誰が為に華は散る【鉄血のオルフェンズ外伝】   作:deburi

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第8話:鉄華団の悪魔(前編)

     1

 ドルトコロニー群に向かう途中で廃棄コロニーと呼ばれる場所を通過しなければならない。アスナは廃棄コロニーの噂をよく耳にしていた。

 

 曰く、ビーム兵器によって殺された住民たちが幽霊となって今も彷徨っているとか。曰く、幽霊の正体はギャラルホルンに発見されないまま徘徊し続けるモビルアーマーだとか。曰く、そもそも幽霊など存在せずギャラルホルンの特殊工作部隊の秘密基地になっているだとか。

 

 とにかく様々な噂の絶えない、いわくつきの場所であった。現実的な話をするならば、海賊の急場しのぎの隠れ家として用いられることもあり、略奪行為などの被害が年に数回報告されている程度だ。

 

 シラヌイも周辺宙域に警戒しながら、廃棄コロニーの横を航行していく。人間が宇宙空間に建造した円柱状の居住区であるコロニーは、直径二〇万キロメートルの超巨大建造物であり、その全長は七〇万キロメートルを越える。厄祭戦当時はコロニーコアという支柱を中央に作り、それを軸に回転することで重力を発生させていたという。

 

 しかしそれも昔の話。シラヌイの横に浮かぶかつてのコロニーは、外装が剥がれ落ちて荒廃した内部が露出していた。無重力となったコロニーの中で無数の瓦礫が浮遊している光景は、艦橋からでもよく見えた。

 

「ここを抜ければ、ドルトは目の前よ」

 

 アスナは艦長席に座り、シラヌイの航行を見守っていた。しばらくするとリウが焦り気味の大声で報告をしてきた。

 

「エイハブリアクターの反応複数あり!!!」

「敵襲!?」

 

 運悪くコロニーに潜んでいた海賊と鉢合わせしてしまったのか。アスナは艦長席を立って状況を確認する。

 

「廃棄コロニー内部にいるようです!!! LCS通信が送られてきましたが受けますか!?!?」

「ええ、繋げてちょうだい」

 

 海賊であれば、コロニー内部に潜んでいた場合は通信よりも先にモビルスーツを差し向けてくるはず。わざわざ隠れておきながら通信をしてくるということは、敵意がないのか、それとも通行料を支払わされるのかどちらかだ。

 LCS通信が繋がると、艦橋のモニターに見覚えのある男の顔が映った。

 

『アスナか! 無事で良かった。迎えに来たよ、愛しの我がフィアンセ!』

 

 忘れるはずがない、そのマヌケヅラを。かつてアスナを見捨てて、自分ひとりで脱出した彼女の許嫁、ライオネル・ランスローだった。

 

「え……」

『お互い激しい戦闘を生き抜いた身。話したいことは山ほどあるが、まずはこちらに来てくれないかい?』

「あ……」

 

 予想外すぎた。てっきり彼は月輪の鷹団を見限って、どこか別の名家に縁談を持ちかけ、権力を手にすることに必死だと思っていたのだから。心変わりでもしたのだろうか。いや、彼の様子から己の行動を恥じているようなものは一切見当たらない。

 ならば何故か。

 

「は、はい……」

 

 アスナは反射的にそう答えてしまった。手が震え始め、思考が閉ざされてしまったのだ。アスナの脳に刷り込まれた記憶が「彼に従わなければいけない」と、行動や思考を捻じ曲げていく。

 

『それでこそ僕の女だ。さぁ共に戦い、鉄華団を討ち取ろうではないかい』

 

 これから先、ろくなことにならないと分かっていても、今のアスナたちは従わざるを得なかった。感情的にも、戦力的にも。サブモニターに表示されていたエイハブリアクターの反応は戦艦だけでも四つあったのだから。

 

「え……鉄華団って」

 

 ライオネルが言うには、月輪の鷹団の討伐依頼を鉄華団が受けたというのだ。たしかに鉄華団はテイワズ直系の下部組織なので可能性は十分にあった。今のアスナたちが戦うべきでない相手なのは自明の理である。

 ならばテイワズに投降し、賠償金を支払って示談に持ち込む。そういう選択肢しかないだろうとアスナは考えていた。

 

 しかしライオネルは違った。鉄華団が月輪の鷹団を討伐するという情報を手に入れた彼は、わざわざ傭兵を雇って船団を結成し、逆に鉄華団を倒そうとしている。ライオネルたちの船団が向かっている情報を鉄華団は知らない。故に奇襲攻撃をかければ簡単に袋叩きにできるだろうという算段らしい。

 事態はアスナの知らない場所で、引き返せないところまで進んでいた。

 ほどなくしてシラヌイは廃棄コロニー内にいるライオネルの船団と合流した。

 

 

 

     2

「会いたかったよ、アスナ!」

 

 シラヌイの艦橋に入ってきたライオネルは一目散にアスナの方まで歩み寄ってくると、両手を大きく広げて高々に叫んだ。しかしアスナはライオネルの胸に飛び込むようなことはなく、ただ震えた手を後ろに隠しながら返事をした。

 

「はい」

「素っ気ないじゃないか、もっと喜んでくれないと」

 

 ライオネルの後ろには筋肉質な長髪の大男―――シドレー・アルカラッドが控えていた。ライオネルの護衛と称して逃げ出した傭兵の一人だ。アスナも覚えていた。

 

「……ええ、嬉しいです。よくぞご無事で」

 

 シラヌイは現在、ライオネルが率いている船団とともに、廃棄コロニーの中で停泊している。外ではアスモデウスの改修作業が急ピッチで行われていた。先の戦闘で受けた損傷箇所の修復とともに、武装の大幅追加も行われているらしい。

 どうやら既にライオネルは鉄華団との徹底抗戦を想定しているようだ。

 

「ヒューマンデブリのお前たちも、よくぞ今までアスナを守ってくれた!」

 

 ライオネルはいつにもまして浮き足立っている印象だった。それほど勝算のある戦いなのだろうか。それとも彼の浅学から沸き上がってくる根拠のない自信か。

 

「この船を君一人が指揮していたのかい?」

「はい」

「さすがは僕が見込んだ女だ! 女が旗を持ち立ち向かうなど、まさに現代のジャンヌ・ダルクさ! しかしながらやはり女に戦争をさせるには無理がある。そこで僕と正式に結婚して、マリーメル家の財産と月輪の鷹団の指揮権を全て僕に預けて欲しいんだ」

 

 やはりそういうことだったか。ライオネルにとってアスナは父の持っている利権や資産を手にするための手段にしかすぎない。

 しかしそうなれば月輪の鷹団の団員たちはどうなる? 彼らの命をライオネルに預けていいのだろうか。

 

 圏外圏で名を知らぬ者はいないであろう常勝無敗の武闘派集団、鉄華団を相手に戦うということがどういうことなのか、彼は本当に理解しているのか。

 否、彼は目先の利益しか見ていない。物量で制圧するにしても、犠牲は出る。それこそ敵の練度はこちらよりも遥かに高いはず。たとえ勝てたとしても、多くの犠牲を払って手にするのは鉄華団を倒したという名声のみ。

 そうなれば、ただでさえ暗礁宙域の一部を不法占拠していた月輪の鷹団は、テイワズと敵対関係を強めてしまう。それこそ徹底的に潰されるだろう。

 

「敵はこちらが一隻だと信じきって討伐にしにくる。だが実際こちらは戦艦五隻に、モビルスーツは十五機! いくら鉄華団でもこの戦力差はどうしょうもないだろう! どうだ、僕の完璧な作戦は。結局、戦いは数なのさ!」

 

 断らなければ。

 彼は月輪の鷹団のヒューマンデブリたちを使い捨ての駒として利用し、強引に成り上がろうとしているだけである。

守ると誓ったはずだ。もう誰も犠牲にしないと決意したはずだ。だから―――。

 

「――――――」

「どうした? 僕の言うことが聞けないというのかい?」

「……もう誰も犠牲にしないで、くだ、さい」

「ん? 聞こえないな」

「もう誰も犠牲になるようなことはしないでください!」

「はぁ? 犠牲になるって、ヒューマンデブリどものことを言っているのかい?」

 

 ライオネルの表情が歪み、アスナの首元を掴むと歯ぎしりをしながら叫んだ。

 

「僕がいない間に、デブリどもに情でも沸いたというのか!」

 

 アスナは首元を掴まれた後、思いっきり投げ飛ばされた。壁に背中を打ち付けて、鉄の床に崩れ落ちる。彼は力が強いというわけではなかったが、手加減ということを知らないから質が悪い。痛みと恐怖で息が暫く詰まった。

 

「あ、あっ……あっ……」

 

 それを見たオペレーターのリウは立ち上がり、ライオネルに歩み寄ろうとした。

 

「あんた、何している!!!」

「はぁ……こんなゴミに慕われているのか、君は。シドレー、頼むよ」

「ええ、任せてください」

 

 リウの前に立ったシドレーは、彼を大きな手で取り押さえると床に叩きつけた。

 

「所有者様に歯向かう道具がどこにいますか?」

「アスナ団長!!!」

「品が無いですね。あと煩いですよ。私の鼓膜を破る気ですか」

 

 そう言ってシドレーはリウの頭を殴りつけ、彼の意識を落とした。リウが気絶したのを見ると他の団員たちも立ち上がってなんとかしようとしたが、ライオネルはそんな周囲の様子に目を向けることなく、アスナに言った。

 

「もう一度、お願いするよ。僕に指揮権を譲ってくれないかい?」

「い……い、や」

「僕に指揮権を譲れって言っているんだよ!!」

「がっ!」

 

 床に崩れたアスナの腹に蹴りを入れたライオネルは、彼女の髪を引っ張って強引に持ち上げると、顔を近づけて言った。

 

「君は僕のものだろう? 女の君が僕に歯向かうのかい?」

「……あ」

 

 ライオネルのポケットの隙間から拳銃が見えた。力づくでも従わせるつもりだろう。アスナだけではない。ここにいる子供たち全員を殺してでも、彼は自分の思い通りにことを運ばないと気がすまない人間なのだ。

 

 幼い時からそうだ。アスナは男こそがこの世の正義と呼ばれた狭い箱庭で育ってきた。言うことを聞かなければ折檻が待っていたし、男に意見するなどもってのほかだった。

 

 ライオネルも同じ世界で生きてきた。許嫁になったその日から、表面上はアスナに優しい顔をしていた。だが、彼の思い通りに動かなければ、当然のように罵倒され時には殴られることもあった。彼の思い通りの食事を作り、彼の紹介した演劇はつまらなくても笑っていなければいけない。権力者の知り合いの前では良い顔をし、彼を立て、自分は彼と一緒にいて幸せですと嘘をつき続けなければない。

 

 言葉だけでなく、表情や行動で。

 ずっと支配されてきた。

 今までも、そしてこれからも。

 

「はい……月輪の鷹団の指揮権を、貴方に預けます」

 

 気持ちでは守りたいと思っていても、体に染み付いた恐怖はアスナの全てを支配していた。手が震え、悪鬼にも似た男が目の前にいる。逆らえば殺される。逆らえば、この世のあらゆる苦痛を与えられながら、惨めに命をもぎ取られる。

 だからアスナは動けなかった。主張できなかった。声を上げられなかった。

 

「ああ、それでいいんだ、それで。僕の愛を素直に受け入れておけばいいんだよ」

 

 ライオネルはアスナを突き放すと、艦内放送を行った。

 

「これより、月輪の鷹団の団員はランスロー家当主であり、アスナ・マリーメルの許嫁、ライオネル・ランスローの指揮下に加わることとなった。さぁ鉄華団を討ち取り、栄光を手にしようではないか!」

 

 

 

     3

 花咲は格納庫の中で手すりに寄りかかり、鉄の天井を眺めていた。格納庫にアスモデウスの姿は無い。そんな花咲の隣にジャックは立ち、携帯食料を食べている。普段はあまり喋らない二人だが、こういう非常事態になると情報の共有も含めて話をする。あくまで業務連絡的なやり取りだが、今日は違った。

 

「自分の愛機が近くになくて不安か?」

「それはどうでもいいわ」

「まぁ元々は売り物だったからなー」

 

 アスモデウスはシラヌイの格納庫内では取り付けられない装備があるため、船外で作業が行われているらしい。鉄華団の悪魔と呼ばれるエースパイロットを倒すため、阿頼耶識のリミッターを人体が耐えうる限界まで調整し直しているとも聞く。

 しかしそんなこと、花咲にとってはどうでもよかった。

 彼女にとって、敵を殺せる―――アスナを守れる兵器なら何でも良いのだから。

 

「ライオネルとかいう男のことか。何か放送で言ってたな」

「ええ。あいつ、嫌な感じがする」

「同感だ。いい声をしていた。俺より美形かも」

「そこ?」

「ああ、重要だろ?」

 

 花咲は呆れた様子でジャックから視線を逸らし、ポケットから携帯食料を取り出して口に運んでいく。

 

「アスナの許嫁って言ってたけど、突然やってきて鉄華団を討とうなんて変な話よ」

「許嫁ってどういう意味だ?」

「結婚する予定の相手のこと」

「……なるほどね。ちょっとショック」

「それでショック死することを祈っているわ」

「ひでぇ言いようだな。ま、たしかに変な話ではあるな」

 

 花咲やジャックのようなヒューマンデブリの子供たちは、他人に選ばされた戦場しか知らない。ゆえに戦場が何故そこにあるのかを知らないのだ。どうしてライオネルとかいう人物が突然現れて鉄華団と戦おうとしているのか、どうしてアスナが何故指揮権を移譲したのか、花咲たちが知り得ることではなかった。

 

「ただ今は指揮官を信じて戦うしかないでしょ」

「……あんたって呑気ね」

「そうするしかないから、そうしているんだよ。」

 

 命を賭ける意味も知らず、今まで二人は戦い続けた。今回もそうだ。そのはずなのだ。

 

「でもアスナが心配」

「……それは俺もだよ」

「じゃあ何で動かないの? やっぱり男って、いざという時に情けなくなる。軟弱者」

 

 そう言うと、花咲は携帯食料を全部口に詰め込んで格納庫を出ていこうとした。

 

「おい、もうすぐ作戦開始だぞ」

「まだ時間はあるでしょ」

「ああ、わかったよ。ブロックには、彼女は少しお通じが悪くて遅れるって言っておく」

「それを言ったら後ろから撃つわよ」

 

 どうしてもアスナのことが心配で、花咲はいてもたってもいられなくなった。廊下を駆け抜けて、戦闘前で張り詰めた様子の人々をかき分け、艦橋まで向かった。

 

「アスナ!」

「……ハナ?」

 

 花咲が艦橋に入ると、戦闘前とあってか各種オペレーターによる作業が急ピッチで行われていた。艦長席の隣にあるのはアスナの後ろ姿。そして本来ならば、リウが座っているはずの前方の席に見知らぬ大人が座っていた。そこだけではない。オペレーターは全員、月輪の鷹団の団員ではなくなっていたのだ。

 それで事態を察した花咲は、艦長席に座するライオネルに詰め寄る。

 

「あんた一体何者なの? いきなり現れて指揮権を―――」

「女のくせに臭いな、お前。香水でもつけろよ」

 

 ライオネルは花咲に軽蔑の眼差しを向けると立ち上がり、彼女を突き飛ばした。そして隣に立つアスナの右腕を強引に掴んで引き寄せると言った。

 

「放送でも言ったとおり、この艦の指揮権は僕にあるんだ」

「勝手に決めないで! それはアスナにあるはずよ!」

「お前らデブリは文句を言わずただ従っていればいいんだよ。人間様に歯向かうなって教わらなかったのかい?」

「私のことはどうでもいい! アスナをどうするつもり!?」

「どうするも何も」

 

 花咲の問いかけに、ライオネルは歪んだ笑みを浮かべて答える。引き寄せたアスナの体を前に持っていくと、彼女の後頭部を左手で抱き寄せて戸惑うことなく唇を重ねた。抵抗しようとするアスナの腕を右手で掴んで、爪が皮膚に食い込むほどの力で押さえた。

 

「やめ……」

「はぁっ……アスナ、君は僕のもの……じゃないか」

 

 ライオネルがそう言うと、アスナは抵抗をやめ、体の奥深くまで彼が入ってくるのを受け入れた。いや受け入れなければならなくなったのだ。抵抗しようとしていた右手はいつしか震えて、何もできずにいた。

 一方的な欲求をアスナに押し付けたライオネルは、彼女から唇を離すと花咲の方を見て彼は得意げに言った。まるで自分がこんな美しい女の唇を奪える男なのだと見せ付けるように。

 

「僕とアスナは愛し合っている」

 

 誰がどう見ても、アスナは傷つき恐怖していた。自分がいない間にアスナに何があったのかは分からない。ただ、花咲は内に沸き立つ衝動を抑えきれなくなり叫んだ。

 

「お前ぇぇえぇぇぇええぇえぇえぇぇぇえぇぇぇぇ!!!」

 

 目の前の奴を殺す。殺さねばならぬ。アスナを傷つける者は全て。

 

「やめて。見ないで……ハナ」

 

 しかしそう言ったのはアスナだった。一番傷つき恐怖している、彼女だった。

 

「信じて……私を」

「アスナ……」

「そういうことだよ。君たちデブリは指揮権を持つ僕の言うことを聞いていればいいんだ。さぁ彼女を守りたいのだろ? なら戦えよ。鉄華団の奴らを殺して彼女を守れ。どのみち敵は僕らを殺しに来るさ! じゃあ殺すしかないだろ。皆殺しだ! こんなところで言い合っている場合ではない。奴らはアスナを殺しに来るぞ! 殺しに来るぞ!」

 

 どうすればいいのか分からない。アスナは苦しんでいる。守らなければいけないのに。助けなければいけないのに。だが、アスナはそれを拒んだ。

 何を自分は守ればいいのだろうか。

 彼女の意思か、それとも。

 

「アスナ、私はどうすればいいの?」

「…………」

「ねぇ、答えて。答えてくれたら私なんでもするから! なんでもするからさ!」

 

 目の前にいる奴を殺せと言われれば、今すぐ掴みかかって首根っこを噛みちぎってやる。彼に従い鉄華団と戦えと言われれば、悪魔だろうがなんだろうが全員殺して帰ってきてやる。アスナが助けてとさえ言ってくれれば―――。

 

「ごめん、なさい」

 

 返事は答えではなかった。

 

「守るんだよ! 僕と、それとアスナを守れ!」

「…………」

「戦えば全て解決するだろ! 敵を全員殺せ!」

 

 そうだ。戦いだ。戦争だ。殺し合いだ。

 一〇年前、ある傭兵の元で戦争を知ってからずっと、それを実践し続けてたではないか。領土を巡った争いも、宗教間での争いも、全て戦争一つ起きれば解決できることだった。敵がいなくなれば彼らは大切なものを守ることができた。

 

 花咲はそれしか知らない。

 知らないからこそ、花咲はそれしか選択できなかった。

 他にあるはずの選択肢を考えることなく、思考を停止させて従った。

 結局、花咲は自分で戦場を選ぶことなどできなかったのだ。

 

 間もなく、鉄華団の強襲装甲艦イサリビが廃棄コロニーに接近し作戦が開始された。シラヌイを除く4隻の戦艦が廃棄コロニーから飛び出し、次々とモビルスーツが宇宙に解き放たれていく。

 

 

 

     4

 オルガの悪い予感は的中してしまった。

 一隻かと思われていた月輪の鷹団だったが、廃棄コロニーから飛び出してきた戦艦は四隻だった。しかも旗艦とされるシラヌイはそこにはおらず、廃棄コロニー内に隠れていたのだ。次々と戦艦から出撃してくるモビルスーツの数は一〇機を超えていた。

 

『クソっ……この数の援軍。奴ら、本気で俺らを潰しにかかっているようだ』

 

 回線越しにオルガの息の詰まるような声が聞こえるが、三日月はそんな彼を安心させるわけでも、慰めるわけでもなくただ一言。

 

「んじゃ、援軍もまとめて潰してくる」

『相変わらずだな。だが、ミカは廃棄コロニーの中から敵の旗艦を狙ってくれ。ここで下手に守りに入るとジリ貧になる。だからこそ敵の大将を一気に叩く。ここは何とか俺らで持ちこたえてみせる』

「オルガの考えた作戦ならいいと思う」

 

 三日月の瞳に迷いはなかった。

 イサリビの格納庫でバルバトスに乗った三日月はシートに座ると、阿頼耶識で機体と繋がり起動させる。装甲こそ取り替えているものの、バルバトスのフレームはガタがきているようで、負荷はいつもより大きかった。しかし三日月にとっては寝違えた程度だ。操縦に大きな支障があるわけではない。

 

 鉄華団の悪魔と称されるそのモビルスーツは白をメインカラーとしたガンダムフレーム機であり、その双眸に潜む殺意はアスモデウスよりもさらに研ぎ澄まされていた。装甲の所々にある傷は多くの戦場を駆け抜けてきた証だ。

 頭部アンテナは二年前よりも長くなっており、両肩のアーマーは百錬のものを流用してある。バックパックは全体的に大型化した新型のものに置き換わっていた。

 

『わりィな、ミカ。かなり厳しい戦いになりそうだ』

「いいよ、別に」

 

 三日月はヘルメットのバイザーを下ろすと、バルバトスと接続したことで動くようになった右手で操縦桿を握る。

 

「これは俺が選んだ戦場だから」

 

 あの日、あの時、三日月は自分の命の使い方を決めた。

 オルガが教えてくれるのなら、誰でも殺す。何でも壊す。いつか辿り着く場所を信じて走り続ける。前に前に、前に。

 そうだ、ここは三日月自身が望んで立っている戦場なのだ。

 

『ああ、頼んだぞ、ミカ』

「任せて」

 

 回線は切れ、バルバトスは格納庫の展開した床の向こうへ吸い込まれていく。カタパルトに固定さて、宇宙へと飛び出すその瞬間を待つ。

 背中のバックパックには二本のアームが伸びており、そこに200mm砲が装備されていた。これは前方に展開することで射撃することができるもので、両腕に装備している機関砲とともに火力を増強している。またバックパックの左右にあるハードポイントにはメイスと太刀が装備されていた。

 やがてカタパルトが展開し、出撃準備が整う。

 

「んじゃ。三日月オーガス、ガンダムバルバトス。出るよ」

 

 いくつもの戦場を駆け抜けてきた最強の機体と迷いなき意思が宇宙へと放たれる。敵がいくついようとも関係ない。

 殺せる敵なら、殺すだけだ。

 

 いつか辿り着くまで。

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