ありきたりな脳髄よ、今宵の月と踊れ   作:フロワ

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さようなら、日常。
さようなら、毎日。
初めまして、非日常。
私はきっと、そちら側。


ありきたりな脳髄よ、今宵の月と踊れ
〜発〜


「『魔術師メリー伝説』ってなんじゃこりゃ!」

 女子高生三人組が書店の一角で騒いでいる。

そんな状況に不快感を感じる人が店内にいないことを願おう。

そんなことより、あの本、なんだか……。

 

「あれじゃない、メリーさんの電話のパロじゃないの?」

「それはまたちょっと違う。」

「今時こんな話あるんだね〜。あれ、早苗は?」

「早苗何でそんなとこで止まってんの?早く帰ろうよ〜。」

「えっ、あぁそうだね。」

 

 いけない、ぼんやりしてしまっていた。

「どうしてあの本見てたの?」

「うーん?なんか気になっちゃって。」

「神社の娘はやっぱりそういうの好きなのかねぇ。」

「それはたぶん関係ない。」

「わかって言ってんのよ。」

「それはどうかしら。」

 

 笑いながら私の両横を歩く二人。

私、東風谷早苗が最も好きな時間だ。

人より少し年を取っているとよく言われる私の性格。

それは強く平凡を望んでいて、こんな何も起こらない日々が私は最高に好きだ。

ていうか誰だってそうでしょ?

そうでないのは血の気が多い若者だけだと個人的に思っている。

そういうところが年を取っていると言われるのかな。

 

「じゃあね。」

「「バイバイ早苗〜。」」

 いつもの場所で二人と別れ、少し寂しくなる。

これもまた、いつものことで。

寂しいけれど、愛おしい。

 

 ほどなくして見えてきた住宅街に似合わない赤い鳥居を潜るとそこが私の家だ。

「ただいま。」

「おかえり早苗。

 今日テスト帰ってきたんでしょ?

 今見せてよ。」

「うんわかった。」

 正直何の意味もないと思っている再生紙をクリアファイルから取り出して、手渡す。

私は人よりちょっと優秀だから怒られたりはしないが、学校に通い始めて8年、未だにその価値がわからないテストという行事は嫌いだ。

「相変わらずね。

 お母さん、早苗が神社を継いでくれるか心配だわ〜。」

「大丈夫よ、ちゃんと継ぐわ。」

「むしろ継がないでほしいって意味よ、優秀なんだから。」

「あーはいはいわかったわよ。

 宿題あるから家入るね。」

「晩御飯はオムライスだから〜。」

 母は私に神社を継ぐなと言う。

テストの度に必ずだ。

私は別にOLになりたいわけではないから神社の巫女くらいいくらでも継ぐのに。

むしろ継がせてほしい。

 

「終わった〜。」

 帰宅から40分ほど経ち、私は宿題から解放された。

 

ガタンッ

 

 突然私の後ろから大きな音がなり、振り返ると、風によってトロフィーが倒されている。

「風強いな〜。」

 倒されたトロフィーを拾い上げ、ふと窓の外を見る。

すると、奇妙なものが私の目に見えた。

鳥居の前に少女が立っている姿だ。

その少女の格好はただのセーラー服なので、そこが奇妙なわけではない。

奇妙なのは少女の髪の色だ。

その少女は美しいエメラルドグリーンの髪を持っているのだ。

「なにあの髪……。」

私がそう呟くと、少女は私に向けて手を動かした。

まるで[こっちに来て。]とでも言うように。

それを見た私は、なぜか部屋を飛び出した。

「あの娘、知ってる……!」

階段を駆け下り、ドアを荒っぽく閉める。

「ちょっと早苗、どこ行くの?」

「いや、その……。すぐ帰ってくるから!」

「そう。晩御飯までに帰ってくるのよ〜。」

「わかった!」

 そう言えば、お母さんはあの少女の姿を見ていないのだろうか。

聞けばよかったと思いながら、鳥居を出る。

角に、あの少女の姿。

こちらに向かって手招きをし、角を曲がる。

あの角は行き止まりだったはず!

 

「待って!」

 角を曲がった先には誰もいない。

誰もいないが、さっきの少女が誰なのか私にはわかっていた。

 

「あの娘、私だ。」

 

 日もすっかり暮れた路地裏で、私は固まった。

直感が言っている。

私の日常は、もう終わりだと。




初めましての人は初めまして、いつも読んでくれている人はこんにちは。
読んでくださってありがとうございます。
今回は1日で更新できましたが、更新ペースはどんどん遅くなっていくと思います。
悪しからず。
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