ベルディアの城に侵入して手に入れた精霊剣エアリエル。
無苓はエアリエルを同じパーティーメンバーであるセルティとアリッサに紹介した後にセルティに頼んで剣の扱いを教わって貰っていた。
「う~ん、筋は悪くはない……だが、実戦にはまだ早いな………」
「まぁ、そうでしょうね……」
一通りの基礎を教わってセルティが無苓の今の実力の程度をバツ悪そうに言うと無苓自身もそれに納得する。
この世界に来る前は一応、護身術程度で武術は身に着けていたが剣術に関しては空っきりと言ってもいい。
剣よりもペンの方が圧倒的に持つことが多かった。
「で、でも、鍛えて行けば今より扱えるようになれますよ!」
「そ、そうですよ!私なんかよりずっといいです!………ごめんなさい、私なんかと比較してしまってちょっとモンスターのお腹の中で反省して来ます」
「行かないでくださいね?」
ネガティブ思考持ちのアリッサはどこかに行こうとするがその前にゆんゆんが止めに入る。
『アハハ、本当に個性豊かね』
剣の紅玉からエアリエルが笑いながら姿を現す。
『ムレイは盗賊でしょ?どうして剣技を鍛えようとするの?』
「一応は知っておいた方が良いと思いまして。いざ、接近されて剣が使えませんでしたでは話になりません。それに、せっかくエアリエルが私を選んで下さったのです。恥ずかしい真似は出来ませんよ」
『おおっ、嬉しいこと言ってくれるね!狙ってる?』
「おや?わかります?」
微笑み合う二人。
エアリエルは気分を良くしたのか自身の力を無苓に語る。
『私の力は風。剣に風を纏わせるイメージをしてみて』
「はい」
目を閉じて出来る限り鮮明にイメージを固めていくと刀身から風が発生して剣に纏わりつく。
『そのまま剣を下から上に振り上げる時に同時に風を放出させる』
「はい」
言われた通りに剣を下から上に振り上げて風を放出させる。
すると―――。
「「きゃあああああああああああああああッッ!!」」
ゆんゆんとアリッサのスカートが捲れて下着が露になった。
地面に座り込む二人は涙目になって無苓達を見るとエアリエルは悪戯が成功した子供のように笑っていた。
『どう?』
「完璧です」
「セクハラだぞ………?」
笑うエアリエルに親指を立てる無苓にセルティは呆れるように告げる。
『でも、一発で成功できるとは思わなかったわ。前の宿主でも何回か練習して風を使えたのに。ムレイは魔法使い職の才能があるんじゃない?アークウィザードに転職したら?』
「ダ、ダメです!私がいますからアークウィザードに転職しないでください!!二人分頑張りますから!!」
転職の言葉にゆんゆんが真っ先に否定の言葉を上げる。
無苓がアークウィザードに転職したら自分の存在価値がなくなってしまい、パーティーから追い出されることに怯えるゆんゆんに無苓は苦笑を浮かべる。
「転職はしませんよ、私達にはもう優秀なアークウィザードがいますから」
その言葉にセルティもアリッサも力強く頷いた。
「だから安心して二人分働いてくださいね、ゆんゆん」
「おい」
さり気なく倍で働かせようとする無苓にセルティは思わず声を出した。
『ふふ、いいパーティメンバーだね。全員が上級職のパーティーっていうのも珍しいし』
「私たち以外にもいますけどね…………そういえば和真さん達は何をしているのでしょうか?折角ですし和真さん達にもエアリエルを紹介しておきましょう」
「それはいいな。私も最近はダクネスと話をしていないし会っておきたい」
「わ、私もめぐみんに勝負をしないと」
「皆さんに合わせます……」
満場一致によって無苓達はギルドに足を運ぶとギルドに向かう途中で和真達と出会った。
ただし檻の中にアクアを閉じ込めた状態で。
「………檻の女神に転職されました?」
「違うわよ!!」
思わずそう尋ねてしまった無苓に檻の中にいるアクアが否定した。
「どうしたんですか?あれ?」
檻に閉じ込められているアクアを指しながら和真に尋ねる。
どうやら湖の浄化を安全で行わせる為にモンスター捕獲用の檻の中にアクアを入れてそのままアクアを湖につけて浄化させるという作戦らしい。
その説明を聞いたゆんゆん達は少し顔を引きつった。
「お前達は最近クエストに行ってないみたいだけど大丈夫なのか?」
「ええ、金には困っていませんから。それに私は収入もありますし」
「………流石はチート持ち。羨ましいことで」
恨めしそうな目で見てくる和真に苦笑を浮かべて誤魔化す。
「じゃあさ、暇なら付き合ってくれよ。万が一にアクアに何かあったら俺達だけで対処できねえし」
「ええ、構いませんよ。時間が掛かるようですし、少し待っていてください」
ゆんゆん達も同意して無苓達は和真達のクエストに付き合うことになった。
その道中でめぐみんが勝負を申し込んでくるゆんゆんをあしらいながら無苓の剣を訪ねて来た。
「ムレイ、その剣はなんですか?前衛職でないムレイが剣を持つとは」
「ああ、そいえば紹介し忘れていました」
最初の時の檻に閉じ込められたアクアが衝撃的で思わず和真達に会いに来た目的を忘れてしまっていた。
『もう!私を忘れるなんてひどいじゃない!』
紅玉から姿を現すエアリエルに和真達は目を見開いて驚愕に包まれる。
「紹介します、風の精霊エアリエルです」
『よろしくね』
紹介するとめぐみんが瞳を輝かせてエアリエルに顔を近づける。
「精霊!精霊ですか!?精霊の剣なんて紅魔族の琴線に激しく響きますよ!」
「おい、チート持ちの癖になに、美少女精霊を侍らせてんだ。俺にチート能力一つぐらい寄越せよ。もしくはアレと交換でもいいんだぞ?」
「ちょっとカズマ!どうして私を指すの!?」
「……まさか、精霊とこうして言葉を交える日がくるとは思いも寄らなかったぞ」
和真達はそれぞれ言いたいことを話すが無苓は話半分で聞き流すとエアリエルが無苓の肩に止まる。
『ねぇ、ムレイ。この人達も面白いね』
「そうですね」
笑みを浮かばせ合う二人に目的の場所である湖に到着すると和真達は早速アクアを湖に浸ける。
アクアは膝を抱えたままぽつりと呟く。
「……私、ダシを取られてる紅茶のティーパックの気分なんですけど……」
アクアを湖に設置して二時間が経過するが未だに変化はない。
「……暇ですね、ダクネス、疲れたので椅子になってください」
「ま、任せろ!」
「止めろ。ムレイも変な命令をするな」
呆れながら二人を止めに入るセルティ。
「めぐみん!もう一度勝負よ!」
「……またですか、貴女もこりませんね」
紅魔族の二人は無苓が《物質創造》で創ったトランプで勝負を行っていた。
ぼんやりとアクアを眺めている和真やオロオロと心配そうにアクアを見つめているアリッサは手伝おうか、しかし自分が手伝うのはおこがましいのではと悩んでいた。
それぞれ暇を潰していると。
「カ、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」
ブルータルアリゲーターは群れでアクアに接近してきた。
浄化を始めてから四時間が経過。
「な、なぁ、そろそろあの爬虫類を斬り殺して……アクアを助けに行っても………」
「ギブアップしますかー!?」
「イ、イヤよ!ここで諦めたら報酬が貰えないじゃない!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!わああああああああーっ!メキッっていった!今オリから鳴っちゃいけない音が鳴った!!」
「大丈夫そうですね」
助け、もとい、ブルータルアリゲーターを斬り殺しに行こうとするセルティに無苓はアクアにギブアップをするかと尋ねてみたが拒否されるのを見てまだ問題ないと判断する。
一心不乱に浄化魔法を唱えるアクアの姿を無苓達は弁当を食べながら見ていた。
「この唐揚げは頂きますよ!」
「あ、ずるいめぐみん!それは私のよ!」
「おや?これのどこに貴女の名前が書いてあるのです?早い者勝ちですよ!」
「なぁ、精霊って何食べるんだ?」
『精霊に食事は不要よ。娯楽で食べることはあるけどね。ん、おいしい』
「美味いな、ムレイは料理も出来るのか……」
団欒と食事を進める無苓達。
無苓は時間が掛かるということで腹を空かしてはと思い、簡易の弁当を準備しておいてよかったと思いながらおにぎりを口に運びながらアクアを眺めていた。
「あ、あの、いいんですか………?」
「本人が良いと仰っていますし本当に危なくなったら助けましょう」
一人だけ本当にアクアのことを心配しているアリッサは天使のような優しさを持っていた。
「くぅ……」
「行かないでくださいね」
今にも鞘から剣を取り出して湖に突っ込もうとするセルティに制止の言葉を放つ。
浄化を始めてから七時間が経過。
浄化が完了されてブルータルアリゲーターはどこかへ去って行った。
「………おいアクア、無事か?アリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」
「……ぐす…………ひっく…………えっく…………」
檻の中でアクアは泣いていた。
無理するくらいならさっさとリタイヤすればいいものだが、和真達は今回の報酬である三十万エリスは全てアクアに譲るらしい。
和真は檻から出てくるように催促するが。
「………オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
「
そうなる前に助けを求めればよいものをと思いながら無苓達は一足先にアクセルに帰還することにした。
「しかし、必死になって浄化魔法を唱えていた女神様の顔は面白かったですね……」
しみじみとそう思った。