「和真さんはよく女神様を選びましたね。女神を特典で選べるという発想はありませんでしたが、考えれば”者”ではありますからね」
「……だろ?でも、本当に後悔しているよ。はぁ、腹いせで選ぶもんじゃねえな」
溜息を吐きながら唐揚げを齧る和真の隣では無苓の奢りとわかりばかすかと食べているアクアはネロイドを一気飲みして無苓を見る。
「そういえばあんたのこと思い出したわ。えっと、ムレイだったよね?」
「ええ、合っていますよ。まさかこんな形で女神様と再会するとは思いも寄りませんでした」
女神様と呼ばれて鼻を高くするアクアは和真の背中をバンバンと叩く。
「カズマも少しはこの人を見習って私を敬いなさい!ムレイはね、私の事を仕事をしっかりとこなす慈愛に満ちた女神様って言ってくれたのよ!」
「……マジか」
「嘘に決まってるじゃないですか。褒めて気分を良くさせただけですよ、特典を二つ手に入れる為に」
調子に乗るアクアの陰でひそひそと話す二人。
「特典って二つも持って行けたのかよ!?クソ、俺も嘘でも褒めてそうすればよかった」
「まぁ、頭が子供で助かりました」
「俺、基本的にイケメンは嫌いだけどあんたとは仲良くできそうだ」
「奇遇ですね、私も和真さんと仲良くできそうと思ってましたよ」
強く固く握手する二人は微笑むと和真は無苓が腰にかけている拳銃に視線を向けると無苓に尋ねた。
「なぁ、その拳銃って本物なのか?」
「ええ、特典で創ったんですよ。構造は把握していましたから」
拳銃を取り出して和真に見せる無苓。
「……もしかして創作系の特典なのか?」
「ええ、後は魔眼ですよ、せっかく知り合ったのですから能力をお見せしましょうか?」
「いいのか!ぜひ頼む!」
「ちょっと、私の話聞いてる?」
「では、透過」
魔眼の能力を発動させて無苓は和真を見るとふむ、と頷いて。
「和真さんの職業は基本職の冒険者ですね、そして女神様はアークプリーストで和真さんは女神様を見ながらこういうイベントは俺の方に起こるんじゃとショックを受けたのですね」
「過去を見る能力なのか……?」
「私がムレイにあげた特典《魔眼》は五つの能力を自分で設定できるの。今のはムレイが考えたものよね……?」
「五つもあるのかよ!?本当にチートだな!」
「でも、そこまで凄くはないのよ?あくまで眼に関する限定の能力だからね」
「ええ、ですが自分で設定できて自分専用の能力ができますからこれを選びました。ちなみに今のは透過。対象者の過去と思考を見るだけではなく暗闇でも昼間と変わらず見ることも可能とします」
そして無苓は和真のおかげでこの能力について新しい発見があった。
和真の場合は過去を見てみたがこのアクセルの街に来た前の過去が見えなかった。
死後でのアクアとのやり取りやその前の地球にいた頃の過去も見ることができなかった。
なるほど、と納得して立ち上がって五万エリスを和真に渡す。
「では、私も自分のパーティーメンバーと食事がありますのでここで。余った分は装備を買うなり好きに使ってください」
「ああ、助かるよ。なんせ本当に金がねえからな」
「最初はそうですよ。それでは失礼します」
会釈して去って行く無苓は自分のパーティーに戻る。
顔合わせが出来ただけでもそれなりに収穫はあっただけでも良しとして無苓は皆のいるテーブルに行く。
「あ、お帰りなさい」
「戻りました。先に食べても良かったんですよ?」
テーブルに行くとゆんゆん達は料理は注文していても料理に手はつけてはいなかった。
「ムレイは私達のリーダーなんだ。ムレイがいなければ始めることは出来ない」
「皆さんで食べた方がおいしいです」
「さ、先に食べる事なんてできません……」
無苓が戻ってくるまで待っていてくれた皆に無苓は嬉しかった。
「ありがとうございます。では、頂きましょうか」
いい人たちと出会えた、そう思いながら今日もパーティーメンバーと共に楽しく談話をしながら食事を進める。
「へぇ、めぐみんさんは爆裂魔法以外覚えようとしないのですね」
「そうなんです。里の人達もこぞって天才だって期待してて……。そんなめぐみんが、爆裂魔法しか使えない欠陥魔法使いに成り下がってしまいましたし、他の魔法を覚えようともしないんですよ」
「爆裂魔法は爆発系の最上級クラスと聞くがやはり魔力の消費量も激しいのか」
「そうです。一発だけのネタ魔法なんです。それなのにめぐみんは」
食事を取りながらゆんゆんはライバルであるめぐみんのことばかりを話すがそれは友人でもあるめぐみんを心配している。
思いやりのあるゆんゆんらしいその言葉に無苓達は微笑ましく話を聞いている。
「何で爆裂魔法に……あ、アリッサちゃん、口元が汚れてるよ?」
「あううう……ご迷惑をかけてごめんなさい……」
話の途中でアリッサの口元が汚れていることに気付いたゆんゆんはハンカチで拭うとアリッサは顔を赤くして謝った。
危険なクエストの後の平穏な食事。
異世界に来ての暮らしにも慣れて冒険者として働いて生活をしている。
しかし、冒険者だけで生活出来る程世の中は甘くないことは重々承知している無苓は近い内に地球で得た知識をもとに生活用具を商売品として売るか、知的財産権を手にするかなども考慮している。
それでも今はこの平穏な生活を堪能できるだけで無苓は満足だ。
食後に昨日暇つぶしに作ったチュパチャプスを口にくわえて味わう。
物珍しそうに尚且つ欲しそうな目で見てくるゆんゆん達にも渡して食後のチュパチャプスをパーティーメンバーの皆で堪能した。
ちなみに味は林檎味。
味わいながら屋敷に戻る無苓達は順番に風呂に入って無苓は約束通りゆんゆんとボードゲームを始めてセルティは剣の手入れ、アリッサは既に就寝し始めた。
無苓はゆんゆんにボードゲームを教わりながら地球のチェスや将棋とは違い、魔法という概念があって若干ではあるがルールは違っていた。
「んん……負けました」
「えへへ、勝ちました」
初戦はゆんゆんに軍配があり、敗北したがこれでルールは完全に把握した無苓は反撃に出た。
「冒険者をウィザードに転職」
「甘いですよ。ここに盗賊を移動です」
「クルセイダーを移動」
「テレポート」
しかし、中々攻められない。
攻防共にバランスよく配置しているゆんゆんに隙はない。
紅魔族は知力と魔力に優れているとはゆんゆんから聞いて実際にゆんゆんの冒険者カードも見て確認もした。
これは中々の強敵であるゆんゆん。
真剣に駒を動かす無苓にゆんゆんは手早く駒を動かして徐々に無苓を追い詰めていく。
「ああ、一人でするのとは全然違う……」
悲しいことを嬉しそうに言うゆんゆんに無苓は今後も付き合ってあげようと思ったがこれはこれ。
勝負に手を抜くほど無苓は優しくない。
「ゆんゆん。一つ賭けをしませんか?負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くでどうですか?」
「いいんですか?私、勝っちゃいますよ?」
優勢のゆんゆんは余裕の笑みを浮かべているが無苓は不敵に口角を上げる。
「宣言しましょう。ゆんゆん、貴女は自らの意志で敗北を認めると」
それは勝利宣言。
減勢状態のはずの無苓はゆんゆんに向けて勝利を宣言した。
それを聞いたゆんゆんは少しご立腹。
「めぐみんみたいなことを言っても手を抜いたりはしませんから!ソードマスターで盗賊を撃破!」
「クッ!ならアークウィザードでクルセイダーを撃破です」
互いの知力で競い合う二人は熱が入り、鮮烈なまでの攻防を繰り広げる。
それを見たセルティはボードゲームでよくそこまで熱くなれるものだ、とぼやいていたが今の二人にはその言葉に耳を貸すほどの余裕はない。
相手より一手でも早く読み合い、計算して、駒を動かす。
この手、あの手と二人は知力をぶつけ合う。
駒を移動させて、撃破させて、潰し合う二人の決着は徐々に終盤に近付く。
負けたくない、その思いを糧に頭を働かせて指を動かす。
そして――――。
「これで王手です!」
ゆんゆんは王手をかけた。
残された無苓の駒では逆転は不可能。
もうゆんゆんの勝利は確定してる。
自身の勝利に何の疑問を抱かないゆんゆんは自信たっぷりに胸を張る。
第三者であるセルティから見てもここから無苓が逆転する手はない。
万事休す。その時に無苓はゆんゆんをじっと見る。
「な、なんですか?そんなにじっと見てきても私の勝ちは揺るぎませんから」
負けを認めない無苓に怪訝するゆんゆん。
そんなゆんゆんに無苓は
「ゆんゆん。今度、私の知り合いを紹介しますので降参してください」
微笑みながら無苓はそう告げた。
その隣でセルティがそんな勝ち方でいいのか……?と呆れていた。