魔王軍の幹部であるベルディアが去ってから一週間ぐらい経った昼頃に無苓はギルドで一冊の古ぼけた本を片手に読んでいた。
「何を読んでいるんですか?」
クエストに行かず基本的に暇な無苓達。
セルティは実家で剣を振って、アリッサは教会で女神エリスに祈りを捧げている二人と違って基本的にすることのない無苓とゆんゆんは今日一日も適当に過ごしていた。
「今、ベルディアさんが住んでいる廃城の資料ですよ。どうやらあそこは以前は貴族が住んでいたものだったようです」
「そうなんですか……でも、どうしてそれを?」
「万が一にベルディアさんと戦うとなればこの周辺か城周辺になります。知識を一つ持っているいないかで戦況が変わる可能性もありますからね」
以前はなんとかやり過ごすことが出来た無苓だが、次もやり過ごせるという可能性はないと考えて次の手を考えなければならない。
備えあれば患いなしというやつだ。
「………あの時のように無茶はしないでくださいね」
「その時はゆんゆんが私を守ってください」
めぐみんに意識を向けないように挑発して自分に意識を向けさせた。
結果的にはめぐみんは庇ってくれたことに感謝されてゆんゆんからは無茶をしないでと怒られた。
「当り前です!私達は友達でパーティーメンバーなんですから!」
「期待してますよ」
胸を張るゆんゆんに微笑みを浮かばせる無苓。
「実はもう一つ面白いことがわかったんですよ。どうやらあそこに住んでいた貴族は冒険者が使っていた武器、防具、杖などを収集する趣味があったそうですよ」
微笑みを浮かばせながら告げる無苓にゆんゆんは短い付き合いながらもその微笑みが何を告げているのかある程度察してしまった。
「あ、あの……もしかしてですけど、あの城に侵入するなんてことしませんよね?だって魔王軍の幹部が住んでいますし……行きませよね?」
「ゆんゆんはこの前『ライト・オブ・リフレクション』という上級魔法を取得してましたよね?」
光を屈折させて姿を消す魔法。
術者の周囲に追従式の結界を張り、その範囲は半径数メートル。
以前、ゆんゆんがレベルを上げて取得した魔法。
無苓は当然行くつもりである。
せっかく盗賊という職業についたからには盗賊らしいことをしなければ勿体ない。
更に言えば今回行くのは既に主がいない廃城で魔王軍の幹部であるベルディアがいる。
敵勢力に武具の強化を阻止するという大義名分がある。
しかし、無苓一人だけで行くのは少々厳しい。
その為にゆんゆんも連れて行こうと思ったがゆんゆん本人は凄く嫌そうだった。
だからそんなゆんゆんに無苓は魔法の言葉を送る。
「信頼できる貴女にしか頼めないのです」
「任せてください!必ずムレイさんの信頼に応えてみせます!」
無苓の魔法の言葉にゆんゆんもすっかり行く気になってくれた。
「ふ~ん、面白いことを話しているね?」
そんな二人の背後から声をかけてきたのは無苓に盗賊職を進めてくれたクリスは微笑みを浮かべていた。
微笑みを浮かべるクリスに無苓も微笑みで返して二人は手を握り合う。
「よろしくお願いしますね、クリスさん」
「こっちこそ、よろしくね」
二人の盗賊が手を組んだ。
その日の深夜の時間帯に三人はベルディアが住んでいる廃城付近まで足を運んでいたが門を警備しているアンデットの門番を見つけて隠れている。
「ゆんゆん」
「はい、『ライト・オブ・リフレクション』」
ゆんゆんを中心に光を屈折させて姿を消すと結界内にいる無苓達も結界外から見たら姿が見えない。
そこに無苓達は潜伏スキルも使用してあっさりと門番の横を通り過ぎて城壁の前まで足を進めることができた。
「では」
《物質創造》で城壁の縁まで届く梯子を創り出す。
「おわぁ、便利。でも、これだと足が残るんじゃない?」
「大丈夫ですよ、消すことも可能ですから」
《物質創造》で創り上げたものは無苓の意志一つで形も残さず消滅することが出来る。
あくまでイメージした物質を創り出す特典で消すイメージをすればその物質を還元することも可能。
「ゆんゆん、お先にどうぞ」
「あ、はい」
梯子に手をかけて登ろうとする時、クリスが何かに気付き慌てて止めに入った。
「ちょっと待って!そのまま登ったらパンツが……ッ!」
「っ!?」
その言葉に顔を赤くして慌ててスカートを押さえるゆんゆんはこの場にいる異性――無苓に視線を向けると無苓は残念そうにしていた。
「………見ましたか?」
「残念ながら………はいはい、私が先に登りますよ」
二人の視線に負けて無苓が先頭で登って無事に城壁の縁まで到着した三人はそのまま城の内部に侵入する。
「思っていたよりアンデットの数が少ないですね」
内部に侵入しても出会うアンデットは見渡しても数体程度。
「欠片も残らず消滅しちゃえばいいのにね」
「え?」
「ん?」
ゆんゆん、無苓はアンデットに対するクリスの毒舌に首を傾げるが今は気にせず前へ進む。
「ムレイ、こっちだよね?」
「ええ、この城の図面は頭に入っています。宝感知に反応しているこの道を進めば間違いありません」
盗賊スキルである宝感知で目的の場所に進む三人。
無苓達の目的はこの城に住んでいた領主が収集した冒険者達の武具、もしくはお宝。
ここに来るまではもしかしたら既に略奪されているかもという考えもあったが宝感知に反応している以上少なくとも売れば金になるものは存在している。
三人はそのまま地下へ侵入して一つの扉の前に足を止める。
「宝物庫……ここだね」
開錠スキルを使って宝物庫の扉を開けるクリスは一度振り返って無苓達と目を合わせて頷くと扉を開ける。
だけど、そこには何もなかった。
「あ、あれ……?」
首を傾げるクリス。
宝感知は間違いなくこの場所を指している。
だけど部屋にあるのはガラクタのようなものばかりで宝らしい宝はなかった。
「おかしいな……?確かに反応はあるのに……」
「落ち着いてください。確かにここにありますから」
困惑するクリスに無苓は周囲の石壁を軽く叩いていくと一つだけ他と違う音がする石壁を見つけるとその壁周辺を調べて一つだけ他とは微妙に色が違う石壁を押すと石壁は左右に開いて道が出来た。
「おお、隠し通路」
「よく見つけれましたね、ムレイさん」
「いえいえ、たまたまです」
三人は隠し通路を進むと通路の先にある扉を手にかけて開けるとそこには数多くの武具や杖だけではなく金銀財宝が眠っていた。
「うわぁ……」
その光景に驚きの声を上げるゆんゆん。
無苓も内心感慨深くなっているとクリスが二人に忠告する。
「二人とも、一応言っとくけど盗んだお宝は全額寄付するんだからね?私利私欲の為に盗むを働くのはダメだからね?」
「はいはい、振りですね、振り。わかっていますよ。あ、ゆんゆん、この杖を見てください、本で見たことしかない希少な鉱石がついていますよ」
「振りじゃないから!盗んだお宝は貧しい子供達に寄付するからね」
お宝漁りに夢中になる無苓達を窘めるクリス。
もちろん無苓達もそれはわかっているし、クリスの言葉通りに従うつもりでいる。
有名な冒険者が使っていたであろう武器、防具、杖は埃が被ってはいるが、どれも芸術品と思わせる程の価値がある。
「しかし、これほどのものが揃っているのにどうしてベルディアさんはここに足を運ばなかったんでしょうか?」
無苓達が足を踏み入れるまで誰かが来た痕跡はなかった。
「あの、それはめぐみんのせいだと思いますよ。爆裂魔法で城が崩壊したら」
「……地下にいたら生き埋めにされてしまいますね」
よくよく考えてみたらベルディアがこの城に住み始めた頃からめぐみんは爆裂魔法を放っていた。
いつくるかわからない爆裂魔法でもしも地下にいる時に爆裂魔法を浴びて城が崩壊したら確実に生き埋めにされてしまう。
納得しながら名剣だと思われる剣を手に持つ不意に無苓の髪がなびく。
「風……?」
地下にいるはずなのに奥から風を感じた無苓は風を感じる方に足を運ぶと一本の剣が飾られていた。
刀身から柄まで銀色の輝きを放つ剣で刀身と握りの中心には紅玉が埋め込まれている。
不思議と目が離せられないその剣に手を伸ばそうとすると紅玉が光り輝き出す。
「ちょっ!?なにこれ!?」
驚きの声を上げるクリスにゆんゆんは杖を手に持ち警戒していると紅玉から小さな小人が姿を現した。
いや、小人というより妖精、精霊を思わせるような雰囲気を醸し出している。
『初めまして、私はエアリエル。風の精霊よ』
「神器………ッ!?」
無苓や和真のような日本から来た転生者がこの世界に持って行ける特典をこの世界では神器と呼ばれているが、神器は与えられた者にしか本来の力は発揮できない。
目の前にいる精霊、エアリエルは神器なのかもしれないとクリスは踏んだ。
しかしそれはエアリエルが否定した。
『そんな大層な代物じゃないわ。私はこの剣の宿主と契約して力を貸していただけだからね。久しぶりに人の気配がいたからお喋りしたくなって貴方達を呼んだの』
「精霊は人が無意識に思い描く思念を受け、その姿を実体化すると聞きますがその姿は前の宿主の影響ですか?いい趣味していますね」
手のひらサイズの美少女精霊エアリエルを見て感慨深く頷く。
『これは貴方が思い描いた姿よ?』
クスクスと笑いながら言うエアリエルに無苓の後ろにいる二人の視線が冷たく感じた。
なるほど、道理で自分好みだと納得しているとエアリエルは無苓に問いかける。
『貴方の名前は?』
「刈萱無苓ですよ、エアリエルさん」
『ムレイね、私もエアリエルでいいわ。それじゃムレイ―――――私が欲しい?』
「欲しいですよ」
一瞬の迷いもなく即答する無苓に一瞬驚きながらも笑みを浮かべるエアリエル。
『率直ね、それじゃ何の為に私が欲しいの?地位?名誉?お金?勝利?』
「そんなものに興味はありません。私は貴女自身、いえ、貴女の全てが欲しい」
『……どうして?』
「友達を守る為に、もう二度と後悔をしない為に貴女の全てが欲しい………という建前では駄目ですか?正直理由なんてものはありません。欲しいと聞かれたから欲しいと答えただけですので」
困ったように頬を掻きながら話す無苓にエアリエルは笑みを浮かばせていた。
今の言葉の後半は嘘だと見抜いていたからだ。
後半は前半で告げた言葉を誤魔化す為の照れ隠し。
『私はもう何十年もここにいて退屈していたの。私の力を使う対価は私を楽しませることでいいわ』
「安心してください。私のパーティーメンバーは個性豊かな人達ばかりですよ。そうですよね、ゆんゆん」
「え、ええ!?わ、私ってそんなに個性豊かですか!?」
ボッチという個性を持っているとは言わないでおこう。
今のやり取りにエアリエルは表情から笑みを漏らして告げる。
『今日から貴方が私の新しい契約者よ、ムレイ』
「ええ、宜しくお願い致します」
紅玉も戻っていくエアリエルに無苓は今度こそ剣を手に持つ。
「精霊剣エアリエル。頼りにしていますよ」
『任せなさい』
思わぬ収穫を手に入れた無苓。
その後はいくつかの宝を盗んで外に出ると無苓は剣を抜く。
「エアリエル、飛翔の力を私達に」
風が無苓達に纏わりつくと宙に浮き、空を駆ける。
風の力で空を飛びながら無苓達はアクセルに帰還する。
「白……でしたね」
何かまでは言わない。