視えないものだって視えていた。
視たくなくても。
でも、それでも。
私を突き放さないでよ。
物心ついた頃から違和感があった。
まるで、生まれてくる世界を間違えてしまったかのような。
どうして自分がここにいるのかわからない。
今も、昔も。
緑髪の少女、否、緑髪の私を見た時、その違和感は私の脳髄を埋め尽くした。
私はきっと、もうこの場所にいられない。
「ただいま。」
「おかえり、早苗。
すごいね〜、タイミングぴったり!
ちょうど晩御飯の用意が出来たところよ。」
この様子だと、母はあの奇妙な『私』の姿を見ていないのだろう。
「悪いんだけど、食欲ないから御飯いらない。」
「あらそう?
また何か変なものでも見た?」
…………。
「どうして?」
「見たのね。」
お母さんはいつもはぼんやりしているが、こういうところがある。
妙に鋭い。
ノーモーションで核心に触れてくる。
そんな時が。
「まぁ、そんなところ……。」
「別に気にしなくたっていいと思うよ〜。
誰にだって一つくらい変わったことはあるんだし。」
「そうだけど……。」
見えないものが見えるというのは、ちょっと……。
「あなたにどれだけ不思議なことが起きても、今のあなたはこちら側よ。
それは確かでしょ?」
…………。
本当に、うちのお母さんは妙に鋭い。
私はこちら側。
そう思える内はそう思ったほうがいい。
嫌に感情的な判断をして、私はそう思うことにした。
「さぁ、御飯食べましょ〜。」
「うん。」
その日のオムライスは何だか味がしなかった。
「おはよう。」
お母さんは起きていない。
お父さんも。
二人とももう社務所で祭祀の準備をしているんだろう。
トースターにパンを入れ、3分に設定する。
チン
「いただきます。」
マーマレードジャムを塗ったパンを口に運ぶ。
よかった。
「『日常』だ……。」
思わず、安堵の言葉が口から出る。
「行ってきます。」
鳥居を出て路地を歩く。
昨日、私が走った方向とは逆に向かう。
いつもの分かれ道。
友人たちを待つ。
五分ほど経って、二人の女子高生がこちらに歩いてきた。
「昨日のあの番組、超おもしろかったよね〜!」
「とくにあの、たらこのところ!」
「わかる〜。」
昨日放送された番組の話をしてるようだ。
声が大きいよ。
いつものことだけど。
私も合流しよう。
「おはよう!」
「その後のドラマも見た?」
「見た見た〜!超いいよね〜。」
「私なんて、あのドラマのおかげで宿題できなかったよ〜。」
「え、それやばくな〜い?」
「超やばい(笑)
谷先ぜぇったい怒るもん。」
「しーらない!」
「えー、ひどーい!」
アハハハハハ
……あれ?
どうして?
私はここにいるのに。
「ねぇ、おはようってば!」
私が叫んでも、二人は無視して通学路を行く。
「なんで……。」
わかってる。
新手のイジメなんかじゃない。
私はあっち側に引っ張られているのだ
着実に向こうに近づいている。
「早苗、大丈夫?」
「お母さん……。」
本当にこの人は、妙に鋭い。
「休んでもいいよ。」
「行ってもきっと、誰も私が見えないよ。」
「そうかもね。」
「そんなはっきり言わないでよ。」
「一緒に帰ろう。」
…………。
「うん。」
他人にこの感覚はきっとわからない。
でも、私にはわかる。
そしてきっと、お母さんにも。
他人にこの感覚はきっとわからない。
今にもあっち側に持っていかれそうな、この感覚は。
それを私たち親子は無意識に理解していた。
初めての人も初めてじゃない人もお久しぶりです。
今のところわけがわからない小説ですが、
わけがわかるようになってくる予定ですので、
気長にお待ちください。
不定期更新ですので、悪しからず。