元中二病同士の青春ラブコメ?   作:いろはにほへと✍︎

7 / 20
自由と独立と己とに充ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう。

―夏目漱石「こころ」―



でびるずばんくえと・いぶ!

 二月十三日、バレンタイン前日。

 世間、というか学校自体どこか浮き足立っていた。主に男子。

 ふと、教室の隅に視線を送ると戸部を始めとする童貞風見鶏たちが盛り上がっていた。

 「つーか、チョコっとだけ食べたくね? チョコっと」

 「ああそうだな」

 「ホントな」

 戸部は海老名さんを、残りの二人は由比ヶ浜を視界に入れる。

 どちらが大岡で、どちらが大和かは忘れたが、二人は命知らずのようだ。

 明日のために猛アピールしている男子をよそに、獄炎の女王はご機嫌斜めだ。一つ舌打ちをすると口を開く。

 「つーか結衣はどうすんの?」

 女王のご機嫌を取り損ねないように由比ヶ浜は、うぬぬ、と考えてから消え入るように呟いた。

 「まあ手作りとか……」

 「手作りって重くない?」

 おっと早速失敗か、とも思ったが三浦に不機嫌そうな表情はない。

 寧ろ、どこか不安そうだ。

  それを知ってか知らずか、由比ヶ浜は明るく尋ねる。

 「そうかな? 前、男子は女子からならなんでも嬉しいって聞いたけど」

 「……それ誰に聞いたの?」

 三浦が威圧的な声を出した。

 やめて! 俺のせいになっちゃう!

 そんな俺を尻目に、モブの片方のお喋りが、丁度静かになった教室に響いた。

 「隼人くんはいいよなー、俺なんてマジやばい」

 モブの声に、三浦が立てロールを忙しなくいじり始め、葉山は微笑を見せた。

 「ああ、そういえばそうだったな」

 思い出したように言う葉山に、戸部が言葉を付け足した。

 「でも隼人くん、基本受け取らねえしさ」

 「え、そうなん? もったいねえ」

 童貞風見鶏の付け足しの一言に葉山はまた苦笑いすると、「ああ」とだけ短く呟いて話が途切れた。

 何故なのか、と誰か核心をつくような一言を絞り出せばいいのに、皆、口を萎む。

 恐らく戸部たちも反省しているのだ。雪ノ下と葉山の噂を無責任に信じ、空気を読まず問うたことを。

 男子の気まずい空気に目を瞑り、三浦たちの会話に耳を立てる。

 「た、確かに知らない人から貰うのって少し怖いよねー……」

 由比ヶ浜が努めて明るく振る舞う。

 海老名さんは我関せずというか、なにか別のことに集中しているようで、時々「ヒキタニクンが見てる……まさかホモタニくん?!」と声が聞こえる。

 「うん……まあ手作りはちょっと重いっつーか……」

 「重い……」

 ……あれ? 女子も空気が重たいなぁ?

 ちょっと弱気の炎の女王とその側近たちまでもが気まずい空気になって、俺はそのまま教室をあとにした。

 

 × × ×

 

 部室に行く前にマッ缶を調達しようと思い、自販機に寄った。

 そこで普段鳴るはずのない、暇つぶし機能付き目覚まし時計がマナーモードの振動を起こした。

 小町か、戸塚かと期待してすぐに出る。

 だが、予想は大きく外れた。

 『もしもし? 比企谷で合ってる?』

 元中二病・丹生谷森夏だった。

 『ああ、由比ヶ浜にでも聞いたのか? 俺の個人情報』

 少し皮肉をこめて聞くが、本人にはどうでもいいようで、話をすり替えられる。

 『どうでもいいでしょ』

 『いや良くないから』

 自販機から少し離れたところで電話していると、見慣れた奴が来た。

 現生徒会長 一色いろはだ。

 意識がそっちに持っていかれたのを、目覚まし時計越しに叫んでいる丹生谷に戻される。

 『それでもう聞いてると思うけどイベントは合同になったから』

 いや聞いてないんだけど……。

 と、一色を恨みがましく見るが当の本人は全く気づく様子がない。

 『じゃあ今回は海浜と俺らと、紅葉学園か』

 『いや紅葉じゃないから』

 てへぺろ! 間違えちった。なんて俺がやっても吐き気を催すだけなのでやらない。

 一人ふざけていると、一色がこちらに気づいたようでとてとてとやってくる。

 「せんぱい? 誰と電話してるんですか?」

 「いやしてない」

 「してるじゃないですか」

 「小町だ」

 「小町? お米?」

 「妹だ」

 「うわっ、シスコン?」

 「違う」

 「ちょっと変わってくれません? 私、せんぱいの妹さんと一度話してみたかったんですよねー」

 「いや話さなくていいから」

 当然、一色が俺の話を聞くはずがなくとりにかかる。

 俺はそれを躱すと走って逃げた。

 

 × × ×

 

 『それで、あとどれくらい?』

 『は?』

 身に覚えのないことを聞かれて、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 『は? じゃないわよ! 昨日、由比ヶ浜さんに連絡したじゃない!』

 『なにを』

 『明日はバレンタインの前日だから色々準備しに行くって』

 『ああそうか。すまん。まだ部室に行ってなくて聞けてなかった。ちょっとかけっこしててな』

 『そんなことはどうでもいいわよ。 集合は四時二十分よ』

 『ってあと二十分』

 時計を見る為に一度を通話画面から戻した。

 同時に通知に気がついた。

 『なんか通知来てる』

 『はい? いいから早く来なさい』

 『はい』

 一旦丹生谷との通話を切って、メールを開く。

 由比ヶ浜からのメールだった。

 

 Re︰ヒッキーごめん

 

 タイトルだけで、全てを察した。

 

 × × ×

 

 置いてかれた俺は、合流しようと急いで向かった。道中一色がいて、一色も伝えられてなかったことが分かり、忘れらていたのは俺が嫌われていたから説が頭の中から薄まった。

 「せっかくだから二人で行きましょう」という一色に特に断る理由も見当たらず、二人で向かった。

 

 「比企谷、遅刻」

 着くと、丹生谷が仁王立ちしていた。制服のまま来たようでいつもと変わらなかった。

 いつもと違うのは隣にいる、小鳥遊ともう一人、ふわふわした人。

 雰囲気がどことなくめぐり先輩に似ている。

 めぐ☆めぐパワー解放!

 「いや、悪いのは俺じゃなくてそこのアホそうなお団子頭だ」

 「誰がアホ?!」

 「お前だよ」

 「比企谷くん、いくら何でも素直に言うのは失礼よ? 空気を読みましょ」

 「ホントですよ、いくら真実だからって」

 「ゆきのん、いろはちゃん? 私だって怒ることあるよ」

 ガハマさん怒ることあるんですね!

 総武サイドで盛り上がっていると、もりさまーが声を上げた。

 「あ、紹介し忘れてたけど、この二人、小鳥遊さんと、五月七日くみん先輩」

 眼帯をした方を、と思ったが、今日は眼帯をしてないようだ。

 「小鳥遊さんは彼氏にあげるのを選ぶためについてきました」

 「ち、違う! なにを言ってるのだ丹生谷! 勇太とは契約があるので一緒に住んで……いやなんでもない」

 「今、一緒に住んでるって……」

 由比ヶ浜と一色が目を輝かせる。

 「そうよ、同棲よ。ど・う・せ・い!」

 何故か、丹生谷まで盛り上がっている。意外だがそういうのに憧れたりするのだろうか。

 「あのー、挨拶いいかなー?」

 「あ、ごめん、忘れてたわ」

 五月七日くみん、さっき丹生谷は、先輩って言ってたような気がするが、敬語も使われてなければ、敬われてるような様子も皆無だ。

 「つゆりくみんですー。ごがつなのかって書いてつゆりって読みますー」

 「五月七日って本当にいたのね」

 雪ノ下が確認のようで、呟いた。

 「そーだよー、いるよー」

 なんか脱力する。

 中二病サイドのめぐり先輩だな。

 この人は中二病でないことを願う。

 

 × × ×

 

 「で、丹生谷何を買うんだ?」

 「そりゃもちろん、チョコとか……ってあんたよく分かんないでしょ。買うのは私たち。運ぶのは比企谷。オーケー?」

 「ノー。だいたい運ぶのは一人っておかしいだろ」

 「大丈夫だよー、そんなに重くないから」

 「なんとか先輩、俺が全部運ばされそうなんです」

 「え? なんとか?!」

 五月七日先輩が驚いたように大仰に反応する。

 まあ何を言ったところでこの人は怒らないだろうし、大丈夫だ。

 それに、さすがの俺でも五月七日は忘れない。

 「……じゃあ、俺は外で待ってるわ」

 「うん、分かった。でも外は寒いし、屋内にいた方がいいよ?」

 「そうだな」

 って気を使うところ間違えてるよ? 

 これだからもりさまーは……。

 俺の返事を聞くと、丹生谷たちはそのまま千葉県民御用達、ららぽへ入っていった。

 こうして男子一人と、女子数名に分かれてバレンタインイベント前日の買い出しが始まった。

 「すまん、遅れた」

 ……男子二人でした。

 

 × × ×

 

 忘れられていた冨樫と、荷物を持って学校へ戻る。

 買い物を終えると即時解散となり、材料は本当に俺らだけで持って帰ることになった。

 途中、丹生谷と由比ヶ浜が手伝おうか? と聞いてくれたが何故か冨樫が断った。

 冨樫、許さん。

 「ところでお前なんで小鳥遊? と付き合ってるんだ?」

 理由なんてはっきりしているが、会話の切り口にでもなれば、と問うた。

 「なんでって……す、す、好きだからに、き、き、決まってんだろ」

 冨樫の回答は予想通りで、漱石風に言えば鋳型に入れたような人間だ。

 ……というか、これ以外、答えようがないな。

 思考がずれ、戻す頃には総武高校が見えた。

 「悪いな冨樫、わざわざこっちまで」

 「いや、こっちこそ」

 「お前いつも振り回されてんのか」

 「お互いさまだろ」

 「……」

 ぼっちに会話なんて続けられるはずはなく、沈黙が流れる。

 そのまま無言で学校に入り、ものを置くと俺達はすぐに解散した。

 

 × × ×

 

 家に帰り、夕食をとる。

 買い物のせいでいつもより遅くなって小町に訝しがられたが、何も後ろめたいことはないので堂々と過ごす。

 その内、どちらからか話が始まって話題はバレンタインに移された。

 「そういえば明日、バレンタインイベントがあるんだが、来るのか?」

 「なにそれ! 小町聞いてないよ?」

 「言ってないからな」

 「ひどいよお兄ちゃん。小町、未来のお義姉さんたちに挨拶しなきゃいけないのにー」

 「おねえさん? 何言ってんのお前」

 「とりま、明日は行くね」

 「とりまって使うな、バカっぽいぞ」

 「お兄ちゃんの方がバカだし!」

 そう言う小町を無視して、俺は風呂に向かった。

 今日は疲れたから早く寝よう。

 風呂から出て、ベッドに向かう。

 ごろりと寝そべると今日のことを思い出した。

 小町も参加することが決まったので明日はなかなかの人数だ。

 また一つ、ぽつりと考えるうちに自然と意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読まなくても問題ない回が今までで一番長い。
感想・評価等待っています!
明日はこれと ヒキタニせんぱい!を出すつもりです。
今から書きます、(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。