―アルベルト・アインシュタイン―
「えっと、何してるんですか?」
由比ヶ浜が電柱の影にいる不審者に話しかける。
だが、不審者は無言だ。
「せんぱい、知り合いなんですか」
「いや知らん」
一つ確かなことを口にすると、電柱の方から声が聞こえた。
「知ってるでしょ!」
声の主はそのまま近づくと鞄を振り回して俺に叩きつけた。
「いてぇ」
「道を横切ろうとしたら比企谷がいて通りづらくて電柱に隠れたのに!」
分かりやすい説明をありがとう、丹生谷さん。でも鞄をぶつけちゃダメ、絶対。
「ていうか何これ。なんで女の子三人も侍らせてるの?」
「いや侍らせてないから」
「はぁ? 侍らせてるでしょ。しかも全員かわいいし」
いつまでも平行線になりそうな話に由比ヶ浜が口を挟む。
「かわいい……」
嬉しそうですね、ガハマさん。
ついで雪ノ下も頬を紅く染めた。
一色は慣れているのか、表情に変化はなかった。
「……で、誰と付き合ってるの?」
丹生谷にはそう見えたようで、不意をつかれる。
「……は?」
「だから、誰と付き合ってるのかって聞いてるのよ」
「いや誰とも付き合ってないから」
なんなら普通の人間とも付き合えないまである。
だがそんなことを言えば相変わらずぼっちをやっていることがバレてしまうので口を噤む。
丹生谷は俺の回答が気に入らなかったようで更に問うた。
「じゃあなんでこんなに女の子ばかりなのよ!」
「……ホント、なんでなんだろうな」
俺が煮え切らない答えを出すと、雪ノ下が丹生谷を見て口を開いた。
「あなた名前さえ聞いていないのだけれど? 些か失礼ではないかしら」
雪ノ下は丹生谷の態度が気に入らなかったようで睨みをきかせた。
それを取り繕うように丹生谷が作り笑いをして、返した。
「あ、ごめんなさい。私、丹生谷森夏って言います」
「私は雪ノ下雪乃よ。さっきからあの男と付き合っているだとか言っているけれど失礼だわ。そんなことあるわけないでしょう」
ん……? 気に入らないのって丹生谷の態度じゃないのか……。
「おい、失礼ってそういう意味か」
「ゆきのんひどい……」
「まあせんぱいだし仕方ないですよね」
由比ヶ浜が同情、先輩を敬う気のない一色が俺を揶揄したところで俺はずっと思っていた事を切り出した。
「それで、俺はもう帰っていい?」
一色が満面の笑みを見せた。
「これから事情聴取ですよ、先輩!」
言って一色は、付け足した。
「もちろん、丹生谷さんもです」
そのまま俺達は逃げる術もなく、連れていかれた。
……丹生谷、抵抗しても無駄だ。
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