元中二病同士の青春ラブコメ?   作:いろはにほへと✍︎

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Before you point your fingers,make sure your hands are clean

―Bob Marley―

『誰かを指さして非難する前に、君のその手が汚れていないか確かめてくれ』



へいとたいむ!

 六月。

 本格的に梅雨に入り始めると、毎日高い湿度にいらだたしさを感じるようになった。

 背中をじわりと汗が這う。

 それは奉仕部も例外ではないようで、由比ヶ浜が軽く顔を拭う。

 

 「あー! 湿度高すぎるよ!」

 

 お前、湿度なんて言葉よく知ってたな。

 そうつっこむのも、躊躇う。

 いらいらしている時に余計な刺激は慎まなければいけない。

 雪ノ下も同じようで、ぱたりと本を閉じる。

 

 「そうね。本にシワができてしまうわ」

 

 「ほんと、ほんと!」

 

 雪ノ下が言うように、梅雨は愛読家にとって大敵だ。

 まあ、由比ヶ浜が本当に本を読むのかは謎だが。

 

 「由比ヶ浜さんは本を読むのかしら……?」

 

 「ひどいよゆきのん!」

 

 雪ノ下が愉しむ笑みを浮かべて、由比ヶ浜が抗議する。

 俺は話相手がいないので、本を読みながら静かに耳を傾ける。

 

 「――ところで比企谷くん」

 

 雪ノ下の声で意識が覚醒した。

 二人の会話に耳を傾けているうちにうとうとしていたようだ。

 

 「……なんだ。どうかしたのか」

 

 眠たい目を擦りながら尋ねると、雪ノ下は俺の鞄の方を指さす。

 ……ったく。ものをゆびをさしちゃいけません! ……ダメなのは人か。

 仕方なく、その先を見ると俺の暇つぶし機能付き目覚まし時計がすごい勢いで揺れていた。

 

 「あ、悪い」

 

 俺は一言詫びを入れると、すぐに通知を見る。

 

 ――丹生谷森夏。

 

 確認すると、すぐに電源を落とした。

 

  × × ×

 

 『それで、勉強を教えてもらえることになったのよ』

 

 『そうか』

 

 部活を終えると、小町に頼まれたおつかいのために、電源を入れメモを開いた。

 だが足りないものがないか、不安になり小町にメールをした。

 すると、電話がかかってきたので、反射的に出てしまった。

 お察しの通り、丹生谷だった。

 

 『ちょっと聞いてる?』

 

 『はいはい。聞いてる聞いてる』

 

 気づけば既に十分ほど経っていた。

 どうやら、最近あった実力テストで数学が一桁だったらしく、先輩に教えて貰っているという話だ。

 

 『それでほんと、分かりやすくて!』

 

 その先輩がどれほど分かりやすく教えてくれたのか知らないが、かなりの感動だったようで、俺はひたすら言い連ねられていた。

 ただ、俺には興味の無い話だ。

 こんな、非生産的なことはやめろと今すぐ言いたいところだが、こういう中身のない話をすることでリア充の気持ちを知ることができるのならなかなか興味深い。

 ……って、んな訳ないだろ。

 

 『はいはい。もう分かったから。その女の先輩が凄いってことは』

 

 そろそろ買い物をして帰らないと、小町に怒られる。

 そう思って、呆れ気味に言ってしまう。

 

 『……女?』

 

 だが丹生谷の食いつくところはそこではなかった。

 

 『……は? なんかおかしなこと言った?』

 

 『私、教えてもらってるの男の先輩よ?』

 

 『は?』

 

 また、同じ言葉が出る。

 「は?」しか言えないのか俺は。

 はっはっはっ?

 

 『それでねー』

 

 俺がつまらない冗談を考えていると、また丹生谷の話が再開する。

 本当にそろそろ切らないとな、と思い口を開きかける。が、遮られてしまった。

 

 『その先輩がかっこよくてさー。教えてもらってるだけで幸せ?』

 

 『…………』

 

 きっと丹生谷は何気なく呟いたのだ。

 だがどうしてか、俺は返す言葉を失ってしまい沈黙が流れた。

 その沈黙が一方的に、俺だけに痛い。

 

 『じゃ、俺、買い物あるから』

 

 『……そう』

 

 俺が途切れ途切れに言うと、今日の通話はそこで突然終わった。

 丹生谷も特に引き留めはしなかった。

 俺はスマホをしまうと、すっかり夜闇に包まれた道を歩いて、頼まれたものを買いに向かった。

 

  × × ×

 

 「あー、やっちゃったあ……」

 

 比企谷との通話を切ると、私は絨毯の上で仰臥した。

 ちょうど真上に室内灯があって、目に刺さるように光が入る。

 ……突然切られた通話。

 私、軽いやつとか思われちゃったかなー……。

 でも舞い上がってたからな……。

 一人で懊悩としていると、聞き覚えのある曲が流れた。

 あ、電話か。

 少し時間をかけて思い出すと、スマホを手に取る。

 

 ――いっしきまこと。

 

 仕方なく私が応答にスライドすると、すぐにうるさい声が聞こえてきた。

 ……なんでこいつ、いつもこんなに元気なのよ……。

 

 『……で、明日は凸守の家に集合な』

 

 『……は?』

 

 話半分に聞き流していると、いつの間にかそんな話になっていた。

 私は拒否しようと口を開く。

 

 『ちょっとそんなの――』

 

 『じゃ、夜六時集合だから!』

 

 一色はそのまま私の返事も聞かずに通話を切った。

 ったくなんで私の周りは話を聞かないやつばかり!

 この季節の湿度も相俟って、私の心中は穏やかではなくなった。

 

  × × ×

 

 翌日、俺は一人で千葉駅に来ていた。

 特に考えることもなく、「そろそろ文化祭だな」とか「小町はやっぱりかわいいよな」とかどうでもいいことばかり頭に浮かんだ。

 けれど。ふと、別のことが頭に浮かぶ。

 昨日の丹生谷のことだ。

 だがすぐに頭からかき消した。

 実際、俺には関係の無いことだ。

 いつも勝手に期待して、勝手に裏切られた気になって。

 落ち着いて考えればすぐに分かることなのに、やはり変わらない。

 不意に知った声が耳に入る。

 

 「ひっきがやくーん」

 

 つい振り返ると、万人を掌握しうる笑顔で、雪ノ下陽乃は立っていた。

 

 「なんでいるんすか……」

 

 ……占い一位だったのに。

 気づいた時には既に遅い。

 雪ノ下陽乃の笑顔は変わらない。

 俺はそのまま振り回されることになった。

 

  × × ×

 

 謎のウィンドウショッピングを終えると、正午を少し回っていた。

 せっかく朝早く起きて来たのに、台無しだ。

 本を買いに来たって口を滑らせたら本屋にまでついてこられた……。

 

 「比企谷くん? 今日、私たちパーティ? に招待されてるじゃない?」

 

 さも当然のように陽乃さんが言う。

 

 「いや知らないんすけど……」

 

 「え? 雪乃ちゃんたちは誘われてるよ?」

 

 ……慣れてるから。

 自分以外が誘われている、とか慣れてるから。

 

 「俺は誘われてないので、もう帰ります」

 

 「んー。比企谷くん忘れられちゃったのかな……」

 

 「というか誰から誘われてるんすか」

 

 「凸ちゃんだよ」

 

 でこちゃん……? 聞いたことある気がする。

 類推していくうちに、聞き覚えのある名前に当たった。

 

 「……凸守……?」

 

 「そうそう凸ちゃん」

 

 「知り合いだったんすか」

 

 「比企谷くんこそ。知り合いなんていたんだねー」

 

 その言い方だと知り合いなんて存在したんだね。に聞こえるんですけど大丈夫ですか。そうですか。

 

 「ということで、誘われてない俺が行くことはありませんのでご了承ください」

 

 目上の人、否、魔王にお断りを入れるのだから丁寧に断るのは常識だ。

 ちらりと横目で覗きみると、陽乃さんはにこにこしている。

 あ……、やばいやつだ……。

 

 「比企谷くんも来るんだよ?」

 

 またしてもさも当然のように言う陽乃さん。

 やっぱり強制なんですかね……。

 ……当たり前か。

 陽乃さんは絶対だからな……。

 

 「じゃあ今日の六時、凸ちゃんの家だから!」

 

 言い残すと、陽乃さんはそのまま走り去っていった。

 ……というかなんのパーティ?

 当然、俺の疑問が解決することは無い。

 本当に俺の周りは変なヤツらばかりだ。

 ……俺には言われたくないか。

 

 ショッピングモールから出ると、またどんよりと重たい雲が流れていた。

 だが隙間から陽が差し込んでいて、微妙な天気だ。

 ――そろそろ由比ヶ浜の誕生日か。

 今の季節と対照的なやつを思い浮かべると、プレゼントの一つでも買ってやろうかと俺はまた踵を返した。

 

 

 ……というか凸守の家どこだよ。

 




週一で投稿しています(笑)
そろそろ完結かな。
『誰かを指さして非難する前に――』がお気に入りで、静かに二人の後輩は決意する。でも使いました(笑)

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