誰が為に華は散る【鉄血のオルフェンズ外伝】   作:deburi

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第8話:鉄華団の悪魔(後編)

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 シラヌイの艦橋では鉄華団の旗艦イサリビから送られてきたLCS通信を受信していた。メインモニターに大きく映っているのは、鉄華団団長オツガ・イツカの険しい表情だった。

 

『降伏はしない、ということだな』

「それはこっちのセリフだとも」

 

 そう答えたのはシラヌイを含める全艦隊の指揮権を持つ男、ライオネル・ランスローだ。彼は意気揚々と返事をし、艦長席に座って足を組む。

 

「この数で勝てると思っているのかい?」

『ああ、そうだ。見たところその場限りの寄せ集めの傭兵たちで士気も低いはずだからな』

「士気? なんだそれは? モチベーションが高ければ勝てるなんて本気で思っているのかい? いやぁ野蛮人の思考は違うなぁ。脳筋思考っていうの。アレ大嫌いなんだよねぇ。少し大きな仕事したからって調子乗っているわけ?」

 

 ライオネルは余裕の表情で、メインモニター越しに相手を馬鹿にするような口調で語っていた。

 

 そんな中、アスナは自ら申し出て、艦橋のオペレーターとして入っていた。指揮権を移譲した今でも、月輪の鷹団の皆のために戦うべきだと考えたのだ。未だに唇に残る気持ち悪い感触に吐き気を覚える。そして心に突き刺さる罪悪感を噛み締め、オペレーター業務に励んでいた。

 

(私があの男に屈しなければ……私がもっと強かったら……)

 

 しかし現実は非情だ。たとえアスナが反抗したとしてもライオネルは力で彼女を押さえ込み、強引に指揮権を奪っていただろう。月輪の鷹団の戦力で彼に反抗しても多くの犠牲を出してしまうだけだ。鉄華団にやられるよりも前に、内輪揉めで皆殺しにされるかもしれない。

 ゆえにアスナはあの時、どちらにせよライオネルに従わざるを得なかったのだ。

 

 こうなった以上、鉄華団を倒して道を切り開くしかない。何としてでも月輪の鷹団の皆が生き残れる道を探さなければ。他に道はない。

 

『アンタ、何も分かってねぇようだな』

「へぇ? 戦いは数、それ以外に大切なことでもあんの?」

 

 オルガとかいう男の言うことは正しいと、アスナは思った。その場限りで雇った傭兵には逃げ場所があるのだ。逃げ場がある以上、ここで命をかけて戦うわけにもいかない。しかも相手は常勝無敗の武闘派集団。少しでも形勢が傾けば逃げ腰になり、そこからどんどん崩れていく。

 

 対する鉄華団に逃げ場はない。逃げ場を失った者は命懸けで戦う。そして逃げ場を失った状況に彼らは慣れているのだ。いくら数で圧倒していたとしても、練度と士気は決して覆ることはない。彼らは追い込まれれば追い込まれるほど強くなっていくだろう。

 

「今なら降伏も受け入れてやるけど? 僕の寛容な精神でさ。お前らガキども皆、うちで世話してやってもいいぞ? ヒューマンデブリとしてだけどなぁ」

『ンなら決まりだ。アンタらをぶっ潰す。後で泣き言ほざいても聞かねぇからな』

「もういいぞ、通信切って。反応がつまらない」

 

 ライオネルは一方的に通信を切ると、座席横に置いたハーブティーの入ったカップを手に取り一口飲んだ。

 

「全艦隊前へ。野蛮人どもを粛清だ!」

 

 戦いが始まる。

 アスナは祈ることしかできない。ただ月輪の鷹団の皆が無事に帰ってくるように、と。

 

 

 

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 シラヌイは廃墟のビル群の影に隠れつつ、搭載しているモビルスーツを戦場へと吐き出していく。ジャックのユーゴーと、ゴードンのゲイレールはコロニー外に出ている艦隊と合流し、鉄華団の旗艦イサリビと交戦中のようだ。花咲とシドレーは廃棄コロニー内を直進し、後方からイサリビに奇襲攻撃をかけることとなっている。

 

 宇宙用のパイロットスーツに着替えた花咲は、シラヌイの外で装備の交換が行われていたアスモデウスのコックピットに飛び移った。アスモデウスは背の高い廃墟ビルに囲まれた高速道路の上で、整備班の最終チェックを受けていた。シラヌイ内で換装できなかった装備、それはこの巨大なバックパックにある。

 

 モビルスーツには些か大きすぎる二基のブースター、アスモデウスの両腕を覆うように伸びている鋭い大型アーム。クタン参型と呼ばれるそれは本来、モビルスーツの長距離輸送に使用される装備である。しかし左右の大型アームと、各所に火器を装備可能なアタッチメントが存在することから、モビルスーツの強化武装として使用されることも多い。

 

「……私はどうすれば良かったの」

 

 花咲の脳裏に浮かぶのはアスナの苦しんでいる顔だった。あの男がアスナを苦しめているのは明らかだ。自分はどうするべきだったのか。殺すべきか、従うべきか。分からない。あの男を殺せば全て済む問題だったのか。そもそも、アスナにとってあの男は何なのだ。

 

 花咲はアスナのことを何も知らなかった。一〇年間、神のように毎日祈ることしかしてなかった。アスナがその時何をして、何に泣き、何に苦しんでいたのか。知らない。

 

「今は、やるしかない。迫り来る敵を殺すだけ」

 

 とめどなく溢れ出る濁った思考を振り払い、花咲はコックピットシートに座る。阿頼耶識の接続が開始され、いつにもまして大きい接続負荷に歯を食いしばって耐えた。

 

「はぁっ……あっ……」

 

 いつもと感覚が違った。今までは思考から身体感覚を経て機体に動きがフィードバックされていたが、今は思考と機体が直結している感覚があった。まるで自分がアスモデウスになっているような。リミッター限界まで調整してあるのだろう。初めての感覚だった。

 

 アスモデウスの両肩はバズーカ砲が取り付けられた装甲に変更されている。元々はギャラルホルンの量産型モビルスーツ、グレイズの拡張装備だったらしい。そしてクタン参型の上面には二丁の滑空砲、両手に持つのは90mmサブマシンガン、腰アーマーにはグレイズなどでよく使用されるハンドアックスを装備していた。

 

 通信が入った。サブモニターに映るのは長髪の男、シドレー・アルカラッドだ。たしか、ライオネルとかいう男の元で雇われている傭兵だったか。花咲はあまり覚えていない。

 

『廃棄コロニー内に敵影が一つあります。どうやら向こうは旗艦に奇襲をかけてこようとしているようですね』

「迎撃するだけよ」

『私の予想ですと、奴は鉄華団の悪魔……ガンダムバルバトスでしょう』

「バルバル? 何でもいいわ、倒せるんでしょ」

『ええ、こちらはガンダムフレーム機が“二つ”もあるのですから。では、シドレー・アルカラッド。ガンダムサブナック、出陣致しましょう!』

 

 シドレーがそう言うと、シラヌイのカタパルトから一機のモビルスーツが射出された。白のメインカラーに金色のラインがいくつも引かれている、戦場には似合わない装飾のされている機体だった。

 

 ガンダムサブナック。現存する26機のガンダムフレームのうちの一機だ。シドレーの愛機であり、彼の『白金の貴公子』という異名の元になっている。一角獣を彷彿とさせるドリル状の角が伸びた頭部に、全身を甲冑のような角のとれた装甲で覆っていた。特徴的なのは両腕に装備した十字状のシールドだ。目立った武装はシールド以外にない。

 

『貴女はデブリですが、三本付きのガンダムフレーム乗りです。腕は信じましょう』

「どうぞ、ご勝手に」

『言葉には気をつけてくださいね。あと目上の人間には敬語を使ってください』

 

 異名が付くぐらいだから傭兵の中ではそれなりに名の通っている人物なのだろうが、花咲にとってはどうでもよかった。せめて邪魔者にならないことを祈るばかりだ。

 

「……アスナ、私が守るから」

 

 敵を倒せばいい。アスナがそうしてと言えば、そうする。今、花咲のやることはアスナを殺そうとしている敵を殲滅すること。それだけ。それだけなのだ。

 アスモデウス背中に装備されているクタン参型のブースターが噴射され、高速道路をカタパルト代わりにし、瓦礫が漂う廃棄コロニーの空へと飛び立った。そしてサブナックの後衛につき、前進を始める。

 

『貴女は私の後方支援をしていればいいです。如何に敵が強大でも所詮は子供。私と、ガンダムサブナックの盾の前では無力! 誰も私の盾を貫くことはできないのです。この世の全ては攻めよりも、守りのほうが強いのが常だと思いませんか! 防御、防護、守備、城壁、遮断! なんといい響きなのでしょうか! そうです、盾こそが最強の兵器であり、ゆえに近接武器としても最強であり―――』

 

 シドレーの意味不明な早口が煩いので、花咲は回線を切った。集中力が途切れる。

 

「敵は……見えた」

 

 レーダーに反応があった。間もなく目視でもスラスターの光が見えた。敵は一機、白いモビルスーツだ。見たところアスモデウスと同じような配色で、王冠のような頭部センサーをしていた。傭兵たちの間で畏怖すべき存在と呼ばれる最強のモビルスーツ、ガンダムバルバトスだった。

 

『勝手に通信を切らないでください。では、始めましょう。貴女は後方支援で』

「了解」

 

 どうやらシドレーは鉄華団の悪魔を討伐したという名声が欲しいのだろう。手柄を横取りされたくないゆえに、花咲に後方支援を命じた。花咲は名声になど興味はない。ここで手柄の取り合いをするよりは彼に従い、効率よく敵を倒すことを優先させた。

 

 アスモデウスは無重力に浮かぶ巨大なコンクリートの瓦礫を足場にして、脚部のスパイクを展開し突き刺して機体を固定させる。両肩のバズーカ砲を展開。両手の90mmサブマシンガンを構え、クタン参型の二丁の滑空砲の照準を合わせる。

 

『さぁ来なさい、悪魔! どんな攻撃でも防いでみせましょう!』

 

 サブナックは十字状の盾を前方に構えて突撃。バルバトスはメイスを右手に持って、サブナックの盾に思いっきり叩き込んだ。衝撃が四散するも、サブナックはビクともせず盾で弾いてみせる。

 

『こいつ、邪魔だ』

『邪魔するのが盾の仕事なんですよ!』

 

 バルバトスのパイロット、三日月は舌打ちを一つするも動じず、吹き飛ばされたバルバトスの体勢をスラスターで立て直そうとする。

 

「今だ!」

 

 全火器の射程に入ったことを示すアラートとともに、アスモデウスの全身からバズーカ砲と90mmサブマシンガン、滑空砲の弾丸が一斉射された。

 

『そこか』

「え!?」

 

 一瞬、花咲はバルバトスのパイロットと目があった気がした。その感覚は間違っておらず、三日月は既にアスモデウスの位置を特定して砲撃が来ることを予見していたのだ。バルバトスは近くのデブリを掴んで投げることで砲撃を防ぐと、再びサブナックに向かっていった。

 

『まずはこいつからやるか』

『ははッ! 何度来ても無駄ァ!』

 

 サブナックの盾はモビルスーツのフレーム部分にも使用される超高度レアアロイで出来ている。現行の兵器では一撃で貫くことは不可能だ。

 

 バルバトスは先ほどと同じようにメイスを大きく振りかぶり、サブナックの右手に持った盾に叩きつけた。叩きつけたと同時に弾かれる瞬間を狙って、バルバトスはメイスから手を離した。弾き飛ばされたのはメイスだけで、機体はそのままサブナックの眼前にある。

 そしてもう片方の盾を踏み台にしてサブナックの頭上まで飛ぶと、肩の200mm砲を発射した。銃撃を受けたサブナックの機体は大きくよろけて、背中を晒してしまう。

 

『盾を踏み台に!?』

『終わりだ』

 

 この乱戦状態では迂闊に射撃攻撃をできず、花咲は瓦礫からスパイクを外してサブナックに急行した。だが既に遅い。

 丸腰の背中を捉えたバルバトスは、そこに両腕の機関砲を炸裂させる。よろけたサブナックの懐に潜り込むと太刀に持ち替え、振り返ったところを狙って上から突き刺す。太刀の切先は装甲と装甲の隙間に入り込み、コックピットをパイロットのシドレーごと押し潰していった。

 

 どれほど堅牢な盾を持っても、その内側に潜り込まれてしまえば無力だ。

 

『がぁッ!?』

『まずは一つ』

 

 バルバトスはメイスを回収すると、接近してくるアスモデウスに殺意の双眸を向ける。

 

 ガンダムフレームを二機相手にしておきながら、無傷で一機を瞬時に撃破したその姿はモビルスーツというよりも、怪物のように見えた。咄嗟の状況判断と周囲を注意深く観察する目、そして普通の阿頼耶識使いよりもさらに生物的で軽やかな挙動。

 間違いない、奴が鉄華団のエースだ。花咲は確信した。

 

『さっさと終わらせて、旗艦を落とさないとな』

「はぁぁあぁぁぁぁぁッ!」

 

 アスモデウスはクタン参型のアームで薙ぎ払いを繰り出す。バルバトスはそれをメイスで受け止めると、軽々と左に弾いて、よろけたアスモデウスに太刀を突き刺す。太刀はアスモデウス本体ではなく、クタン参型の右ブースターを破壊するだけで終わった。

 そしてよろけたアスモデウスに蹴りを入れて、廃棄コロニーの地面に叩きつけた。ブースターの片方を失い姿勢制御が上手くいかず、花咲は立て直すので精一杯だった。

 

「ぐっ!」

 

 速いだけじゃない。流れるような挙動で攻撃を無効化している。先ほどのアスモデウスの攻撃。巨大なアームが迫っているなかで命が惜しいと微塵も思わず、むしろチャンスだとバルバトスは立ち向かってきた。

 

 精神的にも技術的にも、花咲の遠く及ばない場所にいるパイロットだということは明白だった。しかし花咲はそれを認めず、引こうとはしない。

 負けを認めてしまえば、アスナを守れないからだ。

 

「上かぁぁぁあぁぁぁッ!」

 

 アスモデウスは廃墟ビルの壁を掴んで機体を起こすと、二丁の滑空砲を上に向けて、追撃してくるバルバトスに発射。だがバルバトスは砲撃が行われた頃にはクタン参型に取り付いており、両手の機関砲で駆動部を破壊していた。火を吹いて爆発するクタン参型をアスモデウスはパージし、振り返ってバズーカ砲と90mmサブマシンガンを斉射しながら後退する。

 

 両サイドに高層ビル建ち並んでいる地形を活かし、敵が左右に回避できない状況を作った上で重火器による一斉射撃を行ったのだ。

 

「墜ちろ! 墜ちろぉッ! 墜ちろぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおおおッ!!!」

『いらないな、これ』

 

 バルバトスは背中の200mm砲をパージして、姿勢を低くし前進を始めた。パージされた200mm砲がアスモデウスの砲撃によって爆発炎上、黒煙が周囲に広がる。バルバトスの機影は黒煙の中に消えていった。これでは照準を合わせることができない。

 

『ッ!』

「下から!?」

 

 黒煙の中から太刀が飛び出し、右肩のバズーカ砲を破壊。続いて黒煙をぬってアスモデウスの眼前に現れたバルバトスはメイスを横に振り、鉄の塊を胸部に思いっきり叩き込んできた。アスモデウスは抵抗すらできず吹っ飛んで、廃墟ビルに機体を叩き付けられてしまう。その衝撃で廃墟ビルのガラスが一斉に割れ、破片を撒き散らしながらアスモデウスに降り注ぐ。

 

 メイスで叩き潰された胸部装甲の一部が剥がれ落ち、機体の異常を知らせるアラートがコックピットに鳴り響く。まだ動ける。しかし動けたところでどうやって勝てばいいのか、花咲には全く分からなかった。

 

「これが」

 

 今までに味わったことのない恐怖が花咲に迫っていた。手の震えが止まらない。

 まるでナイフを持てば刃を折られ、銃を撃てば弾丸を掴まれてしまうように、自分の放った殺意がまるで届かないのだ。

 花咲の抱く全ての感情が、バルバトスのパイロットに飲み込まれていた。

 

 黒煙の中、バルバトスはアスモデウスの前に現れた。兵器というものを超越した、一種の生命体にも思える。理性をもった猛獣、と表現するべきか。

 

「鉄華団の悪魔……」

 

 しかし悪魔でも何でも殺さねば、花咲の背中の向こうにいるアスナは守れない。

 やるしかない。

 

 アスモデウスは両肩の装甲をパージして、二丁の90mmサブマシンガンを構え、花咲は覚悟を決めた。

 

 

 

    7

「一番隊ユーゴー、ガルム・ロディ大破、二番隊ガルム・ロディ中破」

 

 シラヌイの艦橋では逐一、オペレーターによる戦況報告が流れていた。廃棄コロニーの外の戦場は混戦状態であった。敵モビルスーツは二機とはいえ阿頼耶識使いであることに加えて、自軍よりも遥かに練度が高い。いくら数で圧倒しようとも乱戦に持ち越されてしまえば、数の多さは裏目に出てしまうこともある。

 

「クソっ……デブリどもはどうなっている!? うちもモビルスーツ隊の半数は阿頼耶識持ちなんだろう!?」

 

 数で圧倒しているにも関わらず、決定打を与えられず戦力を徐々に削られていっていることに、ライオネルは苛立ちを隠せず艦長席を足で蹴って言った。

 アスナの予想通り、形勢が傾いた途端に傭兵たちは逃げ腰になっている。中距離以遠の射撃だけではナノラミネートアーマーを貫くことはできないというのに。

 

 事はライオネルの思い通りにはいかない。

 ならばライオネルが花咲やジャックを特攻させてでも勝ちを拾いに行くといった場合、アスナはどうすればいいのか。その時自分は、彼に異を唱えることができるのか。今まで男という存在に屈し続けていた自分が。

 

「四番隊、マン・ロディ大破」

 

 今もそうだ。

 月輪の鷹団所属ではないものの、ライオネルの雇った傭兵団の中にはヒューマンデブリの子供たちがいる。彼らは今も命をすり減らしながら、戦い続けている。自分の選択は「そうするしかなかった」という言い訳をして、目の前の命を見殺しにしているだけなのではないだろうか。

 

 アスナは苦悩する。

 

「三番隊、マン・ロディ大破。しかし巻き添えで、イサリビの主砲を無効化に成功」

 

 彼らに帰る場所はない。戦場で勝つことが唯一無二の生きる手段だった。

 このまま行けば勝てるだろう。如何に相手の練度が高くとも、モビルスーツ二機では補給のローテーションもままならない。弾薬と推進剤を消費させていけば動きは鈍くなる。

 

 命を犠牲に勝ちは拾える。

 だが、その先は。そして、犠牲になった命は?

 

「シドレー機との通信途絶!」

「おい、嘘だろ!? あの白金の貴公子が……!? 嘘だ! クソ! 味方をコロニーに入れろ! 何としても悪魔を殺せよ!」

「今すぐは無理ですよ!」

「じゃあ、どうやったらアレを落とせるのか、傭兵なら分かるんじゃないのか! アレを落とさなきゃ、こっちに来るぞ! 悪魔を殺せ! 殺せよ!」

 

 シドレーといえば花咲と同行していたガンダムフレーム乗りのことではないか。報告によれば鉄華団の悪魔と呼ばれるエースパイロットと交戦中らしい。

 

「ハナ……っ!」

 

 それはつまり、花咲と鉄華団の悪魔が真正面からぶつかっているということだ。

 アスナの額に嫌な汗が流れる。

 

―――信じて、私を。

 

 あの時アスナは花咲にそう言ったはずだ。彼女は今もアスナのことを信じて、命懸けで戦い続けている。あれはアスナの全てを認め、戦いのない場所に連れて行ってくれると信じ続けている瞳だった。

 

 それを自分は裏切るのか。

 裏切ってしまうのか。

 死という最悪の形で。

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