異世界に来て初めての冬が訪れた。
外では冷たい風が吹くなかで懐が潤い、屋敷を持っている無苓達は屋敷の中でゆっくりと寛いでいた。
暖炉に火を入れて部屋を暖めて、暖かい空間で無苓はキッチンで昼食を作っている。
グツグツと音をたてて煮込む鍋の中に具材を入れる無苓。
「ムレイさん、サラダの盛り付け終わりました」
「ありがとうございます、こちらももうすぐ終わりますから食器を出して下りてください」
「はい」
今日の昼食は無苓特性のシチュー。
寒い日のは心も体も温まるシチューを作っている。
今日も穏やかな一日を過ごそうとのんびりとした空気に包まれている時、ドアをノックする音が聞こえた。
出迎えようとする無苓をセルティが手で制した。
「私が出よう」
「お願いします」
無苓の代わりにセルティが部屋を出て出迎えの対応をしてくれる。
鍋の取っ手を持ってテーブルの真ん中に置いて準備は完了。
後はセルティが戻ってきたら昼食だ。
そんな穏やかな空気のなかでドアが開かれるとそこには困った顔で頬を掻くセルティと体を震わせている和真とアクア、それと申し訳なさそうにするめぐみんとダクネスの姿がいた。
「どうしました?」
声をかける無苓に和真は震える口調で無苓に懇願した。
「………俺達を住まわせてくれ」
和真は今にも凍えそうなほど心も体も冷たくなっていた。
「………ああ、シチューってこんなにも心と体が温まるものなんだな」
シチューを口にしながらしみじみと和真はそう言う。
「ムレイ!おかわりをください!」
「めぐみん!これで何杯目よ!?少しは遠慮しなさいよね!」
空になった食器を手渡すめぐみんにゆんゆんは声を上げる。
「大丈夫ですよ、ゆんゆん。まだたくさんありますから問題ないですよ」
「ほら、ムレイもああ言っているんです。というよりいちいち小うるさいですよ」
「う、うるさくないよ!常識よ、常識!」
怒るゆんゆんを見て苦笑しながらめぐみんの食器にシチューを入れて渡すとめぐみんはまたがっつくように食べ始める。
「ムレイは本当に料理上手だな。うん、美味い」
めぐみんとは対極的に一口ずつ味わいながら食べているダクネス。
「食事に関しても本当に助かっているさ。朝食も基本的はムレイが作ってくれている」
家庭的な意味でも無苓に助けられているセルティ達。
というより、まともに料理が出来るのは無苓とゆんゆんだけだった。
簡単な料理ならセルティも出来るがセルティが作るより無苓は作った方がいい。
アリッサは本人のネガティブ思考と暴走により危ないと判断してキッチンには立たせていない。
「ムレイー!私にもおかわりちょうだい!」
「はいはい」
おかわりを催促されるアクアに食器を貰う無苓は微笑みながらアクアの食器にシチューを入れて手渡すと無苓は和真に視線を向ける。
「和真さん、この屋敷に住むのは構いませんよ。部屋は余っていますし、ベルディアを討伐した功労者を馬小屋で寝泊まりさせるほど私も鬼ではありません」
「ほ、本当か!?………た、助かった。あのまま馬小屋の寝床だと凍え死ぬところだったからな。本当に助かる。冬の間だけでも世話になるわ」
「借金もあるでしょうから家賃も取りませんよ、その代わりに労働で返してもらいます」
「………まぁ、背に腹は代えられねえ。それぐらい引き受けるさ」
その言葉を聞いた無苓は微笑みが深くなる。
「では早速着替えて頂きましょうか」
《物質創造》で無苓は早速と言わんばかりに五人に来て貰う服を創り出して着てもらう。
「ふふん、悪くないわね」
ロングスカートのメイド服を着こなすアクアは鏡と向かい合いながら胸を張っていた。
「……ど、どうして私のはアクアと違うものなんだ?」
ダクネスにはサイズが小さめの丈の短いメイド服をダクネスは頬を染めながら訝しむ。
「わ、私にいたってはメイド服ですらありませんよ………ッ!」
めぐみんには一撃熊の着ぐるみを身に着け無苓に文句を告げるが無苓は無視。
「おい、どうして俺はつなぎ服なんだ?」
「男はそれでいいでしょう」
「お前、だんだんいい性格してきたな。それともそっちが本性なのか?」
「ご想像にお任せします」
つなぎ服を着て半眼する和真。
「ど、どうして私まで……ッ!」
ゆんゆんもダクネスと同じメイド服姿だが、頭には犬耳カチューシャが装着されている。
「よくお似合いですよ、ゆんゆん。犬と猫のどちらにしようか悩みましたが取りあえずは犬して正解でした」
親指を立てる無苓にゆんゆんは涙目で顔を近づけて訴えてくる。
「どうして私までこんな格好しないといけないんですか!?恥ずかしいです!」
働くのは和真達だけのはずが気が付けば自分までこんな格好をさせられたゆんゆんは掴みかかってくるが無苓はゆんゆんの肩を持つ。
「ゆんゆん、これは訓練です」
「く、訓練ですか……?」
「ええ、人と目を合わせて話ができる為にまずは一定の緊張感の中でいかに冷静に話が続けられるかという訓練です。例えば誰かがゆんゆんに声をかけてきたとしましょう。その時、ゆんゆんは緊張のあまり声が裏返ったり、何を言っているのかわからないと言われたことがあるはずです。これは友達ができるチャンスを取り逃がさない為の訓練です」
「そ、そうだったのですか……?」
「そうです。しかし、突然こんなことをさせるには些か抵抗はありましたが友達であり、ライバルであるめぐみんさんと一緒ならまだ緊張は和らいだ状態で訓練を行うことができるはずです。目指せ、友達百人です!」
「は、はい!私……恥ずかしいですけど頑張ります!」
「その意気ですゆんゆん」
目を輝かせるゆんゆんとそんなゆんゆんを言い包める無苓。
二人の近くで和真達は表情を引きつかせていた。
「カズマカズマ。ゆんゆんってチョロイ子なの?」
「友達がいないことを利用して言い包めるなんてあいつは詐欺師か……」
「全く、本当にチョロイ子ですね、ゆんゆんは。というより私を引き合いに出すのは止めて頂こうか」
「はぁはぁ、ムレイは悪徳貴族で私はそこに使える使用人だったきっと私はムレイに言いように言い包められてこの身を途轍もない辱めを受け続け最後は寒い冬の外に………」
「はぁ………」
「ムレイさん…………」
「はいはい皆さん、仕事に取り掛かってくださいね。頑張った人には今日の夕飯のリクエストぐらいは聞いてあげますよ」
手を叩いて仕事をするように促す無苓。
アクアとダクネスは屋敷の掃除を。
和真は無苓の収入源である双眼鏡と懐中電灯を組み上げ作業を。
めぐみんはこの場で一番年下であるアリッサの監視ではなく面倒を。
ゆんゆんは無苓の膝枕を。
「私だけ皆さんと違うような気がするんですけど………」
「気のせいです」
『気のせいよ』
いつの間にか姿を現したエアリエルはゆんゆんの頭の上で寛ぎだす。
「ゆんゆんの膝枕は気持ちいいのですからついついお願いしたくなるんですよ」
あと、上を向けば目の保養になるとは言わない。
『ゆんゆん、仲間同士のスキンシップは重要よ。照れないの』
「う、うん………」
エアリエルに促されて一応は納得するゆんゆん。
ゆんゆんの頭の上で親指を立てるエアリエルに無苓は感謝した。
流石は我が相棒と褒め称える。
『それに両親の挨拶を結婚の挨拶と勘違いしちゃうほどムレイの事が好きなら尚更恥ずかしがらずに攻めないと』
「ちちちちちち、違うから!わ、私はムレイさんの事がそう思っていないから!あ、ち、違うんです、ムレイさん!思っていないと言いましたが嫌いというわけじゃないんです!」
慌てふためくゆんゆんに無苓はそっと目元を押さえて視線をゆんゆんから外す。
『あーあ、傷付けちゃった』
「わ、私のせいなの!?ム、ムレイさん!私はそういうつもりで言ったのではなく…………私の両親の事も考えてくれるムレイさんの気遣いが嬉しくって、えっと、その…………」
慌てながら何とか言葉を繋げようと必死に考えるゆんゆん。
しかし、無苓は別に悲しんでいる訳でも傷付いているわけでもない。
ただ、慌てふためくゆんゆんの顔が非常に面白い為に必死に誤魔化そうとしているだけ。
エアリエルはそれに気づいているがそれを言わない理由はただ一つ。
ゆんゆんを苛めると楽しいから。
嗜虐心を満たさんとばかりの二人は数分間ゆんゆんを苛め抜いた。