「その歌は……絶唱…っ!?」
――誰もがその歌声に釘付けとなる。
この世で最も鮮烈で鮮血な歌、イカロスが命の様に赤い炎を文字通りに燃え上がらせる。
イグニッション・モード、制限時間60秒の自己崩壊のリスクを背負った捨て身の戦術形態。
赤い炎を纏ったセレナはまるで流星のごとき速度で地を翔けて、瞬く間に翼との距離を詰めると拳を引き。
「避けないでくださいね」
「!!」
炎を纏った渾身の一撃を辛うじて防いだものの翼は勢いよく吹き飛ばされ、大きなダメージを負う。
「まずは一人……」
今のバックファイアでセレナもかなりのダメージを負った、しかし炎はまだ消えてはいない。
次の標的は切歌と調によって窮地に立たされていたクリスだ。
「セレナっ待つデス!?」
「私達だけでやれる!」
赤い光の尾を纏うセレナ
「大丈夫……私が守るから」
「アスカっ……」
一瞬、ほんの一瞬、吐息さえ聞こえそうな距離までセレナとクリスの距離は縮まって。
頭突き一発、イチイバルのヘッドギアを生身の頭突きで砕き、衝撃でクリスを気絶させた。
「今は、誰にも邪魔をさせない」
後一撃、後一人、口と目から暖かい何かが零れ落ち、視界が赤く染まるがセレナは止まらない。
「セレナ、ダメよ!もう勝負は」
「アスカさんっ……もうやめてください!」
声が遠退く、視界がぼやける、故にただ力を込める。
「私達の……勝ち……」
セレナの炎を纏った拳、響はそれを受け止め、一瞬後に自分の左手が砕かれた事を自覚した。
「うっぐっぅう……ッッ!?」
左手を押さえてうずくまる響を見下ろし、セレナから噴き出していた炎は止まる。
「ああ……姉さん……すこし……後少しだから……」
限界、全身が焼け焦げ、絶え間なく血を流し続けながらセレナは笑い、倒れ。
マリアは、焦燥に凍り付いた表情のまま叫ぶ。
「切歌ッッ!調ッッ!撤収よ!」
戦闘不能になった装者達には目もくれず、セレナを抱き上げてその場を離れるマリア達。
「どうし……て……」
無事な右手をただ伸ばす響、その目には涙。
わかりあうにはまだ遠く、その命を平気で薪と焚べて傷つけあうかつての仲間。
「どうしてっ……!」
今はただ、痛みに耐えて泣いていた。
基地に戻ったマリア達は直ぐ様セレナの惨状を知る、神経断裂上等、炭化した皮膚、境界のわからない装甲と肉体の融合部分。
しかし、再生が始まればそれはすぐだった、ギアのインナーも装甲も肉体も境界を失い一つとなって、それがもはや人ならざるモノだと嫌でもマリア達に知らしめる。
今のセレナがかつてアスカと呼ばれる人間であった事、自分が巻き込んだが故に今の彼女は人でないナニか。
もはやアスカの体は再生を繰り返しすぎて取り返しのつかないレベルで変化している。
それはFISで初めて検査した時から比べて、である。
テセウスの船のごとく、ある意味ではもう真琴明日歌はそこにはいないと言えるかもしれない。
――私は何処に辿り着けば……あなたを救える?
マリアは巻き込んでしまった……あの日見つけてしまった、ベッドに横たわる少女を見下ろした。
「ん……知ってる天井ですね」
「マッキー!馬鹿っ何やってるのよ!」
「ここではセレナって呼んでくださいよ、ユミ」
「そんなことより……!」
アスカが弓美を特別拘束したりしない様に指示していたおかげか、病室――正式には「セレナ専用隔離室」で目覚めて直ぐに二人は会えた。
「どうしてあんなにボロボロだったの!?ビッキー達は!?」
弓美は傷だらけのアスカを見て、ひどく取り乱していた、更に再生してその姿を変えると余計に取り乱した。
マリアは恐らく事情をある程度知っているであろう少女に「余計な事は話さない様に、セレナの――アスカの立場は少し危ういから」と釘を刺し、こうして聞かれる心配の無い場所以外ではあまり話さない様にさせていた。
ゆえにアスカが目覚めた事で今まで栓をしていたモノが溢れだしたのだ。
「これからやろうとする事を皆さんに邪魔をされたりすると、まずいですからね……とはいえあまり傷つけたくもないですし……私が傷ついて互いに最低限の被害で終わるようにしただけです」
「そんなにボロボロになってあんたは……何がしたいの?」
「もちろん、皆を守る事です……これは私に出来る事……いや私がしなきゃいけない事なんです……この命を使ってでも」
――真琴明日歌は止まれない、後ろに守りたいものがあるから。
隣に並んで共に戦う事さえも許さず、想いを踏みにじる事になってしまっても……。
もし、ここで誰かの手を取って共に歩く事を選んでいたなら……
『喪失―さようなら―、融合症例第一号(まことあすか)』