「あれ?櫻井先生、翼さんは?」
「『自分を見つめ直す為の修行』に行ったわよ」
リハビリ途中の『融合症例』の様子を観察する、完全聖遺物『イカロスの羽』を摘出した以上もう用済みだと思ったのだが、聖遺物の残滓や天羽々斬の欠片が融合した生体に関するデータを集める必要があると感じた為に観察を続行する。
出来れば拠点に持ち帰ってあらゆる実験解剖をしてみたいのだが『アレ』がまだ『弓』も『鎧』も『杖』も扱いきれてない為に延期となっている。
それに、この『融合症例』が新たに手に入った『イカロスの羽』で作るギアの『適合者』となりうるのは確実。
持ち帰るよりもここに置いておいた方が様々なデータが期待できそうだ。
「そっかあ……まだ気にしてたんだ翼さん」
……は?
今何を言ったのだこいつは……
「ねえアスカちゃん、今なんて」
「いや、翼さんも気にしすぎですよね、聖遺物の摘出は成功したんだから何の問題も無いのに」
ちょっと何いってるのかわからないわね……普通の人間なら自分のミスで他人の体の中に異物が混入したら気にする、私だって自分のミスくらい気にはする。
「長年の悩みが吹っ飛んで多少の失敗なんて帳消しに出来るくらい私は嬉しいのに、それに翼さんの一部が入ってるってのも絆的何かが……」
この精神的怪物を連れて帰るのはやめようと決めた。
◆◆
やばい(やばい)。
最近、翼さんが滅茶苦茶思い詰めてる。
話しかけても「だいじょうぶ」「すまない」「わかっている」「私がまもるから」の四択しか返事が帰ってこない……!
ヤバいヤバい、何がヤバいって目がヤバい、ギラギラ輝いてるし隈がヤバい。
間違いなく私のせいなんだろうけど何が原因かわからないのもヤバい!
しかもここ数日姿すら見えなくて不安になってきた。
なんか!手遅れになる前になんか解決しなきゃいけない!
病室から脱出し、杖をつきながら、私は急ぐ。
困った時は大人に相談だ!
「風鳴司令」
「アスカくん、何故ここに!?」
「翼さんは何処ですか」
「病室に戻りたまえ、君はまだ万全じゃない」
「知ってますよ、それより翼さんは何処ですか?」
「翼は今、修行に出ている」
「翼さんは何処ですか?何をしてるかでは無く何処に居るかを聞いています」
「翼は今、奥多摩に」
「そうですか、では私も向かいます」
「ダメだ」
うーん、こういう時は!
「今向かわなければきっと手遅れになります」
「……アイツはそこまで弱くない」
皆そういうんです、だからこういう時は捻りを加えて!
「いえ私の方がです、天羽々斬の欠片が早く翼さんに会いたいと言って聞きません、このままでは胸を貫いて飛び出しかねません」
勿論嘘ですが、私が翼さんに会いたいのは事実です!
一部は真実なのでそれで許してもらいましょう。
「緒川ァッ!ヘリの用意をしろ!急げ!」
やったぜ、やっちまったぜ。
ごめんなさい司令、お叱りはまた後で受けますので……多分。
◆◆
「翼さん?なんで私の目を見てくれないんですか?そんなに気になるんですか?ちょっと失敗したこと」
「まあ中身が減ったり増えたりしたぐらいですし大丈夫ですよ」
「そんなことより、元気になったら何しましょうか!」
「大丈夫ですって!だから翼さんも元気だしてくださいよ」
自らの体を長く蝕んでいた聖遺物を取り除く事が叶った彼女の喜ぶ姿を私は直視できなかった。
アスカは奏ではない、奏はもう居ない。
だから奏と違う彼女を奏の代わりとして見ていた事をはっきりと思い知らされるようで、自分の心の弱さを思い知らされるようで、見ていられなかった。
私はアスカを信じていなかった、アスカは私を信じていたのに。
私が信じていたのは勝手に重ねて見ていた奏の姿。
だからあの時、躊躇っていた、違うから信じて切れなかった。
まだ冷たい新緑の滝に打たれながら、私は自分を見つめ直す。
理由はわかった、だがこれからどうやって彼女と向き合うべきなのだろうか。
まずは全てを謝る事から始めるべきだろうが、その後は?
私は彼女とどういう風に付き合っていく?
その答えは今日もまだ見出だせずにいた。
「翼さん、風鳴司令からの緊急のお電話です!!」
「叔父様から……?」
忙しい緒川さんの代わりに付き添いで来てくれていたエージェントの人が慌ててやってきた、ノイズの出現か!?
『翼ぁっ!今すぐ寺まで来い!説明は後だ』
のっぴきならぬ状況らしい、今いる滝から寺までは急いでも半時間は掛かる、となればギアを纏い行けば最短の距離で3分に短縮できる。
アスカを傷付けてから一度も展開していないギアを握り締める、そうだ、私は剣だ。
今はただ一振りの剣でいいのだ。
人を守る為の剣で。
まだ『翔べ』はしないけれど『跳ぶ』くらいはできる翼で。
「翼さん……待ってました」
指示された場所、そこに居たのは、紛れもなく、私が信じなかったアスカだった。
「あなたがどういう風に、何を悩んでいたのか私にはわかりません、ですけど謝ろうと思ってここまで連れてきて貰いました、全てが手遅れになる前に間に合ってよかったです」
「手遅れ……一体どういうッ」
「それは……」
アスカがそれを口にしようとした時、叔父様が続きを告げた。
それは私の心をズタズタに引き裂くには十分な言葉だった。
「アスカくんの中に残った天羽々斬の欠片があまりにも長い間、お前から離れていた為に制御できなくなってしまっていたらしい」
私は目の前が真っ暗になった。
◆◆
司令が告げた私の嘘で。
翼さんが、あまりものショックに倒れた。
私も翼さんが倒れたショックで、意識が飛んだ。
ああなんてことだ、なんてことだ。
目が覚めればまた病室。
隣のベッドには虚ろな目で体を起こした翼さん。
そして私達が目を覚ますのを待っていた櫻井先生。
ヤバい(ヤバい)
「翼ちゃん!アスカちゃん!目が覚めたのね!早速で悪いんだけどお話聞かせてちょうだい!」
櫻井先生のテンションが、ヤバいし静かに涙を流す翼さんもヤバいし私の心もヤバい。
「まさか二人同時に倒れて起きるなんてこれってシンクロニシティね!」
私達の明日はどっちだ。
要約
アスカ「やばし、翼さんが思い詰めて間違いが起こる前に解決しなきゃ」
翼さん
「うーん、アスカの事ちゃんと見れてなかったし謝ってちゃんと付き合いを考えよう」
アスカ
「アカン翼さん修行とか今すぐ会わなきゃ手遅れになるよ!私が!」
司令
「なんだとォ!?翼、天羽々斬のせいでアスカくんが死にそうだ!」
翼さん&アスカ
「「ファッ!?ウーン……(気絶)」」
フィーネ
「ファッ!?(驚愕)」
司令「シンクロニシティだとォ!?(驚愕)」
本 格 的 ♂ 大 事 故