転生した無苓は気が付けば異世界にやって来た。
中世ヨーロッパのようなレンガ造りの家や獣耳やエルフなどいった亜人まで普通に街中を歩いていた。
「ここが異世界ですか……」
驚嘆しながらぼやく無苓は手持ちの荷物を確認する。
腕時計、スマホ、財布など確認すると財布に札や小銭の代わりに金貨が入っていた。
「この世界のお金でしょうね……」
元々は五千円ぐらい入っていた金がこれでどれだけになるのかはまだわからない。
それどころか無苓はこの世界の事を何も把握していない。
「ゲームを当てにするとまずはギルド的なところに行き、冒険者になるのが筋でしたね」
それであっているのかはわからないが手がかりがない以上取りあえずは冒険者になる為にギルドを探す。
「申し訳ありませんが少々お時間よろしいでしょうか?」
「ん?あたしに何か用?」
無苓は頬に傷がある銀髪の少女に声をかけた。
「ええ、実は冒険者になる為にこの街に足を運んだのですがギルドがわからず。もしよろしければギルドの場所を教えては頂けませんか?」
「いいよ。ついでにこの街も案内してあげる」
「ありがとうございます。私の名前は刈萱無礼と申します」
「あたしはクリスだよ。あと、別に敬語じゃなくてもいいからね」
「習慣のようなものでしたのでお気になさらず」
クリスと名乗る少女に街を案内して貰いながらこの街の情報も入手していく。
駆け出しの冒険者の街、アクセル。
それがこの街の名前でその名の通り駆け出しの冒険者が住んでいる。
「ところでさ、君はどこから来たの?見たことない服装しているけど」
無苓は今は学生服を着ている。
学校に向かう途中で死んだのだからそれは仕方がない。
「小さな田舎からです。冒険者になる為に家を飛び出してつい先ほどこの街に着いたのですよ」
「へぇ、あ、ついたよ」
ギルドに到着した無苓はクリスと共に中に入る。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞー!」
ウェイトレスの人に出迎えながらギルドに入った無苓に多くの人が視線を向ける。
「ほら、冒険者の登録はこっちだよ」
クリスに案内されて受付に足を運ぶ無苓。
「はい、今日はどうされました?」
「冒険者になる為に来たのですが」
「そうでしたか。では、登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
「はい。えっと、これでよろしいでしょうか?」
財布から適当に金貨を数枚取り出してそれを受付の人に渡す。
「では、冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度は理解していると思いますが、改めて簡単に説明を」
受付の人から冒険者の事を教わる無苓は真剣にその話に耳を傾ける。
職業、レベル、冒険者カードなどいった説明を聞くと受付の人は書類を無苓に渡す。
「まずはこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」
言われた通りに自身の事を書いて無苓はカードに触れる。
「……はい、ありがとうございます。カルカヤムレイさん、ですね。ええと……えっ!?筋力が平均以下と幸運が平均並み以外は平均値を超えてますよ!特に知力と魔力は平均値を大幅に超えています!」
「そうですか。なれる職業はありますか?」
「《ソードマスター》や《クルセイダー》といった前衛職は無理ですが魔法使い職の《アークウィザード》ならすぐにでもなれますよ!」
興奮気味になれる職業を説明してくれる受付の人に無苓は他になれる職業を尋ねようとした時、近くにいたクリスが無苓に声をかけてきた。
「あたしは《盗賊》がお勧めだよ!罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗……まぁ、地味だけど有用なのは確かだよ!ダンジョン探索では必須だからね」
「では《盗賊》でお願い致します」
「「え?」」
受付の人とクリスが呆気を取られると無苓は何故《盗賊》を選んだのかを説明した。
「魔法使い職よりクリスさんと同じ《盗賊》の方が私に合ったいるような気がしますので」
微笑みながら説明する無苓に受付の人は少し納得できず顔をしかめるが了承した。
「……わかりました。それでは冒険者カルカヤムレイ様!冒険者ギルドへようこそ!スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」
「期待に応じられるように努力させて頂きます」
こうして無苓は冒険者になった。
「それじゃ改めてよろしくね、ムレイ!」
「こちらこそ宜しくお願い致します。クリスさん」
クリスと同じ《盗賊》になった無苓は早速冒険者カードを見るとそこには自分のステータスが記されていた。
横からクリスが無苓の冒険者カードを覗くとおおっと感嘆の声をだす。
「すごいじゃん!もうスキルポイントがあるて。これなら盗賊スキルをすぐにでも覚えられるよ!」
優秀なほど初期ポイントは多い。
どうやら無苓はその優秀の類のようだ。
無苓は早速《盗賊》のスキルを取得して覚える。
「クリスさん。もしよろしければ一緒にクエストでも」
「あ、ごめんね。この後、ダンジョン探索を手伝う約束があるんだ」
申し訳なさそうに謝るクリスに無苓はいえいえと答える。
モンスターのことについても教えて貰おうと考えたがそこまで都合はよくはなかった。
街の情報とここまで付き合ってくれただけでも無苓はありがたかった。
「あ、初めてはジャイアントトードがいいからね!」
クエストのアドバイスを残して去って行くクリスにどうするかと悩む無苓。
装備もない今の状態でクエストに行ったとしてもモンスターに食べられるのがオチ。
何よりこの世界の事は無知と言ってもいい。
まずは仲間を増やすべきかと判断して無苓は酒場のテーブルを見渡して一人の少女に目を付けた。
酒場の端のテーブルで一人、座っている黒髪紅瞳を持つ黒いローブとマントをした少女に無苓は声をかける。
「失礼。相席よろしいでしょうか?」
「え……ど、どうぞ………?」
突然声をかけられてオドオドしながらも相席を認める少女に一礼して席に座ると少女に話しかける。
「突然申し訳ありません。私の名前は刈萱無礼。つい先ほど冒険者になったばかりの新人です。あ、これ冒険者カードです」
自己紹介しつつ冒険者カードを見せる無苓に少女はおどけながらも冒険者カードを見る。
「もしよろしければお名前を教えては頂けませんか?」
その言葉に少女は固まる。
どうして固まるのかわからない無苓に少女は頬を赤くしながら名乗った。
「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!」
「ゆんゆんさんですね。よろしくお願いします」
名乗るゆんゆんに微笑み返す無苓にゆんゆんは目を見開く。
「あ、あの、笑わないのですか……?」
「個性的とは思いましたが人の名前を笑うなんてことはしませんよ」
不思議そうにおずおずと尋ねるゆんゆんに無苓はそう言うと安堵するように息を吐いた。
「よかった。紅魔族のこの名乗り方は恥ずかしくて……」
「そうでしたか。失礼ですが紅魔族のことに関して教えては頂くことは出来ませんか?」
紅魔族。
生まれつき高い知力と強い魔力を持つ魔法使いのエキスパート。
あと、変な名前を持っている。
「なるほど。教えてくださりありがとうございます」
「い、いえ!お礼を言われるほどではないですよ!」
礼を言う無苓に謙遜の言葉を出すゆんゆんに無苓は不躾に頼む。
「ゆんゆんさんはお一人ですか?もしよければクエストを手伝って頂けると嬉しいのですが」
「いいんですか!?ぜひ、手伝わせてください!!」
予想以上に喰いついてきたゆんゆんだが無苓は表情を崩さず礼を言う。
「ありがとうございます。初めてのクエストなのでジャイアントトードでよろしいでしょうか?」
「もちろんです!ムレイさん!」
こうしてゆんゆんと一緒に初めてのクエストに向かった。
「あれがジャイアントトードですか……」
ショートソードとロープを持って平原地帯に足を運んでいた無苓は遠くにいるジャイアントトードを見て引いた。
巨大なカエルを見てこれなら山羊などを丸呑みするのも頷けた。
「あの…どうしますか?」
「……ゆんゆんさんは《アークウィザード》ですので魔法で援護して頂けると助かるのですがよろしいでしょうか?」
「はい!任せれてください!」
頼られることに嬉しいのか笑顔で引き受けてくれたゆんゆんに無苓は前に出ていく。
無苓の存在に気付いたカエルは無苓達に近寄ってくる。
「『ボトムレス・スワンプ』!」
魔法を発動するとカエルは大きな泥沼に沈む。
始めての魔法に内心で少々感動しながらもせっかくの隙を見逃すわけにはいかずショートソードで頭部を突き刺す。
すると盗賊スキル『敵感知』に反応があった。
「ゆんゆんさん。後ろからも来てます!」
「『ライトニング』!」
すぐに魔法を発動させて背後から来たカエルを討伐。
ゆんゆんのおかげで早くも二体倒せれた無苓はせっかくだから貰った特典を試してみようと思った。
無苓がアクアから貰った特典は《魔眼》と《物質創造》。
二つの内《魔眼》の能力を一つ決めた。
「オーソドックスですが悪くはないでしょう」
念じて設定し眼に何かしらの力が流れてくる。
跳ねて来るカエルに無苓は魔眼の力を発動させる。
「幻惑」
五つあるうちの一つを対象に幻を見せる能力に設定。
その能力により、カエルの動きは止まって眼の焦点は定まっていなかった。
そんな隙だらけなカエルを突き刺して討伐。
「なかなか使いどころがいいですね。まぁ、まだ詳細はわかりませんが」
一つ目の能力について高評価を出す無苓。
「ムレイさん!あそこにいるカエルも倒しますか!?」
「討伐は全部で五体ですので倒しましょう」
「はい!」
遠くにいるカエルも討伐する為に無苓はゆんゆんの援護の下で討伐を完了した。
討伐を終えた無苓はカエルを移送してギルドに報告。
報酬を貰いそれをゆんゆんと半分に分けて渡そうとするがゆんゆんは首を横に振って受け取らなかった。
「新人の人はお金が必要になりますので今回の報酬はムレイさんが受け取ってください。私も一緒にクエストに行けて楽しかったですし」
新人である無苓に気を遣って報酬を全て無苓に譲った。
「ゆんゆんさん。もしよろしければ私とパーティを組んでは頂けませんか?」
「え、い……いいんですか?あれは冗談で誘ったんだよ?なに、本気にしたの?とか言いません?」
そんな経験があるのかと思うぐらい現実味があった言葉だが取りあえずは置いておいてゆんゆんに手を差し伸ばす。
「私から誘っているんです。冗談ではありませんよ。もちろん新人である私でよければですけど」
「そんなことありません!私の方こそよろしくお願いします!!」
本当にパーティに誘われたことに嬉しいのか表情が凄く幸せに満ちていた。
魔法も豊富で判断力もあり、更には性格も良いゆんゆん。
何故これほどの人材がパーティに誘われていなかったのかが不思議でならなかったがそのおかげでゆんゆんとパーティを組むことが出来たので気にしないでおいた。
無苓がなった職業《盗賊》には攻撃系のスキルはない。
しかし、チームを組めば短所を埋めることが出来る。
更にはこの世界のことについてもまだ知らな過ぎる為に無苓はパーティを組むことを最優先にした。
その内一人《アークウィザード》のゆんゆんを仲間に加えられることが出来た。
「では改めてよろしくお願い致します。ゆんゆんさん」
「私のことはゆんゆんでいいですよ?ムレイさん」
こうして無苓に仲間ができた。