無理に友だちを作らないだけだよ。
そんなことしたってがっかりするだけだもの。
―村上春樹「ノルウェイの森」―
今日はバレンタインデー。
世に言う、女子が男子に愛という名のチョコを贈る日だ。
勿論、それだけではなく、ともチョコという女子同士で送るもの、ほもチョコという男子同士で送るものなど定義は定かではない。
そして、平塚先生の大嫌いな日、堂々の一位。
放課後、俺は授業を終えると部室ではなく、あのコミュニティセンターに向かった。
あのって? もっとイニシアティブの取れる質問をしてくれないと、人々のコンセンサスは取れないぞ?
約二か月ぶりにくるこの場所に、いい思い出などない。更にいうとここは俺の黒歴史の原因をつくった場所だ。
一歩踏み外せば瓦解するような薄い関係性。
その頃の俺たちにあの状況はきつすぎた。
だが、最終的には役に立ったのだから世の中どう転ぶか分からない。
一人、コミュニティーセンター前に突っ立ていると、最近聞きなれた声が耳に入った。
「あれ、比企谷一人?」
……やはり丹生谷森夏だった。
「おう、丹生谷か……、ってお前も一人じゃねえか」
「わ、私はあんたと違ってぼっちだからとかじゃないから」
「さいですか……」
僕だってぼっちじゃないもん!
手をわちゃわちゃと動かす丹生谷に一つ首肯すると、また一人、増えた。
「せんぱい、今日は早いですね」
「当たり前だ。いつも早いからな」
「まあいいです。早く入りましょ」
現れた一色は俺たちを手招きすると、振り返る間もなくコミュニティセンターに入っていった。俺らも、それに続いた。
入ると、以前とは違い、そのまま調理室に向かった。
調理室に一歩足を踏み入れると、奴が現れた。
「やあ一色さん。今日もアライアンス活動を楽しもう。そしてこれからより良いパートナーシップを築き、シナジー効果を生み出していこう」
「そうですねー」
一色は変わらない玉紐を軽くあしらうと、すぐに自分の領域に向かった。
「全く、あれだけ言われて何故変わらないのかなー。丸縄さん」
一色の独り言が聞こえて、どきりとする。あいつ、玉縄だったな。
正直、玉紐でも丸縄でもどうでもいいが、あの鬱陶しいろくろ回しはどうにかならないのか。いろはす、怒っちゃうよ!
ふと周りを見渡すと、皆揃っていた。
総武からは、雪ノ下、由比ヶ浜、一色、葉山たち。
海浜からは、玉縄、モブ、折本。
銀杏学園からは、丹生谷、小鳥遊、五月七日先輩、凸森、ダークフレイムマスター。
……結構いるな。
ちなみに小町は受験勉強で来れなくなった。
人数が集まると、がやがやとうるさくなるのは真理だが不思議とうるさくはなっていない。耳障りにならない程度の大きさだ。
知らない人たちがいるということが牽制し合っているからなのか、不思議だ。
俺がまた新たな真理に近づきかけていると、一色の大きな声がかかった。
「はーい! それでは始めたいと思いまーす。……えーっと、あとは各自!」
おい適当過ぎるだろ。
俺が心の中で、一人つっこみを入れると、一色は言い忘れていたようで付け足した。
「すみませーん。六時に試食開始なので、それまでにお願いします!」
それでは頑張りましょう! と一色が声をかけると、俺以外の参加者が 「おー」と返した。ちゃんと参加しろよ、ヒキタニ。
それぞれが分かれて持ち場に着く。俺はどうしてか知らなかったが割り当てられているようだ。
入口から見て右奥のテーブルが、中二病グループ。
その左隣が一色
一番左奥が雪ノ下、三浦、問題児。間違った由比ヶ浜。
手前は、折本、海浜グループが使っている。
「比企谷くんは突っ立ってていいわ」
手持ち無沙汰に立っていると雪ノ下に声をかけられた。
皮肉が混じっているような気がして、絶対言う通りにはしないと誓った。
……というか突っ立ってろって普通に皮肉だわ……。
「おう」
一言だけ呟くと、雪ノ下に反抗するために、一色のところへ向かう。
中二病グループには近づかない、関わらない。材木屋がいれば盛り上がったのだろうが……。ん? 材木座? 誰? まあ火に油は注がないのが常識だ。
「あれ今日七宮はいないのか?」
不意に冨樫の声が耳に入った。
「魔法魔王少女は、天使を討伐しに行くと言っていた」
聞き覚えのある名前に、俺はつい動きを止めた。
「おい、七宮って」
もともと尋ねる気などなかったのだが、俺の知り合いにもいたのだ。中二病の七宮智音が。
「ええ、あの七宮よ」
丹生谷が知ってるでしょ? と言わんばかりに口を開いた。なるほど。まあ、覚えてて当然か。ニブったら散々彼女と中二病かましてたものねー!
「そうか、やっぱお前と久遠の因縁でもあるんじゃな――」
「喋るな」
最近よく見るようになった丹生谷の威圧に押し黙る。……久遠の因縁は中学の頃の丹生谷の口癖だ。久遠の因縁、いいよね。永遠って感じで。ちなみに用法は「君と僕とは久遠の因縁があるね」とかそういうところだ。
……どうして睨んでいるのかな? 丹生谷さん?
× × ×
中二病たちから離れ、一色のところで妙に感心した後、由比ヶ浜たちのところに向かった。雪ノ下の指導、というかほぼ雪ノ下がつくっているおかげか問題なく進んでいた。
途中、いつものように葉山になにか色々と言われたが、すでに忘れた。ごめん、隼人クーン。まじ、悪いっしょ!
いつものように一人で妄想したり、妄想したり、妄想したりしていると、いつの間にか六時を回っていた。
一色は六時を少し回ってから気付いたようで、少し遅れて声がかかった。
試食会が始まると、いつの間に馴染んだのか、皆打ち解けていた。
辺りは喧騒に包まれ、始まったころの遠慮がちな空気はすでに皆無と言っても相違ないほどだった。
「ひ、比企谷……。これ……」
声が聞こえて振り返ると、顔を赤くして目線を逸らしながらこちらにチョコレートを差し出す丹生谷がいた。お前はツンデレキャラか。いいよね、ツンデレ! かまくらも俺を見たらわざわざ離れていく程度にはツンデレだよ?
「お、おう」
しどろもどろに答えるとチョコを受け取って口に入れる。
すでに由比ヶ浜のチョコを食べた俺に怖いものなどないし、躊躇なく食べた。
とろけるような口どけ! とかリポーターみたいに言えないし、何チョコなのか分からないが、とてもおいしかった。一色と互角か、それ以上だ。
「うまいな、これ」
率直に感想を漏らす。
「そ、そう」
「おう」
「……」
会話が続かなくなって、どちらからか離れていく。
俺は一言「ありがとな」と呟くと、机間巡視? している折本から一つ受け取って今日やるべきこと、つまり全員分の試食を終えた。
……一位は、一色か丹生谷か。これはなかなか難しい。
× × ×
「ヒキガヤってあの茶髪の子と付き合ってるの?」
片づけを終え、休憩していると急にそんなことを問いかけられた。
「だから、俺彼女いない歴=年齢だって」
「なにそれ、ウケる」
「うけねーよ」
「……」
誰とでも会話続かないなんて、さすが俺。
一人、自分の凄さを称賛すると視界に帰ろうとしている丹生谷が入った。
最後に礼くらい言おうと思って、折本に別れを告げると、丹生谷のもとへ向かった。
「丹生谷」
肩を叩くのが憚られて、後ろから声をかける。
だってほら、今って肩を叩いただけで、ハラスメント――とかなるんでしょ? 怖くて叩けないよ。
丹生谷は振り返ると、意外そうな顔をした。
「比企谷?」
「えっと、今日はありがとな。こんなイベントにわざわざ参加してくれて」
「……比企谷って常識あったのね……」
「残念だな、これは常識とかじゃない。社交辞令だ。……そんな変わらないか」
「社交辞令ね――」
「ああ」
「あんなに働きたくないって言ってたのに」
「俺は今働いた分、将来は働かないんだ」
「なにそれ」
言って、丹生谷は優しそうな笑みを浮かべた。
あまりに不意で、俺はどきりと胸が跳ねた。
「まあいいや。帰るなら送っていくけど」
夜道を一人で帰してはいけないと、妹に教育を受けているので一応尋ねる。
「……じゃあ、今日はお願いしようかな」
「……っ。そうか、じゃあ、このまま帰ろうぜ」
「いいの? 挨拶しに来ただけのように見えたけど」
「ああ、どうせ持ち物は今、全部持ってるしな」
「じゃあ、帰ろっか」
丹生谷の声を合図に、二人揃って歩き出す。
「……チョコ、誰のが一番おいしかった?」
「一色だな」
「そこは丹生谷っていうところでしょ。だからぼっちなのよ」
「……だれがぼっちだ」
俺はそう一言呟くと、話し続けている丹生谷を横目に天を仰いだ。
今日は満月のようだ。
俺は丹生谷と月を見比べると、その眩しさに、少し目を細めた。
途中から急ぎ足なのは許してください。
パソコンで書くと改行できない(笑)
いつも一時間1500文字のところ
今日は3200文字です。
バレンタインに間に合わなさそうだったので。
ヒキタニ先輩! は明日かテスト後です(笑)
それでは、今回もありがとうございました。
3/13 スマホにコピーして改行しました(笑)