次にアスカが目を覚ましたのは負傷から『たった』三日後、外傷は殆ど『塗り潰され』、切断された腕も『再生』していた。
「……見知った天井ですね」
「あら、おはようアスカちゃん」
側にいたのは了子、凄まじい速度で再生するアスカのデータを取っていたのだ。
「あの、いきなりなんですけど……私と同じぐらいの歳の子が近くで見つかったりしませんでした?」
「いえ、特に聞いてはいないけど」
「そうですか……クリス……無事ならいいんですが」
目が覚めて真っ先に思い浮かぶのは短い間だが一緒に過ごした友の事。
ここは二課、これ以上かつて敵対したクリスの事を口に出すのもあまりよろしくないかと思考を打ち切ると今度は翼の事が浮かんできた。
「謝らないと、ですね」
最近はすっかりクリスと楽しくなっていたが為に深く考える事をやめていたが、翼や弓美の前からしばらく姿を消していた事を謝らなければなと、アスカはぼんやりと考える。
ここの所、板場弓美はずっと悩んでいた。
――翼さんとマッキーに何て謝ろう……
元を正せば、説明不足のまま翼にファフナー(DVD)を与え、アスカのメンタルをへし折る原因となったのは弓美だ。
ならばそれなりに責任は取らねばならない、が、少女一人に取れる責任などたかが知れている訳で。
「とりあえず……謝って二人の仲を取り持ちましょ」
悩んだ、考えた、後は実行するだけ。
最近、用事の無い時は完全に自室警備員と化している翼さんを連れ出して、マッキーに謝りにいこう。
「翼さん、今からマッキーの所に謝りに行きますよ!40秒で支度してください!」
「なっ!?いきなり何だ板場!」
「いつまでもうじうじうじうじと!碇シンジくんですか!今の時代うじうじ系キャラは流行らないわ!」
板場弓美、好きなものはアニメ・特撮、きちんと流行も追う。
同じ頃、廃ビルで静かに無気力に座り込んでいたクリスの前に一人の男がやってきた。
「んだよ……オッサン」
「君が、雪音クリスくんだな」
「アタシの名前を知ってるって事はフィーネか二課か、どっちかか」
「まあ二課の方だな、何もやりあうつもりはない……ただ礼を言いに来ただけだ」
「礼?ああ、アリーの奴をぶっ飛ばした事かアレは……」
「違う、アスカくんの事だ」
「……何?」
アスカの名が出た途端に、クリスの目に再び炎が灯る。
「彼女が随分と世話になった、今は少しまだ回復し切ってないから会わせられないが」
「ちょっと待て、アイツ生きてるのか!?」
「ああ、色々事情があってな、だが生きているし、凄まじい速度で回復へ向かっている」
「なんだよ…なんだよそれ……」
――しばらく一緒に居たせいで忘れていたが、そういえばゾンビみたいな奴だったな……あいつ
思わず安心しきって力が抜けるクリス、それを見て男は笑う。
「随分といい友達を持ったな、アイツも」
「ん……?あれ……アンタみたいなお人好しが居るのに何でアスカはあの日倒れてたんだ?」
目の前の男がどうしようもなくお人好しだと、クリスは見抜き、アスカも悪いようには扱われてないと安心する、だがそうなると疑問に浮かぶのが拾ったあの日、アスカの家出だ。
「ああ……あれはだな、不器用な奴とアスカくんが少しばかりスレ違った事故が原因でな……」
「なんだよそりゃ……」
――ひどい扱いを受けて逃げ出したんじゃねーのかよ!アタシの勘違いかよ!
内心悶えながらも、クリスは表情には出さなかった。
「ならいいよ、アイツを大事にしてやってくれ……アタシみたいにしないでやってくれ」
「君は来ないのか?」
「ああ、デュランダルは返す、だが……まだアタシにはやることがあるんだ」
クリスはそういって布に包まれた剣を男に差し出す。
「確かに、デュランダルだ……だが君のやるべき事は俺達と一緒じゃ出来ない事なのか?」
「ああ、アンタらは間違い無く止めるからな……まあ……話はここまでだ」
クリスがフィーネのアジトの位置を語らなかったのは一応の義理、デュランダルを返したのもまた、アスカの無事を知らせてくれた義理。
「……そうだ最後に一つだけ、このブレスレットをアイツに渡して欲しい……それだけが、アタシの最後の心残りだ」
そう言って投げ渡すのはあの日渡せなかったエメラルドのブレスレット。
「そんじゃあな、おっさん」
クリスは晴れやかな顔で聖詠を唱えギアを纏うと、窓から飛び降りて廃墟を後にする。
それを男は、風鳴弦十郎は、ただ見送る事しか出来なかった。
「アスカくんは確かにいい友を持った」
だが別に諦めた訳でもなかった。