誰が為に華は散る【鉄血のオルフェンズ外伝】 作:deburi
1
全長六〇キロメートルものコロニーが八基集合して形成されているドルトコロニー群の中で、テイワズ地球圏支部の存在するドルト6―――テイワズの艦船が多く停泊する港に、鉄華団の所有する強襲装甲艦イサリビはあった。
赤い装甲に五つの主砲を備えており、海老のようにも見える外見をしていた。全面に施された鉄華団のマーキングは、彼らがテイワズでも有数の武闘派集団であることを示しており、並みのチンピラであれば視線を向けることも躊躇してしまうほどの威圧感があった。
鉄華団は火星ハーフメタルの利権をテイワズに手土産にしたことでテイワズの直系組織として認められて以降、受注拡大とともにその名声を圏外圏に広めていった。名実ともに常勝無敗の武闘派集団として、その界隈で名を知らぬ者はいないほどの組織となっている。
現在彼らは地球支部にモビルスーツの輸送と定期連絡を行ってきたところだ。近々、アーブラウで防衛軍が発足されるという話があり、追加戦力として地上でも使用できるように改装されたランドマン・ロディを地球支部にも配備することを決定した。定期連絡に関しても、長距離通信では送れない直筆の書類の受け渡しなどを行っているのだが、やはり防衛軍発足に関する資料は多く、その処理だけで丸一日かかった。
イサリビの艦橋では、液晶画面が取り付けられたテーブルを団員たちが囲んで会議が行われていた。壁のそこかしこにスプレーの落書きやマーキングが施されており、スラム街の一角のようにも見える。団員の平均年齢も低く殆どが一〇代そこらであったが、業務を行う眼差しは数々の修羅場を乗り越えてきた歴戦の傭兵と同じものだった。
「テイワズに喧嘩を売った海賊の討伐か。JPTトラストのお偉いさんがうちに依頼出すなんて、変な話だよな」
そう言ったのはくねった金髪が特徴的な青年、ユージン・セブンスタークであった。テーブルに手をついて真剣に考えているその姿は、ごく普通の青年にも見える。が、彼もまた阿頼耶識手術を受け、背中に接続端子を持った少年兵の一人であった。
「地球支部帰りの俺たちを見つけて、ちょうどいいと思ったのかもしれねぇな」
ユージンの言葉に返事をしたのは、突き立った銀の髪をした背丈の高い男だった。ワインレッドのスーツの上に緑色のコートを羽織り、腕を組んで堂々と立っている彼の名前はオルガ・イツカ―――鉄華団の団長だ。鋭く伸びた前髪と一〇代とは思えない落ち着いた目は、白狼を彷彿とさせる。
「今まで世話になったこともない組織だろ? JPTトラストってーとテイワズの中でも古参で、俺らやタービンズをあまりよく思っていないところだった気がするが。どうなんだ、オルガ?」
「JPTトラスト。テイワズの商業部門を担当する下部組織だな。兵器や資材の流通販売を行っていて、傭兵団ともいくつか関わりのあるとこだ。俺らよりも金持ちで、顔も広い巨大組織だし、その気になれば自分たちで何とかできるだろうが……自ら動くまでもねぇ事案と思って、俺らに依頼してきたのかもしれねぇ」
テイワズの本拠地である歳星からここまではかなりの距離がある。傭兵を雇っても、最短距離で一週間はかかるだろう。となれば、テイワズ傘下で武闘派としても名高い鉄華団に海賊の討伐を依頼する流れは別に不自然でも何でもない。
鉄華団とて直系組織になったとはいえまだテイワズ内での地位は低い。ナンバー2が筆頭の組織の使いっぱしりにされるというのも納得はできた。
「月輪の鷹団って海賊は廃棄コロニーに潜伏している、か。こっちは地球支部にマン・ロディを全部置いてったところだ。戦力としては不安だな」
「いや、奴らは消耗している。今の俺たちの戦力でも難なく潰せるだろ」
「まぁ敵の戦力を見りゃ分かるけどな。モビルスーツ3機に手負いの強襲装甲艦か。戦闘になるかどうかも分からねぇな」
ユージンは依頼の書類を手で持って、それを読み上げながら言った。
「増援の情報はない。早いうちに片付ければ、そこまで面倒なことにはならないと俺は考えている」
テイワズ内部にも鉄華団を快く思わない派閥は多い。ここでJPTトラストからの依頼を蹴ってしまえば心象は悪くなる一方だ。逆に言えば使いっぱしりでも相手の思惑に乗ってやれば、それだけ相手に取って自分たちが「都合のいい存在」に思われる。
舐められてしまうわけにもいかないが、邪魔な存在に思われるよりはよっぽどマシだ。ここで功績を重ねて、今後のためにJPTトラストとも繋がりを持っておくに越したことはないと、オルガは判断した。
「どのみちテイワズの直系組織からの依頼だ。よっぽどの理由がない限り、蹴るわけにはいかねぇ」
最短で行くためにも、今は流れに逆らうことなく前に進むべきなのだ。
オルガは艦長席に座ると、艦内放送を繋いで言った。
「積荷の搭載が終わり次第、俺たちは月輪の鷹団の討伐に向かう。地球支部帰りで疲れていると思うが、もうひと踏ん張りだ」
放送から暫く経つと、イサリビはドルト6を出航し、目的地である廃棄コロニーへと向かった。
「また戦いになるかもしれねぇが。やれるか、ミカ?」
オルガは艦長席の隣に立つ、一人の少年に視線を向ける。袖丈の合わないコートを着込み、右手のギプスの中から火星ヤシ(デーツにも似た火星原産の果実)を取り出して淡々と口に運んでいる。
黒髪の少年は周囲の団員とは違い、どこか浮いた存在であった。緊張感もあれば人一倍落ち着いている。しかし異質だ。それは光を失った右目でも、感覚のない右腕によるものでもない。他人にあるはずのものが欠落しており、他人には決してないものが彼の中にはあった。それが何なのか。少なくとも平時の彼から想像はできないだろう。
「―――ん、やるよ。いつものことでしょ」
その問に迷いなく答えた少年の名は三日月オーガス。鉄華団の悪魔と称されるガンダムバルバトスを駆る、エースパイロットだ。
「この道が最短なら、俺のやることはもう決まっているから」
三日月はブレることのない目で、イサリビの航路を見据えていた。
2
「嘘だろ……こんなのヤバすぎるだろ」
「今まで生き残っていて良かった」
「うンめぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇ!!!」
「これが生き物の……肉」
「肉だ。これが肉の味なんだ……」
「でみ、で、み、でみならすーそ? なんて読むだこれ」
「毒入ってねぇよな?」
「……なんだこの食感は。全然パサパサしてない」
「これは芋、か? この赤いのと緑の野菜は何だ……」
「アスナ、あーんして」
シラヌイの艦内食堂では少年たちが歓喜の声を上げながらハンバーグランチを貪っていた。プレートを密閉状態にすることで長期保存が可能な弁当で、レンジで加熱して料理が完成する簡易食だ。しかし今まで携帯食料ぐらいしか口にしたことのないヒューマンデブリの彼らにとっては初めての味で、感動のまま昇天しようとする者が後を絶たない混沌とした光景が繰り広げられている。
暗礁宙域の戦闘から三日経った。シラヌイも艦内設備の整備もある程度進み、暗礁宙域も無事抜け出すことができた。団員の心にも余裕が生まれ、こうして皆で食卓を囲むことができるほどにまで安定している。
歓喜する団員たちの中で、自分のハンバーグを食べさせようとする花咲を制止しながら、アスナはプレートの上にあるニンジンを口に運ぶ。アスナ自身、ここ三日はずっと携帯食料を食していたため、ただの蒸したニンジンでも最高級の美味に感じられた。
「ああ……ニンジンいらないよ、と言っていた過去の私を殴りたい。口の中に甘味が広がっていく。なにこれスイーツ?」
このまま順調に航行が進めば、四日後にはドルトコロニー群に到着できる。もう少しでドルトコロニーまでLCS通信(エイハブ・ウェーブの影響を受けにくい短距離レーザー通信)ができる範囲に入り、反体制派と取引ができるようになるだろう。
今のところは順調だ。
ゆえにニンジンを美味しいと感じるのだろう。ようやく味覚が戻って、生きた心地のする状況となっているのだから。
「アスナ、ニンジンもあげる」
「ハナ……ハンバーグランチ好みじゃなかった?」
「こっちのほうがいい」
花咲はハンバーグランチをテーブルの隅に置いて、携帯食料を無心で食べ始める。昔から偏食家気質の花咲だったが、まさか一〇年間の戦火をくぐり抜け、それが強化されているとは予想外であった。てっきり泥まみれの果実でも平気で食べてしまうほど、タフになっているのかと思ったが、そうではないようだ。
「食事終わったら、皆に片付けるように言っておいて」
アスナはハンバーグランチを食べ終えると、花咲にそう言って席を立った。食堂の冷蔵庫からハンバーグランチを二つ取り出してレンジで加熱し、食堂を後にする。ちょうど食堂の前の廊下をまっすぐ行ったところの突き当たりに、その部屋はあった。
「ジャック、中にいる?」
ドアをノックすると、「いるぜー」と軽い返事が聞こえてきた。返事を聞くとアスナはドアを開けると、中にはジャックとベッドに横たわる一人の少年がいた。
「団長さんだ、こんにちは!」
少年の小さな体は薄汚れた毛布で肩まで隠れており、頬も削れて痩せこけていた。ジャックと同じ瞳の色と髪の色をしている。無邪気に笑う姿は、彼がまだ一〇代にも満たない年齢にあることをアスナに思い知らせていた。
「こんにちは、コスターくん。ハンバーグランチ持ってきたよ」
アスナはコスターの寝ているベッドの横にある丸椅子に座り、枕元のテーブルの上にハンバーグランチを重ねて二つ置いた。
「わざわざすまない、団長」
「気にしないで。仕事もひと段落ついて余裕あったし」
コスターは歳の離れたジャックの弟だ。運送業者の下請けを生業としている家に生まれ、六歳になるまでごく普通の生活を送っていたジャックとは違い、コスターは物心つく前からヒューマンデブリとして取引されたらしい。
「でもすごいね、兄さんは。こんな美人の団長さんと知り合いだったなんてさ」
「だろー? 俺が美少年だということが証明されたわけだ」
「……兄さんって、すぐに調子に乗ることが多いよね。こんな兄さんだけど、今後ともよろしくお願いします」
「ははは……」
アスナは考え事に夢中で会話の内容を聞き取れておらず、生返事しかできなかった。
ヒューマンデブリはその殆どが文字の読み書きのできない少年たちで、機械の操縦など出来るはずもない。その為、強制的に阿頼耶識の手術を受けさせられるのだ。阿頼耶識があれば教育がなくとも感覚で機械を動かすことができる。
もちろん非合法でちゃんとした設備のない場所で行うため、成功例が失敗例より少しだけ多い程度だとジャックは言っていた。ジャックは幸いにも成功し、モビルスーツパイロットとして第一線で活躍することができている。しかし弟のコスターは違った。
手術は失敗し、コスターは下半身不随になった。ナノマシンも定着することなく、むしろそれが原因で免疫不全に陥っている。風邪一つで生死の境を彷徨うこともあるらしい。
「そういえばこの前、俺ってば凄いことしたんだぜ?」
「なになに?」
「対物ライフルで敵モビルスーツを二機同時に仕留めたんだ。やはり俺は天才だった……」
「その話、前も聞いたー」
「そうだっけな……まぁいいや。ほら、ハンバーグランチだぞ。いつも携帯食料ばかりで飽きていたろ」
ジャックはハンバーグランチを開封すると、フォークでハンバーグを突き刺してコスターの口元に持っていった。コスターはハンバーグを口に入れると、何度もその味を噛み締めて喉の奥に落としていく。
「うん、美味しい! 食べ物ってこんなに美味しいんだね」
「だろー? 兄さんの分も食べるかぁ?」
「いいの!? やったー!」
アスナは二人のやり取りをただ見つめるしかできなかった。自分は下半身不随の少年にハンバーグの味を教えられた。だがそれ以上のことはできない。阿頼耶識の手術の失敗例など星の数ほどあるが、その治療方法は確立されていない。
それこそ最先端の再生治療を用いれば完治も不可能ではないが、莫大な金額が必要になってくる。今のアスナに用意できる金額ではない。一部の金持ちが再生医療を用いて二〇〇歳まで生きようとコツコツ貯めて、ようやく用意できるほどの金額なのだから。
「死ぬまでに食べられて本当によかった……」
コスターの言葉にアスナは目を背けざるを得なかった。彼は既に死を確信しているのだ。目の前に迫っている死。明日か明後日か、明々後日か。そう遠くない未来を見据えて、それでも明るく生きようとしているのだ。
アスナはジャックとコスターが話しているのを見ながら、静かに部屋を後にした。廊下でジャックが出てくるのを静かに待っていた
「月輪の鷹団を大きくすれば、いずればあの子の治療も……」
しかし今すぐではない。一〇年かかったとして、彼がそれだけ生きるのかも分からないのだ。今は前を向いてひたすら走るだけ。それは分かっている。だが、立ち止まって考えずにはいられないこともあるのだ。
「団長か、待っていてくれたの?」
「うん。一人じゃちょっと、ね」
部屋から出てきたジャックに泣き顔は見せまいと、アスナはぐっと目に力を込めて彼をまっすぐ見た。ジャックはアスナの行動に不思議に思いながらも、どういうことなのか察して静かに語り始めた。
「あいつはもう長くは生きられない。分かっているんだ」
「ジャックさん……」
「でも失いたくないって気持ちは俺にもあるよ。あいつは俺のたった一人の家族なんだから。どれだけ考えても、諦めきれない命ってあるんだな」
ジャックは他のヒューマンデブリの子供たちとは少し価値観が違った。自分の命を道具だと思い込み、むやみやたらに犠牲になろうとはしない。命に対して確かな実感を彼は抱いていたのだ。その理由が弟、コスターなのだろう。
「俺は今まであいつの命を背負っていきてきた。あいつが手術に失敗して廃棄処分されそうになった時も、必死で団長を説得して助けてもらったんだ。その代わり、俺はコスターの分まで働いた。人の二倍戦い、人の二倍功績を上げた。そうしなきゃ兄弟揃って不要だと切り捨てられる世界だったからな」
ジャックの瞳は悲しげだった。
「幸い、俺は天才だった。銃の撃ち方もすぐに覚えたし、拳銃一つで何でもやれた。モビルスーツの操縦だって花咲が来る前は一番だった。おかげでたった一人の家族を、今日この瞬間まで支えていけたんだからな」
彼の狙撃の腕は超一流だ。いくらヒューマンデブリとはいえ腕前が認められれば、相応の待遇をしなければ、いつか脱走されてフリーの傭兵になられてしまう。そうならないためにも月輪の鷹団はコスターを人質に取っていた。そしてコスターの生活の保障と引き換えに、ジャックはヒューマンデブリとして戦い続けることを選んだのだ。
「だから、団長には本当に感謝している。あの時、あんたを信じて良かった」
「私、頑張ってみる。これから先の仕事が上手くいけば、弟さんの治療費だって何とかなるかもしれない。それこそ実家の財産も足したら、免疫不全だけでも治せるかも。だから、私は諦めたくない。今の私にできることがあるなら、何でもやりたい」
「だけどそれじゃあ、月輪の鷹団は―――」
「最低限運営できるお金は残しておくけど、まずは弟さんの治療費を稼がないとね」
「いいのか」
海賊行為をしていた頃の月輪の鷹団では考えられないことだった。団員の弟の命を助けるために、莫大な金額の治療費を支援するなど。使い捨て同然の消耗品扱いだったヒューマンデブリの命を、全力で助けようとする人間をジャックは見たことがなかった。
「ええ。コスターくんも、大事な団員の一人だから。それに彼がこうなったのも、月輪の鷹団が違法に子供たちを買い取って阿頼耶識の手術をしたせいだし。その責任は絶対に取らないといけないと思うの」
アスナはどんな時でも諦めずに、命を向き合おうとしていた。
たとえそれがどんな結果になろうとも、仕方がないと目を背けることは絶対にしない。
人の命に対して、精一杯足掻いて何が悪い。
3
『で、依頼は受けることになったんだな』
イサリビ艦内の一室でオルガは机の上に置かれた端末の液晶を介して、一人の男と会話をしていた。音声のみの通信となっており、その声は渋みのかかった大人の男を感じさせるものであった。部屋は薄暗く、液晶の光がオルガの苦い顔を照らしている。
「ああ、兄貴。ここで依頼を蹴るわけにはいかねぇと判断しました」
『そうか。確かに話だけ聞いてちゃ簡単な依頼だ。修羅場をいくつもくぐり抜けてきたお前らなら、難なくこなせるだろうよ』
彼の名前は名瀬タービン。テイワズの輸送部門を管理する直系の下部組織タービンズの代表だ。オルガとは義兄弟の盃を交わした仲でもある。
『しかしJPTトラストか』
「やっぱ俺らのこと良くは思ってないンすよね」
『だろうな。あっちはテイワズでも古参の組織だ。新参者のくせに成り上がってきた俺たちのことを快く思ってはいないだろうな』
名瀬もまたテイワズ加入後、クレーテ回廊を始めとした独自の大規模輸送網を構築し、その功績が認められて直系の組織まで成り上がった身である。
『それにあそこの代表、ジャスレイ・ドノミコルスは悪い噂も絶えねぇ男だ。何か計略を打ってこないとも限られねぇぞ』
「じゃあ俺らはハメられたってことですかね」
『そう考えるのは早計だが、警戒するに越したことはないだろう。テイワズも一枚岩じゃあない。信用しすぎるのも、疑いすぎるのも、悪手だ』
「はい……」
『確かにメンツも大事だが、それよりも大事なもんはいくらでもあるからな。忘れるなよ』
鉄華団はオルガにとって家族なのだ。彼らを危険にさらすわけにはいかない。鉄華団はJPTトラストからの依頼を、たとえテイワズのナンバー2からであったとしても受けないという選択肢もある。オルガもそれが一番の安牌であることは承知していた
かといって依頼を蹴ってしまえば、それを理由にテイワズ内で悪評を広められかねない。こんなことで足踏みをしている場合ではないのだ。最短で成り上がり、一刻も早く団員たちが戦わなくて済むよう戦闘以外の事業を拡大しなければならない。
そのためにはどんな状況でも功績を重ねていく必要がある。長引けば、犠牲は増えていくのだから。
オルガは頭を抱えて、しかし静かに答えた。
「ありがとうございます、兄貴」
『家族を守りてぇって気持ちは理解できるし、そのために前に進み続けなきゃいけねぇってのも分かるさ。要は焦りすぎるなってことだ』
「はい、肝に銘じます。……ところで、兄貴は今どこに?」
『ちょうど月のコロニー群で仕事の話をしている……駆けつけられねぇ距離でもないが、少し取引先とトラブってるところだ。何かあってもハンマーヘッドは寄越せない』
いざとなれば自分たちだけで切り抜けるしかない。イサリビに搭載されているモビルスーツはバルバトスとグシオンリベイクとグレイズ改弐の三機のみだ。情報が正しければパイロットの練度も含めて、こちらが圧勝している。しかし情報通りでなければ窮地に立たされることも覚悟する必要があった。
『このタイミングで足止め食らうのは俺も少し変だと思っている。こっちでも色々調べておくさ』
「何から何まで世話になります……」
『気にするな。弟を守るのが兄の役目だ。お前らはお前らが思うように、前に進んでいきゃいいのさ』
「ありがとうございます」
オルガは深々と頭を下げて、そう言った。
イサリビはあと半日もすれば廃棄コロニーに到着するだろう。そこで全てが分かる。これが真っ当な依頼なのかどうかも。