ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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第三次世界大戦7

最初は順調だった。

本隊が核とワームホールドライバーを奪取することに成功しこれで強力な後ろ盾がついたと感じたからだ。予定通り全世界で工作員(同士)が一斉に戦闘を開始し、日本本土侵攻のため太平洋側に展開した部隊と同時に絃神島に大量のミサイルを飛ばした。

勿論、開戦して暫くは抵抗も激しかったが。そこが実験島であり、いつでも切り離し干上がらせることができるよう物資を輸入することに頼りきらせているという弱点を突き、兵糧攻めを決行した。

そこから20時間以上が経ち、艦隊司令部がざわついた。

本隊の壊滅と総大将天童霞の戦死。殺ったのはす宿敵とも言えるCFF、しかも第一特務隊らしい。

だが後戻りはできない。投降という2文字は我々の辞書にはなかったからだ。

そして手をこまねいているうちに事態が急変した。物量的に圧倒的な優位を確立し、一部の上陸部隊ではあるものの絃神島に上陸を開始した部隊も存在する中、航空隊が次々とレーダーから反応を消していく。

「…眷獣です!しかも真祖級の!」

どこからか悲鳴をあげるかのような切羽詰まった報告が伝えられた。

その瞬間、艦内は凍りついた。

「なんでだ?!」「戦王領域の真祖が絃神島に寄港していなかったか?!」「しかしあれは…!」「まさか幻の第四真祖?!」「バカ言うな!あんなもん迷信だ!」

徐々に隊員達に動揺が走り出す。上陸部隊からの先程から滞っていた定時連絡がようやく本部に届いたが様子がおかしかった。

『し、しょう…はぁあ…少女ふ…2人が…少女が槍と…弓で…!襲ってきた…!部隊は全滅…!それから…男が…!眷獣で………!』

途切れ途切れの通信で確信した。絃神島の通常の戦力は大したことがない。ただし、この島にはいざという時には一国の軍隊以上の戦力が眠っていることを。

もう戦力の出し惜しみはしていられない。残っている戦闘機隊と全ミサイルを発射するしかない。

「全部隊に通達!これより総力戦を開始する!全戦闘機隊は直ちに発艦せよ!他の艦はミサイルを全て使ってでも沈めろ!」

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「全方位よりミサイル群接近!」

「西区は問題ない!電波妨害をやれ!ECM作動しろ!ここ(東区)と中央ははなんとしても守り抜け!」

「着弾まで残り1分半!」

次々と事態が変わり、刻一刻と物資が減らされていく中で打てる手が限られてくることに焦りが募っていく。最も冷静にならなければならない那月はなんとか感情を押し殺し、次の手をどう打つか予想し思考する。

「ミサイル群、全弾消滅!海に落ちました!」

「敵の航空隊はどうなっている?」

「150機の航空戦力がこちらに向けて進行中です。西区は完全撤退したためどのような状態になっているかわかりませんが、全軍が東区から攻めようとしています」

「まだ生きてる対空火器は?」

「全弾命中させればどうにかなると思います」

「!レーダーに感あり!ミサイル接近!数1…速い…!まっすぐこちらに向かって来ています!」

絶望的な状況だった。なぜここまで来てたった1発のミサイルを感知できなかったのか。対策本部で指揮をとっていた者はその瞬間死を覚悟した。神はいない。あるのは現実だけ。しかし、この時那月や他の誰もが、神に願ってしまった。

_____助けてくれ_______

「…全弾…消滅…司令官…やられました」

「仕方ない。最新鋭のミサイルを撃て」

「了解。目標絃神島中央。発射段数1発。ミサイル撃て!」

VLSから高速ミサイルが火を吹きながら発射された。

誰もが勝利を確信した。その直後だった。

「ミサイル消滅!」

「どうした?」

まるで信じられないとでも言うような声色だった。

「嘘だろ?!高速で接近する機体(・・)を確認!」

「なに?!」

_______________

《ミサイル迎撃成功》

ヘッドセットから機械音が聞こえた。なんとかミサイルをギリギリで迎撃することに成功したことにとりあえず胸をなでおろす。

ここからが彼にとって勝負だった。なにせ絃神島は見た目はダメージ受けていないがおそらく対空ミサイルは殆ど底を尽きているだろうと予想できるからだ。何はともあれ、まずはアイランドガードとコンタクトをとらなければならない。彼らの弾薬を拝借するにも…だ。

無線周波数をアイランドガードの周波数に合わせコンタクトを取りはじめる。

「こちら、国連軍特殊電子戦所属雪風だ。アイランドガード聞こえるか?」

『あ…あぁ…聞こえる…聞こえるが…一体これは…!』

無線越しに男性の困惑する声が聞こえてきた。それはそうだろう。いきなり国連軍が援軍として出てきたのだから。しかし、丁寧に付き合ってやる時間もないので早口で要件を済ませることにした。

「本部の周波数がわからなかったためこちらに合わせた。本部全体に聞こえるようにしてくれ。あとそっちの指揮官と話がしたい」

『わ、わかりました…』

指揮所がざわつくのが聞こえてくる。

『私が…指揮官の南宮那月だ…しかし…お前は…!』

「ただいま戻りました。姉さん。あとはこちらが引き受けます。西区で暴れてるバカ3人を安全な場所に避難させてください。それからアイランドガードのデータリンクを貸してください」

『わかった…火乃香…それと終わったら本部に来い』

「了解…データリンク接続完了。武装システムオンライン、全ミサイル誘導開始。国際チャンネル接続…」

ハードポイントによる雪風の現在のミサイル発射段数は16発内1発は先ほど使用し現在15発。

アイランドガードの対空ミサイルはおよそ160発。火乃香にとってこれだけのミサイルは十分すぎるほどだった。

衛星や地上電波を乗っ取りありとあらゆる方法で通信を開く。

「こちらは国連軍特殊電子戦。貴軍らの本部および総司令部は壊滅した。よって速やかに投降しなさい。繰り返す、こちらは国連軍所属特殊電子戦。貴軍らの本部および総司令部は天童霞の死亡を持って壊滅した。現在本部として利用されていた巨大潜水艦はCFFによって接収された。よって直ちに武装を解除し、投降せよ」

全世界に対し火乃香の勧告が流れた。

『この畜生がぁぁぁぁぁ!』

ヘルメットに内蔵されたスピーカーから、一人の敵パイロットの叫びとともに高速で雪風に接近し始めた。火乃香は雪風のABを一気にふかし、距離を取りつつ旋回を繰り返す。雪風に内蔵された小型のカメラが世界中に流れる。

《WARNING MISSIL APPROCH》

雪風から電子音が聞こえた。ヘルメットに内蔵されたHUDは通常緑色で映し出されるが、警告音とともに赤色へと変わる。右端に簡易レーダーが映し出され、ミサイルとの距離が秒単位で短くなってゆく。

フレアを炊き、いつぞやの空戦で見せた変態機動を繰り出す。

内臓が破裂するほどの負荷が体にのしかかり、気を失いそうになりつつも、ミサイルを撃ってきた勇敢な機体をヘッドオンしそのままミサイルを撃った。約数秒後、目の前の機体が爆発し、レーダーからも反応を消した。

火乃香は内臓HUDを切り、マルチロックオンシステムを起動させ、150近くの機体を同時にロックオンし、アイランドガードの持つミサイルを全て撃った。

絃神島には汚い花火が咲き乱れたのだった。

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白い天井が視界に入り、鼻をつくような薬品の匂いがし、規則的になる機械音が聞こえてくる。

(あぁ…また病院か…)

絃神島周辺を囲っていたJAM艦隊は航空戦力の殆どを戦闘開始から制空権を握り有利だったのが雪風一機によってそのほとんどを消滅させ制空権を奪われ、敢え無く投降した。また世界各国の戦線の殆どが火乃香の流した降伏勧告によって戦意を喪失させこれまた現地政府軍によって捕らえられ、今後は国連軍に引き渡された後、国家間の紛争を裁くことしかできない国際裁判所は異例の対応としてJAMの投降した部隊の処遇を決定することになった。

閑話休題

戦争が終結し、雪風から降りた火乃香はここ一週間続いた緊張と疲労そして拷問による肉体的、精神的ダメージによって意識を失い、現状に至る。

ゆっくりと首をまわすと小さく寝息をたててベットに頭を預ける夏音の姿が見えた。

健気だな

火乃香はそう感じずにはいられなかった。ここまで心配させたのに側に居てくれる彼女は本当に優しいとしか言いようが無かった。

左目に手を当てると布の感触があった。

ほぅと一息つき、体を起こし時刻を確認する。

丸3日意識を手放していたみたいだった。

もう一度夏音の頭を優しく撫でる

「ふみゅぅ……んんっ……」

可愛らしい吐息を吐きながらゆっくりと頭をあげ目をこする。その姿はまるで昼寝から目を覚ました仔猫のように可愛らしかった。

「火乃香さん……?…!大丈夫でしたか?!体はもうなんとも…!」

「お、おいおい…」

普段の彼女からは想像できないほど慌てた様子で火乃香の体をぺたぺた触ってくる。

そして次第に涙を流し始めた。

「なんで!なんで何も教えてくれなかったんですか?!いつもいつも無茶ばかりして…!私が!私がどれほど心配したか?!」

「……」

彼女の言葉が今の彼の心を大きく抉り取る。連絡の一つもよこさなかった。安否のわからない状態が続く状態は待っている人々にとって大きなストレスになる。

「あなたが何処かに行ってしまうんじゃないかって心配になっていたんです!もう…もう二度と私のそばから離れないで……お願いです…謝らないでください…でも…そのかわり二度と…私の側から離れないで…」

「………あぁ」

「私はそんなに頼りないですか…?」

「そんなことはない。夏音が側にいるだけで安心する」

「ずるいです。そうやって…優しくして…頼りないって言ってくれた方がずっと良かったはずなのに…怒るにも怒れないじゃないですか…」

「…っ」

火乃香の中で底知れぬ後悔と自分の気持ちに対する疑念が生まれた。大切にしているはずなのになぜなのだろう?火乃香は自分の無意識下で彼女に弱みを見せることで夏音を喪うかも知れないと心のどこかで感じていたのかも知れない。彼の抱える苦しみは大きすぎる。差し伸べられた手はどんなに多くても小さすぎる。軽くすることなど到底不可能なほどだ。なのに…。

「違う…喪うのが怖いんだ…もう…何も喪いたくない…」

気づいたら口が動いていた。

「俺は…俺は自分の手でこの手で!命の恩人()を殺した…!ずっとずっと!何も知らないままの方が楽だったのに!これが俺に背負わされた十字架だ…。あの戦争で他にも仲間を失った…。ケヴィンとジルは顔を付き合わせればお互い取っ組み合いが始まるんだ…。それを笑いながら肴にして『今日はどっちが勝つと思う?』って言いながら次の休日の為に掛けをしていた。ジークは口数が極端に少ないやつだったけど何かとちゃっかりしていてさ…いつも最後は華麗に勝利をかっさらっていくんだよ…。どんな作戦でもあのメンバーならこなせないものは何もないって思えるほど居心地が良かった…。でももういないんだよ…。クリスとジャックは隠居生活だ…。みんな戦場から消えていく。だけど俺だけは違うんだよ…!永遠と戦場に身を置かなきゃいけない…。全てを喪うまで…それが俺に課された罰だ…!夏音…君がいなくなったら俺は…俺は…どうすればいいか…わからないよ…」

「安心してください。私はずっとあなたのそばにいますから」

そっと夏音は火乃香の頭を抱き寄せた

10年前に失った涙が今流れ出す。たまり続け、ダムが決壊したかのように、夏音の腕に抱かられみっともなく泣きじゃくった。

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扉の外で火乃香の泣き声を聞きながら様子を見に来たラ・フォリアはそっと壁に背を預けた。

(ようやく見つけることができたのですね…)

4年前、アルディギアでラ・フォリアと火乃香が出会い良好な関係を築きはじめた頃彼に唐突な質問をぶつけた。

『貴方はその年齢で傭兵でしたね?』

『えぇそうですが…どうかしましたか?』

『いえ…辛くならないのかと…』

『え?』

『戦場で多くの命を奪うことにです』

『それが仕事だと割り切っています…血塗れになりながら戦場の泥をすすり続けるのは慣れました…だけど…懺悔したくなる時や弱音を吐きたくなる時はあります。ただ…それはできそうにありませんし、それをしてしまうとその人に依存しそうで怖いんですよ…だから仕事だと割り切っているんです』

『ならば私が貴方のその辛さを受け留めて差し上げましょうか?』

『殿下…恐れ多いです』

『でも私は貴方のことが心配です…そうですね…1人でもいいですから信頼できるパートナーを見つけなさい?これは王女として私の護衛をする貴方に対しての命令です!』

『善処します』

(私じゃないのが残念ですが…よかったわ…)

ゆっくりとその場から立ち去ろうとしたラ・フォリアは見知った何人かの人影を見つけた。

古城達だった。

「先程病室に行ってみましたけどまだ寝ていました。ゆっくりさせてあげましょう?」

(ふふっこれは私からのささやかなプレゼントです♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー機能完全停止。

CFFによって発射された新型核弾頭によって物理的に消滅




長きに渡るオリジナル(笑)が一応完結したゾォ…
ただ次話は間章ということで事後報告と日常回にしようかなと思っています…。

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