『よくやってるわクリス、そのまま真琴明日歌を縫いつけておきなさい、デュランダル強奪はアリーだけでなんとかなるから』
――バレてた!
フィーネからの指示でアスカを匿っている事がバレている事を知り、冷や汗を流すクリス。
『無事デュランダルを手にいれたらまた連絡するから、それまで自由にしてなさい……それと別にその子をどうこうするつもりは無いから安心しなさい、もう一人の方のデータで十分事足りてるの』
一方、謎のアスカ不要宣言で一先ずは安心したクリスであった。
アスカとクリスの同居開始から三日。
「相変わらず早起きですね、クリスは」
「ああ、癖なんだよ」
――フィーネの許可も降りたし、今日はアスカと自由に過ごそう。
「今日は一緒に街にでねえか?」
「ぜひ!!行きましょう!」
この後、護送ルートが変更された事をクリスが知るよしもなく。
またフィーネもクリスがアスカと共に街に出た事を知るよしもなし。
―――――
――もしもあの時、アタシが街に出ようなんて言わなければ……
君(クリス)は知るだろう、本当の悲劇を。
―――――
――平日の朝から街に友人と二人で買い物など、夢でも見ているみたいだ。
もしあの頃の私に今を語っても『なにその悲しい妄想は……』と可哀想な目で見るだろうか?
アスカは浮かれていた、割りとかなり浮かれていた。
「私……ここまで生きられて本当によかったよ、クリス」
「な……なんだよいきなり!?『これから』だってのにそんな縁起でもない事言うなよ!?」
「これから……そうですね!これからもどうかよろしくね、クリス!」
「お……おう!」
笑顔で手を握るアスカに顔を赤くして答えるクリス。
――不思議なもんだ最悪の出会いをした者同士、何故かとても隣が暖かくて、居心地がよくて、泣きそうになる。
ここ数日、アスカの暖かさにすっかりほだされ切って、クリスは笑う。
「この間テレビで見たアイス屋さんだ!行きましょうクリス!」
「あっおい引っ張るなって…ったく……」
都会に出て一年以上、殆どの時間をリディアンや二課の周辺地域で物事を済ませていたアスカにとっては未知のエリアはまだまだ多い。
「服屋は……ちょっとファッションセンスが不安なのでパス!クリスもタンクトップ軍団の仲間入りはしたくないですよね!」
「なんだよ、その不死身そうな軍団は!?」
三段積みのアイスクリームを片手にあっちこっち目移りするアスカ、意外にアグレッシブなアスカを見失わない様に追い掛けるクリス。
「おいおいちょっと待てよ、ほら」
「なんですか?」
「手出せよ、はぐれないように繋ぐん……だよ!」
「あっ……うん!」
双方顔真っ赤、言い出したクリスは特にひどいもので完全に俯いてしまった。
――このままこいつと手を繋いでいれば、アタシはきっと暖かい場所へ行けるかもしれない
――このまま手を離さなければ私とクリスは大事な友達のままで居られる?居られるよね……
互いに隠しきれない期待を胸に街を行く。
―――――
同じ頃、デュランダルを追って『ネフシュタン』を纏ったアリーがノイズにぶら下がりながら翼と交戦していた。
「やりにくいね……全く、それに今日はいつもより切れ味が鋭い……嫌な事でもあったかい?」
「貴様とする話などない」
現在、翼のギアの出力は安定していない。
それは精神状態によるモノだ。
「今日はあの羽の子はいないのか、残念だね……あの子とも戦ってみたかったが……」
「黙れぇっ!」
フィーネからアスカと翼の事は聞いており、ここぞと煽りに使う、戦闘は心を乱された方が不利となる。
「隙だらけだよ!」
力を込めた一閃を回避され、宙に浮いた翼に蹴りが入り距離が開く。
「君の相手は彼らだよ!」
「待て……待てぇえっ!」
ソロモンの杖で、空いた距離の間にありったけのノイズを召喚、これで翼はノイズの相手をせざるを得なくなった。
しかし戦闘の影響もあるが、どうやら『米国』が同時にこの機会を狙ってきており、フィーネこと了子もまた予定外のルートを通る事となる。
それは市街地ギリギリの場所。
人通りの多い場所を護送ルートに選ぶなど、ましてや敵を引き連れて通るなど常識的に論外であるが、そうも言って居られない、緒川や弦十郎が出ても対処しきれていないのである。
「全く想定外…ねっ!」
「了子さん……私が足止めを!」
「いえ響ちゃん、今はダメよ、相手はもう一人いるハズだし、他国のスパイにも撃たれかねないわ!」
「そんな!?」
さすがにアリーも戦争中でもない為、市街地で暴れる様な事はしない。
しかし米国のスパイはやりかねない、最近のスパイはどうにも手荒でスマートではない輩ばかりなのだ。
―――――
「クリス、こういう時ってアクセサリーを互いに送りあうらしいですよ!」
「それならアタシもよく聞く、友情のシルシとかそういうヤツだろ?」
随分歩き、大分端の方にあるショッピングモールのアクセサリーショップまで二人は来ていた。
「そうです!私が選ぶのはそうですね……このエメラルドの羽ですね、ベタですけど石言葉は幸運、幸福ってヤツですよ」
本当は同化結晶っぽくて綺麗だからという理由で選んだだけである。
「こういうのって対になるか揃いにするって言うぜ、だから左右対称のヤツにしよう」
こうして友情の印として互いにブレスレットを送りあった二人。
そこでクリスはつい心に浮かんだ言葉を口にしてしまう。
「あのさ、アスカ……アタシと一緒に遠くに逃げないか……?」
もう戦いたくない、アスカさえ居ればいい、そんな気持ちがつい漏れだしてしまった。
「……えっ……」
「アタシにはフィーネから逃げたら何もない、アスカはどうだ?」
「その私は……」
クリスが敵の組織を抜けたいと思っていると聞いてアスカはそのまま二課に勧誘してしまえばいいのではと考える、だがそれでクリスの罪状は消えるのか?一度は敵対していて、二課から奪った聖遺物を使っていたんだぞと、思い止まり。
「そうだね、考え……」
突然の轟音と揺れ、上を見上げれば落ちてくる天井。
「クリス!危ない!」
咄嗟に友を庇う様に突き飛ばし、アスカの意識は暗転した。
「えっ……おい……おい……アスカ?」
クリスが気が付いた時にはそこに誰もいなかった。
瓦礫に混じっていた鉄筋に切断されたのか、残っていたのは右腕、送ったばかりブレスレットをした右腕だけ。
周りを見渡すがアスカの姿は無く、天井には青空、足元には二つ下の階まで崩落した大穴だけがあった。
「ははは……アタシは……アタシはぁあああ!!」
惨劇に少女の悲痛な叫びだけが響いた。
アスカちゃんの死に芸が炸裂だ!