ともに同じ方向を見つめることである。
―サン=テグジュペリ―
七月を幾らか過ぎ、気づけば夏休みに入っていた。
受験生の俺には当然休みなどなく、今も図書館に向かっている途中だ。
屋外は容赦なく陽が注がれ、コンクリートは陽炎で歪んで見える。
日焼け対策で着てきたロンTの袖で額を軽く拭う。同時に溜息が漏れた。
「あっつ……」
暑すぎて心がぴょんぴょんしそうだ。さすがはコンクリートジャングル千葉。やはり都会は違うな。
あー、今だけでいいから北海道に住みたい。あれ? 北海道って夏は暑いんだっけ……。
一人、考えていると漸く図書館が見えた。あ、これでクーラー様が……、と思ったのも束の間。俺は目の前を歩く男女に目をひかれた。冷静に視線で追いかける。
間違いようがない。丹生谷だ。
そして隣は――冨樫ではないみたいだ。当然、一色誠でもない。
男は時々話しかけては、笑いをとっている。丹生谷も満更でもない様子だ。やがて図書室に着くと、男は戸を開け、丹生谷を先に入れた。
…………いっつジェントルメン!
あれは変態紳士と称される橘さんでも敵わないぞ……。
男と丹生谷はそのまま館内の奥へ向かっていく。ついていく理由なんてないが、どうしてか気になってついて行ってしまった。しかし、俺は尾行には些か不似合いな「Dead or Alive」Tシャツにジーパンの組み合わせだ。その上、 昨日の大雨で夏靴が履けなくなって、赤の生地にエックスをあしらった冬靴を履いている。
というか生か死かを説いてる目の腐ってるやつってだけでやばい。
俺が司書さん達の危険な人を見るような目から逃れることに必死になっていると、いつの間にか眼前から二人が消えていた。
「……は?」
つい口から漏れる。俺はそれを取り繕うように「あー」と唸り声を出すと、直進した先にある図書室へと向かった。
× × ×
室内はいつもと変わらず静けさが保たれていた。俺はぐるりと見渡す。当然本を読んでいる人が目立ち、他に勉強をしている人や控えめな談笑も目に入った。
その中で一際目立つのが先の二人。
男の方は目を惹く程度には顔が整っているし、女の方もそれなりで、何より優しそうな雰囲気が漂っている。……あいつ態度変わりすぎだろ、絢辻さんかよ。丹生谷さんは裏表のない素敵な人です! でも僕は七咲派です。
しばらくじっと見ていると丹生谷が鞄から何かを出して、男に見せている。丹生谷がそれをおもむろに開くと男は驚きの表情を……ってただの参考書かよ。一笑に付すと同時に、腑に落ちた。
――それで、勉強を教えてもらえることになったのよ。
あー、言ってたなそういえば。
俺は軽くニヒル(笑)な笑みを浮かべると、本来の目的に戻ろうと空いている机に向かう。油断していた俺は不意に丹生谷と目が合ってしまった。
「あ……」
声が重なる。
あー、気まずいよ。気まずい! なんか知らないけど距離があるからなあ……。ここは見なかったふりで……。
「比企谷……」
小さな呟きが聞こえた。それでも尚、素通りしようとすると、少し進んだところで肩を掴まれた。振り返ると、男の先輩が立っている。
「なんすか」
無愛想に返事をすると目の前の男は人好きそうな笑顔になった。つまり、苦手なタイプだ。
「森夏ちゃんが呼んでるよ。多分君だと思うんだけど……」
「……森夏? そんな人知りませんけど」
「でもほらこっち見てるよ。やっぱり君じゃないのか?」
「知らないんですって……」
どうやらこの男の先輩には分かってもらえないようだ。何度か同じことを繰り返され、そろそろ限界が来てしまった。俺はつい声を大にして言ってしまう。
「もりさまーしか知りませんって!」
× × ×
「すみませんでした」
「聞こえない」
「本当に申し訳ありませんでした」
「聞こえない」
「ちょっと待ってろ。今病院検索するから」
「あんた今の状況分かってるの?」
当然、分かっているつもりだ。
男が、熱しているコンクリートの上で女に正座させられている。単純明快、まさにこのことだ。
あの発言で激昂した丹生谷に連れられて俺たちは外に出た。というか、館内の人たちの視線に追い出された。
その上、丹生谷を宥めようとした森島先輩は帰らされた。
そして紆余曲折を経て、今に至る。
「ていうか比企谷は何で無視しようとしたの。まずそれが気に入らないわ」
ゆっくりと歩きながら丹生谷が俺に問うた。
目線は俺と合っている。
「いや、なんかパーティの時から、えーっとあの、痛いヤツの……た、たか……小鳥遊! のバースデーパーティからなんか妙な距離感あっただろ」
思い出しながら矢継ぎ早に言うと丹生谷は少し間をとってからゆっくり口を開く。
「……そうかもね。でも、比企谷も避けてたでしょ?」
「…………まあ」
核心をつくような問に、答えるのが少し遅れてしまった。
「どうしてか教えてくれない?」
歩きながら話していた俺たちは気づけば、公園に着いていた。丹生谷はスカートを整えると、静かにベンチに座った。その一つ一つの所作が俺の意識を集中させる。
「ほら、前の電話で先輩に勉強をとかなんとか言ってただろ」
「うん」
「それがなんか気になってな」
理由は分からず、言葉がすらすらと出てくる。これ以上すれ違うことを無意識のうちに拒んでいるのかもしれない。今必要なのは解けるかもしれない誤解を解き、表面上だけでも分かり合うことだ。
「もしかして妬いてたのー?」
「んなわけねえだろ」
「えー?」
「なんか、なんかな……あれだ。うまく言えないけど遠い存在になったようなそんな気がして」
茶化してくる丹生谷に、思っていることを包み隠さず話す。
同時に、気になったことを尋ねてみる。
「これで俺のことはいいだろ。丹生谷は?」
丹生谷を横目で見ると、少し悲しそうな、憂いを帯びた表情だった。
俺はつい、視線を逸らす。
「……私、偶然見たの」
「何を」
こいつ、抽象的に言うことが多いんだよな。
「逢瀬」
「いや意味分かんねえよ……」
「だから! パーティの日に見たの。由比ヶ浜さんと比企谷が一緒にいるのを」
言われて漸く思い出した。駅で待ち合わせした時のことか。
丹生谷は息を吸い込むと軽く吐き出してまた話を続ける。
「それで比企谷が由比ヶ浜さんにプレゼント渡してるのも見た。……由比ヶ浜さんが幸せそうなのも」
× × ×
「それで私、馬鹿だなって」
「当然自分がだよ? 由比ヶ浜さんもきっと私と同じ気持ちなんだろうなって」
「そう考えると、由比ヶ浜さんの一挙手一投足が気になったの。……同時に不快にも思った」
「私が少しずつ埋めてきた距離はやっぱり叶わないのかなって」
「私が一方的にだけど、共有させてきた黒歴史も取るに足らないものなのかなってどんどん自虐的になっていったの……」
私は独白のように、ただひたすらに言い連ねる。その間、比企谷は黙って聞いていた。
「由比ヶ浜と同じってところが気になったんだが、どういう意味だ? まあ他にも色々気になるんだけど……」
珍しく比企谷が私と目を合わせて聞いてくる。実際、比企谷は分かっているのだと思う。それでも確信を持ちたいのだ。第三者からの意見として。
だが、それは同時にその第三者に対して蔑ろになることになる。
そして、その第三者が私なのだ。
やはり、この鈍感野郎はどこまでも私をなめている。
「由比ヶ浜さんが気になるの?」
少し嫌な笑みを浮かべて尋ねる。
「いやそんなんじゃねえけど……」
比企谷はそのまま忘れていたかのように言葉を繋ぐ。
「というか別に俺たち付き合ってるわけでもないのに、なんで嫉妬がなんとか、とか話してるんだろうな」
は、はあー?
この流れで分からないのこいつ? 自分の発言を振り返りなさいよ! 私は思わず、困ったように微苦笑をしている比企谷を睨む。
……分かったわ。いや、最初から分かっていたわ。私は大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に思い切り口を開く。
「いい加減気づいて!」
「……は?」
「――私は比企谷が好きなの!」
ざまあみろ! ってあれ……?
あらあら、久しぶりに見れば評価がオレンジ色じゃないっすか……。
こんばんは。(こんにちは)
まず! 言いたいことがあります!!
……アマガミにハマりました。
分かりますかね? アマガミ。あれ、ついついゲームまで買って気づけばやりこんで……。
こんなに、1ヶ月も遅れてしまったのはアマガミのせいです。キャラデザはそこまでって感じだったんですけど、アニメが……やばい!!
気づけばアマガミが僕の世界に常にあって、つまりアマガミは僕で……。まあ冗談です。
ついでにセイレンも見ました。常木耀可愛すぎ。今どきのイジリ姫とか最高かよ。
アマガミで一番好きなキャラは森島先輩です。俺ガイルは一色、中二恋は樟葉です。
あとは、嘆きの天使素晴らしすぎる。
作品自体の後書き。
そろそろ物語も完結です。何日かに分けてやったのでもしかしたら書き方に統一性がないかもしれませんがお許しください(笑)
ちゃんと丹生谷は可愛くするつもりだったんですけどね…、この程度の能力じゃ……。
今までで一番長い後書きでした。
アマガミと中二恋と俺ガイルは最高ということで締めくくりたいと思います。
興味がある方はアマガミ検索してみてください。