Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

10 / 28
・セブンスドラゴンⅢ世界にFate/GOキャラ(ぐだ子、ロマニ、ゲーティア)がいる。
・結絆の辿った『セブンスドラゴンⅢ』+絆クエスト進行中のダイジェスト風味。
・フレーバーとして無印のハントマンが登場。ノーデンス13班員の先祖。該当者は以下の通り。
 先祖:青髪メイジ♂&黒髪サムライ♀≒子孫:フレデリック・エイゼンハインツ=メイジ♂A-Collar1/CV.男性S=石川界人:一刀サムライ
・第4真竜のみ。(書き手にとって)前回以上に“かなり長い”ので、前後編になった。
・戦闘までいかなかった(重要)
・戦闘までいかなかった(重要)
・第4真竜以外の話題に触れられていないのは、終了以降に一気に回収するため。

【参考・参照】
『インストール』(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47811066)
『命にふさわしい』(歌:amazarashi)/全編イメージテーマソング
『NieR:Automata』(SQUARE ENIX)/雰囲気


幕間の物語5.軌跡-流浪の途/Tenacity

「よく来たな、彩羽」

 

「私たちは、貴女たちを待っていたの」

 

 

 そう言って振り返ったのは、金髪をお団子に束ねた少女と空色の髪をヘアバンドで纏めた女性だった。

 2020年に見た服装とは打って変わって、ファンタジー色の強い装いとなっている。

 サイラスたちの服と装飾が似ているため、この格好はさしずめ“エデンスタイル”なのだろう。

 

 改めて、と、2人は頭に付け加えて自己紹介する。

 

 

「私はエメル。2020年にはアメリカで対竜戦の指揮を執り、2021年ではムラクモ総長代理として指揮を執り、エデンではカザンおよびプレロマ奪還の指揮を執っていた者だ。アイテルは私の妹だ」

 

「わたしはアイテル。遠い宇宙を流浪し、地球に辿り着いたヒュプノスの巫女。姉さんが憎悪を、わたしが愛情を司っているわ」

 

 

 エメルとアイテル姉妹は穏やかに笑っていた。後者はともかく、前者が穏やかに笑っている姿を目にしたのは初めてである。彩羽は思わず目を丸くした。

 『一色彩羽(かのじょ)』の記憶(たびじ)では、エメルはいつも怒っていた。笑うことはあっても、憎しみを込めた笑みや不敵なものばかりだ。

 

 まるで、憑き物が落ちたような顔である。彩羽がまじまじと見つめていることに気づいたのか、エメルは罰が悪そうに苦笑した。

 

 

「お前の知っている“私”と違って、驚いたか?」

 

「うん、とても。子どもの依頼でサンタ役を頼んだときも、自分の身体が元に戻らないと知ったときも、六本木大瀑布攻略中も、ずっと怒ってばっかりだったから……」

 

「……そうだな。そうだろうな。『彼女(おまえ)』と出会ったときにはもう、『私』は“憎悪の権化”として完成していたからな」

 

 

 当時のことを思い出したのだろう。エメルはどこか遠くへと眼差しを向けた。竜への憎悪を糧にして、彩羽たち人類に力を貸してくれた“影の英雄”。

 時には『竜憎し』という感情が先行し、狂気的な行動や指示を出すこともあった。竜を殲滅するためなら、人間の命を軽んじるような判断を下すこともあった。

 だけど、エメルとアイテルは常に人類の味方だった。ヒュプノスとよく似た外見や文明体系を持つ人類なら、ドラゴンを殲滅できると信じて力を貸してくれた。

 

 竜殺剣という絶対的な対竜兵器に関する知識を与えたのも彼女たちだったし、タケハヤを人類戦士にするために用いたドラゴンクロニクルのひな形をムラクモ機関――正確には、代々総長の役に就いた日傘一族に提供したのもエメルたちである。

 それだけではなく、そもそも、ムラクモ機関やSECT11と呼ばれるS級能力者――もとい、“狩る者”の人材確保と成長を促す組織を各国に設立させたのもエメルたちだった。この組織がなければ、日本は明確な制竜権を手にすることもできなかっただろう。

 

 

「ヒュプノスがいなければ、『狩る者たちは己の力を知ることはできなかったし、竜殺剣やドラゴンクロニクルの知識を得ることもできなかった』ということですか?」

 

「その通り。エメルとアイテルは人類にとって恩人と言える存在だよ。2人がいなきゃ、『彼女(わたし)』たちは竜に喰われて滅亡してた」

 

「わたしたちは『彼女(あなた)』たち人類に知識を与えただけ。真竜を討ち果たし、すべての竜を狩り尽したのは、ひとえに『彼女(あなた)』たちの力よ」

 

 

 マシュの問いに頷く彩羽を見て、アイテルは静かに首を振った。慈愛に満ちた微笑みは、2020年代に見た薄い表情とは大違いである。

 

 初めてアイテルと出会ったときのことが脳裏をよぎる。繁花街と化した渋谷の街で、彼女はタケハヤに付き従うような形で現れた。

 本格的に言葉を交わしたのは国分寺の工場内。彩羽たちが地球/人類の“狩る者”であると語った彼女は、“狩る者”の使命を教えてくれた。

 惑星(ほし)の生態系、その頂点に君臨する種族が、竜への防衛機構として生み出す存在。星と種族の祈りの具現であり、希望の象徴だと。閑話休題。

 

 

「アイテルも、いい表情(かお)をするようになったね。素敵な笑顔。昔とは大違いだ」

 

「そうかしら? ――だとしたら、それはタケハヤのおかげよ。彼のおかげで、わたしは“愛”を知ることができた……」

 

「“愛”を知る、か。……ボクも、貴女の気持ちが分かるよ」

 

 

 アイテルは幸せそうに微笑む。彼女の様子に自身との共通点を見つけ出したのか、ロマニはしみじみと噛みしめるように呟いた。彩羽にちらりと視線を向けた彼は、どこか照れくさそうにはにかんだ。それが嬉しくて彩羽も目を細める。

 嘗て、ロマニ――もとい、ソロモンは「王というシステムが人の形をしていた」と言っても過言ではない存在だった。英霊へと至った彼は、カルデアの所長だったマリスビリーと共に聖杯戦争に参戦。最後の勝利者へと至り、奇跡を手にする権利を得た。

 自由というものに憧れを持っていたソロモンは、「人間になりたい」と願う。普通の人間が積み重ねていく、どこにでもある平凡な、けれども何よりも尊い“愛と希望の物語”を彼は欲していた。――その願いは、滅びの未来を()てしまったことで、諦めざるを得なくなったのだが。

 

 ……ただ、ロマニ曰く

 

 

「確かにボクには自由はなかったし、多くのことを諦めたよ。……でも、彩羽と出会えたおかげで素晴らしい体験ができたし、一番欲しかったものが手に入ったんだ」

 

 

 とのこと。

 

 今でも彼は当時の選択を「後悔していない(……けど、悲しませてしまったことに対しては反省してるし、悪かったと思ってる)」と語るし、必要に迫られれば何度だって同じ決断をするのだろう。

 自身を「臆病なヘタレチキン野郎」と卑下するロマニに、そんな勇気を与えてしまったのは彩羽だ。同時に、どこにでもいる一般人だった彩羽に冠位指定(グランドオーダー)を達成させてしまう勇気を与えたのもロマニである。……嫌な似た者同士だ。

 

 でも、仕方がない。良いところも悪いところも互いに影響を与え合い、互いが影響を受け合うのだ。

 それが愛する/愛したものへの運命(さだめ)だというなら、その痛みも甘んじて受けられる。お互いがそう在った証として。

 

 

『成程。今回の案内役はキミたちなんだね?』

 

「お前の予想通りだ。……しかし、変わっているな。“女の皮を被った男”とは」

 

『わあ凄い! 私の外見だけで、私の本当の性別を当てた人は殆どいないんだよ』

 

「何を言っているんだ? そんなの、()()()()()()()()だろう」

 

 

 ダ・ヴィンチがはしゃぐ様を見ても、エメルはきょとんと首をかしげるだけだ。彼女にとって、今のは『そこに在る事象を、そこに在るがまま指摘しただけ』にすぎない。肉体と魂の本質を見抜けたのは、彼女の種族が人間とは違う構造だからであろう。

 

 

『キミ、意外と反応薄いなあ。こういうのを見ると、大なり小なりリアクションが付き物なんだけど……』

 

「特に反応する要素もないからな。……“()()()()()()()()()()()()”でも出てこない限りは」

 

 

 エメルは何かをぼそりと付け加える。とても小さな声だったため、聞き取ることは叶わなかった。

 首を傾げる彩羽を見たエメルが静かに笑う。2020年代では一度も見たことのない、安らいだ笑顔だ。

 

 

「早く結絆の元へ行きたいと思っている貴様たちには悪いが、少しばかり付き合ってくれないか。我々ヒュプノスが歩んだ、数奇な旅路を」

 

「……ヒュプノスの巫女エメル。ボクたちは――」

 

「心配するな、ロマニ・アーキマン。お前が危惧するようなことは起きないし、早々時間はかかるまいよ。()4()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()から」

 

 

 自分たちが優先しているのは結絆との縁を結び直すことなのだと言おうとしたロマンを制し、エメルは断言した。

 

 やけにきっぱりと言い切る姿に、去来した予感を何と例えよう。竜を狩るという目的のためなら、彼女は己の命すら投げ捨てるような存在だった。自身の希望だって、いとも容易く投げ捨てることができるような人物だった。

 竜への憎悪が鳴りを潜め、凪いだ水面のように静かな笑みをたたえるエメル。彼女の眼差しは、長い長い物語の終幕を見据えているかのようだ。辿り着くべき結末が安らかなものであると信じているし、彼女を見ている彩羽たちにもそう信じさせてくれる。

 

 

「これは、何千、何万年もの果敢なき流浪の途」

 

「憎悪と愛情を司る巫女、および、精神種族ヒュプノスが迎えた結末――そのすべてを、話しましょう」

 

 

 まるで親が子に寝物語を語るかのような口調で、エメルとアイテルはゆっくりと話し出す。

 

 眼前に広がるのは、白亜の学術都市。

 石畳の上を歩く靴音が、ゆっくり、ゆっくりと響いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 遠い昔、どこかの銀河系にある、どこかの惑星に、ヒュプノスという種族がいました。

 彼女たちは実体を持たない精神種族で、とても高度な文明を有していました。

 

 高い文明水準によって齎される安寧と平穏は、ある日、突然壊されます。遠い銀河から襲来した、真竜の存在によって。

 

 ヒュプノスたちは果敢に戦いました。己の持つ文明を駆使し、真竜の謎の大部分を解き明かし、数多の兵器を造り上げて対抗しました。

 ですが、真竜の方があまりにも強かった。あっという間に惑星(ほし)は破壊されました。同胞たちも、文明も、安寧と平穏も、何もかもが竜に喰われました。

 唯一生き残ったのは、ヒュプノスの巫女姉妹だけでした。彼女たちは長い流浪の旅に出ました。竜を滅ぼすための好機を、ずっと待ち続けていました。

 

 長い流浪の途を経て、ヒュプノスの巫女は地球へと辿り着きました。その惑星(ほし)には、自分たちとよく似た種族――人類が繁栄していたのです。ヒュプノスの高度文明に比べれば拙い文明でしたが、いずれ真竜が目を付けるであろうことは予想できました。

 

 

「この惑星(ほし)に居れば、真竜は確実にやって来る。このままでは我々と同じ滅びの道を辿るのは必然だ。人類に力を貸せば、真竜を倒す力を手にすることに繋がるかもしれない」

 

 

 それは人類への善意でした。

 それは真竜への復讐でした。

 それは人類と竜の戦いでした。

 

 ヒュプノスの巫女は、当時栄えていたルシェ族に竜殺剣の知識を与えました。彼らが築き上げたアトランティス王国には、竜殺剣の材料になり得る金属――オリハルコンが沢山存在していたためです。竜殺剣の鍛え方は王族へと代々受け継がれてゆきました。

 ヒュプノスの巫女たちがルシェ族に知識を与えてから長い時間が過ぎた頃、ついに真竜が地球へ来襲します。やってきたのは絢爛豪華な金色の荒竜・第3真竜ニアラ。アトランティス王国はたった3ヶ月で滅亡寸前まで追いつめられました。

 

 竜殺剣は真竜の息の根を止めること叶わず、ニアラの右翼を切り裂いただけでした。担い手は焼き殺され、栄華を極めた海洋王国は滅亡。アトランティスに住まうルシェ族も、己の国と運命を共にしました。唯一の救いは真竜ニアラを撃退できたことでしょう。

 

 地球の覇者は海から陸へ、ルシェ族から人間へと移りました。ヒュプノスの巫女は様々な国を巡り、ありとあらゆる方法を用いて、いずれ来る真竜との戦いに備えました。真竜を倒す力を有する存在――“狩る者”を効率よく把握し、集め、育てるための組織を作ったのもその一環です。

 彼女の造った組織の中に、ムラクモ機関はありました。極東と呼ばれた小さな島国に、姉はドラゴンクロニクルに関する研究を伝えます。それを受け取った日傘一族は、研究を続けながらムラクモ機関を成長させていきました。

 

 そうして、2020年――ムラクモ13班による現代神話が幕を開けたのです。

 

 

***

 

 

 姉は、憎悪を体現する存在になりました。大切なものを奪われた怒りと、竜への憎しみを糧にして邁進していきました。

 その憎悪は、時として、守り導くべき人々を傷つけてしまいます。姉には、どうやっても、湧き水のように滾々と溢れ出る憎悪を止めることができません。

 守るべき人々から否定されても、巫女は憎むことを止められませんでした。竜を殲滅することができるなら、どんな犠牲を払ってもいいと思いました。

 

 東京に酸の雨が降ったとき、姉はムラクモ総長の代理として指揮を執っていました。姉にとっては、竜を殺すことが最優先事項です。

 

 

「待ってよエメル! ここはあの強酸性雨の水源だよ!? こんな中を進軍なんかしたら……」

 

『あの忌まわしき雨を止ませる方法は、速やかな帝竜の打倒しかない。我々には時間がないんだ。とにかく進め、進軍しろ! でなければ、人類は滅亡するぞ!!』

 

 

 “狩る者”を率いるリーダーの主張に最後まで耳を傾ける余裕はありません。姉は帝竜の脅威を訴え、彼女たちを駆り立てます。

 「帝竜を倒さなければ、人類が滅んでしまう」というのは、揺るぎのない事実です。だから、“狩る者”たちは悲鳴を上げながらも走りました。

 

 彼女たちは人間すら融かす酸の水を駆け抜けます。脚が焼けただれても立ち止まりません。立ち止まれません。――いや、()()()()()()()()()

 姉は議事堂の住人たちを引き合いに出して、立ち止まるなと喝を飛ばしました。走り続けろと命令しました。帝竜を倒さねば明日がないのだと叫びました。

 事実でした。本当のことでした。その危機を、“狩る者”たちは身近に感じていました。だから、姉の言葉に反論することはありませんでした。

 

 そんなとき、“狩る者”たちは、自分たちと同じ目的で六本木大瀑布を探索していたライバル組織を見つけました。彼らもまた、強酸性雨と帝竜の端末によって大きな傷を負っていました。

 ライバル組織は、嘗て姉が纏め上げた“狩る者”たちでした。ですが、彼らは姉の指示を聞きません。そう宣言したその瞬間から、彼らは姉にとって邪魔者になりました。帝竜よりも優先順位が低かったのです。

 

 

『そいつらなんて捨て置け! 竜を殲滅すること、帝竜を倒すことが最優先だ!!』

 

 

 彼らを助けようとするリーダーに、姉は命令しました。そんなものに構っている暇はないのだと、帝竜を倒さねばこの雨は止まないのだと、今までと同じことを引き合いに出して主張します。正論をぶつければリーダーは従うものだと、その瞬間まで、姉は疑いませんでした。

 

 

「黙って! 人命が、一番の優先事項に決まってる!!」

 

 

 姉は驚きました。リーダーが反論したことに。

 姉は驚きました。リーダーが姉を睨んだことに。

 姉は驚きました。リーダーの瞳に宿る揺るぎない“意志”に。

 

 姉は驚き、理解しました。リーダーが示したその眼差しに込められた“意志”が、真竜ニアラを撃退するに至った理由なのだと。

 生きたいと言う命の叫びを救い上げ、希望を守りたいのだと願ったから――人類は、追いつめられてもドラゴンに屈しなかったのだと。

 

 

「目の前の命を救えない奴が、命を尊べない奴が、傷ついた命を無視する奴が、生きたいと願う命の叫びを捨て置く奴が、みんなを救えるはずがないよ」

 

 

 リーダーの言葉に頷いた“狩る者”たちの眼差しにも、彼女と同じものが宿っていました。どこまでも揺るぎなく、何よりも強靭な“意志”――その尊い在り方に、姉は惹かれました。自分も同じものを抱けたら、彼女たちと()()になれるのではないかと思いました。

 

 彼女たちと同じ種族(もの)ではないという事実が、こんなにも胸を抉ったのは初めてでした。

 それがどうしても苦しくて、姉はつい、リーダーに本当のことを打ち上げたのです。

 

 「自分は人間ではなく、遠い宇宙からやって来た精神種族ヒュプノスである」――姉の告白を聞いても、リーダーは柔らかに笑いました。笑って、言いました。

 

 

「エメルはわたしたちの仲間だよ」

 

 

 初めて、彼女たちを守りたいと思いました。

 初めて、彼女たちの力になりたいと願いました。

 初めて、彼女たちが人類の――()()()()()()希望なのだと確信しました。

 

 この希望を守ることができるなら、死んだって惜しくないのだと思いました。この希望を守れるならば、なんだってやってみせようと思いました。

 姉にとって、自身の行動原理は憎しみでした。愛する者を傷つけ、命を踏み躙る事象すべてに対する怒りでした。真竜に対する憎悪でした。それでも、それでも――。

 

 姉がこの答えに至るまでに、沢山の間違いを繰り返しました。そんな姉を、仲間たちは受け入れていくれました。自身が生み出した古の命を否定すること無く、共に戦う仲間として認めて、真正面から向き合ってくれました。――彼女たちがいてくれてよかったと、心の底から思いました。

 

 

「エメルはここに残って、監視と指示出しをお願いします」

 

「……いいや、私はここにはおらん」

 

「……エメル、どういうことです?」

 

「私も出ると言ったんだ」

 

 

 ――だから。

 

 “狩る者”たちを守るために立ち上がったのは当然のことでした。彼女たちに希望を手渡すために立ち上がったのは当然のことでした。負けると分かっていても尚、死地に赴くのだという“意志”を抱けたのは、彼女たちのおかげです。

 ヒュプノスの巫女エメルは、銀色の呪竜――第5真竜フォーマルハウトに一騎打ちを挑みます。ですが、13班ですら敵わなかった敵に勝てるはずがありませんでした。でも、絶望なんてしてやりません。ここに立ったのは、希望を繋ぐためです。

 

 

『……障壁、すべてクローズ確認完了。ミッション、コンプリートだ』

 

 

 共に死出の旅に出た部下たちが()()()()()()()すべてをやり遂げたのを確認し、エメルは笑いました。

 不敵に、不遜に、憎い真竜を笑い飛ばしてやりました。だって、嬉しくて仕方がありません。

 勝利の道筋は残しました。希望は繋げました。あとは――“狩る者”が、この真竜を討ち倒すでしょう。その姿が鮮明に浮かびました。

 

 

「――私の勝ちだ、フォーマルハウト!!」

 

 

 13班を守り抜く。

 それこそが、エメルが自身に課したミッションでした。

 それは、滞りなく果たされました。

 

 これが、これこそが――エメルの、

 

 

「吼えるな、死にぞこないが」

 

 

 ――呆気ない幕切れでした。

 

 フォーマルハウトの爪に串刺しにされて、ついにエメルは崩れ落ちます。

 けれど、エメルは満足していました。笑みさえ浮かべてしまうほどに。

 

 

「そうか……。これが……私の意志……か。ようやく……私も――」

 

 

 そうして、この時代に存在していたエメルの人格は死に、それを引き継いだ新たな人格、エメルが生まれ落ちました。

 

 

***

 

 

 妹は、愛を体現する存在だと言われていました。文字通り、彼女は命を慈しむ気持ちを持っていました。しかし、愛というには、妹の感情はあまりにも希薄でした。

 

 姉と共に人類へ戦う術を授けていた妹は、ひょんなことから1人の青年と出会います。青年は妹を愛しました。妹は彼の言う感情を理解することができませんでしたが、青年から向けられる感情はとても心地よいものでした。

 青年は彼女のために“狩る者”の力を得ようとしました。ですが、彼が命を削ってまで手に入れた力は偽物でした。それでも青年は、愛する女性を救うために奔走しました。彼女が望む正義の味方を見つけ出し、彼女たちを妹へ引き合わせます。

 

 青年には時間がありませんでした。もうすぐ命の炎は燃え尽きようとしていました。

 青年には夢がありました。「愛する女を救う正義の味方になりたい」と願っていました。

 青年には覚悟がありました。「愛する女を救うために一切合切を捨てる」と決めていました。

 

 そうして――彼は、人類戦士になりました。ドラゴンクロニクルを体に組み込まれた人竜ですが、彼は人類の味方でした。故に、人類戦士と呼ばれました。

 妹は青年の辿る結末を見守っていました。金色の荒竜が吼える戦場に、人類戦士は命を燃やしながら乱入します。――すべては愛する女のために。

 

 

「――家畜が神に逆らっちゃいけねェって、誰が決めたァ!?」

 

 

 人類戦士になる前、青年の瞳は朝日を思わせるような東雲色でした。その瞳は、彼が率いたSKYと同じ空色です。燃え滾る意志は、人であった頃と何一つ変わりません。

 

 正義の味方になりたいと常々語っていた青年は、何も変わらずそこにいました。愛する女を守るために戦いました。

 愛する女の望んだ“正義の味方(ヒーロー)”を守り、希望を繋ぐために戦いました。

 黄金の真竜によって、彼は倒されます。宇宙(そら)から落下していく人類戦士は、誰ともなく問いました。

 

 

「なあ、アイテル。俺、正義の味方、なれただろ――」

 

 

 その問いに答える術を、妹は持っていませんでした。けれど、どうにかして応えたいと思いました。誰かから強制されたわけでもなく、己の意志でそうしたいと望みました。

 人竜となった青年は、幻影首都の奥で暴走を続けます。このままだと彼はいずれ竜へと至り、人類と地球を破壊してしまうでしょう。青年はそんなことを望んでいません。

 

 青年が竜になるのを拒んでいるのは、ひとえに愛する女の為でした。

 その愛を、いつの間にか、妹は痛いくらいに感じ取れるようになりました。

 彼を人として留めておくために、妹は“狩る者”たちに助力を頼みます。

 

 

「お願い。彼を眠らせてあげて――」

 

「――わかったよ、アイテル」

 

 

 “狩る者”たちは迷うこと無く頷いて、青年と対峙しました。彼女たちは青年と苛烈な戦いを繰り広げ、ボロボロになりながらも勝利しました。

 

 青年の身体は朽ちていきます。まるで花びらが風によって散らされていくかのように。自分が消えると言うのに、青年は満足げに笑っていました。何の悔いもないのだと、何も心配することなどないのだと言わんばかりに。

 その姿を、妹はじっと見つめていました。理由は分かりませんが、どうしても目を離すことができませんでした。目を離したくはありませんでした。青年の姿に釘付けになっていたのです。

 

 ぽたりと何かが落ちました。

 思わず手で拭いました。

 指先は、濡れていました。

 

 

「なぜ、わたしは泣いているの?」

 

 

 思わず、妹は問いました。己自身に問いかけても、答えはさっぱり出てきません。

 とめどなく溢れる涙を救いながら、首を傾げます。

 

 

『良かったじゃないか』

 

 

 どこからか、声がしました。姉の声でした。

 

 

『お前はようやく成れたんだよ。“それ”を体現する存在に』

 

 

 『私には成れなかったものだ』と言った姉の声は、どこか安心したような――嬉しそうな響きを宿していました。

 

 ここにきてようやく、ヒュプノスの巫女アイテルは“愛”を理解しました。タケハヤが戦っていた理由を、“愛”の意味を理解しました。そうして、自分もタケハヤを愛しているのだということを理解しました。

 涙が溢れました。先程はぽたぽたと落ちていた雫が、決壊したように流れ始めました。雪解けを迎えた小川のように、あるいは大雨があった後の激流のように、沢山沢山流れ始めました。

 

 愛する男の姿は花弁となって消えました。彼はきっと、最後まで笑っていたことでしょう。

 愛していました。愛されていました。アイテルにとって、タケハヤは一番大切な命でした。

 博愛の巫女が唯一愛した男でした。その愛の為なら、何をも投げ出せると思いました。

 

 

「ああ、ああ、あああ! タケハヤ、タケハヤ……!」

 

 

 “愛”を「識った」アイテルは、本当の意味で、愛を体現する存在となりました。タケハヤへの愛を糧にして、彼女は邁進してゆきました。

 

 

***

 

 

 そうして、彼女たちは2020年代の神話を駆け抜けました。

 それから5000年の時が流れました。

 第3真竜ニアラは、また地球へと来襲したのです。

 

 エメルは対竜研究を進め、真竜を討つための兵器――千人砲を造りました。千の命を弾丸として打ち出す兵器は、嘗てのエメルがギリギリで踏み止まることができていた一線を簡単に超えてしまいました。

 彼女を止めてくれる友人/仲間はもういません。エメルを一喝し、エメルの憎しみを理解し、エメルを仲間だと言ってくれた“狩る者”も、もうこの時代にはいません。それが余計に、エメルを狂気に走らせました。

 

 

「さあ、我が技術の結晶、千人砲よ。今こそ火を吹け。奴に鉄槌を下すのだ!!」

 

 

 千人砲の弾丸として名乗りを上げたのはルシェの民たちです。誇り高い彼らは、未来の礎のため、率先して死出の旅に出ました。彼らを率いたのは、当時のルシェ王その人です。

 しかし、多大な犠牲を払ったにもかかわらず、真竜ニアラは健在でした。エメルは2発目の発射を命じましたが、千人砲はまともに使えるような状態ではありません。

 エメルには憎しみしかありませんでした。憎悪だけがすべてでした。竜を殺し尽くすことが、何よりもの最優先事項でした。だから、それを指針にして邁進したのです。

 

 エメルは訴えました。真竜がどれ程憎い存在なのか、どれ程驚異的な存在なのか。

 如何なる犠牲を払ってでも――この惑星(ほし)に存在するすべての命を弾丸にしてでも、真竜を倒さねばならないのだと。

 

 

「人類すべてを犠牲にして勝利したとしても、それは勝利とは呼べない!」

 

「知った口を! 貴様に何が分かる! 私の星は、あの真竜めに喰われたのだぞ。大地も、命も、すべてをだ! ――許せるものか、許せるものか!!」

 

「エメルさま……」

 

 

 エメルの姿を見た人類は、あまりの憎悪と狂気に恐怖を抱きました。嘗ての“狩る者”と違い、エメルが抱える憎しみの意味を理解しようとしてくれる者はいませんでした。

 

 

「エメル学士長。貴女の権限をすべて剥奪の上、軟禁させてもらいます」

 

「貴様、私を裏切るのか!?」

 

「逆です、学士長。私は人類を裏切れない。全人類の命と引き換えの勝利を望む者はこの場にはいない」

 

「彼の言う通りだ、エメル学士長」

 

 

 部下の言葉に同意したのは、エデンの“狩る者”でした。彼らを率いていたのは、青い髪の魔術師(メイジ)です。部下と同じく、聡明で真面目な青年でした。

 青年は、カザンの名門貴族の跡取り候補でした。見分を広げるという名目で、プレロマに遊学していたこともあります。ハントマンになったのも見分を広めるためでした。

 彼の隣には、アイゼン皇国から流れてきたサムライの少女が寄り添っていました。寡黙で冷静沈着ではありますが、強い意志と優しさを秘めた武人です。

 

 

「貴女の境遇には同情する。だが、自分の星が滅んだからと言って、他の星を食い潰す資格はないだろう。貴女の復讐のために、全人類の命を生贄にさせるわけにはいかないんだ」

 

「人類は……私たちは、貴女の復讐や代理戦争のために使われる駒ではありません。みんな、今を必死に生きるために戦っているのだから」

 

 

 今代の“人類の守り手”たちの表情は厳しいものでした。その眼差しは、いつか見た“狩る者”と同じ意志が宿っています。

 彼らの甘さを咎め、一喝しようとしたエメルは息を飲みました。文句の言葉も、罵倒の言葉も、紡がれることはありません。

 

 だから、エメルは、彼らの言葉を受け入れました。全権を奪われ、拘束されても、抵抗することなく。

 

 そして――トゥキオンの情報を求めて来た“狩る者”へ、嘗ての英知を手にするための手がかりを手渡しました。エメルにとっては忌まわしいモノでしたが、それに竜殲滅の可能性があるのなら懸けるべきだと思ったのです。

 同時に、エメルは憂いました。自分が真竜の憎しみに執着したように、妹のアイテルはタケハヤへの愛に縛られています。“狩る者”が可能性を手にするということは、タケハヤが死を迎えることと同義でした。

 何故ならば、ドラゴンクロニクルはタケハヤと融合しています。ドラゴンクロニクルの恩恵を受けて、タケハヤは5000年間生き続けました。ドラゴンクロニクルを失ったタケハヤがどうなるかなんて、考えるまでもありません。

 

 

「嫌! タケハヤ、死なないで! 私を置いて逝かないで!!」

 

「アイテル。お前と一緒にいられて、俺は幸せだったよ。……ありがとう」

 

 

 エメルの予想した通り、“狩る者”との戦いに敗れ、ドラゴンクロニクルを引き剝がされたタケハヤは死を迎えます。

 アイテルは泣きながら愛する男へ縋ります。タケハヤは満足げに笑った後、“狩る者”たちにすべてを託して息を引き取りました。

 

 ヘイズを封印することで竜殺剣を手にしたハントマンは、それを携えてニアラに挑みました。苛烈な戦いの後、“狩る者”は竜殺剣でニアラを打ち砕きます。

 

 こうして、この時代の戦いは幕を下ろしました。

 それから200年の歳月が流れ――。

 

 

◆◆◆

 

 

「――とまあ、まずはここまでだな」

 

 

 エメルはそこで一端言葉を切った。重苦しい沈黙など気にすること無く、彼女は晴れやかに笑っている。

 

 『一色彩羽(かのじょ)』がこの世から去った後、エメルとアイテルは戦いに備えて準備を続けていた。文明が巡ろうとも、神話すら語り継がれなくなろうとも、歩みを止めることはなかった。真竜が必ず現れると確証を持っていたからである。

 理解者の居ない世界で、あるいは愛する人を失う可能性に怯える世界で、この姉妹はどんな気持ちで歩いてきたのだろう。憎悪と愛情だけを糧として生きる彼女たちの旅路を想うと、胸が痛くて堪らなかった。

 

 

「“ヒトならざる者故に、ヒトの在り方に惹かれる”か」

 

「ゲーティア?」

 

「お前は竜への憎悪故に、人類の在り方に竜を滅ぼす可能性を見出した。私は人への憐憫故に、人類が辿る絶対的な滅びに怒りを抱いた。……方向性は違うが、何故だろうな。他人事には思えない」

 

 

 そう呟いたゲーティアは、ヒュプノスの巫女たちに強い既視感を抱いている様子だった。

 人間の持ちうる感情の1つに執着し、その一面だけを見て行動を起こした者としての共通点があるためだろう。

 エメルは目を瞬かせた後、納得した様子で頷いた。赤い瞳はどこまでも優しい。

 

 

「成程な。お前もまた、『一色彩羽(かのじょ)』との交流によって意志を得た身か」

 

「交流、か。当時の私は真面目に殺し合いをしていたつもりなのだが、アレもある意味では交流と言えるのか?」

 

「認めないぞ。ボクは断じて、アレを交流だとは認めないぞ!」

 

 

 真面目な顔をして当時のこと――人理焼却の黒幕として、人類最後のマスターである彩羽と死闘を繰り広げた――を考察するゲーティアに対し、ロマニが険しい顔で否定した。

 

 否定はしない。確かに、冠位神殿に至るまでの旅路とソロモンが消滅覚悟の宝具解放を行うまで、彩羽とゲーティアは殺し合いの相手だった。

 彩羽とゲーティアの関係性が変わったのは、人理焼却が完全否定された後。崩れゆく神殿で、血みどろの殴り合いを繰り広げたときだろう。

 

 完全敗北したことは認める。けれど、最後の勝利だけは渡せない。すべてが無意味と化した今では、この行動すら無意味だろう。それでも、それでも――。

 一色彩羽の価値を焼却するのだと語ったゲーティアの眼差しに、強い意地を秘めた眼差しに、無茶苦茶な荒々しさに、彩羽は確かにエメルの面影を見た。

 ヒトを理解し、意志を持ち、意地を以てして立ち上がることを選んだその姿は、確かにヒトであった。まごうこと無きヒトであった。

 

 

(あのとき確かに、わたしとゲーティアは分かり合えたんだよなあ)

 

「彩羽、我が運命よ。キミに1つ訪ねたい」

 

 

 彩羽が当時の懐かしさに浸っていたとき、何を思ったのか、ゲーティアはどこか拗ねた眼差しを向けてきた。

 例えるなら、親に説教された子どもが「親は自分のことが嫌いなんだ」と認識したかのような。

 

 

「キミが私の我儘に付き合ってくれたのも、『共に生きよう、夢を見よう』と言って私を助けようとしてくれたのも、『一色彩羽(かのじょ)』の記憶の中にいたヒュプノスの巫女たちと私を重ねたためか?」

 

「『一色彩羽(かのじょ)』の記憶から、貴方の姿とエメルが重なったというのも理由の1つかもしれないけど、決定打としては弱いかな。そうしたいと思ったのは、私自身の意志だよ」

 

「キミ自身の意志、か。……そうか」

 

 

 彩羽の答えに満足したのだろう。ゲーティアはホッとしたように息を吐き、口元を綻ばせる。

 

 肉体年齢は20代後半~30代。3000年の時を生きてきたけれど、それは使い魔としての年齢だ。人としての人生はまだ2~3カ月にも満たない。元々は“彩羽との殴り合い”が終わった時点で、彼の人生は幕を閉じたはずだった。結絆が()()()()()()()()()()()()()()()()

 期せずして手にした人生を、ゲーティアはゲーティアなりに謳歌している。時におっかなびっくり気味に挑戦し、時に興味津々で試して、時には(良くも悪くも)笑みすら浮かべて行動するようになった。良いことだと彩羽は思う。

 

 

「私もです。私も先輩からたくさんのものを貰いました! 勇気も、決意も、全部彩羽先輩から教わったものです」

 

「そのドヤ顔をやめるんだゲーティア。彩羽ちゃんからたくさんのものを貰ったのはお前だけじゃあないんだからな」

 

 

 自分も負けてはいないのだと言わんばかりに、マシュとロマニが名乗りを上げた。前者は笑顔で、後者は拗ねたように口元を尖らせる。

 マシュに対しては同意の意を込めて頷いたゲーティアであるが、ロマニに対しては心底忌々し気な眼差しを向けた。

 まるで子供のようなやり取りだ。エメルとアイテルは口元を抑えて噴き出す。余程ツボに入ったのだろう。彼女たちはくすくすと笑っていた。

 

 

「ははは。どこにいても、何をしていても、『一色彩羽(おまえ)』は『一色彩羽(おまえ)』なんだな」

 

「変わらないのね、貴女は」

 

「えへへ。まあ、それがわたしの在り方だからね」

 

 

 なんだか照れ臭くなって、彩羽は苦笑した。

 雑談も一区切りし、歩き出す。第4真竜の待つ奥地へと。

 

 白亜の学術都市――あるいは、ヒュプノスとエデンの叡智を集めた結晶――を照らしていた朝日は、街の最奥に到達する頃には沈みかかっていた。転がるように発展してきたであろうプレロマの街並みを眺めながら、彩羽たちは足を進める。

 

 辿り着いたのは、街の最奥にある巨大な建造物だった。エメル曰く、ここがプレロマの総本山らしい。

 この建物はエデン随一の研究機関であり、魔術師たちにとっての時計塔と言える施設だという。

 勝手知ったる己の街と言わんばかりに、エメルとアイテルは施設内を進んでいく。彼女たちの背中を、彩羽たちは追いかけた。

 

 

「生粋の魔術師がこの書物を見たら、きっと卒倒するだろうなあ」

 

 

 様々な専門書が詰め込まれた本棚を横目に見つつ、ロマニはぼそりと呟いた。魔術協会のお偉いさんどもを一手に引き受け、対峙するのはカルデアの暫定最高責任者であるロマニの役目である。魔術師という存在の在り方を熟知している彼には、その光景がリアリティを持って浮かんでいることだろう。

 もしもこの場に生粋の魔術師――例としては、今は亡きオルガマリー・アニムスフィア――がいたら、どのような反応を示したことか。彩羽の夢幻召喚(インストール)に発狂し、彩羽の宝具――固有結界に発狂した彼女であれば、無言のまま卒倒してもおかしくなさそうである。

 

 

『別惑星の文明は興味深いけど、今回の目的は違うからね。また機会があったら、是非とも意見交換願いたいな!』

 

「……そうだな。ダ・ヴィンチ、お前が私たちと同じ時代にいたら、きっと語り合えたろう。……少し、惜しかったな」

 

「いいえ、そんなことはないわ。今こうして出会えたんだもの。感謝すべきよ」

 

 

 しみじみと言葉を交わしていたダ・ヴィンチとエメルに、アイテルは微笑んだ。彼女の言うとおり、自分たちは本来顔を合わせるはずのなかった存在同士だ。

 どのような形であっても、今ここで出会えたことこそ奇跡に値する。アイテルの言葉に触発されたのか、エメルとダ・ヴィンチは静かに微笑み合った。

 階段を上り終えた先には、大きな椅子。恐らく、プレロマでも一番偉い人間が座るべき場所であろう。彩羽はエメルを見た。エメルは頷く。

 

 

「もう暫く、付き合ってもらうぞ。……何、心配するな。()4()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 怒りも憎しみもない、晴れやかな笑みを浮かべてエメルは彩羽たちを先導する。彼女は階段を下っていった。その背中を追いかけ――階段を降りた先に広がった光景に、仲間たちは絶句した。

 

 

「街が……!」

 

「……これは、惨いな」

 

 

 マシュが口元を手で覆った。ゲーティアも絞り出すようにして呟く。

 眼前に広がるのは、文字通りの“惨状”であった。

 

 美しい白亜の学術都市は無残に破壊されていた。民家も施設も分け隔てなく倒壊し、瓦礫が積み上がり、巨大な樹木が好き放題に伸びて街を分断する。竜によって造り上げられた瓦礫の迷路だ。

 

 気を抜けばすぐに迷子になってしまいそうな中でも、エメルとアイテルは迷うことなく彩羽たちを案内していく。

 迷いなく進む2人の横顔は凛としていて、赤い双瞼は遠くを――第4真竜の元へ至るまでの道筋を見据えていた。

 

 




戦闘シーンまで辿り着けませんでした。申し訳ありません。自分でもここまで長くなってしまうとは思いませんでした。同時に、それ程エメルとアイテルに入れ込んでいたのだと再認識しました。でも、まさかここまでだとは思ってなかったなあ。
今回も『命にふさわしい』(歌:amazarashi)を聴きながら書いてました。最初は「結絆がクソチート宝具を使うに至るまでの旅路(ナナドラⅢ)」のイメージソングとして考えていたのですが、気づいたら多くの面子――受付嬢の双子、人類統合者候補に歌詞が刺さる刺さる。
今となってはヒュプノスの巫女姉妹にも刺さるなと思いました。最近では『NieR:Automata』(SQUARE ENIX)のED曲『壊レタ世界ノ歌』も合うなと思うように。第4真竜の悲劇を考えると、意志など持たなければよかったのか。でも、彼女たちが意志を抱かなければ、人類は生き残れなかった……皮肉なものです。本当に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。