私達はもう二度と出会う事はない、私はそれでよかった。
新たな脅威、アルカノイズ、オートスコアラー、そして錬金術師。
ギアを破壊され現状戦えないS.O.N.Gの装者達を「他国の人間から」守れという命令が私へ下った。
仮面と変声機、そして爆弾のついた首輪と言った重装備で私は彼女等の元へと送られた。
「君が風鳴機関所属の特殊エージェントの「AZ(アズ)」か。俺は風鳴弦十郎だ、しばらくの間よろしく頼む」
よく知っている、かつての上司に私は首肯をして、ジェスチャーにて声が出せない事を伝える。
「そうか、他の者にも伝えておく……が、一つ気になる事がある……君は……いや、よそう……今はまだな」
闇の中で磨かれてきた戦い方の基本を、この歩き方の一つを教えてくれたのも、風鳴司令だ。
彼は私が、真琴明日歌である事を一瞬で読み取ってくれた、その為か少し嬉しそうな雰囲気があった。
けれど、私は申し訳ない気持ちで一杯だった。
「だがあえて言う、よく戻ってきてくれた」
それに私は否定も、肯定もせず、静かに与えられた部屋へと向かう。
私には特別にセキュリティレベルの高い部屋を割り当てられた、それは現在装者達と同レベル以上に日本にとって機密性の高いエージェントである私の素顔や素性を明かさない為だ。
だがその最中で、項垂れる響と出会った。
直前にオートスコアラーと戦う際に歌えなくなったという報告は受けている。
それが、錬金術師、つまりは人と戦う事に対する躊躇いが原因だという事も。
『何をしているのですか、立花響』
「あ、あなたは誰?」
『エージェントAZ、戦えない間のあなた達の面倒を見る為に派遣されてきた』
「っ!」
『あなたが人と戦えないという気持ちは分かる、それはそれで構わない。けれど戦う事をやめたらあなたは後悔する』
「貴女に何が分かるんですか……」
『わかります、貴女の様な子を知っているので。戦う事と分かり合う事、矛盾、ジレンマを抱えても貴女は戦うしかない。だってそのガングニールは、大事なものを守るための力なのでしょう』
嘘は言っていない、かつての仲間として落ち込んでいる彼女に発破をかけるくらい、構わないでしょう。
そして翌日、私はオートスコアラーと遭遇した彼女の援護へ向かう事となった。
辿り着いた時に見たのは倒れた響と、呆然とする小日向未来と、笑う人形達。
「んあァ?なんですかぁ?」
「バラバラにされたいのカァ~?」
『バラバラになるのはお前達だ』
新しい「からだ」になってから、私は少しばかり抑えが効かなくなっている。
「ネフィリム」の細胞によって体が赤黒く染まり、この姿が変わる、変質を察知した事で仮面も戦闘状態へ入った事によって「バトルモード」へと移行、人工衛星で情報が風鳴機関へと送られる。
「なんだよくわかんないけどさぁ、アタシ達の用はもう終わったの、だからこいつらの相手でもしてなよ」
現れたのは錬金術師が作ったと言われるアルカノイズ、通常のシンフォギアの防御さえも突破してくるこの相手を呼び出すと人形達は姿を消した。
『ア゛ア゛ッ゛!!!』
私は怒りに任せ、ノイズを吹き飛ばす。
この体の一部はまだシンフォギアだ、ネフィリムのエネルギーをそちらに回す事でバリアコーティングを強化できる。
そのおかげかアルカノイズの攻撃でも私の体は分解されない、そもそも分解されても急所でなければ問題はない。
瞬く間にノイズを始末し、二人を保護すると回収班を待つ。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
『私の、仕事をしただけ』
小日向未来、戦う事にばかり固執していたあの頃の翼さんを響と共に癒してくれた、私には出来なかった事をしてくれた少女。
感謝と共に少しばかりの感傷を覚える。
彼女は立花響の帰る場所、では私の帰る場所は何処だ?
異形と化したその手を見れば、滴る血の幻影が見える。
私は何処で何を間違えた、私が何をした、私だって皆の所に居たかった。
でももうそれは過ぎた事、今を生きなければならない、過去に囚われていては、何も救えない。
強化型シンフォギアが完成するまでの間、私は任務に集中した。
時折襲撃を仕掛けてくるオートスコアラーを私は一人で迎え撃つ、この体の戦闘力のおかげで何とかなっているが、それも限界が近づいてくる。
もう何日も「食べてない」。
そしてその日はやって来た。
錬金術師キャロルが直接攻め込んできたのだ。
改修が完了するまで後少し、後少しだけ持たせなければならない。
「随分としぶといな、この化け物が!」
『それが、仕事なのだから!』
今までに無い程の強敵、攻撃の一撃さえも致命傷になりうる程だ。
かつての私ならとっくに地に伏せてたが、今の私は化け物だ。
「大した再生力だ!だがこれならどうだ!」
私は炎によって体中を焼かれ、四方八方から襲ってくるアルカノイズによって全身を刻まれていく。
しかしネフィリムの力が私に倒れる事を許さず、まだ立つ事を許してくれる。
だが限界だ、暴走対策の首輪と仮面は丁寧にキャロルが壊してくれた。
「ばかなお前はッ!!真琴……明日……」
その言葉が紡がれるより早く、私の体は動いて、彼女の細くおいしそうな喉を啄ばんでいた。
ごぽごぽと声にならない血の音が彼女の口から溢れてくる、私の体の中にも満足感が満ちていく。
それからは彼女の小さな体をただ貪った、幼い少女の様な姿をしていながらとても大きなエネルギーを秘めていた彼女は、私にとって最高のご馳走だった。
そして気がつけば、腹は満たされて、変身は解け、辺りには命だったものが散らばっていた。
見られた。
知られた。
知られたくなかった。
あなた達にはそんな目で見られたくなかった。
三人の装者達が私を恐れを含んだ目で見ていた。
「明日歌、なのか……」
震える声で翼さんが問いかける。
「私は真琴明日歌じゃないよ」
そうだ、真琴明日歌はあの日死んだ、だから彼女らの思い出の中の私は綺麗なあの頃の私で終わっている。
だから違うと否定した、私は獣、エージェントAZなのだ。
立ち上がると、私は姿を異形のモノへと戻す。
「エージェント・AZ、人食いの化け物」