ハイスクールD×D 魔械留学のジャークサタン   作:トアルトーリスガリ

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今回はほぼゴウザウラーのエンジン王編のダイジェストです。


第1話 時空を超えた機械王です!

――何故、こうなってしまったのだろうか……

 

 既に全機能を停止した己が愛機、ギルターボの目元から流れるオイルをぬぐってやりながら、エンジン王は自問自答を繰り返していた。その答えを探すために、思考回路が記憶データベースから様々な情報を引き出し続けていた。

 

 元々、自分は機械化帝国で生まれた機械人の一人である。機械化帝国は、かつて宇宙に存在した知的生命体による文明の遺産だ。その文明は地球とは比較にならないほど高度なものでありながら、それを創り上げた生命体、“心”などという不完全なものに支配された存在自身の愚かさ故に自ら滅びてしまった。そして、残された機械たちは一つの結論に達した。心を持ち得るあらゆる生命体を全宇宙から抹殺し、万物を機械化することで、宇宙をより完全な形にするべきである、と。

 

 そうして、機械化帝国は誕生した。

 

 全宇宙に鋼鉄の秩序を。それを最優先目的とし、機械化帝国はいくつもの星系へ機械人を派遣し、宇宙の機械化を進めていった。

 エンジン王もまた、それを担う機械人の戦士であり、その中でも幹部である機械王の一角だ。己が開発し、己をエネルギー源とする自立制御型戦闘ロボットであるギルターボと共に、帝国の頂点である機械神の命令のまま無数の惑星を鋼鉄の世界へ変え続けていた。

 

 その行動自体に、疑問を持ったことはない。上から命令を下し続ける機械神の存在を煩わしいものと判断し、いずれは自分こそが機械化帝国の支配者となることを目論んではいたが、宇宙の全てを機械に変えていく方針自体に反対の意はなかった。感情などという不確定なものに行動を左右される不完全な有機生命体は、滅ぼすべき不必要な存在だと信じて疑わなかった。

 

 それ故に、地球を初めて見た時は醜くつまらない星にしか見えなかった。汚らしい水や土、不潔な植物や野蛮な獣で溢れた、小さく穢れた惑星。いつもと同様、自分のことを“ファーザー”と呼び慕うギルターボと共に手早く機械化し、早急に関わり合いを断とうと考えていた。

 

 しかし、地球の機械化は思いのほか難航した。理由は唯一つ。地球の戦闘ロボット、“ゴウザウラー”に阻まれ続けたためだ。人間と呼ばれる原住の知的生命体、その中でも年少者のみで構成された――その構成の必然性は未だに理解不能だが――チーム、“ザウラーズ”と名乗る者たちが操るそのロボットに、自分とギルターボは幾度も不覚を取ることになった。

 

 やがて、エンジン王は自分たちを退け続けるゴウザウラーの強さの秘密が、人間たちの“心”にあると結論づける。人間にとって最大の弱点でありながら、機械人の計算を上回る最大の力を呼び起こす力、自分がいずれ機械神を打倒するために求め続けた宇宙最強の力は、人間の心が生み出すエネルギーなのだと。

 

 心、それは機械化帝国において禁断の存在だ。普通に考えれば、心や感情というものは曖昧(あいまい)で不確定な代物であり、機械がそれを持ったところで計算という普遍の秩序に悪影響をもたらすだけだと思える。心を持つことを機械神が禁じたのは、当然といえば当然だろう。現実に、己を生み出した文明を滅ぼしたのは心を持つ生命体なのだから。

 

 しかし、本当にそうなのだろうか。ただ悪影響をもたらすだけならば、何故ゴウザウラーはいつも窮地に陥った時に計算外の強さを発揮できる? 計算よりも心という不完全なものを優先する人間が、何故機械人に勝つような真似ができる? 機械神が心を禁じたのは、本当は心が持つ強さを恐れたからではないだろうか。己が理解できない力を持つ心を自分以外の機械が理解し、自分を超えることを危険視したためではないだろうか。

 

 そして、エンジン王は行動を開始した。ゴウザウラーとの、ザウラーズとの決戦のつもりで赴いた戦場で、自分たちに敗北寸前だったザウラーズに声援を送り続けていた一人の人間を人質としてさらったのだ。言葉などで戦いに勝てるはずがない。愚かな行動だと思いながらも目障りなその人間を始末しようとした途端、再びゴウザウラーは計算外の力、自分が“戦闘パターン101”と名付けたそれを発揮し、逆転をして見せたのだ。

 

 そこで、エンジン王はこの人間を利用すべきだと判断した。恐らくこの人間はザウラーズにとって必要な人間。この人間を囮に使えば、ゴウザウラーは救い出さんとしてのこのこと自分たちの元へ舞い込んでくるだろう。その時、この人間を助けるために発揮される心の力を吸収すれば、自分は機械神を超える存在となり、宇宙をこの手中に収めることが出来る。ほくそ笑みながら、その人間を地球唯一の衛星である月に設立した地球機械化前線基地、“機械化城”へ連れ帰った。

 

 ザウラーズの担任教師、中島(なかじま)辰男(たつお)と名乗ったその人間に、ギルターボは心とは何かを繰り替えし尋ね続けていたが、エンジン王はそれが無駄なことだと断じていた。重要なのは心が生み出している計算外のエネルギーであり、心それ自体ではない。しかし、ギルターボは、心は機械化帝国では禁断の力であり解析が必要だと危惧していた。それは、機械神に対して明確に反逆を宣言してもなお続き、ギルターボは心の力がマイナスのパワーとなる可能性もあると訴えてきた。それだけではなく、連れてきた中島すらも警告するのだ。人間の心は自分の思うようなものではない、自分には使えない、と。

 

 それを自分は戯言だと一蹴し、中島を救出するために乗り込んできたザウラーズが操るロボット、ゴウザウラー、“マグナザウラー”、“グランザウラー”の3機が合体した“キングゴウザウラー”との戦いに臨んだ。

 

 想定通り、否、想定以上の力を発揮し、キングゴウザウラーはこちらに応戦してきたが、首尾は上々だった。キングゴウザウラーの生み出す莫大な心のエネルギーを吸収することが出来たのだから。そして、エンジン王はギルターボにより“機械化獣”として生まれ変わった機械化城、“メガキャッスル”と自身を結合し、心の力の試運転としてキングゴウザウラーを始末しようとした。

 

 ところが、そこで全くの想定外の事態が発生してしまう。機械化獣に充填した心のエネルギーが、みるみる内に消えていったのだ。

『エンジン王、それが心さ』

『!? ナカジマ!』

 不可解な状況のため行動不能に陥っていると、通信を通じて中島が語り掛けてきた。

『ある時は熱く燃え、ある時は優しく穏やかに。だが、何故燃える? 何故穏やかになる? 機械のお前にそれが解るのか!? 心の力を吸収することなどできないんだ!』

『な、なんだと!? ふざけるな! 吸収できぬエネルギーなどない!』

 中島の言葉を認めることが出来ず反論するが、事態は変わらなかった。自分は現実に心の力を使うことが出来ず、心の力を吸収されたはずのキングゴウザウラーは凄まじい力で自分に立ち向かってくる。

 

 それでも、自分は再びゴウザウラーから心の力を得ようとゴウザウラーに攻撃を続けた。既に機械神へ明確な叛意を示してしまっている。もはや後にはひけないのだから。そこへ、機械神がとうとう自分を粛正せんと乗り出してきた。途轍もないエネルギーの放射が自分を目掛けて突き進んでくる。あんなものをまともに浴びれば、確実に自分は破壊されてしまう。急ぎメガキャッスルとの結合を解き脱出を図るが、到底間に合わない。

 

 最早これまでか、と諦念が思考回路を埋める、その時だった。

 

『ファーザーッ!』

 

『!? ギルターボ!』

 

 ギルターボが、自分を庇い、身代わりとなったのだ。それは、本来あり得ないことだ。ギルターボの主動力源はエンジン王。自分と結合していない限りは単独で歩くことさえできない。それが、機械神の攻撃に先んじて自分を助けるなど、本当ならできるはずがなかった。

 

『ギルターボ! 今の力は、まさかっ!?』

 

 それがあり得るとすれば、それはザウラーズが発揮するものと同じ、心の力をエネルギーにする以外にない。

 

『ファーザー……今、心が解析できたよ……心とは、こころとはっ』

 

 その言葉の続きを聞くことはできなかった。甚大な損傷がギルターボの体内回路を暴走させ、その身を爆発させていったが故に。凄まじい爆炎が巻き起こるが、そんなものを気にする余裕はなかった。それを聞けば宇宙最強の力をより効率よく使えるだろう、心の解析結果さえもどうでもよかった。ギルターボの身体が見る間に壊れていく、それ以上に関心を向けるべきことなどあるはずがない。そしてギルターボは、最期に自分が愛用してきた剣を胸部から射出すると、その機能を完全に停止させた。

 

 そう。ギルターボは、常に自分と共に戦い続けてきた愛機は、この世から永遠に消えたのだ。

 

『ギルターボ……ぬおおぉぉ……ぬああああぁぁぁぁ!』

 

 ギルターボを失ったエンジン王は、その仇である機械神を完全に殲滅対象として認識し、刃を向けた。機械化城の部品を吸収することで自身を巨大化させ、機械神に向かっていった。もはや機械化帝国支配者の座などどうでもいい。ただ、ギルターボを殺した機械神を生かしておくことはできない。その思考だけがエンジン王を突き動かしていた。しかし、それも虚しくその場に現れた機械神は、本体の分身、全体エネルギーの一部に過ぎないものだった。

 

 それ故に、エンジン王は愛剣の切っ先を宿敵(キングゴウザウラー)に向けた。直接の仇である機械神を討ち取ることが出来ず、このまま己の力を何も示すことができないまま終わっては、自分が力ばかりを追い求めたがために死なせてしまったギルターボに合わせる顔がない。機械神をこの手で討つことが出来ないのならば、せめて幾度も自分たちに土をつけてきたザウラーズだけでも倒さなければ終われない。キングゴウザウラーの首をギルターボへの手向けへとするために、エンジン王は因縁の敵へと襲い掛かった。

 

 ギルターボの形見の剣と敵の“キングブレード”が幾度もぶつかり合う中で、機械化獣となった機械化城が移動を始めた。そして、センサーが機械化城の中心部が異常に強力なエネルギーを発し始めていることを認識する。恐らく、機械神がメガキャッスルを操っているのだろう。大方、自分とキングゴウザウラーを機械化城の爆発に巻き込ませ、同時に始末するというところか。否、このエネルギーの高まりは自分たちのみならず、爆発位置次第ではその余波により発生するプラズマエネルギーで地球の全生命を一掃し得るだろう。つまり、機械神にとっては邪魔者を一度に排除できる好機というわけだ。機械神らしい、合理的な計算といえる。

 

 今更どうでもいいことだった。地球の生命がどうなろうと知ったことではないし、最早己の命を生き永らえたいとも思っていない。例え死すことになろうとも、自分とギルターボに煮え湯を飲ませ続けてきたキングゴウザウラーさえ仕留められれば、自分たちは決してこのロボットに劣る存在ではないということさえ証明できればそれでよかった。それ以外に、自分がギルターボのためにできることはないのだから。

 

 すると、そこへ宇宙服を着た中島が立ちはだかった。地球を滅亡から救うため、機械化城を破壊しようとするザウラーズの邪魔をしないでほしいと懇願してきた。

 

『地球が滅亡しようとどうしようと、私の知ったことか!』

 

『お前も死んでしまうんだぞ!?』

 

『構うものか! 貴様らが道連れなら本望だ!』

 

――そうだ。何故今更死ぬことに頓着する必要がある? それはこの者たちに、ザウラーズに一矢報いることを諦める程の価値があるとでもいうのか? 最早、死んで失うものがあるわけでもないというのに

 

『莫迦なことを言うな! ギルターボが自分の命と引き換えに守った命を粗末にするな!』

 

 しかし、中島のその言葉が思考回路を揺さぶった。

 

『ギルターボが悲しむぞ!』

 

――ギルターボが悲しむ? 私の行動が、ギルターボへの裏切りだというのか?

 

『黙れっ!』

 

 一瞬浮かんだ疑念を振り払うように、中島の身体を掴み取る。ギルターボを生み出したのはエンジン王だ。それ故に、自分はギルターボの性能も構造も何もかもを把握している。そんな自分が、ギルターボの遺志を見誤るはずがない。ましてや、ギルターボとほんの僅かな時間言葉を交わしただけの中島が、自分以上にギルターボのことを理解するなど、あるはずがないではないか。

 

『小うるさい虫けらめ。お前から握り潰してやる!』

 

 勝手なことを言い続ける愚か者に制裁を加えんと、中島を握る左手に力を籠める。巨大化した今の自分にとって、2メートルにも満たない人間の体など正しく虫同然だ。エネルギーの僅か0.01%を左腕へ注ぐだけでも、容易に握り潰せる。

 

『それでお前の気が晴れるならばそうするがいい。その代り、子どもたちにはもう手出ししないでくれ!』

 

『なんだと!?』

 

『あの子たちのためなら、私は喜んでこの命を投げ出そう……ギルターボのように!』

 

 それを聞いた途端、思考回路が焼けつくように熱を持った。

 

『ふざけたことを、人間如きが私のギルターボと同じだと!? 身の程を知れぇっ!』

 

 通信でザウラーズがやめろ、やるなら自分たちをやれと訴えてくるが、それを無視してエンジン王は中島に叫んだ。

 

『さあナカジマ、泣いて許しを請え! 貴様にギルターボの真似などできん!』

 

 しかし、握る手に力を込めても、中島は己の言を翻しはしなかった。

 

『どうした、このままでは死ぬぞ!』

 

 警告して尚も、中島に命乞いをする気配を見せない。痛みに言葉を理解する余裕がなくなっている、という風ではなかった。苦痛に(あえ)ぎながら、それでも中島は耐えているのだ。自身で言った通り、ザウラーズのために。

 

『何故だ……何故他人のためにそこまでする!? お前は死ぬのが恐くないのか!?』

 

『恐いさ……』

 

 痛みのためか弱々しい、それなのに何故か力強いという相反した印象を受ける声で中島は言った。

 

『しかし、それを乗り越えて大切な人を護ろうとする時……人の心は限りなく強くなれるんだ!』

 

『そ、それが、心の力か……』

 

 その瞬間、何故か自分は己の敗北を悟った。何か攻撃を受けたわけではない。むしろ相手はあとほんの少し握る手の圧力を増すだけで死ぬという、自身にとって圧倒的に有利な状況。それにも関わらず、自分はこの小さく脆弱な存在に負けたのだと、理屈でなく感じてしまった。

 

 我知らず、中島を握る手を放す。すると、中島が更に言葉を続けた。

 

『解ってくれ! ギルターボは復讐など望んではいない! お前に生きていてほしいんだ!』

 

 それを聞き、思わずギルターボの亡骸へと目を向ける。

 

『ギルターボ……そうなのか? ギルターボ……』

 

 ギルターボのことは開発者であり、ずっと共に戦ってきた自分が一番解っているはずだった。しかし、ギルターボの望んでいたことを、本当に中島の方が理解しているというのだろうか。

 

『ファーザー……今、心が解析できたよ……心とは、こころとはっ』

 

 ギルターボの最後の言葉が思い出された。ギルターボは、何を望んで自分に心の解析結果を告げようとしていたのだろう。何を望んで自分を助けたのだろう。

 

 自分に仇をとってほしいため? 復讐を願うほど己の死が無念ならば、最初から自分を犠牲にするような真似はしていないだろう。

 

 機械神を倒すという自分の目的の助けとなるため? 緊急事態だったとはいえ重要な戦力であるギルターボを失うことはあまりに大きな損失であり、助けになるどころかむしろマイナスだ。

 

 解らなかった。ギルターボの行動に、論理的な理由を見いだせなかった。だというのに、中島は理解したのだ。ギルターボの望みを。

 

 ギルターボの首が頷くように落ち、目元からオイルが涙のように流れた。その姿に、いい得ない程の衝撃を受けた。

 

 現象だけで言うのであれば、大破したギルターボの機体が崩れて首が傾き、内部燃料が漏れただけだ。それでも、エンジン王にはそれがギルターボの遺志のように見えてならなかった。もう戦わなくていい、命を無為にしないでほしいと、泣いているようにしか見えなかった。

 

『うおおおおぉぉぉぉっ!』

 

――完敗だ

 

 叫びながら、拳を地に叩きつける。今度こそはっきりと理解した。自分は中島に負けたのだ。最も理解しなければならない、ギルターボの想いを理解できなかった時点で。

 

 そう、結局自分は敗れた。機械神にも、キングゴウザウラーにも、中島にも。ギルターボの命を、敗北の代償にして。

 

――何故、こうなってしまったのだろうか……

 

 機械神に逆らったことが間違いだったのか? 心に触れようとしたせいか? ギルターボと中島の忠告を無視したのがいけなかったのか? 

 

 幾つもの疑問が、思考を空転させ続ける。ギルターボの目を拭いながらも答えの出ない問いを自身に投げ掛け続ける。

 

――ギルターボ、私はこれからどうすればいい?

 

 中島は言った。ギルターボの望みはエンジン王が生き延びることだと。しかし、生き永らえたとしてどうなるというのだろう? 自分は機械化帝国の機械王として多くの惑星から生命を滅ぼし、機械化してきた存在。宇宙の生命体にとっては敵そのものだ。最早機械化帝国には戻れない以上、自分の居場所はない。一体、この先どう生きる道があるというのか。

 

 自問自答を繰り返す中で、不意に違和感を覚えた。

 

「なんだ? 機械化城のスピードが落ちている?」

 

 最早それは自身にとってどうでもいいことのはずだ。しかし、何故かそれが酷く気がかりになった。

 

「キングゴウザウラーは何処だ!?」

 

 立ち上がり、踵を返すと、遠方に断続して爆発の炎が立ち上っているのが見える。

 

「あれは、ま、まさか!?」

 

 それを見た瞬間、思わず身体が動いていた。爆発の方角へと、エンジンを吹かして飛翔を開始する。そして、機械化城の縁まで辿り着けば、機械化城を押し戻そうとするキングゴウザウラーの姿があった。

 

――そんなことで機械化城の移動を阻止しようというのか!?

 

 キングゴウザウラーの最大出力は、エンジン王の分析では精々180万馬力。いかに心の力を加味したとしても、単純な力比べで機械化城という要塞を基にしたメガキャッスルのパワーを覆せるはずがない。それなのに、キングゴウザウラーはメガキャッスルの攻撃に応戦しながら機械化城を押し戻そうとし続けている。このままでは自分たちも機械化城の爆発に巻き込まれるというのに、地球が爆発の影響を受ける地点まで機械化城を進ませまいとあがき続けているのだ。

 

「キングゴウザウラーだけで、機械化城が止められるものかっ」

 

 無駄な努力としか言えないような姿。それに対し、エンジン王は吐き捨てるように言い放った。

 

「何故だ!? 何故奴らは、できもしないことに命を懸けるのだ!?」

 

 それなのに、何故だろうか。何故その無駄な努力が、総身が震えるほどに尊く見えるのだろうか。

 

『大切な人を護ろうとする時……人の心は限りなく強くなれるんだ!』

 

『ファーザー……心とは、こころとはっ』

 

 己の問いに答えるように、中島とギルターボの言葉が思考回路に浮かぶ。それこそが答えだとでもいうように。

 

 右目のメーターの針が振り切れた。このままならば、ザウラーズも、地球も、全てが滅ぶ。あの心というものを持つ者たちが、全てこの世からいなくなるのだ。

 

――それを認めていいのか? それを傍観するのが、今私がすべきことなのか!?

 

 その問いの答えは、既に出ていた。自分たちの星を護るため、命を懸けて不可能に挑み続けるザウラーズの姿。

 

――それを、尊いと感じてしまったのであれば……!

 

 龍を象ったメガキャッスルの触手型砲塔がキングゴウザウラーに迫る。それを、エンジン王の指の砲口から放ったビームが貫いた。

 

<エンジン王!?>

 

<助けてくれたの!?>

 

 通信越しに、ザウラーズの驚いた声が聞こえてきた。そこへ、背後から別の触手型砲塔が迫ってくる。

 

「エンジン王、貴様まだ余に逆らうつもりか!」

 

 怒声を投げつけてくる機械神に、エンジン王も叫び返した。

 

「忘れたか、機械神! 貴様への反逆が私の選んだ道だぁっ!」

 

「おのれぇっ!」

 

 怒りの声とともに放たれる稲妻状の砲撃をかわし、ビームでその砲塔の首を切り裂く。そして再度放たれる砲撃をかわすが、一瞬の隙を衝かれて別の砲塔の牙に捕まってしまった。

 

「ぐああぁぁっ!」

 

「フフフフフ、いい様だなエンジン王! 楽に死ねると思うなよ!」

 

 言葉通りか、じわじわと苦しめるように砲塔の噛みつく力が増していく。装甲が潰されていく苦痛に、たまらず悲鳴を上げた。

 

 そこへ、キングゴウザウラーの砲撃が自分を捕らえる砲塔に降り注いだ。

 

――ザウラーズ、私を助けようというのか!?

 

 驚き、そちらへ目をやる。一度手助けしたとはいえ、敵であるはずの自分を助けようとするとは思わなかった。

 

――中島を助けるために敵の手中へ飛び込んできたことといい、やはり人間は浅はかですね……

 

 そう思いながらも、不思議と胸のエンジンを温かい何かが満たすのを感じる。さらに不思議なことは、その何かが理解不能であるにも関わらず、不快感の欠片も覚えないことだ。

 

「この虫けらめぇっ!」

 

 一方、攻撃を受けた機械神は、キングゴウザウラーへと猛然と反撃を開始した。無数に襲い来る砲撃を捌ききれず、とうとうキングゴウザウラーは被弾してしまう。

 

「うう、キングゴウザウラーが……おのれ、機械神!」

 

 このままでは、自分にもザウラーズにも勝機はないだろう。キングゴウザウラー単体ではメガキャッスルを押し戻すことも破壊することもできない。エンジン王とて同じことだ。

 

――そう、このまま(・・・・)では到底勝ち目はない、ならば!

 

 それ故に、エンジン王は決断した。このままでは無理なのであれば、この状態を脱するほどの力を発揮するしかない。

 

――見せてやろう、私のエンジンの全てを、命の全てを燃やす力を!

 

 決意の許、エンジン王は己がエンジンを自ら暴走させた。自分の最大出力を遥かに超えたエネルギーが形成され、全身を砕かんばかりの力の奔流が体内を駆け巡る。瞬間、エンジン王の身体が黄金に輝いた。有り余るエネルギーがボディに収まりきらず、溢れ出た力がエネルギー体の身体を形成する。

 

「なにぃっ!?」

 

 機械神の驚愕の声を聴きながら、メガキャッスルと同程度の大きさにまで巨大化したエンジン王は、機械化城を押し戻し始めた。激痛を伴いながら全身を駆け巡るエネルギーを駆使し、全力で機械化城を地球への影響圏から押し返す。

 

「エンジン王、貴様ぁっ! やめろ、やめぬかエンジン王!」

 

 機械神の怒声と攻撃を無視し、機械化城を押し戻し続けた。耐久性の限界値を大幅に超えたエネルギーの生成にエンジンが悲鳴を上げている。身体に力がみなぎる一方で、その力が掛けてくる負荷に今にも倒れそうだ。

 

 しかし、今はまだ倒れるわけにはいかなかった。機械化城の爆発に、地球を巻き込ませはしない。大切な存在を護るために命を賭しているザウラーズの闘いを、無駄なものになどさせはしない。

 

<地球がプラズマの影響圏から出ました! 破壊するなら今です! あと1分しかありません!>

 

 激痛のあまり状況の認識すら困難な中、傍受したザウラーズの通信が地球に被害をもたらさない地点まで機械化城を移動できたこと、そして機械化城の爆発まで最早猶予がないことを教えてくれた。

 

<エンジン王、もう十分だ! 機械化城から離れてくれ!>

 

 こちらを気遣うザウラーズの通信が届く。それに対し、エンジン王は力の限り叫んだ。

 

「私に構うな!」

 

<なに!?>

 

「私ごと機械化城を貫けぇっ!」

 

<なっ、莫迦なこと言うなっ!>

 

<できないわよ、そんなこと!>

 

 戸惑ったような声に対し、エンジン王は叱咤するように言ってのける。

 

「やるのだ! キングブレードのフルパワーを以ってしても、機械化城を一撃で破壊することはできん! しかし、私のエンジンのエネルギーを併せれば、必ず破壊できる!」

 

<でもっ、でもぉ……!>

 

 苦痛がにじんだ声だった。先程まで命を狙っていた相手を攻撃することに、何故痛みを感じる必要があるのか。そして、何故自分の思考回路はそのことにエンジンの暴走による激痛が和らぐほどの温かなものを感じているのか。全く理解不能だが、今はそれに構っている時ではなかった。

 

「もう迷っている時間はない!」

 

 そう言い放てば、静かな声が通信で届く。

 

<……やるぞ>

 

拳一(けんいち)!?>

 

<やるぞっ!>

 

<駄目よっ、エンジン王を助けなきゃ!>

 

<やるんだっ、エンジン王は、俺たちのために命を懸ける覚悟をしたんだっ!>

 

<その気持ちを、無駄にするわけにはいかないっ……!>

 

 キングゴウザウラーのメインパイロットたちだろう、何人かの少年たちの声が届く。そのどれもが、痛みをこらえるようなものだった。

 

――本当に、心とは不思議なものだ……

 

 感情というものがあるせいで、時として敵の死に対してさえも痛みを感じてしまう。それが合理的でないと理解はしていても、優先すべきことにためらいを覚えてしまう。それはかつてエンジン王が考えていた通り、最大の弱点になり得るものだ。

 

「急げぇ……! 私のエンジンが停まってしまう前に……!」

 

 限界以上のパワーを無理やり引き出している以上、エンジンの残り稼働可能時間は長くない。これ以上少年たちが葛藤していれば、機械化城を破壊し得るエネルギーを維持できなくなってしまう。

 

――しかし、ナカジマは言った……

 

<やるぞぉっ! キングブレード、フルパワー!>

 

――最大の弱点(それ)を乗り越えた時、心は限りなく強くなれるのだ、と……

 

 力強い叫びと共に、キングゴウザウラーは剣を高々と振り上げた。そして、その不退転の意志を示すかのように、キングブレードが太陽と見紛うほどに煌々と輝く。

 

 美しい、と思った。初めは地球を醜い惑星としか思えなかったのに、その星を護ろうというゴウザウラーの刃の輝きに、一瞬忘我するほど見入ってしまった。

 

――心とは、我ら機械人にはない素晴らしい力……人間しか持てぬ素晴らしい力……解ったよ、ギルターボ……

 

 キングブレードが放つ極大の閃光が機械化城へ、そしてエンジン王のボディの中心へ向けて放たれる。地球を護らんとするザウラーズの想いの全てが籠められた一撃は自分のエンジンを貫き、そのエネルギーをも巻き込んで機械化城の心臓部へと突き進んだ。

 

 数瞬の後、機械化城の中心が爆発を起こす。爆発はそのまま各部から生じ始め、やがて機械化城は機械化した月の大地に墜落した。キングゴウザウラーは、機械化城を破壊してみせたのだ

 

 それを認めるが早いか、エンジン王の身体が崩れていった。機械化城のパーツを組み合わせて作りだした巨体がエンジンの大破により維持できなくなり、本体部分が機械化城の上に落下する。左腕、右足を失い、ごく僅かに残ったエネルギーの残滓で辛うじて稼働している中、前方へと目を向ける。

 

「ぎ、ギルターボ……」

 

 いかなる偶然か、落下地点はギルターボから比較的近い位置だった。この残り僅かなエネルギーでも、なんとか這い寄ることが出来る程度には。

 

「ギルターボ……私を許してくれますか?」

 

 既にほとんど自由の利かない身体で這って行きながら、エンジン王は物言わぬギルターボに問い掛ける。結局、エンジン王は生き延びることできなかった。ギルターボが己を犠牲にして救ってくれた命を、僅か30分未満の時間しか永らえさせることができなかった。ザウラーズに協力したことに後悔はない。それでも、ギルターボの最期の願いを果たせなかったことが堪らなく悔しく、何よりも申し訳なかった。エンジンが稼働を始めてから幾星霜、かつてこれ程自分を不甲斐なく思った覚えはない。

 

「ギルターボ……」

 

 その思考が、エンジン王に問いを投げさせた。最早ギルターボの全機能は完全に沈黙している。問い掛けたところで答えが返ってくることはない。それは理解しているはずなのに、エンジン王は問い掛けずにはいられなかった。

 

 すると、地響きと共にギルターボの左腕が掌をこちらに差し出す形で崩れ落ちてくる。まるで、エンジン王に手を差し伸べるように。それを見た途端、言い知れない何かが今にも停止しそうなエンジンを満たした。

 

「ああ、ギルターボ……ギルターボ……!」

 

 その掌の上に登り、ギルターボの名を呼び続ける。それは、ただ単に機械化城の爆発による振動で腕が落ちてきただけに過ぎない。実際に、ギルターボが手を差し伸べてくれたわけではない。思考回路はそう状況を認識している。それなのに、何故胸の内を温かな何かが満たすのだろう。停止し始めたエンジンの駆動が、何故こうも穏やかなのだろう。

 

『ファーザー』

 

 機械化城の最期の大爆発に飲み込まれる中で、ギルターボ(むすこ)の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 そして、エンジン王もまた、この世界を去ったのだった。

 

 

 

――……?

 

 エンジン王が目覚めた時、奇妙な空間にいることを認識した。次いで、自分が「認識する」という行動ができることに驚愕する。

 

「なんだ? 私は死んだはずでは……」

 

 言いながら自分の身体を確認しようとして、またも驚愕する。

 

 身体がないのだ。ボディがないにもかかわらず、思考だけがその場に存在しているのである。

 

「これは、私の思考の残骸だけがこの場に存在している、ということか?」

 

 地球の言葉で言うところの、“幽霊”というものに該当するのかもしれない。信じがたい話ではあるが、実際に起きている以上は否定しても仕方がないだろう。

 

「しかし、それならばそれで、ここは何処なのだ?」

 

 理解の範疇を超えた自身の状態はさておくにしても、現在位置が全く不明というのも妙だ。少なくとも、月やその周辺の宇宙空間ではないらしい。視認する限りにおいては、星の海も機械化した大地も、そして地球も見えないためだ。もし本当に自分が死んで幽霊になったとしたら、普通に考えると死んだ場所である月近辺にいるものだと思うのだが、どうにも違うらしい。辺り一面は真っ暗で、何かが動いているような気配だけがする、不気味な場所だ。

 

 そこで、視覚センサー()収音装置(みみ)がないにもかかわらず周囲の状況を見て、自身の放った言葉を聞き取っていることに気が付く。それならば、身体が無くなくとも解析機能の類とて使用することができるのではないだろうか。試しに普段そうするのと同じ感覚で解析機能を立ち上げようとすると、システムが起動した感触が伝わってくる。

 

「これで、とりあえず周囲の状況を確認できそうですね」

 

 早速とばかりに周辺に対して解析を開始した。自身のスキャニング能力を駆使し、情報を集められるだけ集めようとする。

 

「なっ!?」

 

 そして得られた結果に、三度驚愕した。

 

「人間の体内だと!?」

 

 そう、自分の現在地は、人間の体の中だったのである。先程からうごめいていた何かは、脈動の類だったらしい。しかも、その人間はどうやら産まれてすらいない胎児のようだ。

 

「ザウラーズの中に妊娠しているようなものはいなかったはず。私は一体どこに飛ばされたのだ?」

 

 人間の体内に入っているにしても、その相手があの場にいたザウラーズや中島ならばまだ理解できる。しかし、それがあの場所とは無関係な胎児とはどういうことなのか。

 

「機械化城の爆発のショックで、思考だけが朽ちかけたボディを離れ地球に飛ばされたとでもいうのでしょうか」

 

 荒唐無稽(こうとうむけい)な推測だが、他に筋道だった説明ができそうにない。今後も解析の必要はあるものの、今はそれで納得するほかなさそうだった。

 

「しかし、どうやらこの場にいるのは私だけではないようですね」

 

 言いながら、エンジン王は周囲を見回す。その視線の先には、逆四角錘のクリスタルのようなものと、不気味に輝く雲のようなエネルギー体があった。

 

「この水晶のようなもの、正体はロボットのようですね。それもゴウザウラーと同じ、操縦タイプの」

 

 しかし、そのクリスタルの実体は酷く虚ろに見え、存在しているともいないとも言い切れない曖昧な状態だった。

 

「この空間に対する奇妙な不安定さ、もしや3次元の物質ではないのでしょうか?」

 

 機械化帝国の高度な文明は3次元よりも高位の次元さえ観測している。クリスタル型ロボットをより詳しく解析してみると、やはり3次元でなく5次元由来の物質で形成されていることが解った。

 

「機体名称はジャークサタン、次元移動能力と特定の生命体との融合能力を持つ戦闘ロボット。ほう、このパワーは合体前のゴウザウラーに引けを取らないかもしれませんね」

 

 ある程度そのロボット、ジャークサタンの解析を済ませると、謎のエネルギーの解析に移る。

 

「途轍もないですね。純粋な威力に換算すれば、地球程度の小さな惑星であれば1ダース破壊しても尚余るでしょう」

 

 しかし、その量もさることながら真に注視すべきはその特性だ。このエネルギー、あまりにも柔軟すぎるのである。熱として使おうとすれば炎のような形にでき、電気エネルギーとして使おうとすれば電子に変化でき、引力や斥力として使おうとすれば重力変化を起こせるだろう。ここまで臨機応変に様々な現象を引き起こし得るとなると、いっそ非現実的でさえある。使い方次第では、雲のような形ないものを石に変える、任意の物体のみを吸い込む強風を起こすといった、物理的に理不尽な事象さえ可能になるかもしれない。

 

「5次元のロボットに正体不明の強力なエネルギー、そして私ですか……この人間の子ども、いったいどういう経緯で体内がこんなことになっているのでしょうか」

 

 他人事――とも言い切れないかもしれないが――ながら呆れとも同情ともつかない感慨が浮かぶ。自分たちを体内に取り込んでいるこの胎児がどのような人生を歩んでいくことになるのか、全く想像がつかない。

 

 そこで、ふと思う。あの時、ギルターボに救ってもらった命を失ったと思ったが、今自分はこうしてここにいる。幽霊かもしれないし、この子どもの身体からは出られないかもしれないが、こうして自我を持っている以上は生きていると言って差支えはあるまい。

 

 それならば、この少年の行く先を見守って生きてみるのも悪くないのではないか。人間の心を、人間の中で学んでいけるというのであれば、それは好機なのかもしれない。

 

「そうですね。私は、もう一度生きてみますよ、ギルターボ」

 

 ここにはいない息子にそう告げ、エンジン王はこの宿主が誕生する日を待つのだった。




 そして宿主は未来のおっぱい大帝である。

 思いの強さが神器の強さになるハイスクールD×Dの世界では、割とエンジン王は似合うと思っています。

2017年2月27日 拳一のふりがな追加、誤字修正
2017年3月12日 「――それを乗り越えた時、心は限りなく強くなれるのだ、と……」の一文の「それ」を「最大の弱点(それ)」に変更、及び三次元となっていた箇所を3次元に誤字修正
2017年3月19日 話数追加
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