異世界に転生して一週間が経過した無苓は徐々に新しい世界にも慣れてきた。
「今日も一日頑張りますか……」
ベッドから出て装備を整ええていると不意に鏡に映っている自分を見て苦笑した。
「この格好にも見慣れてきましたね……」
感慨深く呟いた無苓は部屋を出て朝食を作るべくキッチンに足を運ぶ。
ガスコンロに火をつけて熱したフライパンに卵をのせてその端でベーコンも一緒に焼いていく。
昨日ホームベーカリーに具材を入れて作っておいたパンを取り出して適当なサイズに切っていくと無苓は思った。
「……ここだけ異世界ではないですね」
ガスコンロもフライパンもホームベーカリーも全ては無苓の特典である《物質創造》で創り出した物。
よく知らない物より手に馴染んでいる物が便利と思って使っていたが改めて思えばキッチンだけが異世界感から遠く離れている。
「おはようございます。ムレイさん、何かお手伝いすることはありますか?」
起きてきたゆんゆんが何か手伝えることがないかと尋ねてくると無苓は食器棚を指す。
「おはようございます。食器を並べては頂けませんか?」
「はい」
食器を出していくとその上にパンや目玉焼きなどを載せていくとセルティとアリッサが起きてきた。
「相変わらずいい匂いだ。おはよう、ムレイ、ゆんゆん」
「……おはよう、ございましゅ……」
朝食の匂いに嗅ぎ付けたのかというタイミングで起きてきたセルティとまだ瞼が半分落ちているアリッサ。
「おはようございます、そろそろ完成しますので座って待っていてください」
「いや、私も何か手伝うぞ?いつも食事を作って貰ってばかりなんだ。それぐらいはさせてくれ」
「ありがとうございます、しかし、もう終わりますので大丈夫ですよ」
最後にサラダを盛り合わせて本日の食事が完成した。
目玉焼きにベーコンに食パンにサラダをテーブルに置いて全員で食事を取る。
パンを食べながらゆんゆんはホームベーカリーに視線を向ける。
「それにしてもこの魔道具は凄いですね。材料を入れるだけでパンができるなんて」
「そうだな……なぁ、ムレイ。これの売買を視野に入れてはみないか?」
「そうですね、考えておきます」
ホームベーカリーの売買を進めるセルティに無苓はその案を保留にした。
実はというとまだ実用的ではないからだ。
電気の代わりにマナタイト結晶を使用して動くように改良を施しているが一番安いマナタイト結晶なら一回使用しただけですぐに新しいマナタイト結晶に変えなければならない。
せめて魔力式に改善できるまで売買は保留。
朝食を済ませたら無苓達は屋敷を出て、ギルドに向かう。
冒険者の仕事であるクエストを達成して報酬金を手に入れて生活費を稼ぐ為に。
前回のキールのダンジョンでのことを反省して無苓は更に新しい能力も設定しておいた。
ギルドに到着すると既に何人かの冒険者達が朝食を食べにと集まっているなかで無苓達は真っ直ぐと掲示板のところに向かう途中で何人かの冒険者が声をかけてきた。
「よぉ、ムレイ。今日も高難易度のクエストに行くのか?」
「ええ、一緒に行きますか?」
「馬鹿言うな!そこまで命知らずじゃねえよ!」
「ムレイさん、おっはよー!昨日はありがとね!」
「おはようございます。飲み過ぎには注意してくださいね」
親しく接してくる冒険者達に対応する無苓にゆんゆん達は感心の声が出た。
「……いいな、こんなにもたくさんの人に声をかけられて」
「前なら礼儀正しいと思っていたのだが今となっては裏があるとしか思えなくなるな」
「……うぅ、残飯以下の存在な私がムレイさんのパーティーにいるのはやっぱりおこがましいです………」
羨ましがるゆんゆん。
怪訝するセルティ。
自分を貶めるアリッサ。
「人との繋がりは貴重なものですからね。友好関係は極力築き上げるんですよ。一回食事を奢ればあっさりと仲良くなれるほどちょろいものでしたしね」
「そういう発言がなければ素直に感心したんだがな……」
腹黒いことをぽろっと告げる無苓に呆れ声を出すセルティだが、無苓の素の部分が見えているということは自分達に信用を寄せているということ。
正直なところが見れて嬉しいと思う部分もあった。
「さて、では今日はグリフォンの討伐に向かいますか」
クエストに出発する無苓達は街中を歩いていると不意に奇妙な叫び声が聞こえてそちらに視線を向けた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!」
青髪の女性がジャージ姿の茶髪の少年に掴みかかって揉めていた。
「あれは……」
「お知り合いですか?」
「いえ、気のせいですね」
覚えのある青髪の女性ともう一人は自分と同じ転生者と思われる少年。
何故女神が転生者と一緒にここにいるのかという疑問があったが転生する時の特典について思い出した。
好きなものを持っていけるということが好きな”者”を指名できるということ。
自分と同じ女神を言い包めて二つ持っているとしたら別の能力もあるか、単純に女神の力を使って魔王を討伐しようとしているのか。
どちらにしろ友好関係を築いていた方が利害を得られるだろう。
女神の力が使えるとしたらそれこそチートだ。
「クエストが終わり次第声をかけてみますか……」
本当ならまだ右も左もわからない今の段階で借りを作っておいた方が後々役に立つのだが流石にこれからクエストに向かう途中でそんなことは出来ない。
慌てる必要もなければ焦る必要もない。
クエストから戻り次第声をかけてみようと考えを纏めて無苓達は街を出る。
「ガアアアアアアアアアアアっ!!」
鷲の上半身と獅子の下半身を持つモンスター、グリフォン。
「『カースド・ライトニング』!」
ゆんゆんの魔法で攻撃を行うが宙に飛んで回避するグリフォンは爪を突き出して魔法を発動直後の隙だらけのゆんゆんに接近する。
「このクソ鳥が!丸焼きにして焼き鳥にしてやる!」
だが、接近する途中でセルティがグリフォンに斬りかかった。
急な攻撃に攻撃は当たったが致命傷は与えられずにグリフォンはまた宙に飛ぼうと羽ばたく。
「もう飛ばせはしませんよ」
だが、飛ぼうとするグリフォンの背から無苓が木から飛び降りた。
潜伏を使って木々に上りこのタイミングを待っていた無苓は魔眼の力を発動する。
「発動、『ライト・オブ・セイバー』!」
無苓の手から光の剣が出現する。
無苓が二つ目に設定した魔眼の力は
視界に映した魔法、スキルを一回使用で発動することが出来る。
一回使用でまた模写しなければ使用することが出来ない能力だが、魔力などの消費なしで発動できる。
完全にグリフォンの背後を取った無苓は光の剣でグリフォンを突き刺す。
更には拳銃をグリフォンの頭に突き付けて発砲して完全に息の根を止める。
グリフォンと共に落ちてきた無苓にアリッサは近づいて回復魔法をかける。
「『ヒール』」
細々とした傷を治してくれるアリッサ。
アークプリーストは前衛に出ても問題ない職業のはずだがアリッサは性格上ネガティブ思考で暴走しない限りはモンスターに突っ込むことなく全員の支援、回復に専念してくれている。
ゆんゆんは魔法で支援、攻撃、防御まで行って更には近接戦闘までこなしてパーティー全員をサポートしてくれる。
セルティは前衛全般をこなしてモンスターを殲滅してくれる。
無苓は主に奇襲、バインドや魔眼による支援などを担って指揮を執る。
改めて考えればバランスのいいパーティーだなと思った無苓は危険でもない限りはバインドと魔眼のコンボは控えてパーティー全体の連携を上げて行こうと思案する。
「さぁ、帰りますか」
クエストを達成して街に帰還する無苓達はギルドに赴き報酬を山分けにする。
「ム、ムレイさん。帰ったら私とボードゲームしませんか?」
「いいですね。ルールはわかりませんので教えてくださいね」
「二人とも。クエストが終えて遊びたい気持ちはわかるがまずは食事を取って風呂に入ってからにしておけ」
「わ、私はお風呂は最後でいいです……汚物と同じ私が先に入って皆さんを穢すような真似はできません」
和気藹々と話をすると無苓はギルド周囲を見渡すと目的である人物達を見つけた。
「皆さん、先に食べていてください」
ゆんゆん達に先に食べるように伝えて無苓は二人に近づく。
「失礼。日本という国に聞き覚えは?」
ジャージ姿の少年に無苓は声をかけると少年は目を見開く。
「日本………ということはお前も俺と同じ転生者なのか?」
予想通りの反応に無苓はまずは自分から名乗ろうと。
「ちょっとあんた誰よ!?言っとくけどね、この食事はあんたにはあげないからね!」
シッシッと追い払うようにする青髪の女性に無苓は頬を引きつかせるがすぐに表情を元に戻す。
「お久しぶりです、女神様。そして貴方は初めまして。私の名前は刈萱無礼。貴方と同じ日本から来た転生者です」
「おおっ!転生初日で同じ境遇の奴に会えるとは思ってなかった!俺は佐藤和真。知ってると思うけどあいつはアクアだ」
握手を求める和真に無苓も手を伸ばしてその手を握ると本題に入った。
「私のことは名前で呼んでください。ところであなたの特典は何かお聞きしても?」
その言葉を聞いた和真は何も言わずにアクアを指さす。
「俺は……あれだ……」
その顔は後悔に満ちていた和真に無苓は再度尋ねる。
「女神を連れて来るとは思いませんでしたが女神の力が使えたら確かにチートですね」
「……女神の力は使えねえ上にコイツ自身何の役にもたちゃしねえ。正直、今でもこいつを選んだことを後悔している」
「そ、そうですか……食事、奢りますよ?」
「………助かる」
哀愁漂る和真の顔を見て思わず同情してしまった無苓は食事を奢ることにした。
「え、奢ってくれるの?貴方いい人ね!すいませーん!一番高いものをくださーい!」
「少しは遠慮しろよ!この駄女神!!」
人の話を全く聞かずに食事を進めていたアクアは奢りと聞くと遠慮くなく高いものを注文して和真に頭を叩かれた。