「弓美はすごいよ……だから私も……まだ頑張らなきゃね」
天羽々斬を纏い、瓦礫の山を必死に昇るのは『セレナ』だ、ネフィリムとなったアスカとフィーネから送られてくる情報を認識しながらも、ほぼ独立した意識を持ち行動する。
それはさながら魂の分割。
――しかしまさかアルカノイズがこんな形で役に立つなんて
もう殆どは消失してしまったが、セレナの体を押し潰していた瓦礫や道を塞ぐ岩などを分解していってくれた。
「やっぱり人の作ったモノは人を救えるんだね」
そして最後のアルカノイズが壁にぶつかり崩壊するとそこはコントロールルームだった。
「ありがとう」
まさかノイズに感謝する日が来るとは思わず、複雑な気持ちになりながらも、よろめきつつコンソールに近づくセレナ。
しかし、無理を言わしてきた限界か脚が結晶化して砕ける。
「後、少しかあ……頑張り所……だね……私も……」
体を這わせて、止まる事なく、進む。
◆◆◆◆
――マリア姉さん。
マリアは暗闇の中で、小さくうずくまっていた。
――何をやってるんですかマリア姉さん、何もまだ終わってなんかいないよ
聞こえてくるのは「本当の妹」の声。
「セレナ……」
――全く、私を無駄死ににさせるつもりですか!立ってくださいよ、マリア姉さん
「セレ…アスカ……」
セレナの方はともかく、アスカの方は間違いなく幻聴である。
――そっちの妹(仮)はともかく、マリア姉さん……いい加減前に進みませんか?いつまでも止まっていては私も安心できないよ?
「でも……私にはもう何も」
――残ってるじゃないですか、切歌も調も、マムも、歌う為の力も
――後、やるべき事も、できる事も
セレナとアスカ(幻聴)の声にマリアは周囲の景色が見えてくる。
それはマリア自身の本当の気持ちだった、本当はずっと気づいていたのに見ないふりをしていただけだった。
――マリア姉さん
――止まるんじゃないですよ
――行こう、一緒に
立ち上がったマリアの瞳に、もう迷いは無かった。
駆け出すマリア、遺跡を通り抜け、向かうは先程まで居たコントロールルーム。
今ギアを纏えなくとも、まだ出来る事がある筈だと信じたマリアの目に入ったのは。
「アスカ……」
床を這い、コントロールパネルへと向かう満身創痍のアスカだった。
そしてアスカももう自分をセレナと呼ばないマリアに違和感を感じて、その目を見れば、今までには無かった強い遺志を感じて察した。
「……もう姉さんと呼んじゃダメですか?」
アスカも事情には気づいていた、マリアが死んだ妹の名を付けて、依存していた事、そうやって逃げていた事、でも今はもう違うという事も。
「いえ、アスカ……あなたが望むならそう呼んでくれてもいいわ」
「なら変わらずマリア姉さんと呼ばせてください、この呼び方にも随分と慣れたモノで」
「それで、何をすればいいのかしら」
「手を貸してください、私一人ではコントロールパネルまで届かないので」
青いギア-天羽々斬-を纏うモノの殆どフォニックゲインを生成できず、アームドギアの生成すらままならないアスカをマリアは抱えてコントロールパネルまで運ぶ。
「フォニックゲイン……照射開始……月軌道、安定まで後少し……後少し歌が足りません……マリア姉さん、多分これが私の最後の希望です」
アスカの肉体の維持は限界だ、天羽々斬の欠片をコアとしてフォニックゲインを消費して最低限の活動を維持しつづけて来たが、とうとう貯蔵してきたフォニックゲインも尽きた。
だから自身の胸に手を突き入れてコアを取り出す。
「アスカ!?」
「いえ……これが最後じゃありませんね……これから……ですね、マリア姉さん……私と共に皆を助けに行きましょう、これで歌って」
変質した天羽々斬の欠片は、生まれ変わり続けて来たそれは「閉じた円形」廻っていく指輪の形となっていた。
「私にお似合いですね……ニーベルングの指輪……とでも……」
それをマリアの手に託した明日歌の体は、翡翠色の結晶へと変わって砕け散った。
それは本来なら支配の指輪、全ての愛を断った者だけが手にするモノで、やがては呪いの指輪となる、だが明日歌的に元ネタはファフナーだったのでそういう逸話は、特に関係なく。
ただマリアに力と勇気を与える為に、自分の思いを完成させる為に、ほんの一瞬だけ世界を一つにする為に託した決意と愛の形。
「行きましょう、明日歌」
救済劇の終わりが始まる。
◆◆◆◆
――あ、分体が壊れました……でも……もうすぐこの物語も無事に終われそうです
――それは幸福な結末かしら、私もバッドエンドははっきり言えば嫌いだぞ
「切ちゃん……切ちゃん……しっかりして……しっかりしてよ……」
切歌は絶唱の負荷に倒れ、調はそれを抱えるも限界。
「まだ動けるか雪音……」
「ったりめえだ……終われるかよ……こんな所で……」
翼も息切れが激しく、クリスも片腕が上がらない。
「けほっ……ごめんビッキー……私もまさか……そんな事になるなんて……」
響を助けた弓美ももう一度ギアを纏おうとするがダメージがひどく、歌えない。
そしてどうにか目を覚まして起き上がる響だが。
「弓美ちゃんは悪くないよ、でもどうしよう……ガングニールが……無いと……」
もう装者達に戦えるだけの力はない、そびえ立つ黄金の大樹と化したネフィリム「イグドラシル」を倒す事など出来ないように見える。
――いえ、ハッピーエンドですよ、ハッピーエンドに辿り着けます……そう信じてますから