誰が為に華は散る【鉄血のオルフェンズ外伝】 作:deburi
1
モビルスーツ戦は基本的に三機でまとまって動くことがセオリーになっている。ヒューマンデブリの子供たちで編成された三番隊と四番隊はイサリビに取り付き、攻撃を行っていた。ジャックとゴードンは五番隊として遊撃の役割を与えられていた。
ジャックはコックピットシートに深く座り、自機のユーゴーの持つ対物ライフルを構えながら、廃棄コロニーの外壁に機体を固定させる。コロニーは円柱状の建造物だ。丸みに隠れてしまえば、絶好の狙撃ポイントとなる。
「さぁーってと、敵さんは……あれか」
スコープの向こうでは味方機と乱戦状態にある敵影が一つあった。それは四本の腕を持つ奇怪なモビルスーツだった。明るめのベージュの装甲に巨大なバックパックとシールドが特徴的な機体で、そのバックパックからはモビルスーツの腕が伸びており、ロングレンジライフルを持って射撃を行っていた。右手のハルバートで接近してくる敵を薙ぎ払い、シールドで砲撃を防ぐという、攻守隙のない戦いをしている。
「なんつー戦い方だよ」
ガンダムグシオンリベイク。月輪の鷹団のアスモデウスと同じガンダムフレーム機だ。鉄華団の主力モビルスーツであり、エドモントンの戦いではギャラルホルン相手に一騎当千の活躍をしたと言われている。
グシオンリベイクは既に三機のモビルスーツを戦闘不能に追いやっていた。これ以上、放っておくわけにはいかない。
「強いねぇ……タイマンだったら勝てる気がしない、ね!」
ジャックの駆るユーゴーは対物ライフルをグシオンリベイクに向けて発射。弾丸は機体を僅かに逸れたが、右サブアームに炸裂した。ロングレンジライフルが爆発し、その隙にゴードンのゲイレールがハンドアックスを振り上げてグシオンリベイクに迫っていく。
『俺たちの帰る場所を奪うな!』
ゴードンの叫びとともに振り下ろされたハンドアックスは、グシオンリベイクのシールドに防がれる。同時に、グシオンリベイクのハルバートがゲイレールの右肩に叩き込まれ、肩アーマーが粉砕された。
「ゴードン、離脱だ! 俺が追って撃つ!」
『了解! 頼むよ、ジャック』
ジャックはその瞬間を逃さなかった。反撃で敵が丸腰になっている今なら、直撃を狙う自信があった。如何にナノラミネートアーマーでも、対物ライフルの直撃を受ければただでは済まない。
「悪いが、俺はまだ死ねないんでね……」
弟のコスターがちゃんとした医療を受け、歩けるようになるのはこれからなのだ。死を待つしかなかった彼にようやく見えた希望の灯火を、こんなところで消すわけにはいかない。
「落ちてくれよ!」
ユーゴーの対物ライフルが火を噴いた。弾丸はグシオンリベイクに対して直撃ルートで猛進していく。腰の露出しているフレーム部分を狙ったはずだ。当たればフレームごと粉砕して戦闘不能にすることができるだろう。
が、それは間に入ったモビルスーツによって阻まれてしまう。
「なんだ、あいつは!?」
それは見たことのない機体だった。ロディフレームでもヘキサフレームでも、テイワズフレームの機体でもない。ワインレッドの装甲色をしており、四角い頭部に一つ目のバイザーをしていた。機体のほぼ半身を覆うライオットシールドで対物ライフルを防いだそれは、ジャックのユーゴーに向けてライフルを向けてくる。
狙撃位置を知られた狙撃手に勝ち目はない。ジャックは機体を起こして、後退した。
2
イオ・フレーム。テイワズが本格的な量産を視野に開発した新型フレームだ。
『おっまたせー!』
「え!?」
グシオンリベイクのパイロット昭弘・アルトランドは聞き覚えのある少女の声に、肩をビクッと震わせて驚いた。全身筋肉質の太眉の男だが反応は年相応という感じで、それをモニター越しで見ていた少女は吹き出す。
『いちいち反応が面白いなー、昭弘は』
「いや、えっと……何でラフタが……!?」
ユーゴーの対物ライフルを防ぎ目の前にいるモビルスーツのパイロットは、ここにはいないはずのタービンズ所属ラフタ・フランクランドだった。モニターに映る金髪の髪を二つに結んで分け、愛らしい翠の瞳を昭弘に向けて微笑んでいるのが彼女だ。
「それにこのモビルスーツは」
『この子は獅電! ダーリンと月での仕事も兼ねて最終テストを行っていたんだけど、昭弘たちのピンチを察して助太刀しにきたってわけ!』
「……助かる」
ラフタが間に入らなければ、対物ライフルの弾丸はグシオンリベイクの腰フレームに炸裂していたかもしれない。感謝してもしきれない気持ちを胸に抱き、昭弘は再び操縦桿を握り締める。
後方ではラフタと同じく月面から鉄華団の救援にやってきたテイワズのモビルスーツたちが、長距離輸送ブースタークタン参型から解き放たれて、応戦していた。
名瀬はオルガに「ハンマーヘッドは寄越せない」と言った。だが、モビルスーツによる増援は送れる。今回の依頼の不審点に気がついた彼は、月のコロニー群から増援を出してくれたのだ。
『んじゃあ、パパッと片付けにいくよ!』
「おう!」
グシオンリベイクはハルバートを構えて、再び迫ってくるゲイレールを迎撃する。ラフタの獅電はライフルからパルチザンに持ち替えて、後退していく対物ライフル持ちのユーゴーに向かった。
ユーゴーが対物ライフルを構えたのを見ると、廃棄コロニーの外壁を蹴り剥がして視界を遮る。そして剥がれた外壁の影から飛び出して、パルチザンを振り下ろした。
『そこぉ!』
『うっそ、マジかよ!』
ジャックの乗るユーゴーに近接武器はない。しかし幸いなことに、撃墜されたマン・ロディのハンマーチョッパーが近くにあった。
ユーゴーはスラスターを全開にして獅電のパルチザンをかわすと、縦に機体を回転させながら後退して、ハンマーチョッパーを右手で拾い上げて応戦する。獅電のパルチザンとユーゴーのハンマーチョッパーがぶつかり合い、鉄が擦り切れる音が響く。
『俺なんかナンパしても美味しくないっての!』
『な、ナンパって何よ!』
『おっと逆ナンだったか』
ユーゴーは至近距離で対物ライフルを発射。獅電に向かってではなく、廃棄コロニーの外壁にだ。ちょうど足場となっている外壁に弾丸が炸裂し、獅電は体勢を崩してしまう。その間にユーゴーは乱戦を離脱し、舞い上がる瓦礫の中にいる獅電にスコープの照準を合わせた。
『可愛い子チャンの声だ。是非ともお近づきになりたいけど……』
この距離であれば外れることはないだろう。
『今は近づいてくるなよ!』
しかしまたも弾丸は間に入ってきたシールドに阻まれてしまった。今度はグシオンリベイクが間に入り、ラフタの獅電を守ったのだ。
「大丈夫か!?」
『ナンパなんかしてないんだからね!』
「ど、どういうことだ?」
話の流れについていけない昭弘は首をかしげるが、今考えても仕方のないことだ。
「こいつは俺がやる。イサリビのほうを頼む」
『うん、任せた!』
昭弘に背中を預けたラフタは獅電とともにイサリビの防衛に向かった。グシオンリベイクと対峙したユーゴーは対物ライフルをリロードしつつ、体勢を立て直す。
『あんたら夫婦かっての……。ゴードンは!? おい返事をしろ!』
グシオンリベイクが相手をしていたゲイレールは両腕を破壊され、宙を漂っていた。通信にも応答がなかった。おそらく死んではいないだろうが、放っておくわけにはいかない。ジャックは唇を噛み締めながら、目の前の敵に立ち向かった。
「こい!」
『ったく……早く終わらせてやらねぇと!』
さっきまでの逃げ腰とは一転し、ジャックのユーゴーはどこか吹っ切れたかのように、チョッパーハンマーを振り上げて突撃してきた。グシオンリベイクのハルバートとユーゴーのチョッパーハンマーが激しくぶつかり合う。
先ほどの動きといい、このユーゴーの動きは他の機体とは違った。昭弘は敵も阿頼耶識使い、それも相当な手練であることを感じ取っていた。だが引いて良い理由にはならない。
『俺は帰るんだ。弟のためにも!』
「ッ!」
接触回線でジャックの言葉が昭弘の耳に入った。
昭弘の脳裏に、戦場で死別した弟の最期の光景が駆け抜ける。救うことができずに消えていった彼の言葉、そして幼い日の思い出。やりきれないことばかりだった。だからこそ今、また大切な家族を失うわけにはいかない。鉄華団という名の、昭弘の家族を。
「もう二度と失うものか!」
『こんなところで死んでたまるかよ!』
昭弘のグシオンリベイクは左のサブアームに持ったロングレンジライフルを、ジャックのユーゴーは右手に持った対物ライフルを構えた。ほぼ同時に弾丸は発射され、互いのサブアームと右腕を破壊し合った。
ひしゃげたユーゴーの右腕が吹き飛んでいくなか、グシオンリベイクはシールドをユーゴーに叩きつけると、ハルバートを振り上げて追い打ちをかける。
「うぉぉぉぉぉぉおぉおお!!」
『ようやく見えた希望の光を』
この体勢ではかわすことも受け止めることもできない。ならば、とユーゴーは両腰のワイヤーアンカーを射出した。ワイヤーアンカーはグシオンリベイクの腰に巻きつくと、そのままワイヤーを収納する勢いでぶつかっていった。
『消してたまるか!!』
「がッ! なんのぉッ!」
両者ともに吹き飛ぶものの、先に体勢を整えたのはユーゴーのほうだった。ハンマーチョッパーを振りかぶり、グシオンリベイクに迫る。
シールドで防ぐ時間も、スラスター全開で離脱する余裕も昭弘にはなかった。ならば引かず防がず、受け止めるのみ。グシオンリベイクは廃棄コロニーの外壁に両足を打ち込んで踏ん張ると、ハンマーチョッパーを右肩で受け止めた。右肩の装甲に深く突き刺さったハンマーチョッパーは、ユーゴーの貧弱な腕ではすぐに引き抜けなかった。
「ふン!」
『なッ!?』
少し狙いが逸れていればコックピットを押し潰していたかもしれない距離だ。直撃ルートだがコックピットは外れるので、機体で受け止めてカウンターを狙う―――理屈では理解していても、それを行動に移すには相当な度胸が必要だ。
グシオンリベイクはハンマーチョッパーが引き抜けないでいるユーゴーを押し倒して、ハルバートの鋭い先端部をコックピットの頭部に突き立てた。
「終わりだ」
『あんたもな』
ユーゴーは頭部の小型ミサイルを展開させ、その照準をグシオンリベイクのコックピットに合わせる。この距離でミサイルをくらえばタダでは済まないだろう。
「やめておけ」
『へぇ……』
昭弘はユーゴーのパイロットを殺す気はなかった。阿頼耶識使いということはおそらくヒューマンデブリの少年兵だ。同じヒューマンデブリ出身の人間として無闇に命を奪う気にはならなかった。それに―――。
「弟のためにも、命は大切にしろ」
『……殺し文句だねぇ。わーったよ、投降する』
自分が守れなかった存在が、彼にはまだある。昭弘は彼のことを何も知らない。しかしただ一つ、彼が今まで必死に弟を守ろうと戦い続けていたということは、彼の言葉や行動ではっきりと分かった。
それだけで助ける理由には十分すぎた。
3
無数の瓦礫が浮遊する廃棄コロニー内では二つの閃光がぶつかり合っていた。
「はぁッ……はぁッ!」
荒くなる息を飲み込んだ花咲は、迫り来る悪魔―――バルバトスに視線を向ける。両手に90mmサブマシンガンを構えたアスモデウスは、後方の瓦礫を蹴り飛ばしてバックステップで回避。メイスが瓦礫を砕き、粉塵が舞い上がる中に90mmサブマシンガンの弾丸を無数に打ち込んでいく。
しかし既にバルバトスはそこにはおらず、アスモデウスの背後に回り込んでいた。
「速い!? なんなのよ、こいつ!」
『こいつ、ちょこまか逃げるな……』
バルバトスのメイスはアスモデウスのバックパックを粉砕し、前方に吹き飛ばす。アスモデウスは瓦礫の上を何度も転げながら、宙に投げ出された。両腰のスラスターでなんとか姿勢制御するも、間髪入れずに追撃のメイスが振り下ろされる。
「守らなきゃ!」
咄嗟に右手の90mmサブマシンガンを前に出してメイスを受け止める。メイスは90mmサブマシンガンを押しつぶして爆発させた。その爆風で右手マニピュレーターが壊れたが、目くらましにはなった。
腰のスラスターを前方にやって噴射し後退。左手の90mmサブマシンガンで応戦するも、バルバトスは目くらましをくらったにも関わらず、すぐに立て直してメイスによる突きで、左手の90mmサブマシンガンも破壊した。幸い、破壊される前に手を話していた為、左手のマニピュレーターは無事だった。
「ぐっ……」
動きが速すぎて射撃攻撃でフレームの隙間を狙っていく余裕すらもなかった。普段行っている戦法が通じない相手に、花咲は窮地に立たされていた。
アスモデウスは瓦礫を蹴り飛ばして跳躍し、何とかバルバトスから一時離脱をしようとした。が、それを逃すわけもなく、バルバトスはアスモデウスに追従していった。
既に手元に火器はない。あるのはハンドアックス一つ。それはつまり、バルバトスと白兵戦で戦えということに他ならない。自分よりも反応が速く、練度も桁違いで、なおかつ頭のネジが一〇本ぐらい吹っ飛んだのではないかというほど大胆な戦いをするパイロットとモビルスーツを相手に、だ。
だがこうするしかない。目の前の奴を殺すには、やるしかないのだ。
「私は―――」
アスモデウスはハンドアックスを左手で引き抜いて、バルバトスのメイスを受け止めた。鉄と鉄が互いに殺意を研ぎ澄ませぶつかり合う。
「アスナを守るんだぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁ!!!」
『うるさいな』
接触回線でバルバトスのパイロットの声が聞こえた。花咲と同世代ぐらいの少年の声で、抑揚のない声調に戦闘中とは思えないほど落ち着いている。
花咲は、自分の叫びを「うるさいな」の一言で片付けられたことに腹が立ち、感情のままに目の前のバルバトスに頭突きを打ち込んだ。
「お前には守るものもないくせにぃぃぃぃぃぃ!!!」
悪魔が何だ。エースパイロットが何だ。こいつには戦う意志そのものが無いのだ。誰かを守ろうだとかそういうのではなく、ただただ目の前の敵を殺すだけの戦争マシーンだ。そんな人間に、自分を、いや、誰よりも大切なアスナを殺されてたまるか。
花咲の思考は苛立ちを抑えきれずにいた。
『はぁ……』
だが感情のままに攻撃をしたのが裏目に出た。バルバトスは頭突きの隙を逃すことなく、アスモデウスの頭部を押し返して、よろけた機体にメイスを叩き込んだ。アスモデウスは右腕を前に出してガードしようとするが衝撃は殺しきれず、道路上に落ちていく。
メイスの直撃を受けた右腕は逆方向に折れ曲がり、一切の操作を受け付けないまでに破壊されてしまった。
『俺にもあるよ』
「なにを……ッ!」
両腰のスラスターを噴射させて落下の衝撃を最小限に抑えつつ、向かってくるバルバトスのメイスをハンドアックスで受け止める。衝撃で足場のコンクリートが砕け、破片が周囲に浮かび上がった。
『俺の信じるオルガや鉄華団の皆のために、今ここにいる』
「信じる……?」
『で、今はアンタが邪魔だ』
先ほどとは一転して、まるで鍛え抜かれた鉄のような意志を感じさせる声に、花咲は驚愕した。彼もまた花咲と同じように、大切な人を守るために戦っているのだ。いや、違う。
守るためではない。
ともに戦っているのだ。
『んじゃ、そろそろ終わりに―――』
バルバトスはもう一方の手で太刀を構えて、アスモデウスに向かって振り下ろしてきた。
花咲はどうだ。
アスナを信じて戦っていたのか。否。ただ「自分の大切な神様」を守るために戦っているだけだ。自分のためだけの戦いなのだ。自分にとって大切だから守るという、身勝手な理由でアスナに依存していた。
―――信じて。
あの時、アスナが言った言葉を花咲は思い出す。どうして自分はあの時「ええ、信じるわ」と答えなかったのか。アスナがあんな男に屈してしまうほど弱い人間だと、心のどこかで思っていたのか。
そしてそんなアスナを守るために、こんな敵に自分一人で立ち向かって守れると本気で考えていたのだ。思い上がっていた。
花咲は一人で戦えるほど強くはない。
アスナは誰かに守られているだけの人間ではない。
「私も……」
頭の中のごちゃごちゃとした考えが一気に吹き飛んだ。視界がクリアになり、バルバトスに対する恐怖が掻き消え、次にどう動くべきか今ならはっきりと考えられる。
「信じている」
アスモデウスはハンドアックスを横にずらしてメイスを受け流すと、右足を上げて太刀を持っているバルバトスの手を蹴り上げた。太刀は宙を舞い、廃墟ビルの壁に突き刺さった。
「アスナのことを!」
そのままアスモデウスは右足でバルバトスの頭部を思いっきり蹴り飛ばした。バルバトスの頭部アンテナの一部が砕け散った。
『ッ!?』
その反動でアスモデウスは後退し、ハンドアックスを構え直す。バルバトスも頭部を蹴られた状態から起き上がって、メイスの先端をアスモデウスに向けた。
「もう迷わない」
暗礁宙域で奇策を以て皆を救ったのもアスナだった。幼い頃、まだ花咲がヒューマンデブリになる前だってそうだ。アスナは誰よりも勤勉で努力家で勇敢で、泣き虫だった自分に手を差し伸べてくれた。堂々とした立ち姿で。そして何より。
大人たちが誰一人として助けに行こうとしなかったなか、アスナは燃え盛る炎の中に飛び込んで自分を助けてくれたではないか。
そんなアスナが今、この苦境に屈しないわけがない。
ゆえに花咲はアスナの言葉を信じた。
もう迷うことはない。
「一緒に戦うよ、アスナ」
アスナと歩んでいく“これから先”のため、花咲はその道を切り開く。
邪魔者は全て、殺す。
『こいつ……普通の阿頼耶識とは違うな』
バルバトスのパイロット、三日月オーガスも何となく花咲の異変に気がついていた。阿頼耶識使いでもあまり見かけない、ダイナミックな動きをしている。今まで見てきた誰とも違う。が、その動きには覚えがあった。
自分自身だ。
花咲も三日月も同時に、察した。
この反応速度、間違いない。自分と同じように何度も阿頼耶識の手術を受け、機体とより深い場所で一体化しているパイロットだ、と。
「でも」
『まぁ』
バルバトスは背中と腰のスラスターを展開して、メイスを構えながらアスモデウスに突撃した。アスモデウスはハンドアックスを構えて応戦する。
「『殺るしかない!』」
二人の声が重なり合い、幾度となくメイスとハンドアックスの応酬が繰り広げられた。鉄は砕け、血が迸り、殺意が閃光となってぶつかり合う。
「いい加減に落ちろ!」
『あんたがね』
お互い、引くわけにはいかない。
アスナの、オルガの、道を切り開くために。
「そこ!」
『ッ!』
渾身の力で叩き込まれたメイスはハンドアックスを粉砕した。だが、その破片を抜けてアスモデウスは右手で手刀を作ってバルバトスの懐に潜り込もうとする。そうはさせまいとバルバトスは一旦メイスを引かせて、アスモデウスの右胸部に向かって突きを放った。
「それが、どうしたッ!!!」
『終わりだ』
このままバルバトスの反撃を振り切って、手刀をコックピットに突き刺してやる。花咲はそう考えていた。しかし凶器は思わぬところから現れた。
「な!?」
メイスの先端からパイルバンカーが飛び出して、アスモデウスの右胸部に打ち込まれたのだ。右腕は肩からフレームごと抉れて吹っ飛び、コックピットでは火花が飛び散ってメインモニターにノイズが奔る。機体の各所が押し潰されていくのが分かった。
激しい衝撃とともに花咲の体はコックピットシートに打ち付けられる。アスモデウスもシステムがダウンしメインモニターの明かりが消えた。コックピットには壊れた電子機器から立ち昇る白い煙が広がっていく。
「あ、す……な」
花咲は自分の意識が消えていくのが分かった。
今まで体験したことのない感覚だった。
まるで暗闇の底に吸い込まれていくような―――いうなれば、死の感覚に似ていた。
いや、死そのものかもしれない。手足の感覚が消え、視界がぼやけていく。何も見えず感じず聞こえず、真っ暗な世界の中で最後に意識が静かにフェードアウトしていった。
……。