過ぎた時は戻らず、希望は未来にしかない。
罪を償う為に私は今を生きるこの命を使うしかない。
犠牲になるのは私みたいな脇役の役目で、翼さんはその犠牲を乗り越えていく主役。
私は翼さんの引き立て役になる為に生き残ったのでしょう。
そうでも思わないととてもじゃないけどこんな重圧感には、耐えられません。
次に目を覚ませば、全てが夢で、病室のベッドで死を待つだけの患者であれれば、どんなに気が楽だろう。
まあそんな事を考えても仕方ありません。
気持ちを切り替えましょう、こうなれば翼さんが私の全てです。
まず私はキレイに、翼さんの近くにいて大丈夫な存在になる努力をしませんと。
まず癖の強い髪をストレートになるようにしましょうか。
それで翼さんをしっかり見る為に、邪魔な前髪を切ってしまいましょう。
さて次は……そうだ、隣で戦える様に戦い方を覚えないとですね。
かつて共に戦ってた奏さんが「槍」を使っていたのなら、私も「槍」を使えるようになった方が翼さんも戦いやすいんじゃないでしょうかね?
だとすれば槍術を覚えましょうか。
そうと決まれば、行動開始です。
◆◆
「何をしてるのかしら、アスカちゃん」
「訓練です」
病室を抜け出した真琴明日歌をトレーニングルームで発見した櫻井了子は困惑した。
重りの付いた鉄パイプを振り回しては躓き、足をもつれさせて倒れるその姿の何処が訓練なのだろうか?もしかして痛みに耐える訓練なのだろうか?
「槍術を覚えたいんです」
槍?メイスの間違いでは?と重りのついた鉄パイプに天才が思わず首を捻った。
確かにシンフォギアシステムは本人の特性から武器を作り出せる、槍なのにマント、鎌なのにアンカー、槍なのに繋ぐ手、それは製作者がよく知っているし、説明もしている。
だからどんな武器の取り扱いの練習をしても無駄にはならないのだが。
「それ、槍じゃなくてメイスの動きだと思うのだけど……」
「槍って打撃も刺突も斬撃も投擲も出来るから多分この動きでも大丈夫と思ったのですが……」
「何事も基本が大事よ」
武器は正しい使い方が大切だ、ルガーランスは魔法の杖ではないし、ガンドレイクから普通はワームウェッジは撃てないように。
「というか、訓練がしたいなら普通に言いなさい、勝手に居なくなられると皆心配するから」
「すいません、次回からそうします」
それだけ言うと、また明日歌は鉄パイプを振るう。
だがそこでフィーネの天才的頭脳がある発見をした。
「……ねえ明日歌ちゃん、その鉄パイプ……何処から持ってきたの?」
「?病室からここまで来る途中の通路の壁に立て掛けてありましたが……あっ!勝手に使ったりしてすいません!後で返しますので」
違う、違うそうではないのだ。
「ねえ、ねえ、流石に私もそれを取り外して振り回す事なんて想定していないのだけど」
それはフィーネだけが知っていた。
現在、医務室からトレーニングルームの間の通路は工事中。
その理由は表向きは施設の増築の為の配線工事。
真の理由はカ・ディンギルの建設作業である。
明日歌が振るっていたのは特殊加工されたエネルギーパイプ、かなり繊細で、少しでも歪みが出来ればそこからエネルギーが漏れだして大爆発である。
もし、ここでフィーネが気付かずに明日歌が振り回したエネルギーパイプを元の場所に繋いでいたならば。
荷電粒子砲は起動と同時に大爆発して計画は失敗していただろう。
――なんだ、一体なんなのだ!こいつは!!
無自覚のうちにフィーネの計画を破壊しかけていたとはつゆ知らず、明日歌は勝手に部品を使った事に頭を下げる。
フィーネはこの運命の怪物に戦慄する。
今日も本人の知らぬ間に、周囲からの評価が悪い意味で上がっていく明日歌であった。
◆◆
「アスカ、大丈夫か?」
「はい、でも人は痛くなければ覚えませんからね、それに翼さんの為と思えば痛みでさえも……ですので思いっきりお願いします」
「そうか、では行くぞ…!」
「はい、来てください!」
翼が放った渾身の突きの衝撃を明日歌はその身で受ける。
体を貫く痛みに耐え、押し込まれるのを踏みとどまる。
そしてその全てを呑み込んで呻きさえも抑え切る。
「よく耐えたな、割と本気で突いたのだが……」
「痛いのは慣れてますけど、痛くて動けないだとダメですからね」
「いい心意気だ、続けるぞ」
「はい!」
二人が行うのは模擬戦、別に如何わしい行為ではなく、鎧を纏って、竹刀で打ち合うだけの極めて健全な戦いである。
リハビリによって踏ん張りや、跳躍がまともにできるようになってきた明日歌は特訓の為に翼との模擬戦を始めた。
ギアの完成まではもう少し掛かる為にまだ竹刀などを使ったモノである。
実戦は痛みを伴う、それは装者ですら変わらぬ現実。
一部を除けば人は痛みで足の止まる生き物である、だからまずは痛みや衝撃を受けても止まらない方法を、受け流す方法を学ぶ。
次は歌いながら動く練習。
持久走や、様々なトレーニングと平行させての発声練習。
ちなみに武器を使った戦い方を学ぶのはパイプ破損事件の罰としてギア完成までお預けとなった。
突然だが、風鳴翼は剣である。
戦う事に人生を掛けてきた感じの防人系女子である。
それはやや歪み気味な「この世界の風鳴翼」も変わらない。
つまり何が言いたいかというと。
-天ノ逆鱗-
「げほっ」
「あっアスカ!すまないやりすぎた!」
「だ……大丈夫です、痛みでさえ祝福ですから」
極めて不器用なのだ。
この後、様子を見に来た司令に叱られストップが掛かるまでにアスカが負った重傷は7つに及んだ。
アスカ
「もう翼さんしか見ない」
フィーネ
「本当になによこいつ……」
翼さん
「(アスカを傷つけるのもちょっといいかも)」
司令
「加減しろバカ!」