近年これほど短気なことはないと思って
百年計画に改めました。
百年計画なら大丈夫
誰が出て来ても負けません。
―夏目漱石―
「なんで俺、付き合わされてんの」
月は弥生を過ぎると卯月に入った。
段々と陽が暖かくなり、炬燵も閉まいきる季節だ。
そんな中、俺たちは今ディスティニーランドに来ていた。
なんでも、凸守なんとかのご招待のようで、俺たち総武校組も巻きこまれた。一色、由比ヶ浜、小町たちは楽しそうだが。
「ごみぃちゃん、静かにして」
小町がうんざりした顔で俺を見た。
……言い間違えだよね? お兄ちゃんとごみぃちゃんくらい間違えるよね?
小町は受験を終え、無事合格した。
あの時は泣いた。雪ノ下たちにひかれた上に「マジキモイ」と言われたが泣きつづけた。
そして俺たちも無事に進級し、遊ぶだけではなく、進級祝いも兼ねているようだ。
入口のゲートを越えて中に入ると、そこは既に違う世界だった――。
――なんてことはなく、相も変わらず世界は人に塗れていた。
「はあ」
思わず嘆息をつくと、前を歩く一色たちと逸れないようにただ歩いた。
もし俺が神だったらこんな世界は破壊しているが、神ではなくただのぼっちなので他人に文句さえも言わずひたすらに歩くのだ。
少し歩いたあたりで一色がこちらに振り返って声をかける。
「お化け屋敷行きませんか? 今なら空いてますし。ペアはこのくじ引きで決めて」
言うと一色はどこに閉まっていたのか、くじを取り出した。
「いいわね!」
「や、闇の者ならば当然」
「マスターかっこいいデス!」
どうやら丹生谷は賛成のようだ。
……残りの二人はなにを言っているのか分からなかった。
結局、雪ノ下たちも賛同して、一色の提案が通ることになった。
× × ×
「きゃああ!」
お化け屋敷の入口に近づく度、前の客の絶叫が聞こえやすくなった。
二人一組という話でペアになったがどうやら四人一組で入るようになっているみたいだ。
仕方なく編成し直して、俺と丹生谷、一色、そして凸守が一つのグループになった。
銀杏学園について詳しくないので特になんとも思わなかったが、丹生谷と凸守は思うところがあるようで反発していた。
だが二人の思うようには行かず、雪ノ下の威圧もあり、順番が来るとそのまま四人で入った。
「……うわぁ……」
入ってすぐに丹生谷が声を漏らした。
それが凸守にとってはいいチャンスだったようで、丹生谷を見ると、ぷぷ、と笑って先陣を切った。
とはいえ、四人は紐で繋がれていて偶然凸守が先頭になっただけだ。
凸守は仰け反りながらも進む。
「うわああ! 奴が! 闇に選ばれしダークドールがあ!」
「きゃああ!」
このお化け屋敷のテーマは『日本人形』で、その名の通り若干和テイストな造りになっている。
だがその怖さは折り紙つきだ。
畳を歩き、襖を開く。
言うならば日本家屋を進んで行くような感じだ。
俺も何度か悲鳴をあげそうになっていた。一色がいるから耐えるが。
凸守と丹生谷はそんなことは気にしないようで、ひたすら叫んでいた。
暗闇でよく確認出来ないが、一色は平気そうな雰囲気があった。
「お前、平気なの?」
「いやホント、何が怖いのか分からな……」
「あ、せんぱーい! 怖いですー」
一色は忘れていたのか、修正するとあざとさ全開で俺にしがみつく。
ちょっと? 歩きづらいんだけど?
「お前が怖いから。離れろ」
「えー? こんなかわいい後輩に腕を取られて嬉しくないんですかー?」
「別に。お前ほんとあざとい。あとあざとい」
「あざとくないですー」
「あざといですぅー」
「…………うわ」
突然沈黙が流れる。
「…………気持ち悪いです」
「うわあぁ! 今度は上からデス! 天使の攻撃デス!」
凸守が悲鳴をあげ、一色が嘲笑う。
けれど、怖がりのはずの丹生谷は、ずっと黙ったままだった。
× × ×
「……」
お化け屋敷に入ってからしばらくの事。
比企谷は一色さんにしがみつかれていた。
いや、抱きつかれていた。
暗闇でも分かるくらいに。
女子の目からなら分かる。
――多分、あれは。
「おかしい」
思わず口から漏れる。
私は一色さんより比企谷との付き合いは長い。中学の間だけではあるが。
いや待てよ?
確か、比企谷の話では会ったのは修学旅行後。大体半年か……。
で、私は中学の頃、あいつが転校し来てから。
でも今、毎日二人が一緒にいるとしたら親密度は……。
どうして、ちゃんとしなかったんだ中学の頃の私!
というかあの頃アイデンティティクライシスだったしな……。
…………ていうかこれ、私、嫉妬してない?
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