「流石はこの街一番の屋敷なだけあって凄いですね」
響夜に勝利した無苓は賭けによってこの街一番の屋敷を手に入れた。
一軒家の何倍も大きく広い庭には豪華な噴水までも設置されていた。
一言で表すなら貴族が住んでいてもおかしくない屋敷に感慨深く頷く。
「しかし、何だ。お前は敵に回したくないことだけはよくわかった」
これから住む屋敷を見向きもせずに神妙な表情を浮かべるセルティは無苓の恐ろしさを実感した。
「わ、私ムレイさんの事が少し、本当に少しだけ怖くなりました……」
「私なんかがこんな立派なところに済んだら罰が当たります!私みたいなゴミクズにはゴミ捨て場がお似合いです」
「お二人とも酷いですね。それとアリッサさんもこの屋敷に住んでもらいますからゴミ捨て場に行こうとしないでください」
どこかへ去ろうとするアリッサを捕まえながら無苓は二人に言う。
「私の話を聞かずに勝手に勘違いをしたあちらが悪いのですから遠慮する必要はありません。騙される方が悪いんですよ」
「ムレイさんが黒いです!騙される方の身にもなってください!辛いんですよ!」
「……ゆんゆんは少しは人を疑いましょうね?それと私は腹黒いですよ。ええ、どす黒いです………というより騙されたことがあるのでしたら少しはそこから学習しましょう」
騙されやすいゆんゆんにこれから変な人が寄り付かないように気を遣おうと思った無苓はアリッサを捕まえたまま屋敷に入っていくと中も広くて部屋の数も多い。
揃っている家具もどれも高級な物揃いを見てしっかりと約束は守ったことに真面目な人と思った。
「中も立派ですね。ゆんゆん、友達ができたら屋敷に招待してパーティーを開くのもいいかもしれませんね」
「友達と……パーティー……ッ!すっごくいいですね!」
無苓の言葉に笑顔を見せるゆんゆんは本当に友達に飢えているんだなと無苓達は思った。
部屋割りを決めようとするときアリッサが物置部屋などと言ったが当然のように却下。
各自部屋を決めて無苓は学生服ではなく前にゆんゆんと一緒に買いに行った装備を身につける。
白色の革鎧に腰には二本のダガーと拳銃を装備。
冒険者らしい格好になれたことに少し感動した。
軽装だから防御力は低いがそもそも前衛職は向いていない無苓にとっては敵に近づく前に魔眼かバインドで動きを封じる。
盗賊スキルはクリスの言う通り有用なものが多い。
ゆんゆんのように魔法を使ってみたいという気持はなくもないがアークウィザードよりもやはり、盗賊のほうが無苓はしっくりときた。
「あ、そういう能力にすれば……」
そこに不意に閃いた無苓は二つ目の魔眼の能力を設定する。
「これでいいですね。後はゆんゆんにでも頼んでみましょう」
魔眼の能力を設定を終えて広間に足を運ぶと既に荷造りが終えたのか皆集まっていた。
「うん、見違えたな」
「お似合いです、ムレイさん」
「か、格好いいです……ごめんなさい、私なんかが褒めたら穢れてしまいますよね。暖炉のたき火代わりになりますから許してください」
「しなくていいですよ。それと皆さん、褒めて頂きありがとうございます。早速で申し訳ないのですがクエストに行きませんか?」
「そうだな、新しい装備を試したい気持ちは私もよくわかる。昨日クエストを確認したグリフォンの討伐に向かおう」
「ムレイさんは盗賊ですからダンジョン探索も行ってみませんか?アリッサちゃんもいますし大丈夫と思いますが」
「私なんかが皆さんの役に立てる訳がありません……ッ!」
討伐、探索と別れた無苓達は取りあえずはギルドでもう一度確認してから決めることにした無苓達はギルドに足を運ぶ途中で無苓はゆんゆんに懇願した。
「ゆんゆん、後で『ライト・オブ・セイバー』を見せては頂けませんか?」
「構いませんけど、どうしてですか?」
「魔眼に新しい能力を設定してそれにはゆんゆんの助力が必要なのです。ゆんゆんが仲間になってくれて本当に助かりました」
「任せてください!」
了承するゆんゆんにセルティは訝しな目で無苓を見てくるが無視した。
先日の響夜との一件以来、少なからず無苓に対する信憑の変化があったのだろう。
そんなかんだでギルドに到着して掲示板から無苓達はゆんゆんが提案したダンジョン探索に行くことにした。
討伐系のクエストばかり行っていたこととダンジョン探索の経験も兼ねて無苓達はキールのダンジョンに足を運んだ。
駆け出し向けのダンジョンであるキールのダンジョンは探索の練習にはちょうどよく、運が良ければ宝が手に入るかもしれないと淡い期待も込めて無苓達はダンジョンの中に入っていく。
アンデットモンスターには潜伏スキルは通用しない以上倒す方法はアリッサの浄化魔法か一応で用意しておいた聖水。
灯りをつけて奥へと進んでいく無苓達。
前衛をセルティにしてその次に無苓、アリッサ、ゆんゆんの順に進むなかで無苓が動きを止めると全員が周囲に警戒して無苓が小言で告げる。
「何か来ます、アリッサさんは魔法の準備をお願いします」
「は、はひ」
神聖魔法の準備を取り掛かるアリッサにセルティは剣を持って警戒し、ゆんゆんも魔法を詠唱する。
そして、そいつは姿を現した。
小さな人型のモンスター、グレムリンは正面にいるセルティに襲いかかった。
「死に晒せ!木っ端悪魔!」
セルティは罵倒と共に剣で切り裂いた。
モンスターを見ると豹変するその性格にも慣れた無苓達。
下級の悪魔であるグレムリンは一瞬にしてセルティに切り伏せられて無苓が他に近づいてくるモンスターはいないことを告げると一安心。
グレムリンの血の臭いに他のモンスターが寄ってくるかもしれない為急いでその場から離れる。
その後も順調も無苓は盗賊としての実力を身に着けて行き、モンスターもセルティ達が問題なく倒していく。
駆け出し向けのダンジョンという理由で上手く行っているだけかもしれないがそれでも初めてのダンジョン探索としては上々だった。
「ふむ。何度も探索されているダンジョンとはいえ中々上手く行くものだな」
セルティも無苓と同じ考えを皆に言うと二人も同意するように頷いた。
「せっかくですし、もう少し奥まで探索してみましょう」
絶好調の無苓達は更に奥に進む。
特典以外のこの世界のスキルも使用してそれなりに実力が身について来た無苓。
性格にやや難ありだがいいパーティーメンバーにも恵まれて調子がよかった。
敵感知に多数の反応を感じるまでは。
「九体……十体……十一体……まだ……………」
十体を超える複数のモンスターが真っ直ぐ無苓達に近づいて来た。
無苓の言葉に一瞬で警戒を強いる三人。
剣を構えて皆の正面に立つセルティ。
いつでも神聖魔法を発動できるように準備するアリッサ。
詠唱を唱え始めるゆんゆん。
拳銃を片手に持ち、ロープを複数創っていつでもバインドを発動できるようにする無苓。
その四人の前に姿を現したのはアンデットナイト。
ゾンビの上位互換モンスターで駆け出しの冒険者にとっても十分な脅威となる。
そのアンデットナイトが十体以上更にはゾンビやグレムリンなどのモンスターまでも引き連れて無苓達に襲いかかって来た。
「『ターンアンデット』!」
先手を取ったのはアリッサ。
襲いかかってくるアンデットナイトを中心に発動した神聖魔法によってその体が消失するが数が多すぎる為それだけでは終わらなかった。
「『ブレード・オブ・ウインド』!」
素早く詠唱を終えたゆんゆんが放った中級魔法。
ダンジョン内で下手に上級魔法を放てば生き埋めになることから中級魔法を選んだが数が数の為大して倒すことは出来ない。
「どうして駆け出しのダンジョンにアンデットナイトがこんなにもいるの……ッ!?」
叫ぶゆんゆんだがその原因はわからない。
「全員撤退!私が殿を務めます!セルティさんは前を!ゆんゆんはアリッサさんを抱えてこの場から離れます!」
発砲しながら敵の数を減らそうとする無苓の言葉にゆんゆんはアリッサを抱えるがセルティは無苓の指示に従わずにアンデットナイトと戦っていた。
「セルティさん!撤退です!ダンジョン内でこの数のモンスターとは戦えません!」
「私がこんな腐敗した汚物に背を向けろと!?」
「幻惑!」
豹変していたセルティの性格に無苓は有無言わせずにセルティに幻を見せて無力化させるとセルティと戦っていたアンデットナイトにロープを投げつける。
「『バインド』!」
アンデットナイトを拘束させて急いでセルティの傍まで駆け寄ると無苓は《物質創造》でワイヤーを創り出す。
「『ワイヤートラップ』!」
叫ぶと同時に投げるとワイヤーはダンジョンの壁に触れると同時、鉄条網のように張った。
盗賊スキルの『ワイヤートラップ』を使ってアンデットナイトやモンスターの行く手を阻む。
「『ワイヤートラップ』!『ワイヤートラップ』!」
続けてスキルを発動してゆんゆん達と共にダンジョンの出口に向かって走る。
「はぁ……はぁ……重い………」
只でさえ思い鎧を身に着けているセルティ。
筋力が平均以下の無苓は既に体力が尽き始めて来た。
「『ファイヤーボール』!ムレイさんもう少しなので頑張ってください!」
魔法で襲いかかってくるモンスターを倒しながら喝を入れてくるゆんゆん。
その脇にはアリッサが邪魔にならないように小さく丸まって大人しくしていた。
逃走する四人の前から地上の光が見えて無事にダンジョンから脱出した。
「はぁ……はぁ……皆さん、大丈夫ですか……?」
呼吸を整えながら無苓達の安否を確認するゆんゆんに無苓はその場で前のめりに倒れる。
「もう……動けません……」
知力はあっても体力はない無苓は体力を使い果たして倒れてその背に背負うセルティの下敷きになった。
「あわわわ……ッ!!どうしようどうしよう……私が支援魔法を使っていればこんなことには………ッ!私、ダンジョンで息を引き取ってきます!」
「行っちゃダメ!お願いだからムレイさんに回復魔法をかけてあげて!」
ダンジョンに突撃しようとするアリッサを必死に止めに入るゆんゆん。
今まで順調だったとは反対に今日は慌ただしい冒険者日和となった。
「これも……冒険…………ですかね……」
下敷きになりながらも無苓は力なく笑った。