「翼さん、流石に脱いだ服を放置するのは歌手というかアイドルというか女の子としてダメだと思います」
「すまない……だが」
「だがも、しかしもありません、洗濯機まで玄関から21歩の距離なんですからせめて投げ込むくらいしてくれれば後は私がやりますから!」
「ああ……すまない」
「といいながらタオルを椅子にかけたまま行かないでください!絶対そのままにするでしょう!」
「あっ…後で」
「いいですか?後からやるというのはやらない人の口癖なんです!散らかし癖を治すのは今がそ!の!時!な!ん!で!す!」
「お……緒川さんより厳しい……」
「当たり前です、司令から『厳しく指導してやれ』と言われてますから、それに……」
「それに?」
「翼さんに歌を教えて貰ってるんですから、私も何か返せないかなって思って……」
「……私も……頑張るよ」
――計画通り!
翼さんは善意を無下には出来ない人だと私は信じてますからね、こうすれば改善できるでしょう!
――君は知るだろう、そもそも翼さんが家事の知識をまるで持っていなかった事を、洗剤洗浄された米の味……それが私を犠牲へと駆り立てた。
◆◆
一週間の特訓の結果、ついに起動に必要なだけのフォニックゲインは確保できるようにはなりました。
というか今までの人生の中でカラオケとかしてた分もフォニックゲイン換算されてたらしく元より大分貯まってたらしいです。
ですがまた新たに問題が浮上しました。
――完全起動した後にどうやって聖遺物を摘出するのか?
「聖遺物A(仮称)」は普段、肉体と同一化しているせいで取り出せないので起動させなければならない。
しかし意識を保ったままでなければ摘出中に無意識にまた肉体と同一化してしまう可能性がある。
そもそも取り出したら「変化した足」はどうなるのか?肉体への影響は?
おかげで解決するまでレッスンは中止になりました、というかそもそも考えても前例が無い以上やるしか無いでしょうに。
ですが翼さんがめっちゃ不安そうに見てくるので私も考えてみる事にしました。
プランA『同化させたまま私ごとシンフォギアシステムに改造する』
プランB『根性で聖遺物を制御する』
プランC『起動させた状態で局部麻酔をして、私が自分で聖遺物を引き摺り出す』
個人的にはBが一番ですが、Aも捨てがたいです。
ですがCが一番現実的ですね。
「櫻井先生、聖遺物を摘出せずにそのまま改造したりは出来ますか?」
「多分無理ね、工程の途中の熱であなたが死ぬわよ」
ダメかあ……次!
「じゃあ気合いと根性で抑えるのは?」
「ちょっと無理じゃないかしら」
やっぱりダメかあ……じゃあ。
「じゃあ私が起動させて意識を保ったまま引き摺り出すしかありませんね」
「真琴!?お前一体何を!?」
翼さんが驚いて立ち上がって、思わず私もビビる。
というか顔怖!?
「………いいの?」
「座して死ぬよりはですね、むしろそのプランでそちらも進めてませんか?」
「司令に一度提案したけれど反対されたわ、流石にそれは耐えられないだろうって」
まあ、常識的に考えれば自分の内臓を引き出すみたいな物だし。
でも総士がニヒト解体の為にやろうとしてたし出来なくは無いんじゃないかな?
「真琴、私がお前に歌を教えたのはっ!」
「大丈夫ですよ翼さん、言いましたよね『信じて』と、それに『これから』一緒に戦っていく為に、私の『実力』と『覚悟』を知っておいて貰いたいんです」
翼さんが今にも泣きそうな顔をしてて可哀想なので安心させたい一心でテクニカル発言を吐く、こういう時は上手いこと言えるのな。
勿論、私だってこの命を捨てるつもりはない。
妹も、面倒を見てくれてた叔母さんも残したまま死ぬ訳にはいかない、まだ何も返せてないのだから。
「……わかった、私は信じよう……だが死ぬ事だけは絶対に許さない……!」
「当然です、まだ私は何も出来てないんですから」
――その時、私はまだ知らなかった。
この「信じる」と云う言葉が、私達を縛り付ける
◆◆
「あの、何故翼さんが」
「私が介錯を引き受けた」
「介錯だと私が死ぬ事になるんですが」
「間違えた、介抱だ」
「滅茶苦茶緊張してますね」
起動実験当日、サポートとして翼さんがつく事に、当然といえば当然なのだけど。
起動実験というと絶対なんか起きる気がするので、先にフラグを折っておくとしましょう。
「翼さん、もし私が暴走した時は迷わず斬ってください」
「真琴……それは……」
「それと名前で呼んでくださいよ」
「あ……アスカ……ならば、お前も自分で何とかする努力をしろ」
「当然努力しますけど、私は翼さんを信じてますから、私を死なせずに聖遺物だけ斬るくらいはやってみせてくださいよね」
こういうフラグは失敗しても死にはしないので命懸けの実験にはうってつけです。
現実にフラグというモノがあればですけど。
『こっちは準備できたわよ、そっちのタイミングで起動を始めてちょうだい』
「アスカ……」
「翼さん、大丈夫です死んだら死んだで化けて出ますから」
「ふっ……それは大丈夫とは言わないんだがな……」
初めて私のジョークで笑ってくれましたね、これは幸先がいいです。
――私を信じて、あなたを信じる。
聖詠と呼ばれるシンフォギアの起動コード。
それを真似て作られた歌を私は歌う、高まるエネルギーを確かに感じる。
――感じるぞ、お前の存在を!
『聖遺物が起動したわ!アスカちゃん!……いえ待って!摘出は待ち』
――来いッ!!
激痛と共に私の背を突き破り、何かが飛び出す、同時に全身に結晶が生えた。
きっとこれは私のイメージだ、私のイメージ通りの形に聖遺物が変化してるのだ、だから!!
「これが!!私の歌かッ!?」
自分の腹に手を突き込み、ソレを引き出す、聖遺物のコアだ!
だがそれ以上体が動かないッッ!というか流石に死ぬ!!痛い!痛い!
「翼さんッ!!」
「っ……アスカ!」
翼さんが纏うギア『天羽々斬』の刃が私とコアを切り離し――
私の意識は落ちた。
◆◆
一瞬の躊躇いが、私の刃を零れさせた。
確かにソレをアスカの体から取り出す事には成功したが。
だが砕けた「刃」と「羽」がアスカの胸に突き刺さった。
――私を信じた彼女を、私は裏切ってしまった。
一瞬、躊躇ったが為に……。
私は医療チームによって運ばれていくアスカを見送る事しか出来なかった。
「翼ちゃん、貴女のおかげでアスカちゃんは助かったわ」
「どういうことですか……」
「貴女がもし完全な状態で聖遺物を切り離してしまってたらアスカちゃんは死んでたわ」
「なっ……!?」
「でも貴女が躊躇ったからアスカちゃんは生き残った、彼女は『勘』がとてつもなく鋭いからきっと翼ちゃんが躊躇う事まで含めて『信じた』のだと私は思うわ」
櫻井女史はそうは言うが、私は、今の私はどうすればいいのかわからず、ただ立ち尽くすしかなかった。
◆◆
いやー、コア摘出は強敵でしたね!
滅茶苦茶痛いのなんのって常日頃転びまくって鍛えてなければ泣き叫んでましたよ。
結局全摘出はできず一部は残りましたし、翼さんの剣の欠片が刺さって融合してたりしましたが体の調子はよくなりましたし、足もリハビリが必要ですが元に戻りました。
「翼さん、ありがとうございます、おかげで助かりました」
「……そうか……それは……良かった」
ただ、翼さんの態度がちょっと変なのが気になる。
ああ、刃の欠片が刺さってしまった事とか気にしてるのかな?
「大丈夫ですよ、翼さんがくれた傷さえも私が生きている証なんですから」
とりあえず聖遺物の侵食がなくなって命の心配が無くなると今度は私のギアの名前が気になりますね、一体何になるんでしょうか?
アスカ
「(翼さんの剣なら綺麗に切除できそうだし)信じるで~」
翼さん
「ミスってちょっと残った……(しょんぼり)」
フィーネ
「(ミスってちょっと残るのまでわかっていたというのか!?)」