」
明日菜が周囲に生み出した氷の刃、それが花音向けて放たれる。
「くそっ!?自分の娘に向けてそんな事が出来んのかよ!?」
すぐさまクリスがガトリングで氷の刃を撃ち落とし、緒川も花音を抱え後ろに飛びずさる。
「そう、あなた達を動かしたのも花音が持つ運命、花音は自分の生存に必要な運命を引き寄せるの」
「ハッタリを吐くなよ!アタシらが花音を守ったのはアタシらの意思だ!!」
「信じるも信じないも勝手だけれど、あなた隙だらけね」
「何だと……!?」
気付いた時には遅かった、破壊された氷の破片が瞬く間に周囲の熱を奪っている事に気付かなかった。
「なっ!足がッ!!」
クリスの両足が凍り付いて、地面にはりつけられていた。
「クリスさん!」
「雪音さん!!!」
緒川はすぐさま火遁の術でクリスの足の氷を溶かそうとするが、炎は間に合わない。
「まずは一人、消えなさい」
瞬く間に巨大な氷柱を練成し、それをハンマーの様に振り上げる明日菜。
だがそれよりも早く、赤い羽根が氷柱を打ち砕いた。
「赤い、鳥……?」
クリスが見上げるとそこに居たのは緋色の巨鳥。
それは姿を変え、人型へ。
「オートスコアラー・ミカ、命令によって助太刀だゾ~」
装者の危機に、明日葉とキャロルの命を受けて待機命令を解かれたミカが参戦した。