愚者の選択
骨まで砕けていた左手の再生、その代償は融合症例の不安定化だった。
「響くんは症状が安定するまで非常時を除きギアの使用を禁ずる」
「……わかりました」
真琴明日歌という『前例』が居た故に症状が深刻化する迄の猶予が生まれたが、立花響の状態はよくなかった。
体に融合したガングニールから得られるパワーは常温核融合、当然ながら大きなエネルギーは安易な熱となる、熱は生物を容易く壊してしまう要素。
当然ながら命の危機に繋がるのだが、皆そこまでの危機感を持っていなかった。
それはもう一人の融合症例が残した大量のデータから『対抗策』が既に用意出来ているからだ。
それは真琴アスカと同じ様にギアとの更なる融合を目指すか、あるいは『第一号』から採取されたサンプルを元に作られた『聖遺物を同化吸着』させ引き離す『REmovar(リムーバー)』と呼ばれる薬品でガングニールを除去するか。
これは櫻井了子が明日歌の体内に残ったイカロスと天羽々斬の欠片の一部を取り出す為に研究していた物で、そのデータが無事に残っていた。
つまり症状がある程度安定したなら立花響は選ぶ事になる。
――ガングニールと同化し、永遠の戦士となるか
――ガングニールを手放し、人として生きるか
「……私は……」
まだ、選択の時ではない。
◆◆◆
ハワイ、FISが所属する研究施設の所長室に一人の男と二人の女が居た。
「世界を敵に回しているのに随分と調子がよさそうねえー」
「いえいえ、内心ではいつ上に切られるか戦々恐々ですよ」
「それでもその余裕はあの『天使』のおかげというわけか」
「ええ、アレはとても凄まじい……おかげで計画も既に最終段階、神獣鏡の装者も見つかった事ですし……そろそろ、そちらも動いて頂いて大丈夫ですよ」
「なら、そうさせてもらうわ……それとこれは『局長』からの預りモノよ」
「なるほど、ノイズと分解弾ですか」
「使い終わった道具はきちんと始末しろというわけだ」
「『装者』はそれでどうにかなる筈、足りなければ自前で何とかするわけだ」
「あーし達はこれで帰るけど……くれぐれも、しくじらない様に」
「わかっておりますよ、プレラーティ様、カリオストロ様」
カシャンと音を立て、光が広がるとそこに居た二人の女の姿は消えて、残るのは所長と呼ばれる男。
「今のは、誰ですか?」
そして扉の前に立つ白髪の少女、セレナ。
「……我々と協力……いや利用している組織だよ、セレナくん」
「そうですか……利用されているのは私達だった訳ですか」
セレナは音もなく拳銃を取り出して銃口を男へと向ける。
「やめたまえ、君では敵わない相手だ」
「使い終わった道具は片付ける、でしたか……所長、これまでお世話になりました」
「やめ」
三度、乾いた銃声が鳴る。
そこにセレナが居たのは偶然だった、聞き覚えのない声が聞こえて、それを聞いてしまっただけ、そして所長もまた運が悪かった。
今のセレナには、守る為に傷付ける矛盾が満ちていた。
「セレナ……何をして……」
銃声に驚き、ギアを纏った調がその場に駆け付けた時見たのは。
「ああ調ちゃん、今日から私が所長です」
血を流して倒れる所長だったモノと、所長の椅子に座るセレナだった。
「皆に伝えてくれるかな、元所長は裏切りモノだったから始末したって」
凍り付いた瞳で、セレナは冷たく笑った。
「それと……ウェル博士を呼んできて欲しいな」
◆◆◆
早まってしまった、しかしあの時はあれしか選択肢は無かった。
まあ仕方ないですよね、問題はこれからの事です……そう……皆を纏めてフロンティアを起動させて……。
でも月の軌道をなんとか出来ても……マリアねえさん達はテロリスト扱いなんですよね。
………でも人を殺したのはまだ私だけです。
………………
罪を重ねるのは、私一人で十分ですよね?
……既に私は一度死んでますし、血塗れのこの手では、もう皆と手は繋げませんし、ね。
◆◆◆
「よく来てくれましたウェル博士」
「何の用ですか……セレナ『所長』」
「……あなたは元は外部の人だ、故に一番信用されていません……」
「だからここで始末するのですか……」
「いいえ、あなたには全てが終わった後に私を倒す英雄をやってもらいたいのです」
セレナは元所長が渡されたケースから銃弾を取り出し、それを拳銃に込め、それを机の上に置く。
「マリアねえさんや切歌ちゃんや調ちゃん、他の職員の皆さんも、テロリストではなく、私という怪物に騙され脅されて操られた哀れな被害者、あなたはそんな支配の中から抗って私の計画を打ち砕く、英雄になって貰いたい」
――きっとそれが最良の、選択肢故に